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神隠しによる放浪記  作者: trt
第一章
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初めての異星種との会話

考えつくことをどんどん書いていたら無駄に長くなりました。

「がはっ!」


 あれから数時間が経ち巧は咳き込んで目を覚ます。


「まだ……、生きてる……」


 あの戦闘を思い出し、殺さる事がなかったとわかると内心ホッとした。


「そうだ、あの狼は」


 顔をあげると、狼が横たわっているのが見えた。

 巧は体が硬直したが狼は一向に動く気配はない。どうやら死んだ様子である。

 動かないのがわかると、巧は安心したのか硬直を解き立ち上がり、痛みがないかを確認する。


「痛みは……、感じないな。それに何だか少し力が湧き上がっているような感じがする」


 あれだけ激しく木にぶつかったのだ、何かしらの痛み下手をすれば後遺症は残っていてもおかしくなかった。

 横たわっている狼にゆっくり近づき顔を確認する。


「こんな化物と戦ってよく生き残ったな」


 狼は目を閉じていた。片目から血が流れて額には穴が貫通し絶命。

 狼を確認した巧は、上着がない事に気が付き探す。すると上着は数メートル先に落ちていたのを発見し、拾い上げた。


「さて人里を探さないと、けどこのまま闇雲に歩いても見つからないだろうな。あいつを探してみるか」


 巧はその場を離れるように去る。

 歩いてから数十分が経ちようやく目的の生物を発見、巧は歓喜のあまり口角が緩む。


「やっと見つけた」


 目的の生物、それは緑の生物であった。

 言葉を話せる事は、言葉が通じる可能性を信じたからだ。


 水を操る事を覚えていないときならいざ知らず、今の巧はそれが可能なのだ。

 恐怖心は感じられず、緑の生物が棍棒や槍を持っていようが、今の巧なら防げる自信があった。

 緑の生物は巧に気づいてない様子、水レーザーを放ち緑の生物の腕に当てる。緑の生物は突如攻撃を受けた事により武器を手から放す。

 武器が落ちた事を確認できたら、次に威力を弱めて緑の生物に水の塊をぶつけて吹き飛ばした。


『グ……ナ、ナンダ』


 武器を拾い上げると巧は緑の生物に問いかける。


「俺の言葉がわかるか? わかるなら返事をしろ」

『ワ、ワカッタダカラヤメテクレ』


 緑の生物は顔を引きつり警戒し巧の質問に答えた。


「まずお前ら生物は何だ? つまりは種族だな」

『ワレワレハ”ゴブリン”ト言ワレテイル』

「ゴブリン……」


 その単語を聴いた瞬間、巧は小説や架空の存在に出てきた生物を思い出した。


「え? ゴブリンって……、ははっ嘘だろ?」

『本当ダ』

「……そうか、ゴブリンだったのか。次に全身真っ黒い全長数メートルの大きな狼みたいなのあれは何か知ってるか?」


 そう問いかけた瞬間ゴブリンは慌てふためいた。


『ソイツニ仲間ガ沢山ヤラレタ! ソイツハトテモ強ク大キイ!』

「そうなのか、けどそいつは俺がやっつけた」


 ゴブリンは驚愕の表情をし、そして諦めるような顔をして巧を見る。


「さて、力量差はわかったな? お前、人のいる場所は知ってるか? 知っていたら案内しろ」

『人間ノイル場所ハ知ッテイルガ、近ヅクト人間ニおそワレル』

