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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第二章
39/144

噂とその真実

 巧は目を瞑り腕を組んで唸り困っていた。

 それは服がボロボロなのである。

 ローブはインベントリに予備があるので、羽織って体を隠せば服が見えなくなるから問題ない。

 ただ問題あるとすれば、全身に血がついている事だ。

 見つかれば確実に心配させる。

 更には寝ていた責任を感じてしまうだろうと簡単に予想できた。


(どうするか、いっそ上だけ脱いでってそりゃ変態だわ。ローブに上半身裸とか変質者や裸の王様かよ! でも他にないし……)


 巧は悩む、この危機的状況を打開するにはどうすればいいのか。あれこれ悩んで思い浮かばず目を開くと、目の前にリウス目を覚まし巧を見ていた。


「あ、あのリウスさ、これはその」

「タクミ、なんで私を起こさず戦っていたの?」


 服はボロボロ、更には血がついているのだ。

 言い逃れできない状況。


「いや、せっかく気持ち良く寝ているのに、起こしたら可哀想だなって思ってさ。それに、夜は俺がいれば周りも見えるしより安全だしさ。今回はたまたま強い魔物がいたけど何とか撃退できたしさ」


 巧は頭をかきながら空笑いをするが、その姿は見苦しい。


「……タクミは私を信用してくれていないの?」


 信用はしていたが、真っ直ぐ見るリウスの目が巧にとっては突き刺さるほど痛いのを感じ取る。


「信用はしてるよ? あの時間帯は俺が起きて退治する番だったからね」

「なら私もボロボロになってタクミの前にいたら、タクミは私をどう思うの?」

「リウスをボロボロにした奴をぶっ殺す」

「……でしょ? なら私だって怒ってるの」


 子供が母親に説教を受けているみたいになっていた。


「ああ、悪かったよ……。けど本当心配しなくても大丈夫、これはただの魔物との戦っただけで、今回運が悪く傷ついただけだから。次もし現れたらリウスも起こして応戦してもらうから」

「本当に?」

「ああ、本当だ。さて飯食べようか」


 あの深夜の出来事。

 あれでリウスが殺されるかもしれない状況だったと教えるのは、非常に酷であったので話を強制的に終了させた。

 飯を食べたのち街を目指し歩く。

 道中魔物は出るが、無事街に辿りつきギルドまで到着。

 中に入ると、服がボロボロになのに気づかれシファに心配された。

 依頼の羊皮紙を渡したのち、状況説明するため、ギルド長のウエルトロスに話す事になった。


「悪いんだけどシファさん、エルメさん、リウスの事頼んでいいかな? あとこの角も買い取ってほしいです」

「わかりました。戻ってこられた際に精算したのをお渡ししますので……さて! リウスちゃんこっちで飲み物飲みましょうね。あとお菓子もあるわよ? あーんやっぱり可愛い!」


 シファは巧からバッファローの角を受け取ると、リウスを連れて行く。

 尻尾は、はち切れんばかりに振っていたが、そんなリウスは巧に助けを求めるように視線を送る。だが巧は気にせずギルド長が待っている部屋へと向かう。


 部屋のソファーに巧とウエルトロスはお互い面を向かって座っていた。


「それじゃタクミ、話を聞かせてもらおうか」


 巧は前と同じで相変わらず信用はしていない。

 そういう意味で言えば、ハリトラスやイルベル達に話す方がまだ信用できた。


「はい、俺はリウスと一緒に依頼の帰りに野営していたら、ある女性と遭遇しました。その女性は女エルフに二刀の剣を腰に装備していて、名前はフェイリアと名乗っていました」

「二刀の剣にエルフ女のフェイリアだと!」


 ウエルトロスは驚き立ち上がり声をあげたが、気を取り直しすぐに座る。


「ああ、すまなかった。さっきフェイリアと言ったが」

「はい、本人から別れ際にフェイリアと」

「そうか、タクミは会ったのか……。その娘はお尋ね者で懸賞金に掛けられてる。狙った相手をいつまでも追いかけ、そして言葉通りの意味で人生をも終わらせる所から付いた二つ名は『終演者しゅうえんしゃ』。名前はフェイリア・マルベールと言う人物。その娘は貴族や冒険者など関係なく殺しまわっていると聞いている」


