交流
会話パートは長くなります。
気が付くとベッドの上で寝ていた。
「いつの間に宿に帰っていたんだろ?」
「お、気が付いたかいタクミ君。森の中で白い魔物と対決していたらしいが助けてくれた連中は少年が危うい所を『黒鉄の刃』のパーティーが助けてここまで運んでくれたんだぞ? 回復薬を飲ませても何故か回復遅かったらしいから、ここまで連れてきて私のほうで回復魔法を使ったよ。生活するにも支障はきたさないはずだ。彼等に感謝しとけよ少年」
巧は起き上がり、喋ってきた人物に視線を向けた。
話しかけてきた人物は、神父のような恰好をしている。巧は一瞬コスプレを想像したが流石に違うと判断し、周りを見渡すとベッドが複数置いており、その上に怪我人がいたので治療室と判断できた。
「助かったよ。何で俺の名前知ってるの?」
「ああ、悪かった。治療する人の名前を知らないと大変だからね。ギルドのほうへ連絡して名前を確認させてもらったのさ。私はアヴィリアル・マデスティルよろしくね」
「よろしく。そういや黒鉄の刃って?」
「結構、名が売れている★六つのパーティメンバーなのに知らないのかい?」
「三日前ぐらいにルビアリタの街に来たばかりだからね、そう言うのはよくわからないや」
「なら仕方がないか、けど今度会えたらちゃんとお礼言っとくんだよ。バックパックはそこの床にローブはそっちにかけてあるから」
そう言い神父は巧から離れ別患者の治療に向かう。
折れた腕を確認してみると、痛みは感じなく指も動く。
「回復魔法ってすげえ、現実世界にあれば病院いらなくなるな」
巧はステータスに回復魔法が載っていたのを思い出し、ステータスを表示させると、取得スキルには聞き耳と防御の項目が増えていた。
「あ!」
ステータス画面を見ていた巧に声がかかる。
声がしたほうに視線を向けるが、ステータス画面の背景が邪魔をしていた。手の動作で画面を動かすと、声をかけた女性はゴブリン亭の裏井戸であった人物だと判明する。
「起きたんだね、ここに黒鉄の刃の人達が君を担ぎ込んできたから見たときはびっくりしたわよ」
「君もここにいるって事はどこか怪我をしたの?」
「うん、白い魔物と交戦中に腕をね……」
女性は右手で失われていない部分の左腕を掴んでいた。
その表情はとても悔しそうにしている。
「白い魔物って、もしかしてあの白いゴリラの事?」
「え! もしかして会ったの? 戦ったの?」
心配するように顔を近づけてくる。ステータス画面が邪魔で払おうとしても女性の胸に当たる箇所にあるので流石に無理だと判断し、ステータス画面を閉じろと念じたら閉じる事に成功。
そして開いた場所には巧から女性の胸元がしっかり見える事にも成功した。
「ふう……うん、会って戦ったよ。流石にあれは逃げられないと思ったからね。けど危うくなった所に黒鉄の刃のメンバーが助けにきてくれたから一命を取り留めたけど」
「良かったね。私何て仲間がやられてるのに何もできなくて、私を逃がす為に仲間が……うう……」
言いかけたとき、女性は涙を溜めて泣きそうになっていた。
「言いたくないなら言わなくていいよ。辛いだけだろうしそれに命あっての物種だろ?」
「ぐす……ありがとう」
女性は指で涙をぬぐう。
「そういや自己紹介してなかったね。俺は山内巧、巧とでも呼んでくれていいよ」
「私はロウナベル・シュレティステア。皆からはロウナって呼ばれているよ」
お互い自己紹介を終え、ふと外が騒がしくなってるのがわかる。
巧とロウナは窓から見ると人々が移動していた。
「何だろ?」
「二人とも朗報です。黒鉄の刃のメンバーが白い魔物を討伐しに帰ってきたらしいんです」
ロウナと巧はお互いの顔を見た。
その後ロウナはアヴィリアルに詰め寄る。
「それは本当なんですか!?」
「ええ、本当ですよ。先ほど外を見てみたらあのメンバーが歩いており、白い魔物を乗せた荷馬車をひいていたので間違いないかと」
ロウナは慌てて外に飛び出す。
「治療の代金は戻ってから払います」
そう言い残し、巧もローブを羽織りロウナのあとに続いた。
