答え合わせと発見
身体を動かそうとするが全体が怠いのが、巧は動かす気力がない。
誰かの手が巧の頬に触る。その触り方は優しく、とても大事そうにガラスを壊さないような感じで触っていた。後頭部から誰かの膝枕をされてるのか気持ちが良さを感じていた。
(何だろ? 気持ちいいな)
目を開けてみるとロウナは巧が起きたのに気づき、泣きそうな顔になる。
「タクミ……タクミ……タクミ……」
ロウナは何度もそう呟き、眼に溜めていた涙が頬を伝い巧の顔に零す。
「また泣いてんのな」
巧がロウナの目に溜まっている涙を指で拭きとりながらそう言うと、ロウナは巧の顔を抱きしめた。
(ちょ! やばい! これやばい! 胸当たってる、やっほい! そして俺のオットセイが起き上がりそうに、まずい! このままでは嫌われる)
ロウナは胸当てを何故か横に置いているので、服の上からだが胸の感触が直にが巧に当たっているのがわかる。巧は内心嬉しい気持ちと、下半身がばれたらまずいと言う気持ちが入り混じっていた。
「タクミの馬鹿! とても怖かった……。タクミが、タクミが仲間みたいに死んじゃうかと思った!」
ロウナは震えていた。巧はそんなロウナの言葉を聞いてあの白いゴリラとの戦闘を思い出した。そしてオットセイも収まる。
「けどあんな風にしないとやっつけれないと思ったからさ。確かに他にやりようがあったかもしれないけど」
ロウナは巧から抱きしめるのをやめて再び上半身を起こす。
「それでも……怖かったんだよ?」
死闘を繰り広げロウナにも危険が及んでいた。
実際危険であり、あれで巧が死んでいた可能性もあったのだ。
「ごめん……。そう言えばあの魔物は?」
流石に申し訳ないと思ったのか素直に謝る。そしてゴリラのほうへと顔を動かそうとするがゴリラはロウナの後ろにいるのか、見えずにいた。仕方がなかったのでロウナのほうへと顔を戻す。
「あの魔物はタクミが倒したよ? タクミがあの魔物の体内から炎で焼かれて動かなくなったよ」
「そうか、倒せたのか、良かった」
巧は倒せると確信していたものの、一抹の不安はあったのだ。
だがロウナの言葉を聞いて改めて勝ったと実感する。
「どうしてタクミはあの魔物から攻撃を受けて平気だったの? それに空中での移動ができたの?」
「ああ、あれは攻撃受ける前に自分だけの防御魔法をしてダメージを軽減、それに移動は風魔法だよ。風魔法で俺の体にぶつけて強制移動した。負荷はきついけど、最初にヒントになったのはあの魔物と魔法がぶつかって水蒸気が発生したあと俺に風の魔法の圧力がかかった時にね。その前にあの魔物が空中移動したのも風魔法だったってわけ。対峙しなければこの発想は思いつかなかったよ、流石知恵のある魔物と言うべきか」
ちなみに巧が加速したのも、高く飛び上がれたのも風魔法のおかげである。
普段の巧からしたら、あんな動きは無理なのだ。
「タクミって小さいのにあんな事できて本当すごいね」
ロウナ微笑み巧の頬に手を再び置き、目を閉じる。そして顔を近づけようとしてきたのだ。巧は瞬時に何をされるのかを理解して手を上げロウナの口を塞ぐ。
(流石に恋人がいるだろうにこれはまずい)
「タクミ……嫌なの?」
巧の手から離れる。ロウナは巧に拒否されたのがショックなのか悲しそうな顔をする。ロウナはまだ仲間が生きているのは知らないからだ。
「嫌じゃないけど、もしするとしても先に確認したい事があってね。ロウナって恋人いるの?」
「え?」
巧が急に言うのだ、ロウナは顔を赤くする。
「いる……いたって言うのかな……」
「もしかしてそれは、連れ去られた人の中にいる?」
「え? ……うん、けどもうだめなのかもしれないね……まだ生きているとは思いたいけど死んでいるのかもしれない。それはわからない気持ちがあったからこの森に探索しにきたの」
悲しい顔になる。
「そか、大事な仲間。恋人だもんね。安心していいよ。恋人と仲間は生きてるから」
「ほん……とう? 本当に? 生きてるの?」
信じられないと思うロウナ、仕方がない事だった。
巧にしか聞こえていないゴリラの会話であり、ロウナがわかるはずなかった。
「うん、あの魔物との会話で言っていたからね」
そう言うと笑う巧。それから巧は起き上がり絶命したゴリラのほうへと近づく。ゴリラは熱さからか白目を向き、口から舌が垂れ、うつ伏せで暴れるような仕草で死んでいた。相当もがき苦しんだのだろう、なにせ体内から焼かれたのだ、尋常じゃないほど熱いと想像される。
(これに俺は勝ったのか……)
そう感じゴリラの体毛の一部を触ってみる。
そしたら毛は簡単に抜け一部円形脱毛症みたいな十円禿げができた。
「あ……南無南無」
準備はできただろうか、巧はMPポーションを大量に飲みMPを回復させロウナも胸当てを装備し剣を持ち仲間を探す旅に再び出発する。
歩いているとどこか巧が後ろから視線を感じるのがわかる。ロウナは巧の背中を見ていた。
(あー、まああれだな。吊り橋効果ってやつか。あの状態は流石に危険すぎたから効果が大きいのかな? 早く見つけよう)
巧は探知スキルを発動している。半径はそこまで広くはないが何かが動く程度なら探知できるほどになっていた。近くなら相手がどのように動くか把握できるようになっていた。
(何気に強くなったのが実感できるってやっぱ良いな、前までこんな事できなかったのにな………って、ん?)
