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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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情報と思考


 巨木のような光の柱が駆け上ぼり、新たな未知の出現。

 それ故、両国ともに情報の伝達が遅れ戦場はより一層混乱を期していた。

 そんな中、巧においては光の現場には戻る事はせず、テルヌス帝国領土へとウエインとともに向かう。


「いったい何なんだあの光は」

「わからない。だが、今は先に向かうしかない」

「そうだけどもさ。俺やお前の仲間はどうすんだ。あの光に巻き込まれでもしてたら」

「……それはないだろう」

「どうしてそう言い切れる」

「よく考えてみろ。あんな巨大な光の柱、熱量を感じられなかったんだ」

「熱量?」

「そもそもあの巨大な光は強力だ。強力ゆえに俺達があんなけ近くに居ようが熱気が伝わらないんだよ。仮にあったとして熱が帯びていようものなら俺ら一瞬で黒焦げ、もしくはあの周辺は確実に燃え広がっていたよ」

「なるほど。ならあいつらは無事ってわけだな」

「あの中心からそこそこ離れているはずだから多分……高受声石が繋がらない以上無事であってほしいが」


 そう巧は歯切れの悪い言い方をするしかなかった。

 光の柱が現れたあとすぐさま高受声石によりルベスサやフェスに連絡を入れたが一向に繋がる様子はなかった。

 打つ手もなく無事を確認できる方法がない以上、祈るしか他ならなかった。


「ただ、あの中心にいるであろう近場は無事に済まないかもしれない」

「かもしれないな。ただどうしてあれが急に現れたんだろうな」

「わからない……」

「なら、とりあえずはあのテルヌス帝国兵に聞いてみるか?」


 ウエインの言葉に釣られ巧は前を向くと、十数もの騎馬隊が見えてくる。

 互いに道を避け外れる素振りもみせず、このままでは確実に巧達と衝突は避けられないだろう。

 ああ、そう小さく呟くと巧は馬の背中を跳躍ちょうやくした。


「や、やめてくれ。我々は降伏する。話せる事は何でも話すから見逃してくれ!」


 兵士達は顔面蒼白になり怯え、腰が抜けているのか立てる様子もなく命を乞うように懇願する。

 周囲一面、複数の馬や人の死体が混じり血の海と化す。

 立っているのは巧にウエイン、そして武器を手放し一ヶ所に集められた数人のテルヌス帝国兵であった。

 テルヌス帝国兵と交戦し、僅か一分も満たないうちに逃げる事、抵抗する猶予も与えずほとんどの兵は巧によって虐殺された。


「ならまずはあの光について何か知っているか?」

「し、知らない。我々もあんなの見た事もないし、この戦場で投入されるとは聞いてもいない。ほ、本当だ」


 巧は生き残っている兵の一人に水レーザーで心臓を打ち抜く。

 鎧を着ていようが、巧の放った水は綺麗に貫通し兵士の一人を絶命させる。

 一片の躊躇もない巧の行為は兵士達の恐怖心を煽り、唇を震わせ頭を抱え込む。

 次の水を創り出し浮かせ、巧は次の兵士に狙いを定めようとするが、ウエインが巧の肩を掴む。


「こいつ等は本当の事を言ってると思う。戦意は完全に喪失してる」

「……じゃあ、次にお前達はこの戦争は何で起こした。目的は何だ?」


 部隊長は声を震わせいう。


「も、元々は各国に存在する呪い子の奪取。戦争という大戦であれば強制的に投入せざるを得ない状況に追い込むことができる。それに我々は他の国より小国である以上、呪い子が味方になれば巨大国家とも対抗しうる存在となるのだ」

「各国というと他の国にどんな呪い子がいるか把握してるのか?」

「いやわからない。だがわかっているのは一点」

「ベルチェスティア王国か」

「そうだベルチェスティア王国には呪い子が存在するのは情報があがっていた」

「リウスの事か。だから間者に奪われた」

「我々は奪取には成功し、呪い子が不在となった国であるからこそ戦争を持ち掛けた」


 強調する部隊長の言い分に巧は納得した。

 戦争は情報戦である以上、把握している敵国の戦力の削減、呪い子という脅威となり得る存在の排除などは重要事項ではあった。

 だからこそ把握し、敵戦力が手薄になる所に攻め入るのには定石とも言えた。


「本題だ。手前らに攫われた赤髪、赤いドレスを着た呪い子の女の子について現在地を教えてもらおうか」


 部隊長が声を震わせいう。


「あ、あの女ならテルヌス帝国本陣の近くにいるはずだ」

「帝国の中にいるのじゃなくてか?」

「間違いない。俺はこの部隊を任された者だから嘘偽りない。そういう情報も聞いた。本当だ!」


 巧は兵士達の顔を見回すが、一同に頭を縦に振る。


「本当の事らしいな」

「どうして王国の奴は俺達にも秘密にしていたんだろうな」

「多分シュワルみたいな情報漏洩者がいないとは限らなかったんだろう。だが、相手の強力な武器を投入する場所がわかっていて尚且つ、対抗手段を持ち合わせていてそこに投入できれば効果的になるはず」

