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神隠しによる放浪記  作者: trt
第一章
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危機回避

 吹き付ける風が全身に浴びて目を覚ます。

 上半身を起こし、数分間は呆けていたが、次第に意識が覚醒したのか辺りを見回す。朝になったからか、昨日の暗さとは違い明るくなっていた。

 巧は昨日の出来事を思い出すと、顔を左右を振り辺りを確認する。


「そうだ、昨日はよくわからない化物に襲われたんだったか」


 現在の時刻をを確認すると、腕時計の針は七時と指していた。

 次に左手を見ると、血に染まったハンカチは重く、出血した血がそれなりの量を吸っていた。

 傷が塞がったのだろうか、血は一滴たりとも地面に落ちる事もない。

 巧は指を一本ずつゆっくり動かし始めると、痛みが伴わないのか握り、揺らし、叩く。

 不思議に思った巧はハンカチをほどき、てのひらや手の甲を確認してみた。

 どちらも真っ赤な血で赤く塗り染まっていたが、傷はなく穴が完全に塞がっていた。


「……傷がないし、痛くもない。穴も塞がってるっぽい、どうなってんだよ」


 どれだけ触ろうが一切血は出ず代わりに血の匂いが巧の鼻腔をかする。

 手を暫く見ていたら腹の虫が鳴き、空腹に気が付く。


「そういや腹減ってたんだっけか、喉が渇いてるから水飲みたいし、顔も洗いたい。ハンカチは…………、持ち歩くのは無理だし袋に入れとくか」


 ジャンパーを着て上着とハンカチの入れた袋を手に持ち、立ち上る。


「改めて周りを見ても風景は変わらんな」


 そう、周りは木々がおおっている。

 まるで樹海に似た感覚を覚える。

 近くに開けた場所を確認するが、それでも風景として代わり映えがない。

 巧はそんな風景を見ていると葉を擦る音が聞こえ、ふとその音が鳴る方向へと自然と目が向く。

 視線の先には公園で現れた緑の生物が居た。あの時より身長が高く手には棍棒らしき物体を持っていた。


 巧はすぐさま木の陰に隠れ様子を伺う。

 緑の生物は巧には気が付いていないが、鼻をひくつかせ辺りを探っていた。


『コッチニ人間ノ匂イガスル!』


 巧は緑の生物の言葉に驚く。

 昨日までは言葉が全くわからずにいたが、今は何故か言葉が聴き取れたからだ。

 幸いにもまだ見つかっていなかったが、このままいては見つかるにも時間の問題。巧は緑の生物の視角にならないよう近くの木々に隠れる。


 恐怖が巧を襲い、昨日の出来事を思い出すと手は震え、心臓の鼓動が激しく動く。

 巧は観察しようとするが、顔を出すと見つかるおそれがあると不安にかられ、耳に全神経を集中するよう目を瞑った。


『ドコダ人間! 出テコイ!』


 どうやら先ほど巧がいた場所に緑の生物はいるようだが間一髪といった所。

 この場を切り抜けるにはどうするか、巧は思考をフル回転させると、ふと手に持っている袋に視線が映る。

 袋を投げて誘導――そう閃く。


 袋の中には血を吸ったハンカチがあるので、ある程度は重くなって飛ばせれるようになっていた。目を開いて投げる方向を確認する。

 開けている場所の確認を済ませ、袋を出来るだけ遠くに投げれるよう力を込め袋を投げた。

 袋は弧を描くように投げられたが、開けた場所に落ちようとせずその近くの木の陰に隠れようとしていた。巧はまずいといった顔をした。

 音での誘導なら木が当たろうが陰に隠れようが問題ないのだが、目立たせるためには開けた場所の所へと落ちてもらわないといけない――――がその時。

 突如袋が突風に煽られたよう方向を変えたのである。

 方向を変えた袋は音をたて巧の予想していた場所へと落ちた。


『ナンノ音ダ!』


 釣られるように緑の生物が音の鳴った方向へと釣られるように向かう。

