表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
138/144

対峙


 テルヌス軍同士の潰し合い。

 言葉巧みに指揮官を誘導し、テルヌス軍の内部勃発を起こさせ混乱を招き入れる。

 そんな中、巧とウエインは混乱に生じリウスのいる後方部隊へと馬を走らせていた。


「ここまで上手くいくとはすげえな」

「相手の情報伝達が滞っているおかげか楽にはいけた。これであとはリウスのいる所へと向かっているわけだが、問題はここから」

「また指揮官に嘘情報を流せばいけるんじゃないのか?」

「嘘情報だけならな……だけどそこにはリウスがいる。最悪の想定を考えたほうがいいだろ」


 神妙な面持ちで巧は語る。

 リウスが捕らえられてから数日が経過し、現状どうなっているのかわからずにいる事に危惧していた。

 呪い子とは言え、抵抗し自力での国外逃亡は可能なはずだと。

 しかしそれをせず、何らかの理由にて大人しくテルヌス帝国側に従っている。

 リウス自身の気の弱さに付け込まれたからか、はたまた別の理由なのか巧には確かめるすべはもっていなかった。

 暫し考えに老け込む巧にウエインは巧の肩を叩き意識を戻させる。


「おい、タクミ。考え事してる場合じゃないぞ。多分あれが後方部隊だと思う」

「ああ、いつも通りにいくぞウエイン」


 巧は意識を前方へと向けると、並列をなして歩いている兵士を見つける。

 味方同士の反乱が勃発したのにも関わらず、まだ伝わってないのか慌ただしい様子もない。

 フードを被り顔を覆い隠すと、チャンスだとばかりに巧は口元を上げニヤリと笑う。


「そこの止まれ!」


 巧達に向け、足を止め警戒を見せる兵士に杖を向け迎撃する準備に入る魔法使いなど。

 馬を止め二人は降りると、巧は叫ぶ。


「待って下さい。我々は変異巡回視察団と言う御国から遣わされた特殊部隊です。ここの指揮官であるコウ様に重要な案件がございまして、至急お会いしたいのですが」

「……分かった。ついて来い」


 予想通り。そう巧は思った。

 作戦はいつも通りに、そう巧は小声で言う。

 声を出さないがウエインは兜越しに頷いた。

 案内する兵士の後ろを歩き、到着すると巧達の前に現れたのは二人の人物。

 一人は指揮官を務めあげているであろうコウ。巧達を見下ろす形で馬に乗っていた。

 指揮官として在籍するからか威勢のよさが現れている。

 だが、巧はコウよりもその隣にいる人物を見た瞬間巧は眉を顰めた。

 髪が灰色掛かった白色の長髪に顔全体に刺青を付けて明らか他の兵士達とは異質を放つ存在。巧達と過去に対峙した事のある魔偽師のウエルスであったのだから。

 ウエルスは巧とウエインを見るが、興味がないのかそっぽを向く。

 フードを隠しているおかげか、ウエルスからは巧の顔が見えずにいた。


「貴様等は祖国の使者と聞いているがどうなのだ」


 コウの質問に巧は黙る。

 喋らない巧に対し不審がるコウ。そして内心焦るウエイン。


「どうした。貴様等は何者なのだ、答えよ」


 コウの呼びかけに怪しまれている以上、沈黙を続けるのは得策ではないと判断した巧は意を決す。


「……わ、我々は変異巡回視察団という組織の者です」

「聞いたことない組織だ」

「秘密裏に活動してる組織故、内部でもごく限られた者しか知らないかと思われます」


 巧はウエルスのほうへと視線を向けると、ウエルスは興味もない様子でいた。

 内心ほっとした巧はコウの質問に答えるように続けた。

 一通りの質疑を終え、巧はリウスに関する質問をあげる。


「コウ様、最後に一つ宜しいでしょうか?」

「申せ」

「はっ! この戦争において炎の呪い子なる者が実践投入されておられる聞いておりますが、その者はどこにいるのでしょうか?」

「何故そんなことを聞く?」

「元々は我々別任務だったため、この戦争には参加しなかったのですが、この機にと。一目拝見させていただけたらなと思いまして」

「ならば向こうのほうへと行くがいい」

「ありがとうございます」


 頭を下げ、ウエインを引き連れ指さす方向へと巧達は歩いて行く。

 すると馬車が一台ぽつんと置かれている状態であった。

 周囲には兵士など守る者はおらず、怪しげにも罠の可能性がありそうな予感が巧の脳裏を過るが、確かめずにはいられなかった。

 焦る気持ちを抑えつつ、ゆっくりとした足取りで馬車に近づき到着する。

 馬が二頭に、白い布地で覆い囲まれ、中には荷物が積まれているであろう荷馬車。

 巧は中を覗くと、何かが毛布にくるまれているのが見える。


「リウス!」


 気持ちを抑えきれず巧は荷台に乗り込むと毛布を掴み上げた。

 機械音のような音とともに、何かが飛び出し荷台の外へと出ていく。


「なっ……くそ、まずい!」


 荷台の外へと出ていくと、外で待っていたウエインは飛び出した物を呆然と眺めていた。

 巧はウエインの腕を引っ張り叫ぶ。


「罠だ! いったんこの場を離れるぞ!」

