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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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逃亡による代償


 テルヌス兵の間隙を縫って進み、テルヌス帝国もベルチェスティア王国さえも手の届かない場所へと逃げるよう馬を走らせていた。

 どれぐらい時間が経ったのだろうか、そう考えながら巧は後方を確認する。

 テルヌス兵は勿論の事、魔物さえ見つける事ができない。

 いや、見つけても近づく事さえ到底不可能であった。

 上を見上げると、青白く輝く光。リウスの創った竜であった。


「リウス、あれを分散する事は無理か?」


 リウスは苦しそうに胸を抑えつつ息を切らしながら首を横に振る。


「んっ……ごめん……なさい。何度か試してるけど、無理そう……」

「分かった。すまないな、これでも飲んで休んでくれ」


 巧は魔法水をリウスに飲ませると、リウスは落ち着いたように呼吸を整えた。

 未だに巧達の後を追うように飛行し、時折巧達の前後左右へと動くが、基本は後ろへとと飛んでいた。

 そのつどリウスは苦しそうに唸る。

 ある疑念が巧の脳内を駆け巡り始める。


「止まるぞ」


 馬を止め、緊迫した表情で巧は空に飛んでいる竜炎を見つめ続けた。

 ウエインも釣られるように竜炎を見上げる。

 優雅に空を飛び、巧達の周りを旋回する。


「どうしたんだよ。確かにあれは目立つけど、早く逃げないと追手が来るぞ」

「なあ、疑問なんだが。魔法って使い続けるとどうなるんだ?」

「魔法? 俺よりもお前のほうが知ってるんじゃないのか?」

「いいから答えてくれ」

「あ、ああ。そうだな、俺は使えないが話によれば、魔力切れが近くなると貧血のように意識が朦朧、頭痛眩暈とかの症状が起きて、仕舞いにはに意識は失うと聞くな」

「ならそれ以上は?」

「それ以上は流石にわからないな。大抵魔力切れと共に魔法は消失するだろうし」

「それが本当ならまずいな」

「どうしてだ?」

「あの竜炎、リウスが創り出した魔法だ。つまりは今尚リウスの魔力を消費しつつある」

「このままだとリウスちゃんは魔力切れを起こしてしまうって事か」

「ああ、更には無意識化のうちに出した物、制御は効かない。魔力切れ程度で消えてくれたら一番助かるが、もしも……もしもだ、それ以上の事が起きれば……」


 ウエインはハッとした表情で巧を見た。

 眉間に皺を寄せ、竜炎を睨みつけていた。


「最悪“死”だ」


 ウエインはまさかとは思うものの、巧の表情から物語っているせいか黙らざるを得ない。


「呪い子は膨大な魔力があるとはいえ、許容量ってのがある。勿論俺も例外ではないと思う。魔法を使えば魔力を消費する。なら魔法を維持しつつ動かせばその分も消費する事になる」

「あれが出てから今の今までずっとリウスちゃんは魔力消費し続けてたって事なのか?」


 巧は頷いた。馬から降り、収容空間から文字のような刻印が刻まれた長剣を取り出す。


「俺があれを崩す」

「でもどうやって」

「ウエインも見てたと思うが、あれは言わば炎の塊だ。火元から炎は広がりを見せてるから潰せばあれは消えるはずだ」

「だけどあんな巨大などうやって消せば……そうか、水の魔法でなら」


 巧は首を横に振る。


「いや無理だ。あれほどの巨大な炎の塊。ここから水を放っても届く前に蒸発する」

「くそっ! ならどうするんだ。このままだとリウスちゃんがもたない」

「方法はまだあるにはある。それは俺があの中に飛び込んで直接消す」

「あの中って……」


 ウエインは思わず言葉を失う。

 巨大な炎の塊、飛び込むことはつまり自殺と同義。

 


