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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第二章
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野営と巧の心情

旅に出てから野営まで

「それにしても、私のほうでも助かりましたよ。ただでさえ商人組合の手数料が高くかさんで大変でした。多くの冒険者を雇うのに金がかかるから無償で引き受けてくれるなんて嬉しいですよ」

「タクミ達も道中までだがそれでも困ってたわけだし、お互いに良い事だと思ってな。けど俺はちゃんと払ってもらうぞ?」


 現在巧達はルビアリタの街を出発していた。

 商人は馬を操り、巧達は馬車の中で商品らしき物と一緒に待機している。


「ハリトラスの事は知らないが、俺等は助かったよ。本当場所がわかんないからね」


 そう、場所がわからないのだ。

 ここは異世界、ネットで検索しようにもそんな便利アイテムもない。

 巧はルビアリタの街以外で外に出たのは少し離れた森や平原とトレン村だけなのだ。


「それでしたら地図をお売りしましょうか?」

「地図? マジでか、売ってほしい」


 商人から渡された地図は二つ、大陸の地図とルビアリタの街を中心とした周辺地図。どちらの地図も街や村の名前が書かれており、日本で手に入るような詳しい地図ではない。

 大陸地図は山、川、森、そこに続く道や小さく街が描かれ、村や街の下に名前が書かれ表示されている簡易な地図。ルビアリタの周辺地図はもう少し細かく描かれていた。


(これで地図手に入ったし、居場所探知とカーナビで迷わず安心して行けるな)


「他大陸の地図は今はないので他で購入してもらえると助かります」

「他大陸もあるんだ」

「ええ、と言ってもまだ誰も世界の地図を完成させた事ないらしいんですけどね。魔物も強力だしそうじゃなくても、地図を完成させるには環境が厳しすぎるとかで」


(他大陸か、冒険してみたいかも。日本じゃ仕事以外は自宅周辺のみで終わってたからな。それに今なら翻訳で言葉もわかるし、けどそれでもまずは金集めたり俺等自身強くならないとな)


 巧は冒険を想像して少しワクワクしていた。


「そう言えば巧とリウスは今ランクいくつだ?」

「俺は★三つでリウスは★一つ、今の依頼はバンデットウルフの討伐★二つだから俺等には丁度良い依頼なんだよ」

「あれからまだ経ってないよな? それなのにもう★三つなのか……」

「ああ、俺の場合は白い魔物を退治した実績のおかげでランクが上がったらしい」

「あの噂になってた白い魔物か? 何でも★五つ以上で強いとか俺の知り合いでも遭遇したが勝てなかったが、運良く逃げられたとは聞いたが」

「俺もたまたま運が良かっただけだよ。それに俺は水武器変化以外にもあるしさ」

「たまたまで勝てるのかねえ……けどまあ確かにタクミなら何とかなるか」


 巧の実力を知っているハリトラスは少し納得したように頷いた。


「それにあの時」

「敵襲です!」


 会話は中断され馬車は止まり、巧達は外に飛び出て迎撃を迎える。

 馬車に近づいて来る魔物を確認。そのうちの一匹は犬みたいな姿をしていた。

 それは巧が知っているただの犬ではなく顔はグレーハウンドぽく、体は少しごつく体が薄紫でとてもじゃないが平原だと目立つ色だった。


「ゴブリン六匹にバウンドドッグ一匹か、まさかゴブリンがあの魔物と一緒にいるとは……。ゴブリンだけならまだ戦闘せずにやり過ごす事はできたが、あの犬は無理だ。巧とリウスは先にゴブリンを魔法で迎撃、俺は突っ込みあの犬とやる。準備完了したら言ってくれ」


