出会い
思い浮かばなかったのでこのサブタイトルにしました。
「ぐあああ、しまったあああ! 何であんな事言っちまったんだろ? あまりにもムカついたからついつい言っちゃったけど、これって……」
戻る道中、巧の中であんなセリフをスラスラと言えた事に対して思い出し、そして悩む。正直この世界の事は巧が気にする必要がなかった。
リウスに対してあまりにも可哀想であり、巧はあの奴隷少女とリウスが重なっていた。助けられなかったと言う偽善的思いからかとった行動であり、巧はついつい熱くあんな事を言いだしたのだ。
リウスの寝ている小屋へと戻ると、リウスが目が覚めたのかベッドを上半身起こしていた。
リウスは突如の来訪に驚いて戸惑っている。
「ごめんごめん。いきなり入って悪かったね。この小屋の近くを通ったら君が倒れてたからさ、悪いと思ったけど中に入ってベッドの上に寝かしつけたよ」
まだ顔が赤く熱があるようだった。
「まあ今、外はこんな雨だし、それに熱ぽかったしもう少し寝ていたほうが良いよ」
「あ……あり……がとう……」
リウスは困り果てたがお礼の言葉を述べる。
巧はその言葉を聞いて満足に頷く。
「そうだな、腹減ってるだろ? 飯出してやるよ、あと喉乾いただろ」
そう言うと巧は魔法を使い机の上にあるコップに水を入れ、インベントリからパンを取り出し皿の上に乗せた。
「どんどん食べてガブガブ飲んでくれよ」
リウスは首を振り巧の厚意を拒否する。
(なんでだろ……)
「お金……ないから……」
(ああ、お金ね。確かにこうして無料で食料も飲み水も提供するなんて、この世界じゃあり得ないわな。というか厚意自体わかってないのか?)
今まで苦労をしていたのだ。
巧がリウスに対してこうも優しくするのか、わかっていなかったのだろう。
「お金はいらないが……、それじゃあ情報が欲しいな。レッドキャタピラーがいつ来るのかとか、俺この村に討伐派遣された冒険者なんよ。だからレッドキャタピラーが来るまで待って入ないといけないんだよね。いいかな?」
リウスはコクリと頷く。
情報なんてどうでもよかった。ただ、どうしたら食べてくれるのか一点のみだったからだ。
「よし契約成立だ、それじゃまずは食べて飲んでね。食べ物ならまだまだあるからさ。しかも無料だよ」
巧が何故大量に食べ物があるのか?
それは、ゴブリン亭でウオルレットに対して食べ物を請求したからである。
巧は冒険者だ、だから何日間も戻らない場合があるかもしれないのだ。
インベントリ内に飯を入れて行けば、旅先で食べ物を食べて安心できると力説。
実際は数日間部屋に引きこもって食べてただけなのだが。
「この水……美味しい……です」
「おお、そうかそうか。もっと出してやろう」
傷や火傷跡は気になるがそれ以外なら普通の可愛らしい女の子なのだ。
「ちなみにこの水はこんな事もできるぞ?」
「わああぁ」
リウスは目を輝かせている。
視線の先には水で創った動く棒人間であった。
棒人間はリウスに近づき挨拶、勿論喋る事はできないが色々な曲芸を披露。
一通り終わらしたのち棒人間は外に出て崩れ落ちた。
「どうだった? また見たいなら出てきてくれるから」
「とっても面白かった……です」
まるで子供が家族と一緒に楽しく過ごしているようだった。
リウスは熱が引いたのか顔色が良くなっている事に巧は気が付く。
鑑定すると、状態は”発熱”から”なし”になっていた。
巧はこのとき初めて魔法水は病気をも治すと気づく。
「お、熱下がったみたいだね良かったじゃん」
「え……? ほ、本当……だ……」
リウスは額に手を当ててから少し体を動かすと微笑んだ。
「まだ熱が下がっただけだし、体力も落ちてるだろうから。さあどんどん食べてよ」
皿の上に食べ物を乗せる。
「あ、大丈夫……です」
(さて、どうしよう、いつあの事切り出そうか)
村長との約束を思い出す。
巧はリウスに視線を向けると、リウスは笑顔でいる。
だが、このままこの村から離れたら、また悲惨な状態が起きるのが目に見えてわかると巧は悩む。
「とても……とても美味しかった……です。お話したのも久々だし……。けど、もう私に関わらないほうがいいですよ……」
