表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
141/144

合流


 腕の付け根から生えた血を伸ばし、地面に落ちている自身の腕を拾い上げると切断した部分を無理やり引っ付けた。

 すると、腕は馴染むように切断した部分が結合していく。

 巧は自身の腕を確認するよう動かすと痛みは感じず、自傷した跡も切断面も綺麗に消えていた。

 そんな様子にウエルスは驚愕した。


「な、何で貴方も」

「手前がしていた事を真似ただけ。そんな事よりも早くリウスに命令を解け」


 逃げ惑うテルヌス兵に対しリウスは今尚焼殺し続けている。

 まさに一方的な蹂躙という言葉が似合うほどに。

 巧はウエルスの頭を掴み上げた。

 ウエルスの四肢は細かく切り刻まれ再生は不可能。

 抵抗さえ出来ずになすがままなはずなのだが、何故かウエルスは得体の知れない笑いがこみあげてくる。


「殺すなら殺しなさい。あの子が止まるかもしれないわよ」

「……無理だろ。どうせ手前を殺した所でリウスは止まらない。寧ろ止められない事に対して手前は笑っているんだから。無意味……ならする事は一つ」


 ウエルスを手放すと、巧はリウスに向かい歩き出す。


「貴方の推察は正しいわよ。だけどどうするのかしらね。私を殺さず、あの娘を止めるなんて」

「忘れたのか? 俺の水魔法には相手を正気に戻す事ができるって。それに手前じゃもう俺を止めるすべさえない」

「……ッ! そんな雑魚共放ってヤマウチ・タクミを排除しなさい!」


 命令通りにリウスは炎を放つのを止め、巧へと向き直す。

 手に持っていた杖魔祖を巧に向けると杖先に光が灯し始める。

 少量の光がすぐさま巨大な光へと変貌し、距離が離れていようが光に熱が帯び始めるのを巧は感じた。


「ようやくこっちに狙いを定めたか。リウス聞いてるか、迎えに来た! 杖を下ろすんだ」


 巧の声に対して無反応を決め込む。

 それでも声を大にしながら巧はリウスに近づく。

 愚行にしか見えない行為からか、ウエルスは嘲笑うかのように言った。


「無駄よ。あのお方の施したものは決して解けない。止めるにはあの娘を殺すしかないのよ」


 ウエルスの言葉を無視し、巧はそれでも言葉を放ち歩き続ける。


「覚えているか? 最初に俺と出会ったときの事、気弱で怯えていた。だけど一緒に旅をして戦い、経験を積んだ事で少しずつお前の中に自信を持つようになってきた。途中で自分の事が呪い子だってことを知ってショックを受けただろうが、その気持ちを跳ね除け前向きになった。この戦争が始まる前もお前は自分の言葉ではっきりと助けたいと言ったよな。そんなお前がなんだ。今度は操られた程度で自分の意思を閉じ込める何て。お前の決断した気持ちはその程度だったのか?」


 強烈な金属音のような悲鳴が流れるとともに杖先から放射された。

 当たれば肉の欠片も残らないだろうほどの熱量。

 巨大な炎は巧の真上を通り越し、空の彼方へと消える。

 巧はリウスの表情に変化をとらえる。

 無表情だったリウスの瞳に光が戻り始め口元は震えていた。


「…………ぅ……ち……がう……違う。わ……私は皆を助けたい」


 抗うように震える声でリウスは必死に言葉を放つ。

 そんな様子にウエルスはあり得ないといった表情を向けた。

 足を止めた巧はウエルスに振り返った。


「見たかウエルス。洗脳を受けようが自身で正気を取り戻した。リウスは強い」

「……いいえ、まだよ! リウス、もう全てを焼き払いなさい全力で! 滅し、焼殺し、肉片の一片さえ存在させないように焼き付けなさい。殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺しにしなさいいいいいぃぃぃぃっ!」