巧は横を見てみると洞窟があるのを発見する。その洞窟から人の気配を探知する。周りには魔物がいない事も確認、あの魔物はここのボスだっただろうかここまで歩いても一向に魔物が現れていなかったからだ。
「ロウナ、あの洞窟に人の気配を感じた。行ってみよう」
「うん」
洞窟の中に入る巧とロウナ、中は暗くロウナは壁に手をつき歩いている。
「明るくなるものはない?」
ロウナは首を横に振る。
(暗いか……)
巧は闇目と言うスキルがあったので暗くても周りが見えていた。
(何かないか……あ!)
光石の事を思い出していた。光石ぐらいの光ならこの洞窟を照らすぐらい楽だろうと手の平を上に思い巧は思い浮かべる。
(光石……光……明るい……お!)
目を瞑っていても明るくなったのがわかる。
目を開けてみると手の平の上から大きさは小さいが光が出てきたのだ。
「きゃあ! 何で急に明るくなったの?」
巧は後を振り返りロウナを見てみると、ロウナは壁に手をついておらず急に明るくなったからか目を抑えていた。次第に光に慣れたのかロウナは抑えていた手を離す。
「全くタクミには驚かされっぱなしよ」
「俺もできるとは思わなかったよ」
「え? これもしかして今できたの?」
「そう、まあできるかもって感じだったのはあったけど。まあとりあえず行こうか」
ロウナはしょうがないなと溜息を付き歩き出す。少し奥に行くと二人の男女が倒れていた。ロウナはその二人が誰だか見覚えがあり急いで近づく。
「イルベル! エル!」
巧も続いてロウナのあとを追い二人に近づく。
(うわぁ、痛そう……)
イルベルとエルは動けなくされていたのか、手足を折られどれも通常ではありえない方向へと曲がっていた。
「まだ生きてる。待っててすぐポーションを飲ませてあげるから!」
インベントリから赤ポーションを取り出しイルベルとエルに飲ませるロウナ。
赤ポーションは次第に効果が表れたのか、二人の手足が通常の状態に戻ったのを確認するとロウナと巧はホッとする。
「でも何でここに」
「多分ここってあの魔物の住み家じゃないかな? だってそこに藁や物が溢れ返ってるし」
巧が指を指した方向にロウナは顔を向けると、ゴリラが戦った所持者達の装備が溢れ返っていた。本来なら死体とかあってもおかしくないはずなのだが、あのゴリラ達は人間をどこかへ捨てたのか食べたのだろう。
「こんなに……」
ロウナは悲しい顔をして顔を背けた。
暫くするとイルベルは気が付いたのか目を覚ます。
「ここは…………ロウナ……? ロウナなのか! 何でここにいる! そうだ、あいつは! あの魔物はどこだ!」
「落ち着いて、あの魔物はもういないわ。タクミが倒したの」
イルベルは巧の方を見る。
「この少年がまさか……いやありがとう、助かったよ。感謝する」
イルベルは巧に感謝の気持ちを込め立ち上がると握手した。
暫くしてエルも起きだすが、起きたとたん恐怖からか叫ぶ。
流石にあんな目にあって恐怖がないと言われたら疑問に残るはずだ、だがイルベルは精神的に強いのかエルほどは取り乱してはいなかった。
「落ち着いたかな?」
「ええ、タクミありがとう。本当ありがとう」
エルは肩を震わせ涙を流していた。そんなエルにロウナは抱きしめる。
(まあ大丈夫だろ。そういや時間は何時だろ?)
