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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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変化


「人間……?」

「ええ、そうよぉ。私達は人間を魔物化として、それを上手く運用できるよう研究していたの」

「そうじゃない、どうして人間で実験したんだ」

「一応は魔物でも実験していたのよねぇ。ある程度は結果が知れたわねぇ。けどある程度まで。そこから先は思うようにうまくいかなくて。そこである閃きが起きたの。魔物が駄目ならそれ以外で良いんじゃないかって」

「その結果が、お前や魔偽師の子供達、そしてルーイか」

「勿論最初は拒絶反応も出て最悪だったわよぉ。魔物化して意識が取り込まれ死んでしまったり、言う事聞かないとか。だけどその中で解決策が見つかったの」


 ウエルスはインベントリ内から一つの石を取り出す。

 岩人形から手に入る核であった。


「この核のおかげで制御が効いて命令を受け付けるようになったの」


 何故あの場にウエルスがいたのかを巧は理解する。


「過程に至る全て災厄の魔女の指示でか」

「伝えているのは魔物の実験までよ。あのお方は優しいの。人間の実験までしているって言っちゃうと止めると思うわねぇ」

「仮にお前の言ってる事が本当なら矛盾だろ」

「矛盾?」

「どうして人間の実験は止めて、お前等魔偽師に対する実験は目を瞑る」

「だから優しいのよ」

「優しい?」


 巧はルベスサやベルチェスティア王国で出会った魔偽師アイルの会話を思い出す。

 ウエルスも魔偽師となる実験は確実にさせられているはずなのだが、助けられたとはいえどうしてここまで酔狂なのかと巧は勘繰る。


「それに私達の実験では致死率は高いもの。だけど魔偽師としてなる実験ならそこまで高くはないわよ」

「は? 結局人間を魔物化だろうが、魔偽師の実験だろうが非人道的行為を行っている事には変わりないだろ。それがなんだ。優しいから? あほかと、手前は仮に良くても他はどうだ?」

「他の魔偽師だって、あのお方のおかげで生き長らえているの。逆に感謝すべき」

「ならルベスサはどうだ。あいつは嫌で研究所から逃げ出したと聞いた」

「あの子は別物。私達に賛同できない愚か者であり裏切り者」

「ああ、なるほど……そういう事か」

「何が分かったのかしらぁ」

「手前は理想主義者って事。そして己の中での災厄の魔女の理想像を立てるが、現実では己が取って代わって頂点に立ちたいタイプ。ある種、教祖を操る№2という感じか」

「あらぁ。言い得て妙ね。私があのお方を操るなんて」

「どう考えても重要事項なのに話す事さえしない。あまつさえ己の判断で勝手に実験を行い。更には手前が自身に使用した物が立派な証拠」


 ウエルスは沈黙した。


「どうなんだ。答えろ」


 ウエルスはため息をつくと小さく呟く。


「頭が切れ過ぎるのも問題ね……」


 額に埋め込まれた球を触る。


「ええ、そうよ認める。認めるわよぉ。確かにあのお方の進む道を阻もうとする者は排除し、私の理想もまたあのお方の為。だけど一つ貴方は勘違いをしてるわよ。私はあのお方に純粋に憧れ、心酔している。だから改めて言わせてもらうけどぉ、私はあのお方を操る何て毛頭考えてもいないわよ」

「リウスを攫う事も、この戦争をけしかけた事も。そしてさっき俺達を消そうとしたのもか」

「この娘は他の国に着くと脅威になっちゃうしぃ。それ以上にヤマウチタクミ。あの方にとって貴方への執着具合は異常。会わせるのも危険だし。貴方の存在はあのお方にとって非常に厄介な物だと私は判断したの」