 その袋に近づくため巧が休んでいた場所から離れ、巧は見つからないように隠れつつも緑の生物の動きに注意しつつ観察をする。

 袋へ向かう緑の生物。

 完全に離れたのを確認した巧は緑の生物とは反対方向へと走る。

 兎に角、今すぐその場から離れる為に全力で走り、数分が経過した。


「もう、無理だ……」


 足元がふらつき膝が地面をつき顔を下げる。

 心臓の鼓動が激しく動き、息が切れ、口から唾液が垂れる。

 学生時代なら、体力の余裕はあったのだが、卒業後は全く運動をすることなく過ごしていたため、必然と体力は落ちていた。

 身長も低くなっているので、当然足も短くなっている。

 そのためスピードも身長が高い時と比べ移動距離も違ってくる。


「くっそ、喉が、渇いた。水が飲みてえ……」


 人は餓死するにも水のみで生活したらもって数日、水を飲まなければさらに短くなると言われている。本人の体脂肪率で変わるだろう。

 変化する前なら巧は中肉中背で一般平均的だが、今の巧の状態は平均。いや少し痩せている感じと言ったほうが正解だろうか。

 このままでは餓死するのも問題なのは巧も理解してる。


 一刻も早く水が飲みたい。

 そう必死に何度も水を考えていると、急に気怠さを通り越して怠さが起きる。

 ふと視界の上のほうに何かが浮かんでいるのに気が付く。

 顔を上げると不思議な光景が浮かんでいた。


 全体的に丸い球体、そして透明な物体。

 まるで水のようで、宙に浮遊する。

 球体の水は地面から少し浮かんでいることに目を疑っていた。

 周りには木だけしか存在せず他に何もない。


「まさか幻覚を見てるのか?」


 今までに体験した事もない恐怖、そして精神的疲労も重なっている。

 今、目の前に起こっている状況も巧には受け入れられた。

 立ち上がると、恐る恐る浮かんでいる水に近づき、そっと指で触る。


「冷たい……」


 指を入れた水は波紋はもんが広がり、指を抜いてみると水が垂れ地面に落ちた。

 水は相変わらず波紋が出て広がるだけ。

 そう、これは紛れもない現実。理解するとゴクリと喉を鳴らし、すがり付くよう必死に水を飲む。

 それが例え毒が混じろうが、色が変化していたとしても巧は飲む選択肢を選んでいただろう。

 化物に襲われず無事家に帰れてたのなら、まだ考える余地はあった。

 浮かんでいた水はどんどん小さくなる。


「ぷっはぁー、生き返った!」


 水を飲んだことにより落ち着きを取り戻し、冷静になった巧は浮かんでいる水を眺め見る。

 水が浮かぶなんて異常だろ、あり得ない……。

 そう、目の前に浮かんでいる水は物理的にもあり得ない状態。

 普通なら水は重力に逆らえず地面に落ちるはずだった。

 下から風で押し上げられていたなら、まだ理解する事ができる。

 だが無風であり、目の前の水は重力に逆らうように浮かんでいた。


「もしかして」


 一つの案が巧の脳裏を過る。


「確か俺が水を連呼するよう考えていたら水が現れた。だったらもう一度考えれば出てくるんじゃね?」


 馬鹿馬鹿しく思えるような思案しあんだが、緑の生物や巧の異常なまでの回復スピード、そして目の前の光景を見たら、このような考えになるのも致し方がないだろう。

 更には到着したときには見当たる物は木ぐらいしかなく、水が浮かんでいる何て事があれば確実に印象に残るだろう。それが急に現れたとしたら、それは巧が考え水を創ったと考えられる。

 早速試すように巧は目を瞑った。


(水、水、水、水、水、みず、みず、みず、みず、みず、water、water、water、water、water) 


 いくら水を考えても水は出てこず。


「水! 水! 水! 水! 水! water! water! water!」


 言葉にしても一向に水は現れない。


「なんでだよ………」


 巧はその場にへたり込む。


(くそ! あの水は何ででてこないんだよ……って、あれ?)