時間を確認すると18:32と表示されていた。
外を見に行こうとしても暗くなっているだろうなと予想できる。
「あー、もう外は日が落ちてると思うけど、どうするの?」
「そうか、ならここで寝て明日の朝出発して街に戻ろうか」
巧はコクリと頷く。
ロウナはインベントリから木の棒や食料をとりだした。
巧の出している光はただ空中に浮かべている水と違って維持するのに消費があるので火をおこす。
洞窟内での簡易キャンプみたいな感じになる。料理はとても美味しく巧は家族と共に外で食べたカップラーメンの味を思い出していた。
(やっぱ外食は美味しいな)
それが簡素なものであったとしてもだ。
食事が終え、巧達はゴリラ達が狩った冒険者の遺品を見回っていた。
「こりゃすごいな、一級品まであるぞ。あのゴリラどんだけ貯めこんでんだよ」
遺品の山、つまりそれは宝の山にも等しい。
「この遺品どうすんの?」
「タクミは知らないのか? 遺品は冒険者の物にしてもいいんだぞ。窃盗の犯罪歴もつかないし」
巧はロウナとエルにも確認すると同じように頷いていた。
実際そう言ったケースは事例は多々あるとのこと。
冒険者はいつ死んでもおかしくないので仮に死んで、次に発見した冒険者が死んだ冒険者の装備を剥ぎ取っても罪に問われない。ただし強盗などは門番のあの棒やギルド受付で確認する時にばれて終わりなのだが。
「それで巧はどれにするんだ?」
「俺も貰っていいのか」
「ああ、お前が一番功績を立ててるからな。好きなのをもってけ」
(好きなのと言われてもなあ)
急に言われるとどれを貰っていいのか迷う巧である。
「なら……インベントリに状態異常防ぐ物と杖と今のローブより良いのあれば欲しいな」
各自探してくれているとそれぞれ発見する。
装備してステータス画面で調べると。
[防ぐ腕輪]毒耐性大、麻痺耐性大、混乱耐性大、幻影耐性大、洗脳耐性大、誘惑耐性大、腐耐性大、破壊無効。
[ローブ]寒さ耐性大、熱耐性大、完全防水耐性、防音耐性大。
[杖魔祖]魔力上昇中、打撃力少。
特に杖が特殊な形をしていた。全体的に捻じれており中央に石が取り込まれ、先には槍のような金属がつけられ。実際に槍としても機能し、不快感はく軽い。
(何ともまあすごいな)
「中々高価そうな物を選んだな、俺はこの剣と鎧と盾とインベントリだな。やっぱ剣士はこうでなくっちゃ」
「私はこの弓とブレスレットとインベントリかな。矢は全て折れていたから修復も無理だし巻物も数点欲しいかも」
「私もこの剣が欲しいなあと残りは入れれるだけ入れよう」
運が良かったのはインベントリがそこそこあったからである。それぞれ欲しい物を決め残りは各自のインベントリに入れた。入らないものは置いておくことにした。
あれから巧達は雑談なども交え時間を過ごす。
「そういやイルベル、お前ロウナとエルの事どう思ってるんだ?」
「ぶっ! な、なに言ってんだよ急にお前は」
「いやな、エルに関してはこう二人っきりでいるだろ。しかもあの強い魔物だ、死ぬかもしれない。お互いに何かが芽生えるかもしれないってさ。ロウナはお前の事をかなり心配してたんだぞ?」
「そうか……ロウナは確かに心配かけさせちまってな。あいつには精神的にも負担になっただろうし悪いとおもってる勿論あいつの事が好きだ」
「そか、んでエルは?」
「あ、ああ。エルか、確かにこの状況だ。もういつ死んでもおかしくなかったからな。仲間を守らなければと思っていたが、やっぱりそれでも俺はロウナが好きさ」
(脈はないのか? とりあえずエルにも聞いてみるか)
「エル、ちょっといいか? すまないがエルかりるぞ。それとロウナイルベルと話してやれよ相手されてないからって少し落ち込んでたぞ」
エルの近くに行った巧はロウナを遠ざけるようにしてエルに話しかける。
「どうしたの?」
「エルってさイルベルの事どう思ってるの?」
「え? きゅ、急にどうしたの?」
(反応有りか)
「いやな、この状態だしどうなのかなって。それにイルベルはお前の事を守ったって聞いてるぞ? もしかしたらもしかしてって思ってさ。それに俺は一緒にロウナと少しだけだが旅したし」
ロウナは恋人であるイルベルとその仲間が生きている事を信じ、片腕を失っても危険を顧みず森の奥へと足を運んでいるのだ。そんな巧はロウナがどれだけ思っていたのか知っている。
そして、第三者からしてこの関係がどうなるのかが気になったのが本音である。巧は関わるより遠目で見るほうが好きな性格なのだ。
直接かかわらなければ見ていて楽しい、昼ドラでもそうだが二人三人の間が交差する所そんなのを見るのが巧は楽しかったりする。
そんな巧の思想を知ってか知らずかエルは黙ってしまった。
「そうね、私はアーリーが死んで悲しくなって自暴自棄になっていたかも。けどここに連れてこられてもう死ぬかもしれない、そんな思いをしてそれもいいかなって。けど、あの人は励まし、あの魔物の攻撃から私を守った…………。そんな私はあの人が好きかもしれない。けどロウナには悪いって罪悪感はあるから裏切れないけど……」
危険の中から守ってくれた人、そんな事を考えているうちに好きになったのだ。
(なるほど、やっぱ吊り橋効果ってすげえな。これで三角関係ができあがりか、今後どうなるかはちょっと楽しみだったりするな)
「そか、まあ頑張って」
「ん、ありがとうね」
そう言ったのちエルはイルベルとロウナの元へ行くのを見守る巧であった。
そして夜は更けていく。
今回は巧の性格を悪くさせてみました。前回があんなふうだったからね
風魔法に関してですが大分前の話に何気にヒントになってたりしてました。