 嫉妬、それとも憧れ故の行動だろうか。

 相手の意図を理解すると、巧にとってはうんざりした気分になる。


「とどのつまりは手前の理想を壊さないの為だけに俺を亡き者にするためにけしかけたって事か」

「貴方があのお方からいなくなれば解決するんですけどねぇ」

「リウスを返せばそうするけどな」


 そういうと巧はリウスとウエルスを中心に円を描くように動く。

 だが巧に合わせるようにまたウエルスもリウスに近づかせないように反応する。

 距離は一定、遠からず近からず、動きを止めると互いに詰め寄る事もせず睨み合いと続く。

 すると巧はニヤリと口元を上げた。


「何が可笑しいのかしら」


 理解が出来ない。そう思う間もなく暗闇が襲う。

 ウエルスは見上げると魔物がウエルスに向かい降ってくる。


「私との会話に集中しているうちに視覚外からの攻撃とは、舐められたものねぇ」


 ウエルスの尻尾は急激に細長くロープのようになり、魔物の身体を巻き付くように受け止めた。

 埋め込まれた球の尋常ならざる力のおかげか、細身とも思えないほど体格差もものともせず。


「あらぁ。丁度良かった、これを身に着けてからお腹が空いてたのよねぇ」


 ウエルスに捕まえられた魔物はウエインと交戦していた魔物であった。

 魔物はぐったりとして動く様子もなく死に絶えているのがわかる。

 そんな魔物の腕を毟り取ると、ウエルスはおもむろに肉片を食べ始めた。


「なるほどねぇ。何で移動するのかと思ったら、私の意識を貴方やこれに集中させて後ろの呪い子を奪おうって戦法ね……けど、ざーんねぇーん」


 突如として炎の壁がリウスの前に現れた。

 何が起きたのか巧にはわかっていなかった。

 炎はすぐに収まるが、中からウエインが現れは巧の下に戻る。

 鎧は着ていなかったが、所々に火傷の跡や服にも焦げ跡が残る。


「ウエイン大丈夫か」

「ああ、危うく全身火だるまになる所だった。鎧を脱ぎ捨てた事で運よく助かったが」


 ウエルスは未だ魔物の腕の肉片を口に頬張る姿は余裕綽々といった態度。

 その隣には魔物と化した魔偽師の子供が座る。

 まるで犬を躾けられたように行儀よく並ぶ。


「そうそう、言い忘れていたのだけどぉ。この娘は自己防衛が働いてるから近づこうとすれば全身燃え上がるわよ。解除してほしければ、私から命令するかこの娘を殺すしかないわねぇ」

「くそっ! そうなると、直接奴を狙うしかないのか」


 漆黒の槍を構え、今にも飛び出そうとするウエインの肩を巧は掴み止める。


「ウエイン、魔物達をまた暫く足止めできるか?」

「ああ、数は減らせれたからさっきよりかは大分楽だけど。タクミお前はどうする」

「俺は最初の作戦通りリウスを正気に戻す」

「方法は?」

「ある」

「なら任せる」


 数度の会話後ウエルスは槍を構え、突撃をかます。

 反応するように魔物達も前に出てウエインと交戦に入る。

 すぐさま巧の邪魔にならないよう、ウエインは移動しながら場所を移し替えた。


「さあどうするのかしらぁ?」

「こうするさ」


 巧は十センチほどの水の塊を浮かび上がらせると、リウスへと放つ。

 速度は遅く子供にでも弾き落とせるほどの遅いスピード。

 勿論ウエルスが見逃すわけもなく、腕を振るうと水は抵抗もなくはじけ飛ぶ。


「この程度でどうこうするつもりだったのかしら」

「お前が初めっからそうする事はわかってたさ。だからこうするのさ」


 弾け飛んだ水は無数に広がりを見せ、その全てがウエルスを素通りしリウスの元へと集まる。


「知ってるか? 己の魔力から創られた魔法は自在に操作できる。そして俺の水は特別で相手に飲ませれば状態異常を回復できるってのもな。つまりはその洗脳さえ解くことができるって事だ」