 ハリトラスの指示に従い巧とリウスは頷き魔法を準備。

 その間に迫ってくるゴブリン達とバウンドドッグ。


「準備完了だ」


 合図とともに飛び出すハリトラス。巧とリウスは水と炎を放ちゴブリン達を一瞬で殲滅。

 巧はリウスの炎の色を確認してみたが、赤かった。商人はそんな様子を見て茫然としている。


「流石タクミとその仲間ってか、俺も活躍しないとなっと」


 ハリトラスの剣はバウンドドッグに振りかぶるが当たらない。

 バウンドドッグもやられないように避け、ハリトラスに噛みつこうとするがハリトラスも避けバウンドドッグを蹴り離す。

 バウンドドッグは着地するとハリトラスに向かい飛び込む。


「このままじゃ拉致が開かないな……【線空斬せんくうざん】!」


 ハリトラスも前に飛ぶと同時にスキル名を叫ぶ。

 一本の線のように真っ直ぐ、そして空を斬るような形でバウンドドッグを斬る。そして少し遠目に着地。


(あの技を使いまくれば一気に戦闘から逃げる事も可能か)


 ハリトラスはバウンドドッグを一瞥すると剥ぎ取らず放置し巧達の元へと戻る。


「しっかし、タクミもすごかったがリウスもすげえな」

「そうですね。あのゴブリン達ですが一瞬でやっつけるなんて低ランクとは思えなかったです」

「あのゴブリン達が弱かっただけだよ、それよりも進もうぜ」


 巧は強制的に会話を終了させ旅を続けた。


「そういやリウスはどこの出身地なんだ? タクミと一緒にいるようだが、あれだけの魔法が使えるんだ。どこかの家系の生まれなのか?」


 ハリトラスの質問にリウスは体がビクッと反応する。

 リウスは話そうとしたが村での苦い思い出があるので、巧以外の人で話そうとするのは勇気がいた。

 巧は慌ててリウスの事を庇う。


「ハリトラス、その話はいいじゃんか。それよりもさっきの剣技すごかったなあれだけ真っ直ぐ行くなんて、普通途中で勢い落ちるぞ」

「ああ、あの技は苦労したな。何せどれだけ距離を伸ばせるかが重要だったから、足の力、体のバネ、腕の筋力とかトレーニングも大変だったな。それに――――」


 ハリトラスは笑いながら話すのでリウスの事をすっかり忘れていた。

 そんな巧の腕を引っ張るリウスがいた。


「……ありがとう……」


 巧はリウスの頭に手を乗せ撫でた。


「―――てなわけだ、結構苦労したんだぜって話聞いてるか?」

「ああ、聞いてる聞いてる。あれだろ? つまりトレーニングして殴られて手に入ったと」

「そうそう、俺が殴られ蹴られ、打たれ強くなりそして習得したのがって、違うわ!」


(おお、異世界でノリツッコミを見られたとは思わなかった)


 そんな様子をリウスは見て少し笑っていた。


「……ハリトラス、感謝してるよ」

「ん? ああ、感謝されたし」


 暫く旅は続いたが道中、何度か魔物との遭遇。

 だが、巧とリウスの魔法により難なく撃退して順調に進んで行くが、次第に辺りは暗くなり夜になるのがわかると馬車は止まり野営をする事になる。


「タクミはテントとかって買ってるのか?」

「ああ、流石に依頼で野営もあるだろうと予測してたからこの前知り合いに買ってきてもらった」

「良い友人をもったな」


 巧はロウナ達(使いの良いパシリ)を思い出す。

 出会ってからそこそこ経つが、何かと巧やリウスの事を気にかけてくれた人達。そんな彼等を巧は結構気に入っていた。


「そういや飯を食べた後の野営の順番どうするんだ?」


 巧は前にロウナ達と洞窟内での野営を思い出す。

 野営する順番、そして見張り、一定時間がきたら交代し仮眠の順番など。


「ああ、商人と見張り以外は馬車の中に入って寝てればいいだろう。順番としたら一人ずつ寝る。タクミ、リウス。俺の順番。基本二人組で行動するかな。時間はこの魔時計で確認」


