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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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誘導


「報告はまだか!」


 眉間に剣幕を張り怒鳴りつけるは、先行の中規模部隊の指揮をとる部隊長のバウエルであった。

 水人形を迎撃するように向けられた数人の兵士が未だ戻って来ない事に激高していた。

 なだめるように部下の一人がバウエルに近づく。


「落ち着いてください。我々とて、あのような魔物は初めてでして」

「ええい、魔物の一匹や二匹程度で言い訳なぞいらん!」

「しかしながら、あの兵達との連絡手段がありませんので」

「ならば別動隊を率いて向かわせろ」

「そうさせようにも、戻って来ない所を見る限り下手に向かわせると我が陣営にも支障がでるのでは……」


 その時、別の兵士が二人の間を割り込むように報告を上げた。


「ご報告します。森の奥から新たに二人がこちらに向かってくるとのこと」

「二人だと? 向かわせた兵じゃなく敵兵なら迎撃し殺せ」

「いえ、一人はローブを羽織り被り物を被っていますが、もう一人はテルヌス帝国の鎧を着ているので味方の兵かと思われます」

「ふむ」

「更にはその者は、我が国から遣わされた特殊地帯部隊だと言っております。緊急の件でこの部隊を率いている隊長に会いたいとの事だそうですが」

「特殊偵察部隊だと? 聞いたこともないな……まあ良い、直接会って話す。連れてこい」


 バウエルの目の前に兵に引き連れられた二人と馬一頭。

 一人は顔をフードで覆い、顔は隠れて素性は見せていない。もう一人は背中に漆黒の槍を装着させテルヌス帝国の鎧を着ていた。

 明らかに怪しいと思わせる二人に対して、バウエルは眉を上げ警戒心を見せる。


「お初にお目にかかりますバウエル様。話しは聞き及んでいるとはございますが、我々が特殊地帯部隊のティにユーと言う者でございます」

「緊急の要件とは聞いているが、その前にその特殊地帯部隊とはいったい何だ。このかた初めて聞く部隊だが説明せよ」

「はい、今回のような戦争などにおいての現場の連絡、通信、情報が途絶した際において、我々が迅速に事を運ぶようにするための部隊。また本来は相手国の機密情報なども取得を行い本国へと持ち帰るスパイのような存在。秘密裏に動く部隊故、初耳と言うのもしょうがないと思いわれます」

「な、成程。確かに秘密裏に動くなら知らなくて当然だ」


 バウエルは左右に視線を向けると、兵士は感心する仕草、また混乱し首を傾げる者などがいた。

 自信あり気に説明をするティに対し、猜疑心は解き始める。


「して、緊急の要件とはなんだ」

「我々はあの森にて起きた出来事への報告しにまいりました」

「その出来事とはなんだ」

「あの森の奥にて放たれた一筋の光はご覧になられましたか?」

「いや知らん」

「なんと! これは非常にまずいですぞ!」


 ティは驚きを隠せずにいる様子であった。

 何がまずいのか理解できないバウエルや兵士達。続けるようにティはいう。


「ならば、あの光に起きてからの森の中に入った兵士達はどうなったかご存知ないと言うのですか!?」

「貴様は何があったのか目撃したのか?」

「左様です。中に入っていく兵士数名、光の影響か突如首と胴体を斬り離され全員が絶命しているのを目撃しました……」


 ざわつく兵士達、バウエルもティの言葉に翻弄されるように混乱を期す状況に陥る。

 兵士数名が戻って来ないのを察すると、ティの言っている事は事実だと判断する。

 だが、それでもバウエルはティの言葉に疑問を持ち始めた。


「確かに貴様の言うことが本当だとして兵が戻って来ないのは分かったが、どうして貴様等は助かってあの森から出てきたんだ」

「わかりません……としか言いようがないかと。人数がすくなかったから運が良かったか、光の影響がたまたまなかったのか。ですが、もしあの森に入られるようであれば、森に入らず遠回りに進む事を進言いたします」