外に出ると人々が集まり白い魔物を一目見ようとごった返していた。
「ロウナはどこだ」
周りを見てもロウナは居なく、黒鉄の刃パーティーの所に行ってると判断した巧は人込みの中心へと人込みを掻き分け進む。やがて荷馬車が見えて黒鉄の刃のメンバーとロウナが話しているのを発見する。
「あ、気が付いたんだね」
黒鉄の刃の一人が巧に気が付き話しかけてきた。
「うん、お陰様で助かったよ。しかしすごいな、この魔物を退治するなんて」
荷馬車に乗せられている魔物、白いゴリラは全身傷だらけや矢も受けていたのか巧が空けた穴にも矢が刺さっていた。他メンバーを見渡すと全員微妙な顔をする。
その原因がロウナであった。
ロウナは顔は泣きそうな顔をして気を落としている。
「ロウナどうしたの?」
「この魔物を退治してから辺りを見回していたけど、私の仲間が見つかっていないって言われたの……もう殺されたんじゃないかって」
「そか、だけどもしかしたら生き残ってるかもしれないよ? 運よくこの魔物から逃げられてたりするかもしれないしさ」
巧はどう言えばいいのかわからなかったが、建前だろうが希望を持たせる言い方をしてロウナを元気付けた。
「そう……そうよね、私が落ち込んでたら何もならないし」
その言葉を聞いた黒鉄の刃のメンバーは笑顔になる。
「そろそろ行くわ。こいつをギルド長に報告しなくちゃいけないし」
「ああ、止めてしまって悪かったな。けど改めてお礼言わせてもらうよ、ありがとう」
「良いってことよ、流石に少年にはあれは荷が重すぎるしな。それにあの大量のゴブリンの耳をギルドに渡すんだろ? 乗ってくかい?」
「いや、良いよ。ヒーロー達に交じって俺がいるのもおかしいわけだし、あとでギルドに行くよ」
「そか、それじゃまた後でな少年」
黒鉄の刃のメンバーはギルドへ向かうため荷馬車を動かし始めた。荷馬車は遠くまで行ったのち見えなくなる。
「さて、バックパック取りに戻らないと。ロウナはどうするの?」
「私はもう一度森へ行ってみるね、仲間があの魔物が倒されたの知らないかもしれないし」
「そか、結構時間経ってるし日没も近いかもしれないから気を付けてね」
空はまだ明るいが、巧が言っていることも間違ってはいなかった。巧は心配したが本人が行くと言ってるのだ、止められるわけがなかった。巧はロウナを見送り治療室に戻る。
「ありがとう、これ代金です」
「確かに受け取りました。このあとギルドに行くんですか?」
「そう、このゴブリンの耳を届けないと」
大量に入ったゴブリンの耳はバックパックを膨らましていた。
「そうですか、では私はこれで。もし次も怪我や病気をしたときはここに来れば治療しますので、安くしときますよ」
守銭奴だと思われたが、治療師が少ないからかこの建物の経営はそれで成り立っていた。バックパックを背負い出ていく。
ギルドに行く途中巧は時計を見ようとしたが腕時計は壊れているのに気づく。
あの戦闘で壊れてしまったためか、時計の中はめちゃめちゃになっており、時間を計る事もできないのだ。巧は悩んだあげく一つ案を試す。
(時計……時間……分……秒……)
そう、現在の時刻を魔法で作り知ろうとしていた。気怠さを感じた巧は成功したかと思い目を開ける。
いくら探しても目の前に時計はなく諦め、ステータス画面を確認すると上のほうに現在の時刻が表示されていたのを発見した。
思わず吹き出しそうになった所を抑え、巧は時計の時刻を見る。
15:20、時間と分が表示されてるのだと理解する。
(秒はないが、それにこれを動かすことは……無理か)
ステータス画面にある固定された時計。何度押しても動かすこともできない。諦めてギルドのほうへと向かう事にした。
――――冒険者ギルドの一室のソファーにて、ギルド長のウエルトロスと黒鉄の刃のメンバーが座っていた。
「それで黒鉄の刃のリーダーであるウエインホークハルト君、あの魔物の事をどう思いますか?」
「ウエインでいいですよ。まあそうですね、他の魔物と同じだとは思うのですがどこかしら……非常に”頭が良く賢かった”、と言うべきでしょうか」
