リウスとデート回その2
巧達は服屋を出てから辺りを見回しながら大通りを歩くが、どこの飲食店も満席であった。
「タクミ待って」
「ああ、ごめんごめん」
「タクミ歩くの速いよ。これで離れないね」
リウスが巧のローブの袖を引っ張って微笑む。まるで子供が親から離れないよう必死に袖を掴んでる感じだったが、巧はリウスの顔を見ると何か気恥ずかしさを覚えた。
「お、おう。さあ行くぞ」
未だ飲食店が決めれていない。暫く歩いていても空いてそうな店はほとんどなく、大通りだからかどこも商売繁盛盛んな店ばかり。
「どうするかな」
「あそこ空いてるよ?」
リウスが指さした所を見るとある店の扉が開いて店内を見たら空席が目立つ。
「それじゃここにするか」
店内に入るとウオルレットを彷彿させる、犬耳と思われる獣人男がいた。
その隣には可愛らしい腰エプロン姿の獣耳娘ウエイトレス。
(うおお、この娘も可愛らしいなモフりてえな)
凝視するような感じで見ていると視線を感じたのか、後ろを一瞥するとリウスが巧の事を見ていた。
「さ、さあてあそこに座ろうかリウス」
慌てて近くのテーブル席に座る巧、その後に続いて巧の横に座るリウス。
「リウス、別に横に座らなくてもいいんだぜ? 対面して座れば話もできていいぞ?」
リウスは首を横に振る。座る場所が気に入ったのだろうと思い巧は立ち上がろうとしたが、リウスに引っ張られ座らざるを得なかった。
少しだけ長方形の形をした四角いテーブルに椅子は四つ、片方の椅子だけ空いててもう片方の椅子は空席が目立つの状態になっていた。
「お決まりでしょうかー?」
「えと、お勧め料理は何ですか?」
「当店のお勧め料理はあそこにいるお客さんが食べている、キルイを使った肉料理です」
店員の指を指された方向を巧とリウスは見ると、豆の入ったハンバーグみたいな肉、更にはその皿の中には美味しそうなスープがテーブルの上に置かれて、客の一人が美味しそうに食べていた。巧は思わずごくりと喉を鳴らす。
「とりあえず、俺はそれにしようと思うがリウスはどうする?」
「わ、私も同じの食べてみたいかも……」
リウスもあの料理を見て食べてみたいと思ったらしい。
「じゃその料理を二つお願いしても良いかな?」
「畏まりましたー!」
元気に声をあげ厨房へ行く猫耳娘。
巧はゆったりしようと思ったが何か視線を察知。周りを見回すと、リウスが珍しいのかリウスの方を見ていた。
巧の視線に気づくと、視線を向けてた人達は目を逸らす。
(まあ髪の色と服の色が同じだし流石に目立つし仕方がないわな)
暫くすると料理が二つ出てきて湯気を出していた。
「おお、旨そうだなじゃ食べるか。いただきます」
「……いただきます……」
巧の真似をしたリウス。
(な、何だこの肉は……中はジューシーで肉汁が溢れ返ってくる。超うめえ、この豆もいい具合に煮込まれてて味も何故か豆の中にまで味がしみ込んでやがるぜ。スープ何てあっさりしてるがまだまだ飲みたい気分にさせられる。ウオルレットの料理もうまかったがここも中々……)
隣に視線を送ってみると、リウスも同じ発想なのか物凄い笑顔で食べていた。
皿が空になり二人共満足そうな顔をする。
「美味しかったな。さて次どっか行きたい所あったりする?」
リウスは首を横に振る。
「行きたい場所……ううん、とっても幸せで満足……」
「そっかー、まあそれじゃ今度はちょっとこの街を散歩してみようか。俺もしっかりこの街を見回ってみたかったしいいかな?」
リウスは首を縦に振る。
「それじゃ決まりだな。会計するか」
店員を呼び会計を済ませ外に出た。街の中を散歩していると、巧はどこからか見られている気配を察知し辺りを見回す。
(またこのパターンかでも今回は……リウスか)
この髪色で肌は火傷あとはあるが顔は可愛いのだ。しかもこの服装。目立たせるなと言うほうが無理な話。
周りを見回すが人は多く、視線は不明であった。
「仕方がない……走るぞリウス!」
「え?」
巧はリウスの手を掴み走り出す。
人込みを掻き分け人が少ない所に出ると、リウスは足を引っかけバランスを崩す。急ぎ移動する事が不可能と判断した巧は走るのを止めその場に止まる。
「ごめん、大丈夫かリウス」
「う、うん」
