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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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仮面の男vsシロ


 仮面の男の後を追うように街道から離れ、シロは樹海を彷徨っていた。

 後ろを振り向けば街道は見えず、巧達とは完全に離れてしまっている。

 すぐに仮面の男に追いつけれると踏んでいたシロの予想は見事に外れていた。


「どこに隠れているのかしら」


 そう呟きながら、立ち止まると獣の耳を立て鼻をヒクつかせる。

 他の種族では不可能な広範囲の音を聞きわけや臭いを嗅ぎわけようとしていた。

 変身魔法でイヌ科の獣人となっているシロは、その特徴を使う事が可能であった。

 例えば、耳や鼻はイヌ科と同じように人間の聴力の四倍、嗅覚に関しては百万倍と言われている。

 また、肉体的にもエルフや人間よりも身体能力は獣人のほうが優れ、奇襲されたとしても反応し反撃する事は容易。

 だが、獣耳で音を拾おうとするが隠れているのか雨音により聞きとりにくくなり、臭いもまた雨により薄まっていた。


「探しているようだが、俺がどこにいるかわからないだろう」


 仮面の男と思わしき声がシロへと届く。

 葉が擦れる音にシロの耳が反応し、そちらに剣を振り下ろした。


「光斬」


 振り下ろした剣先から光の刃と形を変え飛び出す。

 光の刃は樹々をなぎ倒し音の鳴った方向へと放たれると、遠くで叫び声を上げ地面に落ちる音がした。


「それで隠れているつもりなら笑わせてくれるわね」


 シロは落ちた方向へと向かうと、そこにいたのは一匹の魔物。

 光斬に当たったからか、首から下にかけ切断され絶命していた。


「これは、ルーイって子が変身していたのに似ているわね」


 以前巧達と戦った際、ルーイが黒い水晶を飲み込み変身していたリザードマンと酷似していた。


「ちっ、足止めにもならないか程度の低い」


 姿は現す事はないが、仮面の男の声だけがシロの耳に届く。


「コソコソ隠れてないで出てきたらどう?」

「俺が出なくても、そいつ等が貴様を倒すさ」


 木々の間からシロを囲む形で現れる三匹のリザードマン。

 先程倒した魔物と同様の種類であった。

 シロは目を瞑り、天に顔を向けた。


「三匹相手だと分かって諦めたか?」

「ねえ……この魔物、いえ元の人達は誰かしら?」

「元が人間だと分かっていて、殺すのを躊躇うか? それとも怖気づいてしまったか?」

「答えてほしいのだけど」

「……そいつらはこの森で見つけた者達だ。強かったが俺達のほうが実力は上だったから容易に捕まえれたぜ? 一人を魔物化したときの他の奴等の表情何てぶるぶる震えて怖がってて面白かったぜ。仲間だったならご愁傷様だな。クククク」

「そう……やっぱりあの人達だったのね。これの相手が巧じゃなくて私で良かった。タクミならまた悲しませちゃうのは嫌だったからね」

「貴様何言って……」


 シロは目を開けると、力の限り踏み込み飛び出す。

 雨により泥濘ぬかるみが出来、足場が不安定であったにも関わらず関係ないと言わんばかりに。

 リザードマンは手の鎌をシロに向け反撃しようとするが、シロは避ける素振りも見せず鎌ごと一刀両断した。

 続いて二匹、三匹と赤子の手をひねるように瞬殺であった。


「ちっ、相変わらずの化け物め。だが、俺の居場所はわからなければどうする事もできないだろう」

「そうね、貴方が隠れている場所は判断しにくいわね。けど、かくれんぼはお終い」


 シロは変身魔法を解くように元のエルフへと姿を変える。

 エルフに戻ったシロは、目を細め周囲を見渡す。


「見つけた」


 見つめる先には何の変哲もない周囲と同じ木々。

 しかしシロは向かう方向に確信をもって動き出し、木々の一つを剣で斬り上げた。

 切り裂いた木には剣の斬り跡が残り、何かが切り離されたと同時に血が噴き出した。

 物体の正体は仮面の男による腕。木から落ちる人物。

 落ちた正体は仮面の男であったが、カメレオンのように自身を服ごと周囲に溶け込ませていたのだ。


「貴様獣人じゃなかったのか。それにどうして分かった」


 仮面の男は腕を抑え込み目の前にいるシロを見上げる。

 仮面を着用しているが、表情の内側は苦悶、苦痛、焦りといった言葉から察する事ができた。

 対称にシロは恍惚、歓喜、愉悦といった表情をする。


「よく観察すればわかる事なのよね。上手く溶け込んだとしても、微妙な色の屈折、更にはこの雨で自身の姿があらわになっているのだもの」

「この雨で俺自身失態を犯したってわけか」

「そうじゃなくてもこのエルフ姿でなら、目先が見えない暗闇の中だろうがどれだけ離れていようが見つける事は容易ね」

「ただのエルフならそこまでは不可能なはずだ」

「そうね。だけどそれを知った所で貴方はここでお終い」


 シロは仮面の男の命を終わらせようと剣を振り上げる。

 仮面の男はシロの腕から手首にかけての繋となっている部分が目に映る。

 繋となる部分の腕から手首にかけて色の違い、腕からは禍々しさが醸し出していた。

 仮面の男はそれが何かをすぐに理解する。


「……なるほど、その腕か」


 無言で振り下ろした剣は仮面の男を切り裂いた。

 男は地面に横倒れると、笑いを上げた。


「ククク、道理で化け物臭いわけだ。貴様も自身を改造し種族の道を踏み外した。一緒にいたあの小僧だって本当は貴様の様な化け物は怖いはずだ。だから一緒に戦わず離れさせた」

「……煩い……」

「化け物だからな! ハハッハハハハハ」


 笑いを上げ続ける仮面の男に対し、剣を何度も振り下ろす。

 首や四肢が離れようが、臓器が飛び出し血が噴出しようが、シロは相手の言葉を否定し続けるように切り刻んだ。

 笑い声は完全に収まり、辺り一面血の海が広がりをみせた。

 近くには仮面の男が付けていた仮面が落ちており、またその近くには男の生首があった。

 顔は焼けただれ、隠すように仮面をつけていたのだろう。

 怒りは出てこない、ただ茫然として男の顔をシロは見つめる。


「ええ、貴方のいう通りよ。けどこんな私でも巧は受け入れてくれたの。信頼してくれたの。貴方にはわからないでしょうけどね」


 早く巧の所へ戻らないと、そう呟きながらこの場を後にするよう離れた。


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