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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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エピローグ


 一台の荷馬車が森林街道を走らせていた。

 馭者ぎょしゃの男は陽気に鼻歌を歌いながら、荷馬車に乗っている二人にいった。


「今日の収穫は大量だったな。ルチエル、サラン」


 荷台には少年と少女が居座っていた。


「ああ、あんな辺境な場所で誰もまだ手を付けていないのはラッキーだぜ」


 呆れたように少女はため息をつく。


「全く、サランがあんな所でもたついていたから、もう少し探索できたかもしれないのよ」

「ルチエルはうるさいな。あそこで俺が隠れ場所を見つけてなければ、今頃全員魔物の餌になってたかもしれないんだぞ。それにお前だって隠れながらビビってたじゃないか」

「なによ。あの時はただの武者震いよ。魔物が来た所で私にかかれば簡単に追い払うんだから」

「はっ、どうだかねー」

「なによ!」

「やるかー!」


 ルチエルとサランは互いに剣幕を張り睨み合う。


「こらこら二人ともこんな所で喧嘩するのはやめなさい。命あっての物種なんだからまた次回に回せばいいじゃないか」

「だってバラル。って、何あれ……止めて止めてっ!」


 バラルは慌てて手綱を引っ張り、馬を止まらせる。

 火柱が空まで舞うとすぐに消えた。

 何が起きたのか三人ともに理解が出来ずにいた。

 三人は降りると、警戒するように動く。

 火柱が立ち上った場所まで着くと、そこに一人の人間が倒れているのを発見する。

 見た目はルチエルとサランと変わらないぐらいの少年と思わしき人間。

 怪我もない、綺麗な身体。ただおかしい点とすれば少年が何故か全裸である事だけであった。


「何だ何だ? 全裸じゃないか」

「キャっ!」

「二人ともここにいるんだ」


 警戒しながらもバラルは全裸の少年に近づくと、腰に装着していた袋から五センチほどの丸みのある石を少年へと付けると反応を伺うように見守る。

 石は反応せずホッとすると、バラルは少年を仰向けに起こすと口に手を置き息を確認した。

 呼吸をするように動き、腕に指を置き脈拍を確認する。


「生きてるな。あの火柱はここで起きたよな。それにこの子はどうしてこんな所に」


 周囲を見回すと、焦げ跡が残り未だ小さいながらも火の粉は残っていた。

 何があったのかを聞く前に、バラルは袋をから布を取り出し少年を包むと持ち上げた。

 数時間が経ち、少年は目を覚ますと呆けながらも空を見上げた。

 満天の星空が広がり輝きをみせる。夜だろうという事がわかるが、少年の目から見て妙な明るさが視界に広がる。

 周囲を見回すと少年の近くには焚火があり、焚火を囲うようにルチエル、サラン、バラルが座って談笑をしていた。


「お、起きたじゃん」


 サランに反応するようにルチエルとバラルも少年を見た。


「大丈夫?」

「起きたか。全く、あんたみたいな子供があんな所で倒れてたら魔物に襲われちまうぞ」


 少年は上半身を起こすと、寒気を感じ自身の身体を見ると布切れ一枚羽織っているだけで全裸であった。

 慌ててティにかけてあった布で隠す。


「すまない、本当は服を着せたかったがあまりにも怪しいものでな。いくつか聞きたい事があるがいいか?」


 バラルが問いただすと少年はコクリと頷く。


「お前さんどうしてあんな所で倒れてたんだ?」

「……?」

「どこかから逃げ出してきたのか?」

「わからない……」

「ならあの火柱は何だ。火柱が立ったあと行ってみたらお前さんが倒れていたし」

「わからない……」

「何も思い出せないのか? なら名前は?」

「…………っ!」


 思い出そうとするとひどい頭痛が生じ、少年は思わず頭を抱える。


「もういいもういい、そこまで無理に思い出さなくていいから」

「そうだ……()()……って呼んだ気がする」

「ティ、ティか。ならティ、お前さん行くあてもないなら俺達と一緒に来るか?」


 差し出されたバラルの手を見つめ、ティは困惑した。


「バラル良いのかよ」

「なに、どうせ子供の一人や二人増えた所で変わらん。それにお前たちだって似たような境遇だっただろ」

「そうね。見た感じ私達と同じぐらいだし一緒に来ればサランの言動は落ち着くでしょうしね」

「俺よりも子供なルチエルに言われてもねー」

「あら、少なからずサランよりもマシですけど」


 ルチエルとサランの取っ組み合いの喧嘩が始まった。

 二人を止めるバラル。

 そんな三人をティは笑うと、三人も馬鹿らしくなったのか笑う。

 信用しても大丈夫そうな人物、そうティは思った。


「ルチエル、サラン、バラル。よろしくお願いします」


 再度、差し出された手をティは握り返す。

 一夜を過ぎ朝日が昇り周囲が明るくなる。

 荷支度を終え、ティはボロ切れではあるが衣服や靴を貰い身にまとう。

 ルチエル、サランに呼ばれティは荷馬車に乗りこむと、四人を乗せた荷馬車は動き出す。

 ティは空を見上げた。雲一つない澄み渡る青空。

 突き抜ける風がティの頬を撫で不安を遠ざける。

 何も思い出せない記憶。そう自分が何者だったのかを思い出すには良いかなと。


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