止まっていると後ろから兵士が二人、回り込まれたのか前からも兵士が三人現れる。巧はリウスを守るように背中に隠し、杖魔祖をインベントリから取り出すと兵士達に向け警戒する。
「ぼうや、悪いがその娘を置いて行ってもらおうか、俺等のご主人がその娘を気に入ったそうだ」
「やだね、何でリウスを置いて行かないとだめなんだよ。この子は折角頑張って外に出てきてくれたんだそう易々と渡してたまるかよ」
「こいつ……我々に逆らうとどうなるとわからないのか!」
「あーあ、怖い怖い言う事聞かなければ脅しってか阿保だろ。脅して無理なら剣で斬るってか? 知識のない野蛮人はやだねー、てか大人として本当にな……」
「こいつ! お前らその娘を捕らえるぞ! この小僧は殺せ!」
剣士達は剣を抜き巧に斬りかかるよう走り出す。
「本当やだねー……水ビーム!」
そう言いつつ水ビームを二つ同時に兵士にぶつける。
水ビームを撃つのにも一発が精いっぱいだったのだが、日々の練習により数を増やして撃つことができるようになったのだ。
今撃ったのは二つだが慣れなのか三つも四つも増やせる事は可能。
こうなったのも、イルベル達が五月蠅かったので練習に集中してたらできた結果であった。
「おお、本番で上手くいった」
吹き飛ぶ兵士二人。もう片方の三人に向きなおして魔法を撃とうと構える。
「なっ! こんな小僧がこんな強力な魔法を使えるだと! ならばこっちも魔法で……ぎゃあああああああ!」
一瞬何が起きたのかわからず二人は茫然とする。しかし飛んできたのは魔法だと判断できた。
魔法は巧達の横を通りすぎ三人の兵士に当て吹き飛ばしたのだ。
魔法が飛んできた先を見るとシファが立っていた。
「シファさん、どうしてここに?」
シファは吹き飛ばした兵士を一瞥すると巧達に近づき、リウスを抱きしめた。
「あーやっぱり可愛い。この服も可愛いし似合ってて、もうほっんと可愛いい!」
抱きしめられたリウスは顔を紅潮させ困惑している。
「あの、何でここにいるのを教えてほしいんだけど」
「あ、ええ、リウスちゃんが兵士に襲われそうになったのを目撃して、だから兵士達を魔法で吹き飛ばしちゃいました」
軽い気持ちで言うシファ、巧は吹き飛ばされた哀れな兵士達を一瞥。
(どこの兵士かわからないが、ご主人と言ってたし多分貴族なんだろうな)
「そうね、お察しの通りこの兵士達は貴族に雇われてる人間かな? 多分この街にたまたま来てたのをリウスちゃんを見つけて手籠めにしたかったんでしょう。けどもう大丈夫、お姉さんに任せなさい」
そう言うとリウスから名残惜しそうに手を放し兵士の一人に近づく。
兵士達は魔法を食らってもまだ気絶してなかったのか、シファが近づくと兵士は恐怖に顔を歪めた。
そしてシファはその兵士の一人に耳元で囁くと、兵士は必死に頷いたと同時に他の兵士を置いて逃走。
(何言ったんだろ? 残った兵士は……まあ大丈夫か)
「さて、もう大丈夫。これで安心ね、守ったわけだしリウスちゃん私と一緒に行こうね」
どうやらギルド内みたいに丁寧な喋りではなく、軽い口調でのオンオフがある人の様であった。
それともリウスの前だから、このような喋りになるかは定かではない。
(この人はリウスを本当に気に入ってるようだ)
そんなリウスを見ようとすると、巧の後ろに隠れていた。
「わ、私はタクミと一緒に……見回りたい」
リウスは自分の意思ではっきり答えた。
「ですって、だから俺等はもう少しは街を見回ってから宿に戻るよ。それにあれぐらいなら俺でも勝てるし」
シファは項垂れ尻尾が垂れ下がる。
「そうね、まだ襲ってくるとも限らないけど、タクミさんリウスちゃんの事守ってあげてよ。それじゃお姉さんはまだ仕事があるから行っちゃうね」
そう言い残し、シファは人込みに紛れて消え去る。
残った巧達を周囲の野次馬は好奇心の目で見ていた。
「さて居なくなった事だし行こうか」
リウスはコクリと頷き巧の手を握る。
あれだけの事が起きた恐怖もあるだろう、巧はそう思いリウスの手を握り返す。
あれから数時間が経っていたが、まだ空は明るい。
「ふう、色々見回ったな」
「うん、あの大道芸? あれもすごかった。まるでタクミが出したあの水の動いてるみたいだった」