 巧はフェイリアとの会話を思い出す。


(確かにあれは異常だったな)


「前の白い魔物と言い、今回の件と言い君はどうやって生き残ったのだ? 前は弱っていた魔物が相手だからたまたまと思っていたが、今回は自分が怪我していようがそんな逃がす気がない人物だ」

「と言われましても、俺がうまく攻撃を当てると、フェイリアが俺に惚れて殺さずに見逃してくれたとしか……」

「フェイリアに惚れられた……だと? くくく、くあーはっはっはっは!」


 突如ウエルトロスは笑い声をあげる。

 どこに笑い所があったのか理解できない巧であった。


「いや、すまんすまん。これは傑作だったものでな、確かにあの娘は異常だからかもしれんな、魔物以上にエルフだがわからんものだ」


(まあ人間は何を思っているかわからないからな)


「さて最後に聞くが戦ったのはタクミ、君一人だけ。場所はルイット村からこの街の間って事になるが合っているかね?」

「そうですね」


 途中、盗賊団の事は一切話していない。

 実際にはフェイリアがその盗賊団を皆殺しにしているので、話す必要がないと思い話さなかったのだが。


「わかった。とりあえずは掲示板にも、注意を促す羊皮紙を貼って、冒険者各自に知らせておこう。あとは話はあるか?」


 巧は自分のボロボロになった服を見ると。


「それじゃ――――」




 巧は話が終わりギルド一階へと行くと、リウスとシファがいた。


「タクミさん今回の角は一本銀貨三十枚、二つで六十枚になります。またリウスちゃんお貸し下さいね」

「ああ、わかっ……リウス次第だね」


 リウスを見ると元気な顔をしていた。


(あれだけ苦手だったのに心境の変化かな?)


 巧達はギルドを出て、大通りを歩いて向かった先は袋屋だ。


「何でここなの?」


「ああ、ギルド長から修復の付与を付けるならここが良いと紹介されたからさ」


 前はイルベル達を探す前にロウナに連れてこられ、バックパックを買いにきた店。灰色が混じった白髪で目がオッドアイ、そして『鉄壁の壁』の二つ名を持つ少年の店長に出会ったのだ。

 巧達は店内に入る。


「相変わらず袋、袋ばっかだな、まあ袋屋なら仕方がないか」

「やあいらっしゃいって久しぶりだね。しかしすごい恰好してるね君は、魔物にやられたぽいが……けど怪我はないね」


 店の奥から出てきたのは、この店の店長であり、鉄壁の壁の二つ名を持つオッドアイの少年。だが今はオッドアイではなく両目が黒である。

 少年は巧の服装の破けた服装を指摘する。


「ああ、ちょっと依頼帰りで戦闘して、それで破れちゃった。ギルド長にここを紹介されて修復と付与をかけてくれるって言われたからね」


 巧はギルド長から渡された手紙をオッドアイ少年に渡す。

 少年は手紙を開封しその場で読んだ。


「わかった、店の奥まで来てくれるかな? そこで修復と付与してあげるよ」


 巧は少年に礼を言い、リウスを店内で待機させ店の奥に行く。


「悪いけど破けている物全て脱いでほしい。脱いだものはこの台の上に置いてくれて良いよ」


 巧は破れた衣類とローブを台の上に置き、少年は修復と付与作業に移る。

 店の奥には少年と、下着のみを着た巧の二人。ここにリウスが居たら、顔を赤められ頬を叩かれても致し方がない状態である。


「さて修復も付与も完了したから着てくれていいよ」


 渡された衣類とローブを着ると新品同然に戻り、巧は少年に礼を言うが名前を知らされていないのに気づく。


「ああ、僕の名前はルベスサ・ラインサル。気軽にルベスサと呼んでくれていいよ」

「ありがとうルベスサ、俺は山内巧。巧と呼んでくれ」


 巧は礼を済ませ付与内容を聞くと、自動修復の付与とその効果を知らされる。

 金額はギルド長の厚意により無料である。


「タクミ、あの子なんだけどちょっと気になる事があるんだけど」

「ああ、リウスの事かどうしたの?」

「タクミはリウスちゃんの事どこまで知ってるんだ?」


 リウスはトレン村にて村人から孤児として育ってきた事、そして火の魔法が得意で扱える事をルベスサに話す。


「トレン村に火の魔法が得意か……もしかしてリウスちゃんって、何か特別な力(・・・・・・)とかない?」


 その言葉に巧は心臓の鼓音が激しくなり、喉を鳴らす。

 ルベスサは巧の様子を見た時、理解したかのように話す。

 

