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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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マグワイアvsハリトラス&ルベスサ


 シロと仮面の男との決着が終え巧の所へと戻っている最中、ハリトラスとルベスサの二人はマグワイアと交戦していた。

 攻撃されているからか二人の全身、無数の切り傷がつけられていた。


「あいつの行動パターンが読めねえ」

「ただの魔偽師なら僕達だけで倒せると思ってたんだけど予想外すぎるね」


 街道から離れ、途中までは追いついていたものの、マグワイアは急に方向を変え木々に隠れるように姿を暗ます。

 相手を見失ったハリトラスとルベスサは背中合わせに互いを守る。

 雨や先の見えない薄暗さもあり、互いが互いの背中を守れば対処は出来ると踏んでいたハリトラスの予想は見事に外れた。

 逆にマグワイアは小柄な見た目の割には素早く、木々を足場に利用しトリックな動きで二人を的確に攻撃する。

 致命傷にはなっていないもののダメージの蓄積は増え、いつ深手になるかわからない状態。

 ハリトラスとルベスサは焦りを禁じ得ないでいた。


「くそっ、どうしてこんな中、俺達を攻撃出来るんだ」

「わからない……けど、何かがあるからこそ僕達を攻撃出来てるんだと思うよ」

「それは分かっているが、あいつとて状況は俺達と同じなはず」


 雨音のせいで音はかき消され、次に来る状況が不明瞭であった。

 ハリトラスは剣を構え、次に来るのを予想し振りかぶるが、剣は空を切る。

 代わりにマグワイアからの攻撃をくらい鮮血。

 攻撃をくらう最中、ハリトラスはルフラと訓練をしていた時の言葉を思い出していた。


「あなたは直観力は良いけど、状況に応じて戦略を使い分けられない傾向があるわね」

「そうか? まあ冒険者を長年していたが、魔物ならこれで対処出来るぞ?」

「確かに魔物なら本能で攻撃してくるし、単純であって対処はしやすいわね。だけどこれが人間だったらどう?」

「人間か、まあ盗賊相手ぐらいなら俺は負けないさ。実際何度も倒した事あるが」

「それは格下だからよね。同格または格上と対峙したときの場合」

「まあ確かにそんな奴とは戦ってないが、だが負けねえさ」


 自信ありげに言うハリトラスに対し、ルフラは思わず溜息をついた。


「はぁ……自信があるのは結構、だけど相手の技量が高ければ攻撃できず死ぬのよ?」

「そこはあれだ……相手に攻撃をさせなければいいんだよ」

「もし、私のように素早く動けて攻撃する余裕のある敵ならどうする?」

「何度も当たるまで攻撃するさ」

「いえ、当たらないわ。寧ろやられる一方」


 ルフラはハリトラス頬に両手を差し伸べ触る。


「だけどそんな中であなたがとれる選択肢は一つ」


 見つめる瞳に映るはハリトラス。

 ルフラの表情は優しく、愛おしそうに見つめていた。


「ヒューズト、逃げなさい」

「ああ、分かったよ。今がその状況なんだよなルフラ」


 ハリトラスはルベスサの腕を掴み走り出す。

 突如逃げ出すように走るハリトラスに対し、ルベスサは驚きの表情を見せる。


「ちょっ、ハリトラスどうしたの?」

「逃げるんだ」

「え?」

「俺達はあのままだと、あいつにやられる一方。だから逃げるんだ」

「だけど、逃げるだけだと倒せないよ?」

「ああ、それは任せろ。策はある」