「賢かったとは?」
「色は違えどあの魔物は過去にも戦った事あるのですが、前と違って物や魔法を使ってきました」
「物や魔法何て他の魔物も使うのでは?」
「確かに仰る通り、他の魔物も使います。しかしあの魔物は、魔法による牽制と誘導、物による投擲、あの素手での異常な攻撃力はどれをとっても上手く、私達も危うかったです。MPの使い過ぎだからか多少鈍っていたのか動きが悪かったのが俺達にとっては運が良かったですね」
「なるほど……他に何かあるかね」
「異常なほどの叫び……俺達の喋ってる内容を理解してるかのような。それとも仲間に合図を送っていたか……」
「人間の言葉を理解する魔物か、そしたら厄介だな。魔物が人間の言葉を理解していれば下手したら筒抜けにされるわけか、逆にこっちは相手を理解できない……か。わかった、貴重な情報を感謝する。他に何かあればいいがなければ下で精算してきてくれ」
「はい、それでは失礼します」
ウエインはソファーから立ち上がり部屋を出た。
「はあ、全くめんどうな魔物も出始めたな」
――――ギルドに到着した巧。中に入ると数人の受付嬢と冒険者達が屯っている。その冒険者の中には黒鉄の刃のメンバーもいた。
「よう少年、腕の調子はどうだ?」
近づいてきた男、鑑定してみると
名前:ウエインホークハルト・ツエリエルト
年齢:23歳
性別:男
レベル:40
状態:なし
なんと、あのウオルレットよりも高い。
「問題ないかな」
「そうか、そのバックパック大きいな台の上にあげるの手伝ってやろうか?」
(まあ置くだけなら俺でもできるが手伝ってくれるなら厚意に甘えるかな)
「重いな、相変わらずどれだけ入ってるんだよ」
ウエインはバックパックを持ち上げると台の上に置いた。
「それでは受け付けた羊皮紙とドッグタグを出してください」
羊皮紙とドッグタグを渡す。
それを確認したのちにバックパックの中身を確認している。
「多いですね……どれだけ狩っていたんでしょうか?」
人族の美人のお姉さんが受付をしている。
お姉さんは困った顔をしていた。
「えと、森に入って数時間ぐらいかな? 兎に角沢山狩っても問題ないらしかったから狩れるだけ狩ってみたよ。流石に俺も多いだろうなとは思ったけどね」
少し笑ってみた、流石に真顔で言うのはまずいだろうなと巧は考えたからである。
「わかりました、では少し調べますので少々お待ち下さい」
(申し訳ない事をしたな)
暫くして精算が終わったのかお姉さんは巧を呼び、巧は受付前に行く。
「数は百六十六匹なので白銀貨八枚に銀貨三枚です。このランクなら普通稼げても、もっと少ないはずなんですけどね」
(銅貨だと六百八十枚か、すげえ儲かったな。それでも金貨には届かないのか)
硬貨を受け取り財布である袋の中へ入れる。
「よし、今日はぱーっと祝おう! 少年の驕りな」
ウエインは巧の肩に手をかける。巧は困惑したが、助けてもらった恩もあるので断る事ができなかった。
「ちょっとリーダー! この子困ってるじゃないですか、絡むのやめてあげましょうよ」
「そうっすよ、リーダーは勝手すぎるっすよ」
この黒鉄の刃のメンバーである大きな盾をもった男と背中に弓を担いでる背の低い弓使いが止める。
「いいじゃないか、ならシルが驕ってくれるか? 背が少年と同じだからか」
煽るリーダー。
「なっ! 背は関係ないでしょ!」
怒るチビ。
「まあまあここは落ち着いて」
四十代ぐらいの中間管理職ぽい風貌で背中には斧を持っている男が止めに入る。
「そうだよ落ち着こう、まあ驕るぐらいなら別にいいから。今回助けてもらったのは確かだしね」
「よっしゃ! それじゃ行こう行こう。どこ行こうか」
「それならゴブリン亭でいい?」
「おお、いいぞ。酒飲もう飯食おう!」
黒鉄の刃のメンバーと共にギルドを出てゴブリン亭へと向かうのであった。
黒鉄の刃のメンバーとの飲み会ですがまたいつか執筆できればなと思っています。
この日はこれにて終了です。