表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
127/144

好機と苦境


 四方八方から襲いにかかる人間の形をした土偶の群れに対し、巧達は冷静に攻撃を見極め対処する。

 土偶の攻撃方法は至極単純。

 操り人形のように目の前の者をただ殴る。それだけだった。

 知性ある生物なら足で蹴る、物を持ち攻撃といった選択もできるだろう。

 だが、その選択肢を破棄するかのようにただ一心不乱に殴るだけであった。

 そんな単純かつ子供のような攻撃でも巧達は気を抜く事はできずにいた。

 ベルゲンでの一撃を目の当たりにしているのもあるが、土偶の攻撃が予想以上に速く、巧達はどうしても慎重にならざるを得なかった。

 更には一体だけなら対処のしようができたが、巧達の目の前にいるのは優に百体は超えるであろう数。そんな数を相手に焦らないわけがなかった。


「皆大丈夫か?」

「ええ、攻撃は単純。だけど、連携が上手いわね」


 心配する巧に対し、シロは応じるように頷く。

 同意するようにハリトラスも頷く。


「確かに……それに馬鹿みたいに多いな」


 ハリトラスはそう言いながら向かってくる土偶を一刀両断。

 胴体と頭を分断された土偶はピタリと止まり、全身が地面に崩れ落ちるとガラス細工のように粉々になり、土へと還る。

 すぐさま次の土偶がハリトラスに襲いかかる。

 休んでいる暇を与えない、群がる土偶達。

 わらわらと湧いて出てくる敵に対し、巧達の体力は徐々に奪われ、どちらが先に限界に達するのか火を見るよりも明らかであった。

 更には極度の緊張や疲労によって、巧達は息を切らし出始める。

 そんな中、ハリトラスは頬から顎にかけて垂れる汗を拭い、叫ぶ。


「こいつらしつこすぎるだろ。タクミ、何か策はないのかよ!」

「ああ、あるにはあるが」

「なら早くしてくれ」

「やろうとしているが……くそっ!」


 巧は仮面の男とマグワイアに掌を向けようとするが、土偶が反応し妨害する。

 近づかれた土偶を前に、巧は水の剣を創り切断。

 崩れ去る土偶には一切目もくれず、仮面の男とマグワイアを一瞥。

 戦闘中にも関わらず二人は戦闘態勢をとらず、動く事もせずただ巧達の様子を観察していた。

 土偶は未だに地面からゾンビのように這い出て巧達を襲うが、反対に仮面の男とマグワイアは未だ微動だにせず。

 そんな相対する敵に巧は違和感を感じ始めた。


「何故あの二人は動かないのだろう」

「何かの機を生じて動くんじゃないかしら」


 巧と同様の疑問をルベスサやシロも口に出す。


「俺達がくたばるのを待ってるんじゃねえのか?」

「ハリトラス、それはないと思うよ」

「何でだ?」

「彼らの目的はタクミだよ」


 続けるようにシロが答える。


「それに貴方も聞いたでしょ? タクミを生かして捕らえるって。なら、私達を殺しちゃうと非効率的でしょうね」

「だけど、邪魔になる俺等を殺したほうが捕らえやすくなるんじゃねえのか?」

「それは違うわ。タクミ一人のみなら最悪の場合でも逃げ切れるの。けど私達の誰かを人質に取れば、タクミの事だから残る選択をするでしょうね」

「くそっ! あいつ等俺等を甘く見てるのかよ!」


 苛立ちからか地面を蹴りあげるハリストラ。

 土は舞い上がり、土偶に当たると一瞬止まるが土偶達は再び巧達に襲い続ける。

 襲って来る土偶を水の剣で薙ぎ払いつつ巧は言った。


「確かに人質という点でいけば間違ってはいないと思う。俺を捕まえるなら今は手段を選んでいる余裕はないだろう。だけど、土偶を放つ以外何もしてこない矛盾。その点を考えれば別の理由も自然と考えられるよ」

