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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
132/144

ルルシvs巧


 豪雨だった雨は勢いが弱まり、小降りとなっていた。

 ルルシは空を見上げれば、相変わらず雨雲は光源を通さないせいか薄暗い。

 それでも雨が完全にやむまでそう時間はかからないと感じさせられた。

 雨以外の物音はせず、下を向けば地面には所々裂け目や盛り上がりができ、岩人形は壊され、近くにはルベスサが倒れていた。

 両足には土の針が刺さり、動くことさえ難しいだろう。

 ルルシは目を瞑る。

 地面から発する振動を探知し、動きがあれば反応し、ルルシの脳内で再生される。

 だが雨以外の反応は一切ない。

 巧やシロも範囲外に逃げ果せ、仲間の二人は倒されていると予想は簡単についた。

 探そうにも逃げた先が不明なため、連絡手段の方法さえも見つからない。

 ルルシは地面の土から腕を生やし、ルベスサの首を掴み持ち上げる。


「ヤマウチ・タクミはどこに向かった」

「ぐ……ぁ……し、知らない」

「言わなければ排除する」

「知……らない、知ってても言うもんか」


 頑なに拒否を示すルベスサの意思は固く、どんな問いかけも、拷問でも吐かせる事も不可能にみえた。

 不要だと判断したルルシは、ルベスサに止めをさそうと首をより強く絞め始める。

 ルベスサは抵抗しようと首回りの土を掴むが、指跡は修復するように元の形へと戻る。

 首の骨が軋む音が聞こえ、あと少しで完全に首の骨が折れようとした矢先、ルベスサの腕にはめていた腕輪から声が聞こえ始めた。


『ルベスサ、俺だ。返事をしてくれ』


 声の主は巧であった。

 呆気ないものだとルルシは思った。

 ルルシは声のする腕輪を掴むといった。


「ヤマウチ・タクミ、この男をを助けたければ今すぐ投降せよ」

『その声、ルルシ……、ルベスサは無事なんだな?』

「貴様の行動次第だ」

『……わかった。そっちに向かう。だからルベスサにはもう手を出すな』


 土の手を崩し腕も離すと、ルベスサは崩れ落ちるように地面にへたり込む。

 解放されたルベスサは息を取り込むように咳込む中、腕輪に語りかける。


「タクミ、来ちゃだめだ。それに君はまだ怪我が」

『ルベスサ。心配するな。俺は完全に回復した』

「そう、良かった。二人とも無事なんだね、安心したよ」

『いや……シロは死んだ。俺を助けるために自分の命を使って』


 聞いた瞬間、ルベスサは言葉を失った。

 巧が助かったのは良かった。だがシロを失ったのは戦力的にも巧にとっての精神的主柱であるが故に大きな痛手であるため次の言葉が見つからない。

 そんな中続けるように巧はいった。


『ルベスサ、お前がそいつを止めてくれてなければ全滅してた』

「だけど行かせた結果は」

『ああ、シロは亡くなった。こうなったのもしょうがないとしか言いようがない』


 シロが亡くなったにも関わらず、冷徹な言い方だった。

 だがこのまま巧が現れれば、たちまちルベスサ自身が足手まといになると容易に想定ができた。

 立ち上がろうにも両足を動かせば激痛が全身に走り、移動するにも困難。

 ルルシに対し睨みつけるが、ルルシ後ろを振り向き無視を決め込む。

 眼中にもないといった所だろう、どうにもできない悔しさがルベスサの中を駆け巡る。

 ふと、壁の所に剣が突き刺さっているのに視界に入る。

 シロが逃げ果す際に突き刺した剣であった。

 ルベスサは手を伸ばすと鎖の魔法を放ち、剣の柄を絡ませたのち鎖は徐々に縮め引き抜いた。

 鎖に絡まった剣は重力に引き寄せられ、振り子のように落ちていき、鎖は消え弧を描くように放りだされた。

 そのままルベスサの上を通過し、剣は勢いをもってルルシへと向かう。

 未だ後ろを振り向き気が付いていない様子のルルシ、寸の所で土が盛り上がり剣を弾き防がれる。


「来た時の交渉材料として生かしておいたが、やはり不要。排除する」


 土は一体の土偶へと変化し現れた。

 土偶は地面に落ちている剣を持ち上げ、ルルシに振り下ろそうとした瞬間、土偶の全身に水が被せられたのち金縛りにあったように固る。

 そして無理やり動かそうとしたのか全身にヒビが入り崩れ落ちた。