 巧は再び振り返ると、リウスは震える手で杖を空に掲げ上げた。

 表情は辛そうにし、自身を止めるのに必死に抵抗していた。

 上空には、炎の塊が現れ強い光を放ちながら色形ともに変化する。

 シルエットからして顔はトカゲ、または蛇の面、頭には二本の角が生え、蛇のように首は長く、大きな胴体に両翼の翼も存在し、手足は丸太のように太く爪は鋭い。

 全体は炎に包まれているが、その姿は空想上のドラゴンそのものであった。


「青い炎だと。あれは……まさか竜炎か? だけど今までの顔のみで身体までは創られていなかったはず。それがどうして」


 未だ苦しそうに抵抗しているリウス。

 巧はリウスに近づくが、邪魔をするかのように巧の目の前に降り立つ。


「タクミ、逃げて……私はタクミをこ、ころ……ダメ、この子の制御が……出来、ない」


 意識は取り戻しているが、まだ完全には支配下から払拭しきれていない様子。

 リウスの意思とは別に竜炎は巧を狙うように炎を吐いた。

 風魔法を使い範囲外へと誘導するが、炎は強力すぎる故に熱で巧は露出している肌が熱く焼けるのを感じた。

 自身の腕に視線を向けると、肌が炎により赤黒く爛れ焼け焦げるが、すぐに元の肌色へと治癒した。

 周囲を見渡すと、竜炎の吐いた炎により地面が赤黒く帯びていた。


「流石にまずいな。すぐに逃れれば問題ないが、それだとリウスは助け出せない」


 今尚竜炎を制御するため、抑えようと必死になっている。

 苦労を無に帰すような真似は巧にはなかった。

 何より目の前に目的(リウス)がいるのだから、障害(竜炎)を排除するよう模索する必要性があった。

 考える暇も与えず、竜炎は両翼を羽ばたかせ空を舞う。

 見下ろすように巧を見入る竜炎。

 口を大きく開け、炎の塊が広がっていくのが見えた。


「まさか……、くそっ!」


 焦りの中、水の防壁を広範囲に張る。

 吐き出した炎は水とぶつかり蒸発音とともに、水蒸気が辺り一面濃い霧状のように広がりをみせた。

 視界を奪われ、巧の姿を見失うと竜炎は上空から探す。

 霧状の中に人型のシルエットが浮かび上がり、発見すると竜炎は炎の塊を放つ。

 すると、次々と現れる人型のシルエット。翻弄されるよう、そのつど炎を吐き続け焼却していく。

 霧が次第に晴れ、辺り一面の地面は抉れていた。

 その中で未だ逃げているシルエットの正体が現れる。水人形であった。

 竜炎は再び巧を探そうとするが、急に大人しくなり始めた。


「もうこれで暴れる事はないだろ。リウス」


 リウスは杖魔祖を竜炎に向け、隣には嬉しそうな表情で巧を見上げるリウスの姿がいた。

 リウスは正気に戻り、解放されたからか顔色も優れていた。

 杖魔祖を下ろすと嬉しそうに巧抱き着き顔を埋める。

 巧はリウスの頭を撫でた。

 リウスは一瞬ビクっと身を震わすが、スイッチとなったのだろうがすすり泣き始める。

 想いが込み上げてきたのだろうか、囚われていた不安もあるだろうか。完全に支配から解き放たれた事に対する安心と、何より巧との再会に安堵によるものが大きいのだろう。

 いつまでもこうしていたい所だが、そうもいっていられなかった。


「リウス、悪いが逃げるぞ」


 リウスは巧の胸から離れ顔を上げると、目元が赤く腫れあがっていた。

 コクリと頭を頷くと、走ろうとするが、足に力が入らずリウスはこけそうになる。

 巧との攻防による魔力の消耗や洗脳の解除の負荷が相当きてたのだろう。

 リウスをお姫様抱っこをし、巧は走った。


「リウス、どこかの街に着いたらまずは飯だな。体重が軽い」

「む~。女性に対してその発言は失礼だよ」


 頬を膨らましながら巧の胸を数度叩く。

 巧は周囲を見渡すと生存している馬を発見する。

 勿論その近くには兵士がいたが、巧との戦闘をみていたからか思わず尻込む。

 無視をするとリウスを馬の背中に乗せた後、巧も馬に乗り駆けだした。


「ひどい……」


 思わずリウスは呟く。

 リウスや竜炎によって焼かれたテルヌス兵の数は見るも無残な状態。

 辛うじて生きている兵士全員が全員戦意を喪失し、もう巧達に挑む者は皆無と言っていいだろう。

 逆に巧にとってまたとないチャンスであった。


「気にするな。どうであれ戦争に参加した以上、こうなっても仕方がない。行くぞ」


 テルヌス兵を横目に馬を走らせた。

 巧はウエルスのいた場所に視線を向けるが、ウエルスの姿は跡形もなく消えていた。

 竜炎の攻撃に巻き込まれたかもしれない。


「まああの中で回避するのも難しいか」

「どうしたの?」

「いや何でもない。それより……」


 一頭の馬を走らせながら近づく者がいた。

 この惨劇の中未だに巧達に勝負を挑む者がいるとしたら厄介。

 巧は警戒するが、すぐに誰か判明すると警戒を解く。


「ウエイン、無事だったんだな」


 合流するとウエインは巧の背中を叩いた。


「タクミ、遂にリウスちゃんを取り戻したな」

「ああ、この通り無事だ。それよりも、あれ……いやあの魔物達はどうした?」

「あれか? 数は多かったが、全部倒したぜ」


 何か口を開こうとするが、口をつぐみ黙る。

 不思議に思うウエインだが、あえて聞かない事にした。


「リウスちゃん、顔色優れないようだが大丈夫か?」


 巧はリウスの顔を覗き見た。

 ウエインのいう通り、リウスは少し息を切らし苦しそうであった。

 洗脳の影響がまだ残っているかもしれない。一刻も早くどこか休息しなければならないと判断する。


「ああ、そうだな。とりあえずはこの場から離れるぞ。それにあれがついてきてるのに気になる」


 巧は上空を見上げた。

 空には一匹の蒼い炎に身を包まれた竜炎が飛行していた。

 何もせず、ただ単に巧達の動向を観察し追跡しているだけであった。

 ウエルスも巧達を追うテルヌス兵はいない。だが一抹の不安はまだ巧の胸によぎる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