「別の理由?」

「そもそもだ。呪い子である俺や前回仮面の男と対峙したシロなら、あいつは実力を知っているはず。なら、次の段階に移行してもおかしくないはずだ」

「私達の対策はできているから余裕があるだけじゃ?」


 巧は首を横に振り否定を示す。


「いや“余裕はないが、余裕はある”かもな」

「どういう意味?」

「そもそもあいつ等は女王の命令によりここにいる。この戦争を起こしている以上失敗するわけにはいかないはずだ」

「なるほどね、それで余裕がないと言えるのね。だけどそれだと、余裕がある事とは矛盾してるわよね?」

「ああ、余裕があるとはならないな」

「なら、どうして余裕があると言えるの?」

「少なくとも考えられるのは……これ(・・)でわかるはずだ」


 空から数滴の水が降ってくる。

 水はシロの頬につくと手で拭う。


「雨?」


 空に覆われていた雲から雨が降り始めた。

 小雨であったが、すぐにゲリラ豪雨のように強雨へと変わる。

 同時に土偶はゼンマイが切れた人形の如くピタリと動き止めた。

 突如動きを止める土偶に対し、シロ達は警戒する。

 そんな中、巧は土偶に近づき押し倒すと、土偶は抵抗もせず地面に倒れ全身が砂へと変わる。


「やっぱりか」

「タクミわかるの?」


 確信をもって巧は頷く。


「少しは不安だったが、さっきハリトラスが蹴り飛ばした土や石がヒントだった」

「土や石?」

「そもそも、土偶は他に類を見ないほど数は多い。こんな魔物自体見た事も聞いた事もあるか?」

「いいえ、寧ろこんなのが大量にいたら既に問題になっているかもね」

「そうだ、そこでさっき余裕があると言ったが……まあ今は余裕がなくなったわな。二人とも」


 巧はマグワイアと仮面の男のほうに顔を向けると、マグワイアは余裕の笑みはなく苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 仮面の男も仮面に隠れて表情は判断できないが、それでもマグワイアと同じだろうと予想はついた。

 そんな二人に気にすることなく巧は話を続ける。


「最初に疑問に思ったのが何故お前達はそんな離れた所から傍観するのみなのか」

「そのおっさんが言った通りに弱った所を捕まえるためだよ」

「なら、土偶と連携して奪いにくればいいだけだよな。それをしなかった、いや出来なかったと言うべきだよな」

「はったりを言うな!」


 焦るマグワイアは声を荒げるが、巧はスルーするように笑いを飛ばす。


「ははっ、なら今すぐ襲わせてみな。まあ“制御できてない”だろうけどな」

「ぐっ……」


 ぐうの音も出ずにいるマグワイア。

 そんな中、理解が追い付いていないのかシロやハリトラスが巧に疑問の表情を向けていた。


「タクミどういうことなの?」

「シロ、土偶は何故俺等や兵士達を襲ってあいつ等は襲われなかった違いはわかるか?」

「……あの二人のどちらかが操って近くの者を攻撃しただけじゃ?」

「半分は正解」

「半分?」


 巧は首を縦に振る。


「なら俺達を土偶に襲わせるとき、マグワイアがどうしてたか覚えてるか?」

「確か……襲わせる前に地団駄のように踏みつけたわよね」

「そっ、あれが土偶を動かす合図だったって事。そもそも、操るにしてもこれだけの土偶は不必要だし、ただ単に襲いかからせるためだけならあんな無駄な行動をする必要性はあると思うか?」