 「やっぱりそうか、”呪い子”だったのか」

 

 呪い子と言う単語は、トレン村から出て誰にもその情報は話してなかった。

 当てられた事に対して巧はルベスサを警戒する。


「何でわかった? トレン村を出てから誰にも言ってないのに」


 リウスを守る為にも逃げる為にも、最悪ルベスサを殺す覚悟で巧は聞く。


「ああ、やっぱり呪い子なんだ……会った瞬間あの子から特別な力を感じたからね。そんなに警戒しなくていいよ?」


 だが巧は警戒を解けず、ルベスサに巧は問いかける。


「リウスに何かするのか?」

「リウスちゃんには何もしないからというよりも、タクミがリウスちゃんを大事にしてるんだろうなって思ってさ……。わかった、僕の知ってる呪い子の事について話そうと思うから、警戒を解いてくれないかい?」


 巧はルベスサの言葉を信用し警戒を解く。


「タクミは呪い子の事どこまで知ってるのかな?」

「何も知らないが、ただリウスは村人から差別的な事を受けているのは知っていた」

「そうか……、なら呪い子の事について質問なんだが、タクミは知りたいかい?」


 リウスの言葉に巧は頷いた。

 リウスを守ると言っても流石に知らなさ過ぎたのだ。

 そんなルベスサは巧に呪い子について説明する。




『呪い子』魔法発症と同じで、誰でも成り得るが突然変異であり発症する。

 強力な魔力を持ち、戦争に一度現れれば相手国に対して壊滅的な被害を与える事はできる存在。

 一般的な魔法使いが十とするなら、呪い子は百もしくはそれ以上な為、各国は呪い子に十分注意して発見次第、丁重な扱いをする。

 しかしながら謎が多く、魔力が高いだけじゃわからず、現在も研究は続いているそうな。


 過去の事例として、村に生まれてきた子の中に呪い子が居て村ごと消滅。

 どんな小さな村でも、情報ぐらいは入ってくるのだろう。

 しかし、閉鎖的な空間の所為か、怯えて相談しない事や多々ある。

 村の中で解決つまりは死亡させようとする可能性がある。

 もし村に呪い子の存在を隠していたのがバレたら、知らせなかった際は村人達全員死刑にされる可能性もあるほど。

 近年、隣国のテルヌス帝国は呪い子が発見されたと言う噂は流れたが定かではない。




「――――と言うわけだ」

「でも何でそんな事を知っているんだ?」

「ああ、僕も実は呪い子に対する研究者をしていた事もあったんだ。だけどある時、知り合いとそこの研究所から逃げ出して、僕はこの街にやって来たんだよ。その時にギルド長に相談したらここを提供してくれた」

「なるほど、ギルド長は信用してもいいのか? あのギルド長に少し違和感あるんだが」

「ああ、信用はしてもいいと思うが、それはタクミ次第だからね」

「わかった、とりあえず衣類とローブそれに呪い子の情報ありがとうな」


 巧は出て行こうとしたとき、ルベスサからある事を言う。


「タクミ、一つ言うの忘れていたよ。僕が研究に携わっていた呪い子達は皆、強力な魔力をもっていたよ。それ故に”短命”であった。つまり、リウスちゃんも長く生きられない可能性があるかもしれないのを知ってほしい」


 内心驚いたものの、巧は冷静になり頷く。

 店を出ると巧は先程のルベスサの話を思い出し考え込む。


(呪い子か……)