 突如の事でルベスサは驚き、ルルシは振り返る。

 その表情からしてルベスサと同様の様子であった。


「これはいったい……」

「約束を守る事は社会人としてのマナーだが、約束を違えると信用や信頼を失うって事を知らないのか?」


 ルベスサの前に巧は上空から現れ降り立った。

 地面に着地する瞬間、突風のような強い風が巻き起こり土や水が離散する。

 どういった原理なのかはルベスサには理解できずにいたが、それでも内心安心した思いに駆られる。


「これは返してもらうぞ」


 巧は土偶の手から離れ地面に落ちていた剣を拾いあげる。

 そしてルベスサの前にしゃがみこむと、装着していたインベントリの中から一本の試験管を取り出す。

 中身は赤黒く強力な回復効果のある侵薬であった。

 コルクを外すとルベスサへと飲ませた。

 すると全身の傷は癒え、痛みが引くのをルベスサは感じた。

 足を触ると貫通していた穴はなく完全に塞がっていた。


「これは確か前にも」


 巧は頷いた。


「ああ、あれと同じ侵薬だ。何かしらのステータス異常は付きものだが許してくれ」

「それは構わないけど、これならタクミ、君やシロにも使えたんじゃ」

「いや……俺は効力が効きにくいし。それ以前にシロはもう手遅れだった以上使ってもなって……はは、持ってても使う機会何てなかったのにな笑っちゃうよな」


 ルベスサはゾクリと背中を震わす。

 空笑いをあげるが目は笑っておらず、哀愁感漂わせる巧に対しルベスサは口をつぐんだ。

 巧は無言で立ち上がるとルルシへと振り返り、収容空間の中に手を突っ込み一本の剣を取り出しルルシに向けた。

 両手にはシロが持ってたとされる黒刀と刻印が刻まれた長剣の二本。

 有無を言わさない無言の圧力か、ルベスサは立ち上がると離れるように物陰に潜む。

 その場に居るのは、呪い子である巧とルルシの二人のみ。


「投降せよ。我があるじが欲している」

「手前もそしてその主の意向なんて知らねえよ。俺が求めるのは攫われたリウスの居場所だ」


 それ以降の言葉を両者は発する事はなかった。

 雨音以外の沈黙が続くなか、先に動いたのはルルシのほうだった。

 土が盛り上がりをみせ、巨大な土人形が現れた。

 岩人形ならばその名の通り岩の塊で動いているが、土人形においては地面と同じように雨で濡れ身体は泥のように作られていた。

 ルベスサはまずいといった表情で土人形を見入る。


「あれは……僕の首を掴んだのと同じ?」


 いくら攻撃しようが修復されるのだから巧にとっても相性が悪い存在。

 手助けに出ようと飛び出そうとするが、足がすくみ動けずにいた。

 土人形は巧へと殴り掛かろうと腕をあげた瞬間、先ほどの土偶のように全身が金縛りにあったかのように固まり動かなくなる。

 巧は土人形へと近づくと何を思ったのか持っていた剣で一振り。

 剣先から水が刃と化して飛び出し、土人形の体を分断させた。

 体を再生される事なく土人形は地面に崩れ落ちる。

 ルベスサは面を食らった表情を見せたが、ルルシも予想外だったのか同様の顔を示す。


「ルルシ、俺がこの場に来た時点で手前てめえの負けだ」


 巧の睨みを利かす眼の重圧に屈するようにルルシは自ら足を後ろにひいているのに気づく。

 巧に恐怖している。気持ちからか行動に移していた事に対し、ルルシは唇を噛む。

 ルルシは地面に手を差し伸べると、土人形を生やした。

 土人形は攻撃するが、巧に拳が届く前に固まり制止する。

 巧は固まった土人形を触ると強い衝撃音とともに粉々に壊れた。

 ルルシは驚きを隠しつつも、二体目、三体目と次々と土人形を作りあげ攻撃させるが、一体目と同様に活動が完全に停止し、悉く巧に破壊される。

 続けざまに六本の巨大な針が地面から生えるように飛び出し、弧を描くように巧へと向かう。

 だが、巧の所へ届く前に巨大な針は土人形同様に固まり制止。

 効かないのは重々承知、だが巨大な針により巧の視界からルルシの姿を一時的に隠す事に成功した。

 三十センチほどの土の球体が地面から飛び出すと、空へと撒いた。


「これはどうだ」


 巨大な針が破壊されると同時に球体状の土の塊は極小の細長い針へと変化し巧へと放たれた。

 針は制止する事なく額、目、胸、胴体、腕、つま先から足など至る所を貫いた。

 まさに針の雨といった所だろうか。

 抵抗せず貫かれている巧に対し、ルルシは安心、安堵を得ていた。