 ハリトラスは一つの砂時計を袋から出す。

 インベントリではなかったが、それでもそこそこ大きい袋。

 巧はその魔時計を見た事があった、インベントリの中身を調べたときに入っていた一つであると。


「タクミ……」


 リウスの顔を見ると不安と言った表情。

 巧と寝るならまだいい。しかし、商人と一緒に馬車の中で寝るのが不安でたまらず巧に言いよる。


「あのさ、悪いんだけどリウスの時はテントで寝てもいいかな?」

「ふむ……そうだな、商人を守れなくなるって意味でならダメだが。まあ一応年頃の女性ってわけだしな。少し離れていても商人とリウスは俺等が守ればいいか」


 ハリトラスの理解力の早さに巧は感謝する。


「だが、俺ならいいが違う奴ならそうはいかんぞ? 俺達は仮にも冒険者だ。対象者を守るって意味でなら、異性だろうが嫌いな奴だろうが一緒の部屋で寝泊まりするぐらいはある。まあ恋人ならしょうがないか」

「おい……」


 そんなハリトラスに対して巧は呆れ、リウスは「恋人」と言う言葉を小さく呟いていた。

 雑談をし、飯を食べ終え商人と共に馬車の中で寝る巧。時間にして二十時。

 寝るとしてもまだ眠気がこないが、無理やり目を瞑り眠る。


「さて、これから俺とリウスの二人っきりで巧達を守るのだがリウスは野営初めてか?」


 ハリトラスの言葉に頷くリウス。


「なら魔物を発見したら警戒し、来たら迎撃。来なければ無駄な戦闘を避けるために倒さなくても良い。魔物によっては倒したほうが仲間を呼ばれなくて済む。危険な魔物なら命がかかわってくるから、寝ている仲間を起こしても問題ないぞ?」

「……わかった」

「それでリウム、ここが大事なんだが…………巧の事どう思ってるんだ? 好きなのか?」


 突然ニヤニヤしながらリウスに巧の事を聞くハリトラス。突如言われたことに対して理解できず放心していたが、徐々に顔が赤くなりハリトラスの顔を杖で殴り飛ばす。

 数時間経ち、リウスが巧を起こしに馬車の中に入ると巧が寝ていた。

 リウスはそんな巧の近くに座り巧の額を頬を唇を順番に触る。すると巧は少し声をだし、リウスは驚き巧から手を慌てて離す。

 巧はそれから目を少し開けると起き上がり顔は呆けていたが、少し経つとリウスの方向へ向く。


「…………おはようリウス。時間かな?」


 リウスは顔を赤くしていたが巧は気にせず時間を確認すると、深夜〇時と表示。


「時間なのか、交代するからリウスはテントで寝てきなよ」


 巧の言葉にリウスは惜しむ感じを出し、巧と一緒に馬車から降りテントの中へ潜った。


「どうしたんだろ?」


 ふと近くをハリトラス方向を見ると、顔を見ると頬が何かに殴られたように腫れ上がった顔をしていた。


「ちょ、どうしたんだよその顔」

「いやな……、リウスに巧の事を好きか聞いたら殴られた。……それで巧はリウスの事どう思ってるんだ?」

「変化させずど直球だなおい! まあリウスか…………、嫌いではないよ」


 巧は笑う。

 

 リウスからの気持ちに何となくではあるが気づいていた。

 だがそれが純粋な巧への好意ではなく”助けてくれた人”としての厚意かを確信には至っていなく、逆にリウスへの気持ちはには未だ葛藤がある。

 何せあの時の商人から助けられなかった少女と重なり、自己満足の為に動いた同情であり、偽善であり、欲望であったからだ。

 それでも助けなければ良かったと言うわけではなく、寧ろ助けて良かったと思えるほどに。だが巧はまだ悩む。本当にこれで良かったのだろうかと言う疑念に駆られながら。


 巧ではない別の人が助けていれば、今以上に幸せだったのだろうか?

 巧の心の中にはそんな気持ちがどこかしらにあった。そんなわがままを起こしたからこそ、巧自身悩む。

 リウスの巧への素直な好意には眩しいものを感じる事があった。

 だから巧は好意と言うものではなく、純粋に守ろうと思いリウスとのあの約束も果たそうとも思っている巧だった。


「…………そうか」


 心情を察したのかハリトラスは顔を笑いながら巧の背中を叩く。


「まあ頑張れよ応援してるぞ。そして巧……」


 急に真剣な表情をするハリトラス。


「赤ポーションくれないか?」


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