 巧は水を想像していたら巧は気怠さを感じた。

 それと同時に浮かんでいた水を見ると、変化が起きた事に気づく。


「水が……、大きくなった?」


 小さくなっていた水が少し大きくなっていた。


「何で大きく? ……もしかしてっ!」


 立ち上がりもう一度水を想像してみると、更に水量が増したのが目に見えてわかった。


「うおおおおお! やった! マジか! よしよしよしよし!」


 次は水を分裂する想像させた途端とたん、水が分裂し始めた。


「やばい、楽しい次は形状を変えてみるか」


 その姿は子供が新しい玩具を与えられて興奮し喜んでるようであった。


 その後の実験にて球体状以外にも形状の変化が可能。

 水を想像をすれば増水、形状変化、想像力が弱ければ曖昧な形になると判明。

 その際に、水質の変化、つまりは”個数増加、小水からの増水、形状変化、水を動かす”などをしたら気怠さの副作用が生じた。

 特に使いすぎると、本格的な倦怠感が起きる事もわかる。

 想像する場所によって水を留まらせる事も可能であったのだ。


「よし、実験はまだあるが次に食べ物を想像してみよう」


 これが一番重要であった。

 水のおかげで水分補給は問題解決。食べ物が生成する事に成功したら、栄養もとれ、固形物が食べれ心配事が一つ減るのだ。


「なにがいいかな? やっぱジャンクフードは当たり前だが、ポテチ、ラーメン、ハンバーガー、けどやっぱ一番は白い米が食べたいな」


 巧はおにぎりを想像する。

 しっかり形も想像するが、いくら想像しても一向におにぎりは出てこなかった。

 今度は別の食べ物を想像しても同じ、食べ物以外の物を想像するが失敗。

 水以外は不可能だとわかり落胆したが、すぐに気を取り直し考え込む。

 