「そうか、お前とあのルルシが対峙できたようなものか」

「俺が上手く対峙できたのは運が良かったのかもな」

「それだとお前に矛先が向けられるんじゃないのか?」

「多分使用する魔法の相性的な問題だと思う」

「相性?」

「火は水に分散させられるから弱いように、水は土に吸収するから弱い。俺は水を主に使う。他の魔法も使おうと思えば使えるがそこまで強力じゃないから一点特化した魔法には勝てない」

「だけどあのルルシには勝ったろ?」

「あれはただ状況判断と魔法の応用による知識の差で勝てたにすぎないよ。範囲だってある程度の地中まで凍らせた程度で、それよりも地下深くから創り出されたらやられてたのはこちらだろう」


 巧達の会話に割り込むように兵士の一人がいう。


「ル、ルルシってあの土の呪い子の事……なのか? お前達あいつに勝ったとか」


 ウエインは頷く。


「そうだぜ。まあ勝ったのは俺じゃなくここにいるタクミだが。その土の呪い子に勝利した男。つまりはこいつも呪い子だからさ」


 兵士達はより一層顔を青ざめるように、怯えた目で巧に視線を向ける。

 あまりの恐怖に逃走を試みる者も現れた。

 逃げ出す兵士の背中を見つめ当然の事だろうと、そう巧は思った。

 なにせ目の前には呪い子を打ち勝った呪い子の存在が目の前にいるのだから。

 だが巧は逃がさんとばかりに兵士の頭部目掛け水レーザーを放ち動けなくさせる。

 頭部に穴が空き、死体となった兵士に巧は近づくと、兵士の首根っこを掴みあげ生き延びている兵士達に放り投げ戻す。


「逃がすわけないだろ? まだお前達には質問を答えてもらわなくちゃいけない。まあ代わりに逃げ出してもいいがその場合は即座に殺す」


 巧の放った一言は他に逃げ出そうとしていた兵士達を踏み止めた。

 絶望の表情を向け逃走の試みを完全に消失させる。

 ウエインは何かを言いたげな表情を見せるが、巧は無視を決め込む。


「さて、次の質問だ。お前達の親玉ともとれる存在、災厄の魔女は俺の事を知ってるらしいが」

「わ、わからない! 本当だ!」

「……なら災厄の魔女とは何者なんだ? 前回の戦争にて切り刻まれたと聞いている。仮にもそれが偽物で本物が生きていても数十年だ、ヨボヨボのばあさんになってるはずよな。別の何かか?」

