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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
128/144

開戦


 仮面の男の言葉と同時に雷は落ちた。

 薄暗さも相まってか、轟音と共に眩い光。

 空気は震え、振動は巧達まで届き、更には轟音による耳鳴り。

 五感の内一つの機能が一時的に失われたが、巧に焦りはなかった。

 雨で濡れているとは言え、落雷場所では確実に燃え広がり巧の場所まで到達するのは時間の問題だろうと予想される。

 だが、今はそれに意識を向けている暇はない。それは帝国(マグワイア)側も同じであった。

 先程とは打って変わって、互いに互いの行動を牽制けんせいするかの如く動かない。

 無理もなかった。

 現状、互いの呪い子が揃っている状況である以上、迂闊に近づけずにいた。

 だが、いつまでも牽制しあっていては拉致があかないと踏んだ巧は行動に移す。

 耳鳴りが収まり、雨の音が巧の耳に聞こえ始めると、巧は仮面の男に指を向けた。


「シロ、お前は仮面の男との実力は知っているはずだな」

「ええ、前回は私の迷いで倒せなかったわね」

「なら前回のリベンジを果たせ。俺の事は気にするな、そしてこいつらの事も気にせず容赦なく行け」

「ふふ、わかったわ。ありがとうタクミ」


 予想だにしなかったのか、シロは弾んだ声で返答する。

 巧はシロの顔は見ずにいたが、どのような表情で相手に向けているのかは予想ができた。

 続けるようにマグワイアに指を向ける。


「ハリトラスとルベスサはマグワイアを頼む」

「おう、任せろ」

「わかったけど……ならタクミは地面から出てきたあの人かな」


 巧は頷くとルルシを一瞥し言う。


「ああ、あいつ(ルルシ)の相手は俺だけしか出来なさそうだしな」


 ルルシは未だ巧以外、注目をしていない様子。

 実力としても未だ未知数である以上、巧が相手する他なかった。


「作戦は終わったか?」

「ああ、そうだな。貴様等を倒す相手が決まった」

「ならば、ルルシ。お前はあの小僧の確保せよ。俺達は……むぅ!」


 仮面の男が言い終わる前に巧は水ビームを二つに分散し放つ。

 水ビームはルルシの両隣を通過した。

 距離が離れていたからか、届く直前に仮面の男とマグワイアはルルシから離れるように回避。

 思惑通りに動いたからか巧はニヤリと口元を上げた。


「シロ、ハリトラス、ルベスサ今だ!」


 巧の言葉と同時に飛び出す三人。

 仮面の男とマグワイアはルルシから離れるように街道から外れ、それぞれ左右の森の中へと退避する。

 追随するようにシロ、ハリトラス、ルベスサの三人は後を追うように森の奥へと姿を消す。

 この場に残るは巧とルルシの二人のみ。

 巧は掌をルルシへと向けた。


「他に邪魔者はいない。この場にいるのは俺とお前の二人だけだ」

「……」


 巧の言葉に返答はしない。

 そんなルルシは未だその場から動かず、相変わらずの虚ろな目をしていた。

 だが、意識はマグワイアや仮面の男でもなく確実に巧に意識を向けていると感じとれた。

 そんな巧は何を思ったのかルルシにゆっくり近づく。

 十メートルも満たない距離になったのだろうか、今水魔法を放てばルルシを仕留められるそう思った矢先、ルルシはゆっくり掌を巧へと向けた。

 同時に巧は動きを止める。


「やっと反応したな」

「……警告。それ以上近づけば容赦ようしゃなく攻撃を実行する」


 初めて言葉にするルルシ。

 見た目とは似つかない落ち着いた言動、機械のような淡々とした喋り方。

 だが、言葉の節々に威圧感を持たせていた。


「おっと、攻撃されるのは勘弁願いたいかな」

「ならば投降せよ」

「投降? そっちが投降すべきじゃねえのか?」

「……交渉は決裂とみなす」


 巧は身を構え、いつでも反撃できる態勢に整える。

 すると巧の周囲の地面が盛り上がりをみせ、ドーム状に覆い隠そうとする。

 逃げようと後ろに飛ぶが、一歩遅かった。

 脱出には間に合わず、巧は土の檻に閉じ込められた。


「確保完了」


 そう言い終えると、雷は落ちた。


 巧達がルルシと接触していた同時刻、森林街道近くの広間ではテルヌス帝国兵とベルチェスティア王国軍が交戦していた。