「まあゴブリンだもんな、そりゃ近づいて来たら殺すわな。なら人里の近くでいいや、見える範囲までいけばあとは歩いていけるだろうし」


 そう提案をしたら、ゴブリンは頷き巧を案内する。


「そういやお前はこの世界はどこまで知っているんだ?」

『ドコマデト言ウト知ラナイガ、我々ハ地面ニ住ンデイル、外ニ出タラアノ狼ガ現レタノデ逃ゲタ』

「そうか……」


 ゴブリンは地面、つまり穴を掘って洞窟を作り生活していると理解する。

 しばらく歩いているとゴブリンは振り向く。


『モウスグ人間ノイル場所ヘ出ル』


 そう言われ遠くを見ると人工物と思わしき壁が目に映る。


「ここで十分、あとは一人でいけるよ。いきなり攻撃して悪かったな。これ返すわ」


 巧は持っていた武器を返すとゴブリンは受け取った。


「ありがとうな」


 そう礼を言うとゴブリンから離れた。

 武器を返した瞬間に襲われるかもしれないが、力量差がわかってるからか真正面からは仕掛けられず、逆に後ろからの不意打ちを食らうかもしれない。

 それとも、近くの仲間に知らされて一斉に襲いにくるかもしれない。そのような警戒をしたのだが一向になかったため無意味に終わる。


「お、門番だ」


 壁沿いに歩いていると門番を発見する。

 門番は忙しそうに働いているからか巧のことは気が付いてない様子だった。

 門へは多くの冒険者らしき人物や荷馬車を運んでいる商人が行き来している。


(すげえ、なにこれコスプレ? イベント? 皆鎧着て武器さげてるし、かっけえ!)


 辺りを見回していると、門番の一人が巧に気が付き近づいてきた。


「どうした坊主。そんな恰好してどこかの商人の息子か?」


 門番に坊主と言われ不安がよぎる。

 顔は西洋風の男、東洋風の日本人ではない事に少し残念な気持ちになった巧であった。


(ちゃんと日本語で話すのか安心した。しかし坊主か、そんな言われる歳ではないはずだが確かに背は低くなったが……)


 そんな事を考えていると、門番は巧の両肩を掴む。


「ボロボロになってるな。まさか魔物に襲われたのか!?」


(魔物って、ゴブリンの事だよな……? てかこいつに言葉通じるのか? ……ええい、ままよ!)


 勇気を振り絞り口を開く。


「あ、う、うん実は途中魔物に襲われて逃げていたんですが、運がよく魔物をけたみたいで逃げる事ができました」

「そうか、それは良かったな。もう安心だ、ここにはおじさん達や冒険者がいるから魔物を蹴散らすから安心していいぞ」


 巧は言葉が通じた事にホッとする。

 周りを見てみると冒険者の一人が笑顔で親指を立てていた。


「ところで坊主。両親はどうした?」

「えっと……、両親は遠くにいますね」


 そう言うと門番の顔は聞いちゃまずかったという顔をした。


「ま、まあそうか、ここまで一人でボロボロになりながら来るって事は魔物に襲われたって事もあるしな。悪いが念のため犯罪があるかどうかの確認をするからこれを手に持ってくれ。その際犯罪を犯していたらその棒の物体が変化するから」


 門番はリレーで使われそうな棒を出してきたのでそれを握る。

 握ったが変化はなかった。


「大丈夫のようだな、離していいぞ。あと坊主の出身を示す標識板(ドッグタグ)か羊皮紙か何かないか?」


 巧は首を振る。


「カードの仮発行の受付するから、ここに名前と年齢と出身地を書いてもらうぞ?」


 羽ペンを持ち、差し出された書類に目を通すと思わず手を止めた。


(文字が読めない……)