「心配してくれてありがとう。けど大丈夫さ。俺はどれだけ焼かれようが再生する力がある。俺があれを対処するまでの間ウエインはリウスを任せたい」


 それ以上は何も言えない、ウエインには巧を信じる他ならなかった。


「ああ、気を付けてくれ」


 動こうとした矢先、ローブを引っ張られ巧は振り返る。

 掴んでいたのはリウスだった。

 その表情からは今にも泣きそうで巧に訴えていた。


「リウス、悪いが放してくれないか?」

「いやっ! だって放したら巧がいなくなる気がするんだもん! せっかく巧と一緒になれたのに、私も一緒に戦う。シロさんや他の皆の分まで戦う!」


 道中、巧はシロやハリトラスやルベスサの情報は一切漏らしていない。

 この場にいない状況。更には巧がシロの剣を持っていたことに対してシロがどうなったのかを安易に予想は出来ていた。

 巧はリウスの手を掴む。


「リウス悪いな。大丈夫、俺は死なないし必ずリウスの所に戻るって約束するよ」

「本当?」

「ああ、本当さ。それに前約束したろ? “一緒に旅をする”って」

「うん」

「今度こそ、色んな所へ行って色んな景色を見て、色んな街に行ってさ。思いで作ろう」

「絶対の絶対だよ」

「ああ、約束だ」


 ローブを掴んでいたリウスの指は離れていき、自身に握り拳を作る。

 リウスは意を決するように顔を引き締め叫んだ。


「タクミ!」

「……っ!」


 勢いよく巧に飛び込むリウス。

 互いの唇を交わるように重ねた。

 突如の事で巧は驚くが、リウスは力強く巧を抱きしめ、巧もまた抱きしめ返す。

 そんな二人にウエインは微笑ましくも口笛を吹かした。

 時間にして数十秒といった所だろうか、互いの唇を離し、リウスは顔を紅潮させ巧から離れた。

 全身が熱く感じる。巧自身も紅潮しているのだろうとすぐに分かった。


「タクミ、ここまでさせたんだ。リウスちゃんとの約束は守らないとな」


 ウエインに後押しされるように、巧は頷いた。

 風魔法を使い跳躍し、竜炎に目を向けた。

 振り返らない、振り返ると気持ちが揺らぐことが分かっていたからだ。


「くそっ、熱いな」


 当初の竜炎は顔のみだったが、今巧の目の前にいる竜炎は胴体もついた完全体。

 更には全身の表面が青い炎で揺らめく。

 まだ距離があるとは言え、それでも巧の皮膚からは焼け付く熱さを感じた。

 通常なら一瞬で燃え尽きるほどの高火力となるはずなのだが、供給対象のリウスが近くにいるからか抑えているのだろうと予測する。

 チャンスとばかりに巧は風壁を放つ。


「そんなに動き回ると、リウスの体力がもたねえから一度降りろ」


 強い衝撃音とともに、竜炎は地面に叩きつけられた。

 巧は上空から追撃するよう直接飛来する。

 迎え撃つように口を開け、巧に向け炎を放つ。

 炎は巨大なビームとして放たれるが、巧は寸の所で炎に風魔法を当て無理やり軌道を逸らす。

 だが、炎が近くを通ったため、剣やローブに当たり、破け、身を守る物を剥ぎ取った。

 仮に再び同じ事をされてしまえば例え逸らせたとしても無事では済まないだろう。

 竜炎の口から再び炎が集まり始める。


「このままじゃまた……ん?」


 巧は手に持っている剣を見る。

 炎が直接当たったにも関わらず熱にも溶けず、無傷。考えている余裕はない。

 一か八か、巧は剣を竜炎に向け投擲した。

 剣は竜炎の顔面に突き刺さる。

 暴れ始める竜炎は体内の炎を急激に上昇し始めた。


「させるか!」


 巧はそのまま落下し竜炎の体内へと直接入る。

 ドロリとした感触が巧の全身を包んだと思えば、急激な熱さが頭から指先まで全身に駆け巡り、炎が上がり始めた。

 熱で肌は焼け、次第に皮膚は黒くなるが瞬時に肌は再生し始める。

 だが再び皮膚は焼け、そして再生を繰り替えす。魔力が付きかけてきたからか次第に再生の速度は衰え始めていく。

 口から息をしようものなら体内が焼き尽くされ、激痛が全身を巡り、体内の水分が蒸発していく感覚を味わう。

 一秒でも長く感じさせられた。

 次第に思考が停止し始ようとした。

 意識が途切れ始める巧の耳にどこからか声が届く。

 幻聴か……そう思いつつ巧は視線を動かすと、目を見開いた。

 視線の先にはウエインに止められながらも、リウスが涙を流しながら巧の名を必死に叫びながら向かう姿が見えたからだ。

 そんな光景を見た巧は意識が飛びそうになりながらも一心不乱に手を動かし始めた。

 中核へと向かう。

 どこから炎が生まれ、炎が流れていく方向が巧には手に取るようにわかっていた。

 巧の手は止まると、目の前に色の違う小さな赤い炎の塊が存在していた。

 炎から様々な方向へと流出、竜炎が創られている炎の核であると理解する。

 口元をニヤリと上げると、巧は骨が見え始めている手を伸ばし炎の核を掴む。

 すると、竜炎は暴れ始め突如、空高く舞い上がった。

 全身の色が蒼い炎からオレンジ、そして赤へと変化していく。

 同時に姿形も変化し始めた。

 ドラゴンの姿から、全身が丸まり球体の形へ。

 そして球体は膨張し始め光が放射するように、炎の隙間から漏れ始めた。

 球体を中心に誰しもが目を覆うほどの強烈な閃光と共に巨大な爆発が起きた。


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