 こちらもまた雨が降っていたが、場所は離れていたからか小雨程度のもの。

 近くに木々以外は何もなく、全体に広いため松明や魔法の光、光石により全体の状況は把握できていた。

 しかし状況は芳しくなく、ベルチェスティア王国軍の兵士達の阿鼻叫喚が轟く。

 ある者は身体に風穴を開けられ絶命し、またある者は手足が欠損し苦痛にのたうち回る。

 恐怖からか武器を捨て逃げ惑う者、腰を抜かしその場にうずくまる者など。

 追い打ちをかけるようにテルヌス帝国の兵士達が勢いを増し襲ってくる状況。

 数であればベルチェスティア王国軍のほうが今だ優勢ではあるが、戦況は劣勢である。

 そんな絶望の最中、フェスの闘志は消えていなかった。

 目の前にかたきとも言えよう存在が立っていたからだ。

 戦場とは不釣り合いの全身黒いドレス、黒い髪色の長髪、女性らしい華奢な体に透き通るようなきめ細かな肌。

 街を歩けば老若男女問わず誰しもが振り返るであろう絶世の美女。

 だがその女はテルヌス帝国最大の戦力であり呪い子のクロだった。

 クロの周囲には首の無い死体が存在し、細見とも思えるその手に持っているのは兵士の生首。

 逃げ出そうとするベルチェスティア王国兵士の一人にクロは何かを飛ばした。

 全体は黒く、布のようにヒラヒラとしているが、色は薄く地面を透けて見えていた。

 例えるなら黒い影ともいえる存在。黒い影は兵士の体に巻き付き全身を覆うと、兵士は悲鳴を上げ始めた。

 口や目、鼻や耳など穴という穴から鮮血が飛び出し、兵士は絶命する。

 そんな光景に反するようにクロは妖艶に微笑む。


「あの方とは違って相変わらず人間は脆いわね」

「この化け物め!」

其方そなた等人間からしたら確かに化け物かもしれぬな。しかし妾にはあの方と同じ“災厄”と異名が付いているのだから。そっちで呼んでちょうだい」


 災厄、自分の事をそう呼ぶと懐かしむように恍惚とした表情を見せる。

 逆にフェスは顔が強張り、持っている大剣に力を籠める。


「今度こそは復活出来ないぐらいに粉々にしてやる」

「……そう言えば、其方は誰かしら?」


 首を傾げ、思い浮かばないクロに対しフェスは苛立ちを覚えた。


「三十年前、テルヌス帝国と戦争した際に貴様を切り刻んだ者だ!」


 あぁ、思い出すようにそう呟くとクロは両手を合わせた。


「確かフェスって名前だったかしら? 妾の体を真っ二つにされるなんて久々だったから、再生に手間取った」

「あの時は仲間を、ベルチェスティアの兵士を貴様が弄ぶかのように殺してくれたな!」

「そう、あの時の其方がそんな姿になっているとは。こちらの世界(・・・・・・)に来たあの方の姿は妾を覚えているのか少し心配」

「貴様は何を言っている? それにあの方とはいったい誰の事だ」

「其方には関係ない話……いえ、タクミ。ヤマウチ・タクミと言う名前は知っていれば、どこにいるか教えてくれるかしら」

「ヤマウチ・タクミ? どうしてあの者の名が出てくる」

「知っているなら教えてくれると嬉しいのだけど……其方は口を開きそうになさそうだから、アレに聞いてみましょう」


 クロは再び黒い影を出すと、兵士を一人拉致する。

 兵士は恐怖し怯え、青ざめていた。

 フェスは助けに飛び出そうとするが、クロが操る影により妨害を受け近づこうにも不可能であった。


「た、助け」

「妾の質問の返答次第で其方の命は決まる」

「な、何でも答えるから助けて」

「なら、ヤマウチ・タクミと言う人物は今どこにいるのかしら?」


 兵士は震えながらも森の方へと指した。


「そう……行き違いになったのね」

「お、教えたんだから助け――」


 兵士は影に覆われ、圧縮されからかグシャリと音を鳴らした。

 血液と思われる液体が噴出し、中に居るものは絶命している事がわかる。

 気にする様子もなく、クロは突如笑いを上げた。


「やっぱり参加しているのね…………あは、アハハ、アハハハハハハハ」


 薄気味悪く、しかしどこか嬉しそうに笑う。

 不気味に思うもフェスは問いただす。


「何が可笑しい」

「あの子や他の者の話だけだと少々物足りなく、心配だったの。はよう妾はタクミに会いたい。その前に其方達もう用済み」


 言い終わるとクロは指を鳴らした。

 すると敵味方問わず、その場にいたほとんどの者が動きを止めた。

 全身を覆う黒い影により身動きを封じ込められたのがすぐに理解する。