「チィッ!」


 ウエルスは集められた水を再び弾こうとするが、水の分散が仇となりいくら掴もうが水は空を切るように掴めない。

 次第に水はリウスの口へと入ろうとしたその時、突如としてリウスの前に炎は上がり水を全て蒸発させた。


「驚いたわよ。まさかあんな細かい物まで操れる何て、流石は呪い子って所ね。だけどぉ見通しが甘かったわねぇ」

「自己防衛機能か……」

「そう、だから貴方は私が相手をするしかないわよ……邪魔ねこれ」


 そういい残すと、ウエルスは服を破き全体を変化させ始めた。

 ロープのように細身だった尻尾はまた太く戻り、鞭を打つように地面を叩きつけ。

 全身は一回りも二回りも大きくなり、幾重にも分厚い鱗に覆われた外骨格。

 両腕は分裂するように二本から四本へと分散し、手は五本から四本へと退化するが、指の一本一本が刃物みたいに鋭く長い。

 顔は身体と同じように緑色の鱗で覆われ、人間ではなくハエのような顔だが、歯は上下とも異様に鋭く噛みつかれると容易に千切られるだろう。

 口から垂れる涎が地面に落ちると、地面は溶けた。

 変態したウエルスの姿を見た巧は、映画で見たエイリアンを思い出す。


「あぁ……、喋っていたらお腹が空いてきたわね。お肉食べたいわぁ」


 変態したことにより空腹が増したのか、周囲を見回すとニタリと笑う。

 ウエルスの姿を見たテルヌス兵は皆怯え、我先にと一目散に逃げるように散る。

 ウエルスは両手を前に伸ばすと爪が伸び、逃げ惑うテルヌス兵の一人を串刺しにした。


「ぎゃあ! ぁ……ぅ……痛い痛い、嫌だ……嫌だ……誰か助けて! 助けてくれ!」


 急所を外し、致命傷を負わされることなく生き長らえた兵士は周囲に悲痛な叫びを上げ助けを求める。

 だが兵士は皆あまりの恐怖故助ける事さえ皆無であった。

 ご飯待ち侘びた犬のように、幾度と酸の涎が垂れ落ちると口を開く。

 かじり付こうした瞬間、金切り音が鳴る。


「あらぁ? 全く食事の邪魔をしないで頂戴」

「どういう構造だよ。弾かれる何て」


 巧は幾度か水の剣をウエルスの身体へと斬りこもうとするが弾かれる。

 変態したウエルスにとって身体をも強度が増し魔法で創られた水の刃さえ通る事が難しくなっていた。

 手を止めるとウエルスは捕まえた兵士を巧に向け投げ捨てた。

 巧は迎え撃つように兵士の身体を切断した瞬間、巧の身体はウエルスに捕まえられる。


「つーかまえた。これで貴方は私から逃げられないわよぉ」

「手前から来てくれたおかげで助かった」

「何ですって?」


 巧は水の剣を解除すると、収容空間に手を突っ込む。

 ウエルスは危険を察知したからか手を離し後ろへ飛びのく。

 地面に物体が落ちる音とともにウエルスは自身の片腕がない事に気づく。


「私の私の腕が腕がああああああああ!」

「残り三本って所か」


 ウエルスは睨むように巧をみると巧は両手に剣を持ち構えていた。

 右手には全体が黒く、刀身には何かしらの文字が彫られている長剣。

 左手には色は違えど文字のような刻印が刻まれた長剣。

 ともにシロが愛用していた二刀。

 片方の剣を持ちながら四本の指を煽るように幾度と動かす。

 挑発されている事に気づくウエルスは頭に血が上り憤怒した。


「このがきゃあ!」


 釣られるように突撃をかますウエルス。

 巧との距離が近づくとウエルスは爪を伸ばし攻撃した。

 素早く伸びる爪、常人では動きさえ捉えられないほどの速さ。

 しかし巧は一本一本確実に捉え、剣で弾き落とす。

 巧とウエルスとの攻防を兵士達は息を飲むように見守り。そして次第に巧を応援するように声を上げ始める。


「うるさいうるさいうるさいうるさい! 耳障り。何なのよこいつらウザい!」

「手前はあれだけの事をしておいてよくもそんな事言えたな」

「あれ等は餌よ。そして私達の玩具でもあり、私達を守る盾。どんな使われ方をしても文句を言えないわ……リウス、あの煩いゴミ共を焼却しなさい!」

「なっ、リウスやめろ!」


 ロボットのように命令されるが如く、リウスは杖魔祖を兵士に向けた。

 巧は止めようとするが、間に合わず炎は放たれた。

 味方であったテルヌス兵の多くは一瞬にして灰と化す。

 声援は兵士とともに消失、残った兵は誰しもが再び青ざめ怯え始める。


「あらぁ、私を前に他の所を向いてても良いのかしら」