「なるほどね。確かに必要もないし制御も無理ね。これに気づく何て流石私のタクミ」


 嬉しそうに笑うシロ。

 それでもまだ理解できてないハリトラスがいた。


「ハリトラス、土偶止まってるよな」

「ああ、確か俺の蹴った土や石によって動きは一瞬止まったからだっけか。今は雨で止まり続けてるが」

「あの時と違い俺が近づいたにも関わらず止まってる。攻撃する最大のチャンスなのにも関わらずに」

「どういうことだ?」

「本当に操れていたら、俺が近づいた途端、攻撃してたさ。あいつ等から()()()()()()()()()()()、それをしなかったって事は」


 理解するようにハリトラスは言った。


「もう一人いるって事か」

「そう、これだけ土偶を生産するとなると、分散するにしても隔てなく均等に。同時に大量の魔力が必要。自動追尾なら今でも動いて攻撃してるだろうけど、それもない。従ってこいつら全員手動で操ってるはずだ。ただそんなのは通常の人間では到底不可能だろうな。通常の人間ではな」


 はっとするハリトラスは警戒するように辺りを見渡す。


「まさかどこかに」

「そう、土の呪い子であるルルシが隠れている。だろ、マグワイア」


 巧はマグワイアに目を向けると、不気味な光景が移る。

 追い詰められたマグワイアは顔を歪ませたと思えば突如笑いをあげていた。

 どこか不気味で薄気味悪く、追い詰めら発狂するような笑いではなく余裕のある笑い声。

 巧達は警戒するように戦闘体勢で構える。


「何がおかしい」

「いやー悪いねー。あれだけでここまで情報を知られる何て、びっくりしただけだよ。一つ教えてほしいんだけど、どうしてルルシがいるとわかったんだい?」

「至極単純な事、土偶と言うのは元々土で作られる代物だ。それをお前達の中で操れる人物とすれば一人しか思いつかない」

「へえーなるほどねー、なるほどなるほど……全く失敗だったよ。いやーこの程度でばれちゃう何て。ぼく達困ったなー」

「不利と分かっているなら、大人しく投降してリウスの居場所を教えろ」


 土偶が使い物にならず圧倒的不利になった、そんな状況にも関わらずマグワイアの表情は焦りはなくどこか余裕を見せていた。

 切り札はまだ見せていないのか、未だ見ぬルルシが関わり合いをもっているのか。

 痺れを切らした巧はマグワイアと仮面の男に向かい飛び出そうとした矢先、シロが巧の腕を引っ張り無理やり止めた。


「タクミ待って、何かが近づいてくる」


 巧は耳を澄ますと、雨の音とは違い遠くで木々が倒れる音が聞こえ始めた。

 音は徐々に巧達へと近づきもう間近に迫ったと思えば突然音は止む。

 不安をかき消すように唾をゴクリと飲み込んだ。


「来たようだね」


 マグワイアが呟く。

 巧達の注目はマグワイア集まる。

 すると地面が人一人分の大きさまで盛り上がり、土はひとりでに崩れ中から一人の青年が現れた。

 髪の毛は黄色で目立つ色合い、体にはマグワイアと仮面の男同じようにローブを羽織っているが目は虚ろ。

 だが、その目はどことなく巧に向けられていた。

 巧はその青年が誰かを知っていた。


「……ルルシ」

「いやー土偶が止まった時はびっくり。状況が状況だからルルシを遠くに配置させてたのが裏目だった。もしあんた達が何も言わずに攻めてきてたらこっちは防ぐ手段もなく負けてたよ」

「まさか……来るのが分かってた上で話を合わせてたって事か」

「せーいかーい」


 ルルシが来た事により状況が一変、巧はチャンスを逃したことに対ししかめっ面をする。

 巧達の目の前にいるのは、かつてベルチェスティア王国軍が魔物の軍団というテルヌス帝国が流した偽の情報に惑わされ、マグワイアと一緒に現れ甚大な被害を与えた者。

 王国側からして最も警戒すべき対象の一人であった。

 このタイミングで現われたからには、巧を捕らえるという大義名分を果たすつもりなのだろう。

 今まで黙って見ていた仮面の男が前に出る。


「役者は揃った。ちんけな小細工抜きだ。さあ始めようではないか」


 雨は勢いを増すばかり、マグワイア達との最終局面と言わんばかりに雷が落ち戦闘は開始される。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