「ん? なんで?」
「だって私……呪い子だし……」
呪い子と言う言葉が出た瞬間、リウスは暗い顔をする。
「んー、実は村長にも言われたんだけど呪い子何てよくわかんないんだよね。ここの人間じゃないし」
「呪い子って村の皆が私の事を言うんです……。私は幼い頃両親を亡くして……そしてその後、呪い子になったとか……そしたら皆この子に近寄るなって……」
そう喋ると暗くなり目から涙が出始めている。
「そっか、苦労したんだな。じゃあさ、もしよければだけどさ、俺と一緒にこの村から出て行かね?」
「え……?」
巧の言葉に驚くリウス。
「だってさこの村にいても君がこの村で不幸になるなら、いっその事一緒に出て行って街で冒険者として一緒にやってければなって」
「けど私、冒険何てした事ないし……役にも立たないから……」
「大丈夫だって、俺何てまだランクは三つだぜ? この前に登録したばっかだけど何とかやってけるしさ。それに一緒に旅の仲間も欲しいなって思ってて、もし嫌なら冒険者じゃなくてもスキルを上げれば街で働く事もできるだろうし。ここにいる以上に楽しい奴等もいるぜ? だからさ」
ゴブリン亭に居る人達と思い出し笑ってみせた。
「だからさ、俺と一緒に旅に出ませんか?」
「……」
考えるリウス。
暫くして沈黙したのち、口を開こうとしたその時、扉が開かれ小屋の中にクレンツが入ってくる。
「タクミさん! 急いでくれ、レッドキャタピラーが現れた。本当ならもっと遅くに来るはずなのに何故か今、村の奴等が襲われてるから早く!」
そう言い終わると巧は立ち上がるとリウスに向かい。
「それじゃ考えといてな」
そう言い残すと、クレンツをレッドキャタピラーの所へと案内させる。
場所は村中央、そこに一匹の魔物がいた。魔物は村長の言った情報通りだった。更に付け加えると巧が考えていた通り芋虫そのものだった。
「あの赤いのがレッドキャタピラーか?」
「そ、そうだ、他の村人はもう避難したから早く退治してくれ!」
魔物の下には何人か村人が倒れているのが見える。巧は顔を顰めたが気にしてる余裕はない。
インベントリ内から杖魔祖を取り出し風魔法を使い高く飛ぶ。レッドキャタピラーの真上に到着すると手を突き出し水ビームを放つ。
『ギャアアアア!』
レッドキャタピラーは突然の攻撃を受けて悲鳴を叫び体をうねらせる。
「すげえ……」
茫然とするクレンツ。着地した巧は更に追い打ちをかけようと水の塊を空中に浮かべようとしたその時、巧の両手と杖には糸が絡まる。そして杖だけ器用に奪われた。
『グハハハ、サッキハ痛カッタゾ! コレデモウ魔法ガ撃テナイダロウ! コレデ口カラ吐イテイル糸ヲ伝イ炎ヲ吐イテ燃ヤシ尽クシテクレルワ!』
(おお! 説明キャラだこいつ)
巧はレッドキャタピラーが言った通りに炎を出すと、その炎は糸を伝いレッドキャタピラーの口の中に入る。
『熱イイイイ! 何デ! 何デダアアア!』
口の中に入った炎を眺めていた巧、レッドキャタピラーは体をくねらせていたがまだ動く様子だった。
『ヨクモヤッテクレタナ人間!』
「いやそんな可愛らしい瞳で言われてもさ」
『五月蠅イ! コレデモクラエ!』
レッドキャタピラーは炎を吐き出してきた。その炎は前に戦ったゴリラよりかは数段落ちてるのを巧は感じた。
「仕方がないな、ほいっと」
レッドキャタピラーから吐き出された炎は巧に届く前にかき消されてしまう。
『何故! 何故ダ!』
「炎を吐くのはいいが俺、風魔法使えるし」
実際巧の周りには風魔法が使用されてるのか、円状に風の魔法で張り巡らされていた。
雨も巧の周りだけ雨が風で流されているのか巧は濡れていない。風魔法を解除すると雨は何事もなかったかのように、巧の周りにも雨が降っていた。
『グヌヌヌヌヌ!』
「もう諦めろ」
『マダダ! マダ終ワラ……エ……』
巧は終わらせる為に水ビームを放つ。
水ビームはレッドキャタピラーを貫通し絶命。巧は近づき完全に絶命したのを確認する。
「よし、終わったぞ。これでいいか?」
「え、ええ大丈夫……です。お見事でした。いやー素晴らしいものでしたよ」
(うわ喋んな気持ちわる!)