 与えられた恐怖が払拭するように口角を上げ笑っていた。

 だがそれも幻想だったとすぐさま思い知らされる。

 倒れる事も地面に膝が付くこともせず、巧は先ほどと変わらずルルシを見下す。


「いくら出現させようが、言っただろ。もう手前の負けだと」


 威圧的、高圧的に巧は言い放つ。

 身体は確実に貫き、脳や心臓も貫いたはずなのに生きているわけがない。

 だが巧は、身体に貫かれたであろう箇所を埃を払い落すように叩くと、傷は綺麗に消えていた。

 他の箇所も傷を癒すというレベルを超え、同じように最初っから貫かれてなかったのかと見間違うほどに。

 ルルシは再び、土をすくいあげようとするが、地面は氷のように固くなっており、すくいあげられない。

 顔を上げ巧に視線を向けると、身体が凍るのを感じていた。

 視線の先にいた巧はただ見つめているのみ。視線から逃れる事はできない。

 ルルシは巧がいるのにも関わらず、後ろを振り返り逃げ出すように走り出した。

 巧を捕らえるという任務を放棄するほどにルルシの内心は焦りで満ち溢れていた。

 後ろを振り返らず、ルルシは後ろを土の壁を作りあげ巧が追ってこれないよう行く手を妨害する。


「どうして。何故、何故、どうして。何故、理解不能」


 ルルシは思わず考えた事を口走る。

 巧が再度現れた時点で思考を放棄していたといっても過言ではないだろう。

 殺すのもやむなし、最悪死体でも連れて帰れば良い。思考をそうシフトしていた。

 だが、殺す事も生かして捕らえる事も難しい。

 巧との対峙をし悉く潰されたルルシの選択肢は一つしかなかった。

 暫く道沿いに通ると足を止め、ルルシは振り返る。

 息を整え視野での確認、目を瞑り誰も追って来ない事を確認する。

 周囲に気配もない事を確認していると、何かが頭上を通り過ぎ近くに落下した物音がルルシの耳に届く。

 ルルシは目を開け落ちてきた方向へと視線を向けると、そこに巧がいた。


「どうして」

「答えは簡単。飛んできた」


 巧は空に向かい剣を掲げた。

 冗談で言ってるわけではなく、本気で言っているのだろうと。

 巧は両剣をルルシへと向け戦闘態勢へと移る。

 追いつめていたと思っていたルルシにとって追いつめられていたのが自分だと悟ると、逃げるのを諦め対峙するように構える。

 正真正銘、最後の戦い。

 双方がいる距離からして二十メートルは離れていよう、先に動くは巧であった。

 数歩歩き、そして小走りに、そして力強く足を踏み込みルルシへと近づく。

 近づかれると確実に斬られるとわかって待つ馬鹿はいないとばかりに、地面の土を踏み込み土偶を創り出す。

 その数およそ五十はいるだろうか。

 だが巧は土偶の攻撃を避けることもせず真っ向から受けるように土偶を切り崩しながら進む。

 動きは単純、巧は冷静な対処で土偶の攻撃を避けながら両剣で土偶の身体を切り崩す。

 あと数メートルの所で巧は自身に風を当て強制的に停止した。

 寸の所で巧の目の前には巨大な物体が空から降ってくる。

 察知能力の高さか勘の鋭さか危うく押し潰される所を間一髪でかわした。

 物体は浮き上がるのと同時に巧は視線を上のほうへと向ける。物体の正体は体長が十メートル以上の巨体な土人形の手。

 土偶に交わり、巨体な土人形が巧を襲う。

 数の多さの土偶、そして力で圧倒する巨体土人形。冒険者ならここで態勢を整えるためにひくのだが、巧は違った。

 巨大な水を創りだすと広範囲にばらまくように広げた。

 水は土人形や土偶に浴びせると急激に動きを鈍らせ、固まった。


「これでもう使い物にはならねえよ」


 そう言いながら巧は巨体の土人形に土偶を斬り崩す。

 ルルシは再度この場を脱出するように土壁を創ろうとするが反応がない。

 振り返ると巧が間近に迫っていた。


「ここの土は完全に“凍らせた”から、手前の魔法はもう使わせない」


 巧はルルシにむけ剣を振り下ろす。

 剣筋はルルシの胸から腹にかけ斬りさき鮮血がほとばしる。

ルルシ戦とはこれで決着です。

なんか呆気ない感じで終わった気がしますが、文章力がしょぼいので申し訳ないです。

文章説明が多くて会話が少ない感じですが、次話では会話が多く占めればいいなと思っています。


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