巧達は歩いている途中で広場に到着すると人だかりができていた。
その中心には大道芸を披露している人達の姿が映る。
火を噴き、風魔法を使った飛び芸、パントマイム、特にリウスが注目したのがジャグリングであった。
似たような事を棒人間にもさせ、その為かジャグリングをしているとリウスの目は釘付けになっていた。
「ああ、あれもすごかったな。そういや剣で思い出したがリウスの武器を買いに行かないとな。リウスは何使いたい?」
「わかんない……」
「リウスも魔法使えるんだっけ? 杖でも良いがもっと身近に使える物がいいよな。剣とか……いや重すぎるだろうし、もう少し軽い方がいいか? けど杖としての機能もあるなら……あ!」
巧はインベントリに入っていた杖魔祖の事を思い出す。
(あれ素材がいいのか軽いし、直接攻撃するにも便利だしな)
威力としては上がるのだが、なくても巧は魔法が使えるので、魔法使いとして相手にアピールするためだけに持っていたのだ。
「良い物あったし、次の戦闘の時に渡すな」
「うん!」
時間を確認すると十七時前、巧達は宿に戻ることにした。
「お帰りー」
ゴブリン亭へと戻ると、ニヤニヤしながら巧達の帰りを待っていたイルベル達がいた。
「手ぶらだけどちゃんと買ってあげたの?」
「ああ、勿論。買った物は収容空間に入れてあるから」
そう言って収容空間に入れていた戦闘ドレスを取り出し、イルベル達の前で見せる。
「うわー、タクミ、新しい魔法また創ったんだ…………ってかこのドレス素敵! いいなー」
「そうだね、かなり綺麗…………着てみたいかも」
「はい、お終い」
ドレスを収容空間に仕舞う。
「ぶーぶー!」
「タクミのケチ!」
「うるせえよ! これはリウスの物だ。もし次見たければリウスに言え。それに最初に着るのはリウスだからな? もし先に着たりしたら怒るぞ」
「わかってるって、てか店で着てみなかったの?」
「ああ、店長に注意を受けてね。まあ魔法で身体に合わせてくれるらしいから店で着なくても問題なかったが」
「だめじゃない、それじゃ早速着てみようよ」
ロウナとエルはイルベルを放置し、巧とリウスを連れ三階へと上がる。
そしてリウスにドレスを渡し巧は外で待ってるようロウナに言われ、待つ。
「タクミは絶対良いって言うまで入っちゃだめだからね」
暫くして待ってると扉が開く。
部屋の中には戦闘ドレスを着たリウスが恥ずかしそうに立っていた。
リウスの着ていたドレスは店長の言葉通り、着る本人に合わせる様にサイズが調整されている。
「に、似合う?」
「お、おう。似合うぞ見違えるほど綺麗だ」
見た事実の言葉を述べ、その言葉を聞くとリウスは喜び顔が微笑む。
(ま、まあこれだけ綺麗なドレスなんだし、そりゃ今までじゃ考えられなかった事だな。着れて嬉しいだろうしって、あいつらはどこだ?)
ロウナとエルはいつの間にか、部屋からいなくなっていた。
(あいつらめ……全く……。あとでパシリ行かせるか)
巧はあの時の事をまだ覚えていた。
リウスが大人しくなっているのに疑問に感じ、リウスの顔を見ると少し不安げな表情をする。
「どうした? 何かあいつらに嫌な事をされたか?」
リウスは首を横に振り巧を見つめた。
「タクミ……どうして私にこんなに優しくするの?」
「んー、優しくするってか、俺がそうしたかったからかな?」
「そうしたかった?」
そう、これは巧のただの自己満足。
非難されようが、あの時巧が思い行動した結果、リウスを巻き込む形となる。
「そう、今までリウスは不幸にあっただろ? ならこれから幸せを掴んでもいいかなって」
「けど、私呪い子だし……やっぱり巧に迷惑かかちゃう……」
あの村で扱われた事を未だに気にしていたのだ。
「そんな事気にすんなって、それに言っただろ? 俺は呪い子何てわからないって。それに人である以上幸せに生きるのは当然の権利だと思うんよ」
「……」
「だからさ不幸であった分、取り戻すようにこれからいっぱい努力して、そして幸せになろうぜ?」
リウスはそう聞くと巧に抱きつく。
巧はリウスの行動に驚くものの、リウスは肩を震わせ泣いているようだった。
そんなリウスの頭を撫で落ち着かせる。
こうしてこの日一日は終わるのであった。
デート回のラストと繋げました。