 リウスは巧が考えながら歩いていたのを気にしてか、顔を覗き込む。


「何考えてるの?」

「……いや色々あるなって」


 巧はそう言いながらリウスの頭を撫でる。

 リウスは嫌がる素振りもなく巧の行為を受け入れていた。


「さてゴブリン亭へと戻ろうか」




 ――――ルベスサは店で一人巧から渡された手紙を読んでいた。

 手紙の中身は二枚ある。

 一枚は巧の衣類の修復と自動修復付与追加、もう一枚はフェイリア・マルベール暗殺の依頼とヤマウチ・タクミ、リウス・トラルストへの二名の監視。


「ギルド長、あなたはタクミを心配しているんですか? それとも……いや考えないでおこう」


 ルベスサは首を横に振って手紙をしまう。




 ――――ゴブリン亭へと戻った巧達はその日を宿で過ごす。


「あー、食べた食べた」


 もう夜なのか部屋は月明かりで全体が見えていた。巧はベッドの上に仰向け寝ていた。


「この世界に来てから色々ありすぎだろ本当。のんびりしたかったのに。適当に依頼受けて、金が手に入ったら旅に出て美味しい物食べ、寝て遊んでとか繰り返してたかったのに」


 巧は依頼を受けてから今に至るまでを思い出しながら目を瞑る。


(呪い子……リウス……短命か……どうにかして短命にならずに済む方法ないかな? 研究されてるとか言ってたし、実は短命は別の原因にあったりとか……?)


 そう考えていた時、部屋の扉を開ける音がした。


「タクミ……寝てるの?」


 リウスは巧に近づくが巧は気にする事なく、目をつむり続けリウスの動向を見守る。

 すると、何かが床に落ちる音がした。

 そしてリウスは巧が寝ているのを確認すると頬を触り、今度はベッドにリウスが乗り横になろうとし始める。


「タクミ……」


 リウスは両親が亡くなって巧と会うまで一人だったのだ。

 寂しさもあってか、まだ甘え足りなかったりするのだろうと巧は予想する。


(何だか娘ができたみたいだな。俺は父親か……、父親と義理の娘そのジャンルは嫌いじゃなかったけどさ。ダメだ想像したら起きてくる……って、リウスこれってもしかして服着脱いでるのか?)


 着替えていたのだろうか、否、リウスはドレスを着ていなかったのだ。

 そんな状態で巧の体に接触している。

 つまりはリウスはほぼ全裸な状態。

 流石に女性の素肌が触れるのがわかると、巧の理性を抑えようとしているが、男のさがだからか下半身は戦闘態勢に移行。

 まずい状況に内心焦る巧。

 すると、リウスは巧のズボンを掴み始める。


「確かこっちのほうは、棒みたいなものが大きくなっているとタクミが危ないから、直接見ないといけないってロウナさん達言ってたはず」


(ロウナ、なに教えてんだよ! リウスそっち触っちゃいけません!)


 リウスがズボンを脱がそうとするので、巧は必死にズボンを両指で摘まむ。


(ロウナ意外と力強い……、このままではずり下ろされちゃう)


 ズボンが下ろされるのも時間の問題。

 巧の抵抗が先かリウスが諦めるのが先か、攻防が続いていたが決着の時間はきた。


「あっ……」

「あっ……」


 巧は指を離してしまい、ズボンは勢いよくずらされた。

 戦闘体勢になっている物をリウスは直視する。

 巧は目を開け、リウスの方向に視線を向けると、リウスは巧のを見たまま固まっていた。

 それが何か、自分が何をしてたかが理解し始めると次第に顔が赤くなる。


「ッ――――――!」


 リウスは声にならない叫びをあげ、勢いよく部屋から飛び出し自分の部屋へ入ると扉を閉め引きこもった。

 リウスは出て行った部屋には巧一人。


「うおあああああぁぁぁ……」


 パンツごとズボンをずり下ろされた巧は下半身丸出し、起き上がると辺りを見回す。

 部屋の中にはリウスのドレスと靴が置かれていた。

 下着は着用しているだろうが、リウスはほぼ全裸で自室に戻ったとわかる。


あいつら(ロウナ達)め!」


 巧はズボンを上げ、勢いよく部屋を出ると、ロウナ達の部屋に押し入る。


「お前らリウスに何教えてんだ!」


 ロウナ達はお盛んな最中だったが巧は中断させた。

 タオルで体を包まれたロウナ達を正座させ怒り、説教をして巧達の夜は更けていった。


別名の名称記述を消しました。

一部の表現が改めて見直すと不快感があったので訂正しました。

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