 古代文字のような文章欄が記載され、日本語ではないのだ。

 次第に巧は不安になっていく。

 言葉は通じているが文字は通じない可能性があるのだ。

 ここにきてまだ地球にいるのではないとという思いと、別の惑星に来たのではと言う思いが葛藤するからだ。

 もし「この世界とは違う世界から来ました」何て話しても理解されないのは簡単に想像つく。

 下手をすれば隔離病棟送りの可能性も否定できない。

 巧は一抹の不安を感じていたが伝えるしかないと思い口を開く。


「ん? どうした坊主」

「ああ、えっと、どこに書けばいいんでしょうか?」

「ここに名前と住所、年齢とあとは目的を書いてくれると助かる」

「名前は山内巧、出身地は日本、目的は観光に労働っと、年齢は……、初めて魔物に襲われたせいか記憶が少しわからなくなってるので……」

「そうか、そうだよなわかった。年齢は書かなくてもいいぞ」


 内心ガッツポーズをした。


「すまないが坊主。これ何て書いているんだ?」

「先ほど仰っていた名前、出身地、目的ですよ」

「んー、初めて見た文字だ。よくわからんな」

「それじゃこれは?」


 漢字以外に平仮名、片仮名、ローマ字と日本で使う文字を書いてみたが、そのどれも理解はされなかった。


(日本文字は無理でもローマ字ぐらいなら通じるだろ普通……、どういうことだよ)


「仕方がない。今回だけ特別に代筆してやるが、次からは代筆料が請求されるぞ」

「あ、ありがとうございます」

「それじゃ名前、出身地、目的を教えてくれ」

「はい、名前は山内巧。出身地は日本で目的は観光に労働です」

「字も珍しかったが名前も珍しいな。出身地も聴いた事ない場所だし」


(日本もわからないのか……、てか名前に関しては西洋の名前にしたほうが正解だったか? まあいいか)


「そうなんですか? 結構有名だとは思ったんですが。思ったより日本って田舎なのかな?」

「まあ、どこか遠くだろうし俺もそこまで世界を知ってるわけないからしょうがないさ。よしこれで書けたから、あとは入場料の銅貨三枚が必要なんだが金はあるか?」


 お金は日本で使用する硬貨を門番に見せてみた。


「なんだこれ? 珍しい硬貨だな。材質もしっかりしてそうだし」

「日本の硬貨ですが、使えないのでしょうか?」

「ん~、残念ながら無理だ。こう言った硬貨じゃないと」


 門番は一つの硬貨を取り出した。

 表面は銀色で、何かの鳥の紋章が刻まれていた。


「ならお金はないです、どうしましょう」

「代筆ならまだしも流石に入場料まで代わりに払う事ははできないし……。そうだ坊主、その手に持ってる衣服売る気はないか? 売る気があるなら今すぐ商人組合に話して換金してもらうが」


 門番は巧が手に持っていた衣服に注目し、提案する。


「これですか? ぶかぶかで着るのにも不都合ですし、売ってきてもらっていいですか?」


 衣服を門番に渡し門番は商人組合へと走って行った。

 暫くすると門番は戻ってきて少し重みが入った袋を巧へ手渡した。

 中身を確認すると銅と思わしき色の三枚を渡す。


「結構入ってますね。助かりました、ありがとうございます」

「仕事だからな、それに素材が良かったのか商人は驚いてたぞ? そのおかげでそれなにの金額になったが。ほれ仮発行のカードだ無くすなよ? これで坊主の証明になるので、五日間は街の中に入ることが可能だ。ようこそルビアリタの街へ」


 街へ足を踏み入れた巧は街の風景に目移りした。

 西洋風の建物が多く、人々は人間以外にも様々な種族が街を歩いていたのだ。

 全身毛で覆われている者や、人間のようで頭に動物のような耳や尻尾が生えている者。

 顔だちがモデルのように整っている美人で耳が尖がっている特徴の者。

 背は低いが髭に覆われ筋肉質の者など。


「すげえ……」


 ただ茫然と街の人々を眺めていた。


「そういや坊主、さっき労働とか言ってたよな。商人か冒険者どちらに行くんだ?」


 先ほどの門番が声をかけてきた。


「え? 冒険者?」

「ああ、今歩いている奴等も冒険者さ」


(冒険者……、あのゴブリンやこの人達も含め。今俺が置かれている状況、この世界ってやっぱり……)