 森の中を彷徨うように走り続けていた。

 そんな二人にマグワイアが木々を飛び交い追いかける。

 雨により地面は泥濘、足場をとられ走りにくい不利な状況。

 だがそれでも二人は走り続けた。

 そんな二人をよそにマグワイアは木々を飛び交う。

 足場の不安定さ、雨によるよる視界不良と音の消失、マグワイアにとって圧倒的優位な状況。

 勝てた、心にゆとりができ一撃で決めるように足に力を入れハリトラスに向かい飛び込む。


「やっぱり来たか」


 来る事が予想できていたのか、はたまた己の直観からか足を止め、マグワイアの方向へと向けると剣を振りかぶった。

 相手は何も足場がない空中かつ己自身の速度により避ける事も防ぐすべもなく、体を斬り裂いたかにみえた。

 すると鈍い金属音と共にマグワイアは弾き飛ばされた。


「足場が不安定だったからか浅かった」

「けどやったね」

「ああ、だけどまだ完全には止めをさせてない」


 いくつか疑問が出るが、そんな事はどうでもよかった。

 止めを刺すために近づくと、倒れているマグワイアは斬られた反動だからか虫の息。


「や、やめて……悪かった…………僕達が悪かった……許して」


 マグワイアは苦痛の表情で懇願する。

 戦争である以上、相手が一回り年下だからと言って許すつもりもなかった。

 ローブの隙間から出ている物に気が付く。


「尻尾?」


 マグワイアの体には人間の手足の他に長く太い尻尾のような物が付いていた。

 真っ先に浮かんだのが獣人であったが、尾の太い獣人は存在しない。

 勿論ハリトラスの経験上で出会った獣人の中ではの話である。

 世界には未だ把握していない部分が多い為、ハリトラスは考えるのを止めた。


「悪いがここで終わらせてもらうぞ」

「い……やだ……死にたく……ない」


 フードに顔を隠れてマグワイアの表情は見えてはいない。

 追い込んでいるにも関わらず不安は消えていなかった。

 演技にしか聞こえない喋り、それでもハリトラスには選択肢は一つしかない。

 相手が一回り年下の子供であるからか、それとも自身が相手に情けをかけている所為か。

 ハリトラスは振り切るように、剣を振り下ろす。

 マグワイアの体に突き刺さろうとした瞬間、ローブの中から(・・・)蠢く物が動き剣を弾き飛ばした。


「え?」


 予想だにしなかったのだろう、ハリトラスはそんな間の抜けた声をあげた。


「たくっ、こんな風に命乞いをしてるのに助けてくれないわけ?」

「なんだ……ぐぁッ!」

「ハリトラス!」


 マグワイアのローブの中に蠢く何かがハリトラスの体に直撃し、吹き飛ばされた。

 近くの木に背中からぶつかると、衝撃からか思わずむせかえる。


「流石にあんな風に攻撃するとは予想だにしなかったよ」

「死にそうになってたのも演技ってわけか」

「いや演技じゃなかったよ? 実際あんたの剣は僕に刺さったわけだしって、これボロボロになってるじゃん。あーもうこれ邪魔だな」


 マグワイアは自身に着ているローブを掴むと破り捨てた。

 顔は人間らしさを保っているが、それ以外の部分は青い。

 よく観察すると青いと思われた部分は鱗で覆われ、剣で切り裂いた箇所には穴が空いているが血は出ていない。

 変化という意味でなら悪魔化したシロに酷似していたが、それとはまた別に魔物化と呼ぶべき代物だろう。


「驚いたでしょ? 僕自身魔物と一体化、いや魔物を取り込まされたって言うべきかな。前回撤退したあとで師匠に話したんだ。そうしたら改造されちゃってね。笑っちゃうよねー僕自身が改造を趣味なのにされちゃう側になるなんてね」