「リウスはいたんじゃ」

「いなかった。寧ろ俺達が敵だとバレていたのかも」


 すると、突如巨大な炎が現れ、巧達目掛け放たれたのを視界にとらえる。

 風魔法を使い自身とウエインに当て、強制的にその場を離脱した。

 地面に叩きつけられた巧とウエインは起き上がると馬車の方向へと目を向け驚愕する。

 馬車は跡形もなく消え去り、地面はえぐれるように焼け焦げていた。

 あと数秒遅ければ炎に巻き込まれていただろう。

 ウエインは背筋が凍る思いに駆られる。


「あんな炎を使うって事は……」

「よく避けたわねぇ。そう、貴方の考えは当っているわよぉ」


 近づく気配に巧は目を向けた。

 そこにいたのはウエルスに複数人の魔偽師の子供。そしてリウスであった。

 魔偽師の子共達やリウスともに目は死に表情は暗い。

 その様子から巧はリウスが洗脳にかけられていると予想ができた。

 だが、今は助け出すにもウエルスが邪魔をする事は必須。

 従って巧は話に乗るしかなかった。


「俺達はバレていたのか。なら何故お前達は攻撃してこなかったんだ」

「そうねぇ、まあ元々何者かが私達の軍隊を誘導しているって情報は入っていたわけだし、一応は気づいていたわよぉ? だけど、確かめる必要性があるわけだしぃ」

「なるほどな。ここに誘導したのも目的物を見誤らないための措置か」

「そうね。まあけど、そもそもこの作戦を立案したのはあのお方なんだけどねぇ」

「あのお方って災厄の魔女の事か」

「あらぁー? よく分かったわねぇ。まあ有名ではあるから知っていても問題ないかしらねぇ。だけど……本当に貴方がヤマウチタクミなのかしら」


 名前を聞いた瞬間、巧は眉を顰めた。

 マグワイア含め、魔偽師のウエルスさえ巧の名を知っている事はテルヌス帝国に伝えられているからと。

 だが、一般兵などは巧の事を知らずにいる事は一部の人間にしか知らされていない事が明白であった。

 いくら思考を巡らせようと答えは出ない。

 フードを脱ぐと、巧は警戒するようにウエルスに言う。


「どうして俺の名前を」

「だって、貴方うちの女王様のお気に入りなんですものねぇ」

「お気に入り? マグワイア達も言ってたな。……俺はそもそも災厄の魔女に会った事も話したことすらないぞ」


 事実、いくら思考を巡らせようが巧には思い当たる節が一つもない。

 ウエルスは口に手を当て不思議そうに首を傾げた。


「そうかしら、あのお方曰く。建国からこの呪い子(リウス)を奪取してこの戦争を始めるまで全ては貴方が鍵となるからって」


 巧はますます混乱した。

 ウエルスの言うことが事実ならまるで預言者のようであった。

 そんな巧の思惑を否定するかのようにウエルスは言う。


「それに貴方とは()()()で出会ったって聞いたわよぉ?」

「別世界……?」

「この世界と似た場所だと聞いたわねぇ」


 地球を思い浮かべるが、当てが外れる事に対して、巧は少し残念に思えた。


「地球? どんな世界かは知らないけど、出会ったのはこの世界と似たような場所だと聞いたわねぇ」


 思わず口に出していたらしい。

 ウエルスの言っていた事が本当ならあり得ない、そう巧は思った。

 地球での一件以来、巧においてこの世界に足を踏み入れたのは数ヶ月前。

 他の星での移動などはない。仮に接触会ったとしてもそこまで思い入られるようなほどの相手とは数少なく、ましてやテルヌス帝国の者だと皆無に近い。

 日本人特有の名を名乗っている以上、巧と同様に同じ世界に足を踏み入れた可能性は十二分にある。

 そして何らかの形で巧の名前を知ったのだろう。

 巧は確かめる必要があると踏んだ。


「そいつは……災厄の魔女は日本人なのか?」

「日本人? さっき言ってた地球の種族のことなら違うと思うわよぉ」

「なら災厄の魔女とは何者なんだ」

「そうねぇ。例えるなら私達の魔偽師の救世主」

「ならその救世主様の為に望まれるなら汚い事も受け入れるってか?」

「ええ、例え死のうが与えられた任務は全うするわねぇ」


 即答であった。


「死をも受け入れるって、狂ってる……」


 ウエインの言うことに対し、ウエルスは鼻で笑う。


「貴方達にはわからないでしょうね。あのお方に拾われなければ今頃私達はゴミ屑のように捨てられていたのだから」


 ウエルスの言う狂信的な発言はシロと酷似していた。


「このタイプは厄介だな……」

「どうするんだタクミ」

「どうするもこうするも、もう作戦は単純。ウエインはあの子供達の相手の足止めを。俺はリウスとあいつの相手をする。リウスを正気に戻したあと連れて逃げる、それだけだ」


 ウエインは頷くと槍を構え、巧は水の剣を創り出す。


「作戦会議は終わったかしら」

「ああ」


 言い終わると同時に、飛び出した。

改めて見るとウエインとウエルス名前が似てて失敗したかなって思いました。

安易に考えてしまった結果なんですけどね(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