「わからない。わからないんだ。ただ噂ではあるが聞いたことある」

「噂?」

「当時の戦場に参加していたのと同一人物じゃないかと。そして別の世界からの存在とも、この世界ではまだ知られていない種族かもと」

「確かにエルフとかだと数百年ぐらい生きる事も可能だろうしその線はありえなくもないが、別の世界の存在だって?」

「こことはまた別の世界があってそこから来たんじゃないかというのも」

「……なるほど」


 部隊長の言葉に納得するとともに巧は地球の存在を思い出していた。

 魔力も魔法も魔物の概念ない世界。

 二次媒体作品としてなら創られているが、あくまで空想上であった巧が訪れるまでは。

 その地球上で巧のように何かしらの力で拉致られてたならあり得る話だと。

 納得のいく話の中で自分の名前を知っているのか、などと疑問点は巧の中で膨れ上がる。

 次の質問に口を開こうとしたその時、再び空に向かい光線が数度駆け上るのを巧達は目撃する。


「まずいな……」


 そう巧は呟くとウエインは聞き返す。


「何がまずいんだ?」

「あれは明らかに交戦している様子だった。つまりは誰かが戦っている」

「もしかしたら王国軍の誰かが災厄の魔女とかもしれんぞ?」

「味方ならな……」


 巧は近くにいた兵士の一人の首を掴むと締め上げる。

 苦しそうな表情を向ける兵士に巧を止めるものは誰もいない。


「お前達にはしてもらわなきゃならない仕事を与える」

「な、何でもするから殺さないでくれ!」

「あの光を放っている場所に向かい災厄の魔女に対してこう伝えろ。“山内巧は王国を裏切り帝国側へと寝返った”っと。ただ、違う事を言ったならお前達死ぬぞ」

「わ、わかった。言う通りに話す」


 巧は手を放すと地面に兵士は倒れこむ。

 他の兵士はむせかえっている兵士を肩を使い担ぎ上げると、その場を離れ光の放つ場所へと覚束ない足取りで向かう。

 巧とウエインは休んでいる馬の背に乗り、走りだす。

 暫しの沈黙のすえ、先に口を開くのはウエインのほうであった。


「タクミ、お前の事だから何かあるのだろうと思って言わなかったが、どうしてあんな事を言わせたんだ」

「ああ、俺が寝返ったことか」

「いくら考えても思い浮かばないんだが」

「理由はいくつかあるが、大まかになら場を混乱させる為、そして帝国の伝達能力がどこまであるかだな」

「伝達能力だって?」

「戦争においては伝達がどれだけ早いかが重要を期すわけだ。もし俺達が伝わっていた情報をもとに敵国へと侵入して敵兵へと見つかればどうなると思う?」

「相手は受け入れてくれるわけか」

「そう。リウスを見つけやすくなるのと同時に救出に向かいやすくなる。逆に伝わってなければ、それこそそこまで伝達能力が高くない事がわかり、救出後逃げやすくなる」


 巧の考えにウエインは思わず喉を鳴らす。

 相手国の能力水準が計る事ができるというわけだ。

 続けるように巧はいう。


「また別の理由としたら、俺は正直この王国を信用できない。だが、帝国も信用する事は難しい」

「だからといってあんな事を言えば、王国側にも耳に入って知らされるんじゃ。それこそ本当に反逆者扱いだ」

「反逆者扱い。それは本当に俺が先に裏切ったのかだな」

「どういう事だよ」

「ウエインにとってあの光は何に思えた?」

「王国の兵器。魔法によるものじゃないのか?」

「それが模範解答。だが俺は呪い子によるものだと予想する」

「呪い子って……それじゃなんだ。あの光は呪い子による魔法なのか!?」

「あの光が現れてから俺は疑念に駆られていたんだ。あの光の性質は? この世界での関わり合い? 道具によるもの? 更には決定打になったのが兵士達の言葉だ。帝国側ではないとなると自ずと答えが出る」

「ならあの光だとあの子が放ったかもしれないかもよ?」

「いや、リウスがいるとは考えにくい」

「どうしてだ」

「災厄の魔女が現れてからどれだけ時間が経ったと思う? あの場での対抗策は四つしかない。一つは降伏し帝国の配下に着くか。二つ目は降伏せず全滅するまで戦うか。三つ目が自国で保有する実在する呪い子の介入、そして四つ目が第三国の介入」

「第三の介入って……ただどうして今頃になって。事前に俺達にも伝えればこんな事にならないはずじゃ」

「ああ、確かにそこは気になっていた」


 第三国だろうが自国の保有している光の呪い子の存在を王国は隠していたのだろうか、という疑念が巧を引っかからせていた。

 巧は後ろを振り返ると光の柱はすでに消え失せており、空には青空が円状に広がりを見せていた。


「ウエイン、話は戻るが俺が裏切ったって俺はこの戦争が終わり次第。いや、リウスを救出次第他国に亡命するつもりだ」

「亡命って、ならルベスサはどうするんだ。あいつ一人置いてきぼりかよ」

「その点なら大丈夫だろう。俺が裏切ったという情報が耳に入れば、俺達の束縛から解放されてる以上あいつ一人でなら国外へ脱出するのは容易だ。ただ難しそうならウエイン、手伝ってやってくれ」


 巧の言葉にウエインは顔を手で抑えため息をつく。


「わーた、わーたよ」

「すまない。もし再開できたときは報酬を払えるだけ払うと約束する」

「そんなんいらねえよ。俺もここまで知らされて乗った船だ、相応の覚悟はあるさ。まあただ、金よりも酒奢れよ? 前に潰れたのは俺達だからもう一度飲み比べするぞ」

「ははは、ああ俺も負けないさ」


 思わず巧は笑みを零す。

 そんな巧の頭にウエインは手を置き強く撫で始める。


「良い返事だ。さあテルヌス帝国軍の本陣近くまで飛ばすぞ」


 頼む、そう小さく呟く巧の言葉は不安と共に風と流れ去っていく。


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