「なんだと?」

「だからね。お礼をしなくちゃいけないんだよ」


 マグワイアの腕はペリペリと音を鳴らし、皮膚から引き剥がれるように触手が生え始める。

 剥がれた腕は人間の肌と思われる色合いが見え、皮膚の上に重なるように乗せられているのだろう。

 触手は薄く細長いひも状の物、太く縄の様な形状、鋭利な刃物のように様々な形へと変える。

 木々を飛び交い、攻撃を防ぎ、弾き飛ばした正体であった。


「僕がこんな姿を晒したんだ。あんたは終わりだよ」


 一歩また一歩近づくマグワイア。

 武器も弾き飛ばされ手元には何もない。

 このままでは嬲り殺されるのも時間の問題。

 ハリトラスはぶつけられた反動が思いの外大きく、全身が痺れ立ち上がり動かそうにも困難を極める。

 だが、力の限りを振り絞り、立ち上がりを見せた。

 動く事に予想外を見せたのか、マグワイアは表情を驚かせつつも嬉しそうに笑う。


「へえ、僕の一撃を受けて立ち上がれるとは思わなかったよ。だけどまだその様子だと回復には至ってないようだし避けるのは無理そうだね」


 ダメージからかハリトラスの足はガクつく。

 ハリトラスを見下すその表情は勝利を確信する顔。

 優位性の疑いようがない状況。

 だが、そんな状況下の中ハリトラスは顔を手で抑え笑いを上げる。


「勝てないとわかって狂っちゃった?」

「いや、笑うのは俺は弱さにさ。タクミやシロのあの二人に比べたら雑魚だ。今のお前にだって不意を突かなければ勝てないほどにな」

「なら弱いなら大人しく死んで僕の実験台になってね」

「それは勘弁願いたいな。まあ弱いなら弱いなりに役割ってのがあるもんだ」

「役割?」

「そう、お前が俺だけに集中してくれたおかげだからな。俺の役割は時間を稼ぐ事さ」


 マグワイアははっとすると、周囲を見渡す。

 ルベスサが詠唱を唱え終わる所だった。

 地面に光が放ち六芒星の魔法陣が浮かび上がり、危機感を覚えた。

 魔法陣から離れようとするが、一瞬の気の緩みから触手を摑まれ背中に突き刺さる感触が広がる。

 そのまま地面に倒されたマグワイアは自身の背中の上に乗っているのが先程まで弱っていたハリトラスだと気づく。


「自分より格下だとしても目を離すとは余裕だな」

「くそっ! 雑魚が離れろ!」


 触手をハリトラスの体に突き刺さらせるが、力は緩む事はない。


「ハリトラス退いて!」


 ルベスサの悲痛の叫び。

 願いを拒むようにハリトラスは首を横に振る。

 離れればルベスサは確実に仕留められる。

 そう踏んでいるのだろう。

 だが、解除して助けようとしても今のルベスサでさえ倒すのは不可能であるのが分かっていた。

 残された選択肢は一つしかなかった。


「ごめん、ハリトラス。いくよ! 【縦横束縛陣じゅうおうそくばくじん】」


 魔法陣はより光を放ち、杭のようなくさびついた鎖が魔法陣から飛び出し中央にいるハリトラスとマグワイア目掛け突き刺さる。

 一つだけではない、十や二十、それ以上に楔は出現し放たれた。

 二人を覆うように楔は増えていく。

 完全に覆う前にハリトラス雨の降る空を見上げ呟く。


「タクミ、シロ、ルベスサ、俺はここまでだ。楽しかったぜ…………ルフラ、すまなかったな。幸せになれよ」


 鎖の封印というべきだろうか、大量の鎖が覆うように二人を完全に隠しおえると止まる。

 中の二人は確認しようもないが、楔の量からすれば絶命は必至と思われた。

 ルベスサは放心状態のように見続けるが、雷とは違い、物が落ちる音が耳に届く。

 タクミと土の呪い子であるルルシが未だに戦いが続いているのだろう。


「タクミの所に行って助太刀してくるよ。ハリトラス、ゆっくり休んでいてね」


 雨音のみで返事はない。

 ルベスサは離れるように駆け出した。

 音に近づくにつれ、地面に振動が鳴り響く。

 木々を避け、茂みをかき分け街道と思われる場所に飛び出した。

 すると異様な光景が目に映る。

 ルルシは岩人形を創り出しシロ達に襲い掛からせている。

 対する巧は弛緩しかんしきって地面に倒れており、シロは悲痛な叫び声をあげ巧を守るように剣で岩人形の攻撃を防いでいた。


「タクミ、シロ!」

「タクミが、タクミが!」


 今にも泣きだしそうなシロの表情、危機的状況。

 すぐに理解すると地底束縛を放ち岩人形の動きを止めた。

 急いで二人に近づくと、絶句する。

 巧の全身が穴だらけだったのだから。


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