 小説やゲームなどで出てくる冒険の世界。

 今この場で巧は自分が地球から離れ別世界に足を踏み入れていたのだと理解する。


「そうですね、冒険者になろうと思います」

「そうか、坊主がそう言うなら止めないが、冒険者登録するならこの先を真っ直ぐ行った所に”星の看板”がぶら下がっている建物がある。そこが冒険者ギルドだ。建物内に入って受付のお姉さんに話しかければ登録はできるはずだ」

「わかりました、ありがとうございます。あと宿屋ってどこですか?」

「ああ、宿屋は冒険者ギルドの近くにあるぞ。坊主の渡した金額からするとそこそこの宿なら泊まれるがどうする?」

「あんまり高すぎるとすぐお金が尽きそうなので、安くても長く滞在できる所が良いですね。あとご飯も付いていれば嬉しいんですが」

「ならゴブリンの看板があるゴブリン亭だな、あそこは初心冒険者に優しい宿だし飯も作ってくれるからな。中に入っておっさんがいたらその人にニスから紹介されたと言えばいいぞ、昔世話になったからなあそこの顔の怖いおっさんには」


 思い出し笑いをするニス。


「度々ありがとうございました。では行きますね」

「ああ、気をつけてな」


 礼をして目的のゴブリン亭へと歩いた。

 暫く歩いているとゴブリンの看板が吊り下げている建物が見え、建物の中に入る。

 すると筋肉が盛り上がっている禿げた厳つい顔のおっさんがいた。


「何だ坊主、ここは遊び場じゃねえぞ!」


 見た目通り声までいかつかった。


「えと、ニスさんの紹介で、宿をとるならここが他の宿より一番優秀で最高の料理を出してくれる、気前の良いおじさんがいる宿と言われここに来ました」

「あの野郎が……、坊主よくきたな。何泊すんだ?」

「そうですね。長期間とは考えてますが、とりあえず十日間ぐらいで一人部屋かなと」

「一日銀貨一枚だが十日だとまけて銀貨九枚だ。一日一食の飯付きなら銅貨五枚追加となるが」


 袋の中を確認して銀貨と銅貨の合計一四枚を取り出す。


「丁度だな二階の一番奥の扉、二〇五号室になるが高級宿みたいに鍵はないから荷物は自己管理しろよ? そうだ、先に飯を作るが食うか?」

「食べます!」


 飯という単語に巧は腹の虫が鳴いた。


「ははは、そこのテーブルに座って待ってろ。今すぐ作ってやるから」


 厨房に入ったおっさん、すぐさま料理を作るその動作はまさに料理人であった。

 出てきた料理は野菜炒めに肉のあぶり焼きにスープ、どれも美味しそうな物ばかりであった。よっぽどお腹が空いてたのか、ものの数分で完食。


「ご馳走様でした」

「見ていて気持ちよかったぞ。良い食いっぷりだった余程腹が減ってたんだな」


 笑うおっさん。


「とても美味しかったです。生き返りました!」


 うんうんと頷くおっさん。


「皿はそのままでいいぞ。また食べたくなったら金払えば作ってやるからな」


 指示された通りに皿をそのまま置いとき巧は二階の二〇五号へと移る。

 部屋は簡素的だがベッドがあり、巧はベッドに座る。


「まさかここが別世界だとは……。この世界で暮らしていくには生活基盤は、働く事は別にいいんだが問題は日本に帰れるのか? けど帰れる保証はどこにもないし、もう帰れなくてもこの世界で生活するのもいいかな」


 仮に日本に戻れた所で、再び自堕落じだらくな生活に戻る事は目に見えて明らか。

 ならいっその事、この世界で生活したほうが良いと一案を出す。


「とにかく今日は疲れた。寝よう」


 靴を脱ぐとベッドに横になると、巧を包み込むように沈む。


(気持ち良い……)


 ベッドの心地よい感触を味わいつつも巧は泥のように眠った。

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