 巧ははっとした表情で振り向くと、ウエルスが口を大きく開け巧の右腕を齧りつく。

 腕は歯が食い込み、激痛が巧の全身を駆け巡る。

 痛覚は遮断いていたはずなのに、どうして戻っているのか巧にとってこの時はまだ理解できていない。

 そんな巧をウエルスは問答無用で歯をさらに食い込ませてくる。


「ふふふ、苦痛に歪めた顔も良いわねぇ」

「くっ……っ……」


 ウエルスは歯を食い込ませながら巧を持ち上げる。

 地に足がつかない事で踏ん張りがきかず、歯を食い込ませられた腕は痛さのあまり剣を落とす。

 ぶちぶちと引き千切られる音がし、このままでは完全に腕が離れるのを理解する。

 視線をリウスへと向けると意を決心するように、もう片方の持つ剣で歯を食い込ませられている右腕の付け根を切断した。

 思わぬ行動にウエルスも動きを一瞬止めるが、巧を殴り飛ばし距離を置く。


「全く驚いたわよぉ。自分の腕を斬り落とす何てぇ」


 腕からは大量の鮮血が噴出。

 通常ならこのままでは失血死が確実なのだが、巧は自身の特性を知っていた。

 腕を抑え治るのを待つが、血は収まらず切断した部分も一向に塞がらない。

 激痛と焦りと自身の体内の血液の消失感が巧を襲う。


「何してるのかしら? まあいいわ。これで貴方の負けよ」


 ウエルスは地面に落ちた剣を踏みつけると、刀身は破壊される。

 そしていつの間にか持っていた切断された自身の腕を無理やり接続面にくっつけると分散された部分が互いにくっつくように塞がっていき治る。


「これで元通りね」

「何で腕が……」

「貴方さっき言ってたわよね。赤いサイクロプスの事。これもその応用の一つよ」

「再生能力の向上か」

「だからいくら攻撃しても無駄よ。むぅーだ」


 ウエルスは巧の腕に気づくと見せつけるかのように腕を振った。


「そういえば、貴方の腕忘れてたわねぇ。もう貴方に不要でしょうし頂くわね」


 ウエルスは手にもっている巧の腕を口へと近づける。

 どうする事もできず呆然と、しかし巧は頭の片隅で冷静な判断でその様子を見ていた。

 腕から垂れる血液、ウエルスの動き、周囲の様子、まるでゆっくりと時間が過ぎる感覚が巧を襲う。

 そして「ぁぁ……そうすれば良いのか」と小さく呟く。

 離れた腕が口に運び込まれようとしたその時、腕から垂れる血液は凍るように凝固され、刃物のように鋭くなりウエルスの口をずたずたに斬り裂いた。

 何が起きたのか理解できず、ウエルスは形状の変化した血を引き抜くと、巧の腕を放り投げた。


「痛い、痛い何なのよこれ!」

「血液の性質を変化させただけだ」

「何ですって。だってそれは魔法で創った水だけじゃ」

「確かに水を操作できるのは言ったが、対象が魔力で創った物ならな。なら俺自身の血液ならどうだ」

「自身から出した血液は魔力が含まれるから操作対象になるってわけ。なら納得納得…………するわけじゃないじゃないの!」


 ウエルスは癇癪を起こす。

 自身の理解の範疇を越えているからか、子供のように地団駄を踏む。


「どういう事よ。そんなの聞いたこともない呪い子だからってありえないでしょ! それにその腕何なのよ!」


 血液が大量に噴出していたのが嘘のように収まっており、代わりに“血の腕”を創っていた。

 人間の腕のような形だが、血だからか完全に赤い。

 巧は血の腕を動かし、次々と形状を変化させていく。

 形が止まると、巧はウエルスに向かい走り出す。


「こいつまた私に挑む気? 今度こそ全力で全て弾き落としてもらうわ……よ……」


 巧は自身の血液を武器と言う武器へ複数分裂させた。

 一本や二本ではない。十本二十本、数を数えるのも分からなくなるほど多く。

 そのどれもが殺傷能力が高く、ウエルスを襲う。

 ウエルスは四本の腕を駆使し、巧の猛攻を防ぐが、次第に押され始めていく。


「何なのよこれ……、ダメ間に合わな……」


 圧倒的物量差、遂にはウエルスの四肢を切断した。


ようやくウエルス戦終わりです。

何でこんな風に細々として長くなったんだろう思いながら執筆してました。

思いつく限り新たな要素を次々と執筆したせいですかね(笑)


※少し文章を変更しました。

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