「どうしてだ」

「下手したら兵をより失わせてしまう可能性が高いかと。そうすれば貴方の判断ミスにより先陣しているこの軍や指揮権自体奪われてしまいます」


 痛い所をつかれたからか、バウエルは眉を寄せ暫く考え込むと兵に命令を下す。


「直進せず森を迂回せよ!」


 バウエルの命令により兵士は森を右へと迂回するように動き出す。


「ご明瞭な判断心服致します」

「よせ、下手にこれ以上兵を失うわけにはいかない。して、貴様等はどうする」

「はっ! 我々はこの事を他の部隊や陛下に一刻も早く伝えなければなりません。しかし、それぞれどこに居られるのか……」

「陛下率いる部隊では中央。その左翼にはアスラ部隊、右翼にはラガン部隊、そして後方にはコウ部隊がいる」

「なるほど! そういえば、この戦争にて炎の呪い子が出陣していると聞いていますが、どの部隊に?」

「後方部隊と聞くが、陛下自身あまり好んでおられない様子だったが、呪い子は強力故に巻き込まれないような配置なのだろう」

「後方部隊……わかりました」


 ティは周囲に気づかれないようにほくそ笑む。

 馬に乗るティとユーは駆け急ぐように手綱を打ちならしその場を離れた。

 進軍とは真逆に進む人物を気にも留める者はおらず、前衛部隊から離れるように右側へとより退く。

 横目で進軍している兵が豆粒のように小さくなるのを確認すると、被っていたフードを脱いだ。


「もういいぞ」


 ティの合図で、ユーの兜も脱ぎ始める。


「上手くいったな()()()

()()()()もよく黙っててくれた」

「最初はお前から説明聞いたとき驚いたぞ? まさか特殊地帯部隊とか」

「人間、自信満々に本当ぽい事を話せば案外騙されるもんだ。特に相手が知らない情報なら尚の事」

「それにしてもまだわからない事があるんだが、俺達のティとユーってなんだ?」

「ただのアルファベットのイニシャル。|TAKUMIにUEINつまりは俺達の頭文字をとってティユーなだけだよ。まあこの世界じゃわかんないから気にすることはないかと。ぶっちゃけ偽名何て何でもよかったんだけどな」


 ただ、山内巧などの東洋風な名前など珍しくもあり、避けるべき対象だと巧は思った。


「リウスちゃんの居場所もわかった事だし向かうか?」


 巧は首を横に振る。


「いや、まずは右翼にいるラガンへと向かう」

「どうしてだ? リウスちゃんがいるならそっちへ向かうほうが先決なんじゃ」

「敵は今まだ情報不足に苛まれてる」


 巧はフードを被ると直に着く右翼部隊へと目を向ける。


「だから、リウスを助け前により一層大きい混乱を作り出して助ける」


 巧達がバウエルの前衛部隊から離れ一時間が経過したその時、バウエル率いる前衛部隊に一筋の魔法が放たれた。

 放たれた魔法は部隊には当たらずにいるが、それでも地面をえぐれていた。

 当たれば確実に即死。

 急な展開にバウエル含む部隊全員、動揺に走る。


「何事か!」

「大変です! 右翼部隊から攻撃を受けています」

「どうして味方を攻撃する。ラガンの奴はいったい何をしてる!」

「不明です。しかしいきなり魔法を放たれたのは事実しか」


 別の兵がバウエルの元へと向かう。


「緊急です。右翼部隊から我々に攻撃する理由が判明しました」

「なんだ!」

「我々は帝国を裏切り、敵国のベルチェスティア王国へと寝返ったと思われています」

「なん……だと……」


 バウエルは全身の血液が凍る思いに駆られる。

 阿鼻叫喚が上がる中、攻める右翼部隊、攻められる前衛部隊、味方同士の争いに混乱の渦は大きくなる一方。

 バウエルは剣をラガン率いる右翼部隊へと向け、迎撃命令を下した。

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