「村長を呼んで退治してもらったのを報告してきますのでついて来て下さい」
巧達は村長の所へ行くと退治した事を報告する。
村長はレッドキャタピラーの死体を確認すると巧に振り返る。
「見事じゃ! まさしくレッドキャタピラーは倒された、これはお祝いじゃ。これでもう不安の日々はないぞ」
村人達は喜んだ。
「んじゃ報酬のほう貰おうか」
「……報酬ねー、村長どうします? これじゃレッドキャタピラーは素材剥ぎ取れないかもしれませんよ?」
「そうじゃな、これじゃ素材の部位が悪くて売れないかもしれんのぉ。悪いんじゃがタクミ、報酬はなしとは言わんが倒してくれたんじゃ、白銀貨五枚で手を打つのはどうじゃろ?」
巧は一瞬、何を言ってるのか理解できていなかった。
もう一度聞き直すと、どうやら巧が貫いた部分が取引に使われる場所でもあった。その為、剥ぎ取れなくなったから渡す報酬から引かせろという話。
「何でだよ、報酬を貰うのは十六枚ってのは確定なはずだろ。もうレッドキャタピラーもいないはずだし」
「そうじゃがもうレッドキャタピラーはいない。だから報酬は白銀貨五枚じゃ。これ以上はやれん!」
村長の横暴な態度に巧は苛立った。
だがある事を聞かなければならないのを思い出す。
「村長それじゃ約束にあの子を連れて行ってもいいですね?」
「ああ、それなら連れて行っても構わない、寧ろ早くこの村から連れ出してほしいのお」
村長の言葉に村人達は全員頷く。
そんな村人達を見た巧は、苛立ちを抑えリウスの家に入る。
リウスは巧が入って来たのと同時に歩いてきた。
「どうだ? 一緒に来る? もし嫌なら諦めて出て行くよ?」
「……ついて……ついて行ってみたい……です」
その言葉を聞き、巧は微笑む。
「それじゃ準備したら行こうか。もし何か荷物があれば俺のインベントリにいれるから手ぶらでも大丈夫だよ」
「それなら……これを」
巧に渡したのはリウスとその両親の絵だった。
「わかった、これをイベントり内にいれるよ、向こうに着いたら出して返すな。他には?」
リウスは首を振りもうないと合図を送る。
「それじゃ行こうか」
巧は外に出ると続いてリウスも外に出る。
外に出ると村人からは嫌悪感ある視線をリウスに浴びせかける。巧はリウスを庇うようにして歩く。
「やっと呪い子から解放されるのかー。これでこの世からいなくなれば良いのになー」
わざと聞こえるように言い放つクレン。
巧は遂に堪忍袋の緒が切れ、クレンツの足元に向かい水レーザーを放つ。
「うわああああああああ!」
クレンツはビビり腰を抜かす。
「糞が! 俺やリウスの前でそんな暴言吐いたら次は殺す」
巧の目は本気であった。今までの事だ、むしろ殺さなかっただけマシだと思ったほうが良かったのだ。そんな巧のローブにリウスが引っ張る。
「ごめん……行こうか」
リウスは俯きながらコクリと頷き巧達はトレン村から出て行った。
暫く歩いていると気まずい雰囲気が巧達を襲っていた。
(あーどうすりゃいいんだよ。困った。誰か助けてよぉ)
「あり……ありがとう」
ふと後ろについて来ているリウスを見るとリウスは笑っていた。
(ああ、良かった)
これで良かったんだと思い巧も笑う。
――――数十分後。
暫く歩いたが巧達は迷っていた。
食べ物もあり飲み水もあるが、帰る場所が巧はわかっていなかった。
悩んだあげく巧は一つの案を思いつくと、足を止め目を瞑る。
(確か前に地図見たな、その時の三角で自分の場所を知らせていたし、そしたら……街……カーナビ……方向案内にルビアリタの街……)
巧は気怠さが起こり目を開く。上空に矢印が現れていた。
矢印は街の方向へと指しているのだろうと直感し、巧はその矢印に向かい歩き出す。
道中はリウスと雑談し、数時間経ったのち見覚えのある壁を発見する。
門番も立っていたので、巧はルビアリタの街へと帰ってきたのを実感した。
正直迷いました。リウスをどうしようかと
まあ前までが胸糞すぎたのだからこれでいいかな。
これでこの先リウスとの旅でムフフな展開があったりなかったりすればいいなあ