 フェスは持っていた大剣に全身の力を籠め、黒い影を叩きつけた。

 黒い影と剣がぶつかり金属音のような轟音が鳴り響くと、ともにその場にいた全員の全身が解かれた。


「そんなもので俺が効くと思うか!」


 その様子にクロは驚きを見せる。


「跳ね除けるとは。流石、妾を一度殺しただけはある」

「貴様が生きていると知る前から己の鍛錬を欠かさなかったのでな。すぐにその余裕のある笑みを苦痛に歪ましてくれる」

「ふふ、歪まそうにも其方等の兵士は腰が抜けて役立たない者ばかり、いったいどうするのか見ものね」


 フェスは大剣を掲げ上げ、叫んだ。


「ベルチェスティア王国の兵士並びに冒険者達よ。恐怖に屈するな立ち上がれ! 貴殿等が恐怖で逃げたい気持ちも分かる。だがその場合は臆病者の称号が与えられ一生自身の中で後ろめたさが残るだろう。逆にこの戦争に立ち向かえば勇敢と言う称号が得られる。四肢を切断されようが喉元を食らいついてでも掻き切れ! 相手に絶望を与えよ。我が王国は敵国への鉄槌を下す! 幸い兵力では未だこちらが優位が故、好機でもある。更にはこの戦争に勝利すれば私から陛下へと進言し、より多くの褒美を与えると約束しようではないか!」


 演説を聞いていた王国軍兵士や冒険者達は後押しをされるように叫び始めた。

 どれだけ恐怖しようが、指揮が高まる事により周囲に合わせてしまうのが人間としての本能。同調圧力のようではあるが、これでいいとフェスは考えた。

 奮い立った王国軍に対し、テルヌス帝国の兵士達は圧倒されるように押され始めた。

 そんな中、フェスに近づく者が数名。


「俺達も加勢する」


 黒鉄くろがねの刃のウエイン達であった。

 四人はそれぞれ、武器を持ち戦闘態勢に入っていた。


「遠くで見ていたけど、あの黒い物体を操るとは恐ろしいですね」

「リーダー大丈夫かよ。敵とは言えすっげえ美人だぜ?」

「シロさんも美人だったっすけど、この女も美人っすよね」

「流石に俺だって立場を弁えているってか、お前等真面目にしろ!」


 緊張感のない漫才コント。

 だが、緊迫感のなさにも関わらず意識はクロに向けられていた。

 絶対強者の前に立ち向かうさま、相当な修羅場をくぐり抜けてきたに違いないとフェスは感じとると、黒鉄の刃の面々を制した。


「悪いが、こいつの相手は俺がする。確か貴殿はタクミとあの場に一緒に居た者だな?」

「ああ、あいつ等をこの戦争で参加させているのに、俺達はのこのこ逃げるわけにはいかないしな。それから俺の名前はウエインな」

「ならばウエインとその仲間達よ。貴殿等は森の奥にいるタクミと言う者達と合流してほしい」

「タクミ達が向こうに!?」

「そうだ。それにこいつをタクミと会わせるわけにはいかない。出来るだけ離れろ」


 状況を理解するや、ウエインは目配せをする。

 三人は同調するように駆け出した。


「そのような話を前に妾から逃げられると思っているなら笑わせてくれる」


 ウエイン達はその場から離れ巧達の元へ向かおうとするが、見逃すはずはなかった。

 黒い影でウエイン達目掛け巻き込もうとした矢先、ピタリと動きを止めた。

 通り抜けようとするウエイン達に対して向かってくるフェス。

 どちらを優先して止めるべきかは明白であった。

 黒い影はウエイン達から進行を変更し、フェスへと向かう。

 フェスは予想してかのように黒い影を薙ぎ払う。


「鬱陶しいわね」

「ならば全力でこの私を倒してみせよ災厄の魔女」


 ウエイン達は森へと入り遠ざかって行く。

 二人の気迫に押されたのか、王国軍、帝国軍とも動きは止まり固唾を呑む。


「ふふ、望み通り殺してあげる」


 不敵に笑を見せた。

 後ろには大きくうごめく黒い影。

 その姿ゆえ、死を連想させる想いに駆られ、フェスの背筋は凍る。


「妾とタクミへの妨害、万死に値する。其方が先程の通り、四肢をもぎ取られ、動かなくなろうが己の無力さを知り後悔しながら死ぬがよい人間」


やっと書き終わりました。

クロの喋り方をもうちょいどうにかすればよかったかなと思いました。

偉そうにする感じの喋り方って難しいですね


場面展開では目まぐるしくなる感じですが、分割しても良かったかなと思いつつもうこれでいいかなと思ったりもしました(笑)

次もまた目まぐるしくなると思います多分


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