「あの化物といい、この水と想像力、いや願望現実化と言い、もしかして……、いやありえないか」


 一つの妙案が思い浮かぶが、巧は空笑いをし否定する。

 現実とは思えないような体験をしたから、頭がおかしくなったんだと。

 巧は現実を直視せず、辺りを見回し現状どうするかを考える。


「さてどうするか、人は会えないし早く家に帰りたいのに……」


 不安で押しつぶされそうな気持になるが、両手で巧は頬を叩く。


「まあそのうち会えるでしょ。とりあえずは、気を取り直して他の実験をしてみるか」


 不安はあっただろうが、今は他の事に集中しようと巧は辺りを見回す。

 一本の大木に視線を向く。


「あそこの木でいいかな?」


 水の威力確認。

 現状、護身用となる武器がない以上巧の目の前の水に頼るしかないのだ。

 巧は水の塊を放出し木にぶつけた。

 水の勢いはそこまで強くはないが、幹が凹む程度であり身を守るには十分な威力であった。


「あのぐらいでこの威力、もしかしたら水のでる勢いを速く、そして範囲を小さくすれば貫通するんじゃね?」


 早速試す。

 範囲を小さくし勢いを乗せる事による水は超高圧の噴出の水鉄砲。

 木の幹を軽く貫通したことに目を見開く。


「予想してたとはいえ、これやべえ……、殺傷能力高すぎだろ。威力が強すぎるから抑えな……っ……」


 急に目眩めまいがして立ちくらみが起きたのだ。

 倒れないよう足で踏ん張る。


「何だ?」


 気怠さや怠さなどは何度か起きていた。

 だが、今回はそれとは異なり、目眩や立ちくらみである。

 これが水の使い過ぎにより、使用可能量が残り少なくなってきた事による合図。

 巧はそんな風に理解すると、その場に座り安静にした。


「まずいな、他にもまだ試したいことあるが……、今は少し休憩すればまた連続して使う事が可能になるかな」


 時計を見ようと腕をあげようとしたその時、どこからから叫び声のような遠吠えが響き渡る。


『コッチニ獲物ノ匂イ、飯ダ!』


 巧は身体を咄嗟とっさに動かし、無理やりその場を離れるように飛び、立ち退いた。

 次の瞬間、巧がいた所に巨体な生物が口を開けて飛び込んでくる。

 それを見た瞬間、顔が青ざめる感覚に陥る。

 だが、運が良かった……そう自分の判断能力が良かったと心の底から思った。

 それを表す様に喉をゴクリと鳴らす。


 飛び込んで来た生物は口を閉じたが、巧を食らう事ができず一度離れ遠のく。

 四足歩行の足を止め振り向くと、巧と巨大生物はお互いを見るように観察。

 巨大生物は顔はシベリアンハスキーよりの狼に似つく顔立ちをしていた。全身真っ黒で尻尾は太く長い。今にも獲物に噛みつきそうな犬歯を見せ、威嚇するよう唸る。

 それだけならただの狼や犬と変わらないのだが、全長が数メートルぐらいある、巨大な生物であった。


 巧は数歩下がる。

 唇は震え、歯はガチガチと鳴らし、手汗をかく。

 心の中では「逃げろ」「殺される」この二つしか考えられない。

 それほど、その狼を見ていた巧は本能が警告を発していたのだろう。

 だが、そんな狼をここで倒さないと逃げた所で簡単に捕まり、今度こそ確実に喰い殺され、巧の人生は終止符を打つ。

 緑の生物から逃げ果せたのに、すぐ別のが来る、一難去ってまた一難な状態。

 現状、あと数回しか水を撃てず、使い切れば立ちくらみ以上の事が起きる。

 つまりは気絶。

 そして確実に死ぬだろうと予測。


 逃げれば終わる、戦えば終わる、逃げなければ終わる、戦わなければ終わる。

 どの行動にしろ終わる選択肢しかない。

 だが、巧が取った行動は――――


「わぁぁああああああああああああ!」


 巧は大声をあげる事であった。

 恐怖を打ち払うようかのように、奇声……いや気勢を発するように。

 狼はそんな巧のことを気にせず突進し、噛みつこうと口を開け飛び出す。


「くっ!」


 狼の口が閉じ噛みつこうとするが、巧は身体を逸らし回避。

 だが、袖に狼の牙が噛みつかれ、巧の身体は狼の力によって浮かび引っ張られた。

 巧は引っ張られながらも手を開き、狼のほうへ向け水レーザーを放つが揺れた際に水レーザーがそれ、狼の胴体には当たらず右目に掠かする。

 狼はバランスを崩して倒れこむが、頭を振り口を開け巧を木にぶつける様、放り投げ飛ばした。


「がっ!」


 放り投げ飛ばされた巧は木に当たり、前のめりに倒れる。

 全身に痛さが走り顔を歪めるが、気にしている余裕はない。

 狼が今どこにいるのかを確認するために顔をあげ、狼との距離を確認。

 離れていたが横に倒れており、起き上がろうとしていた。


 起き上がった狼は右目を閉じ、目からは血が流れて一層険しい表情になり巧に近づく。

 巧は目眩や頭痛、全身に痛みが走っているが、狼が近づいてくる気配は敏感に察知していた。


 次で……ラスト。そう水を出現させるにも気力も次で最後だと理解する。

 次、水を撃てば巧の意識を失うだろう……。

 巧自身、起き上がり移動する気力もない。

 ここで倒さないと巧は死ぬ。

 目を瞑りながらも、水を準備できた感覚がわかる。

 外し失敗すれば、狼の餌にされ巧の人生は終わる。

 全神経を集中したおかげか、狼が今どこにいるのかどの距離かまで巧には手に取るようにわかっていた

 もう間近まで迫った、その瞬間。


「撃つ!」


 狼も叫んだ!



 意識は遠のき失った――――……。

3~5話を統合しました。

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