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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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対敵交渉


 名前に関しては、リウスによって聞かされてたのだろうと大方の予想を付くことは出来た。

 しかし、巧を欲しい。そう求める仮面の男に対し何かの罠かと疑問が巧の頭の中を駆け巡る。

 理解が追い付かず混乱していると、仮面の男は追撃するように巧に問う。


「もう一度言う、我々テルヌス帝国はヤマウチタクミ、お前を引き入れたい。答えを聞かせてもらおうか」

「……その前に何で俺なんだ? 他にいくらでも実力者はいるだろ」


 眉をひそませ怪訝けげんな表情を見せつつ巧は言った。

 無理もなかった。

 テルヌス帝国はリウスを奪い去った敵国。

 過去に対峙したとは言え、巧自身の実力を悟られるようなヘマはしていないと自負している。

 従って名指しで欲しがられるような行為は一切していないはずなのだ。

 そんな内情を知ってか知らずか、仮面の男は思わぬ事実を告げる。


「いや、帝国としては“呪い子”であるお前が欲しいのだよ」


 仮面の男の言葉に全身の血管が凍り付くような衝撃が襲った。

 同時にその場にいたシロ、ハリトラス、ルベスサさえも衝撃が走る。

 巧が呪い子としての存在として知る者はごく少数。ルベスサに気づかされて以降、巧が呪い子だと発覚したのもごく最近のこと。

 仮に魔偽師まぎしが近くにいても、勘が余程鋭くない限り巧が魔法を発動した所で気づかないのは魔偽師であるルベスサが証明している。

 だが、仮面の男ははっきりと確証をもって巧の事を呪い子だと公言した。

 表情が一層険しくなる巧は真相を探るように仮面の男に問いただす。


「どうして俺が呪い子だと?」

「お前が呪い子だって事は我らの女王から直接話を聞いた。なにせ、あの方はお前の事をいたく気に入ってる感じだったがな」

「また女王か、俺はお前らが言う女王とは関わり合いがないんだが?」

「そうか? あの方はお前の事を古くから知ってる風だったがな」

「そーそー、それに君の名前を呼ぶ際は僕等とはまるで別で、親しみをもって呼ぶような感じだったし。なんか君には嫉妬するよ」


 仮面の男やマグワイアの言葉に対し、巧はますます混乱する。

 いくら記憶の断片を探そうとしても思い当たる節はない。だが仮に仮面の男やマグワイアが事実を言ってるならと、そう考えていると誰かが腕を掴むのを巧は感じた。

 腕の掴む方へと振り返ると、その相手がシロだと気づく。

 嫉妬からか目が据わり、睨むように巧を見つめる。


「……タクミ……それ本当?」

「ちょっ、痛い痛い! 腕が痛いって!」


 無意識に力強く掴んだシロの手は巧の腕に爪を食い込ませたのか、巧は痛さのあまり思わず苦痛を上げた。

 苦痛を聞いたシロは我に返り、申し訳なさそうに巧の腕を離す。


「ごめんさない。けど異性だと知ってつい……」


 尻尾は垂れ下がり、顔もうつむき反省の色を示す。


「あー、気にするな。シロがいつも想ってくれてるのは知ってるさ」

「タクミ……んっ」


 気遣うように頭を撫でると、内心嬉しかったのかシロの頬は朱色に染まり尻尾を振り元気になる。

 暫く撫でたのち巧はマグワイアと仮面の男に向き直す。

 暇そうにしている二人に対し、巧は内心申し訳なさそうに感じた。


「待ってたんだな」

「なに、俺達はいつでも行動に移せたさ。だがな、そうしなかった。その意味が何故だかわかるか?」


 思い浮かばないのか巧は首を横に振る。


「帝国はヤマウチタクミという一個人に対して欲している。あのリウスとか言う小娘みたいに奪うのは造作ではないが、あえて行動を起こさなかった」

「なら今すぐさらえばいいじゃないか。まあ俺は抵抗するがな」

「確かに、お前に抵抗されるとこちらとて安易に捕まえられるとは到底思えない。だからこそ交渉だ。お前とて無駄な争いを避けられるなら避けたいと思うだろ?」


 巧の性格を把握しているのかのように的を射る。

 事実、この世界に来てから今まで不必要な争いを避けられるなら避け、巧自身その性分だと理解している。

 だが、まさか相手の口から言われるとは思いもよらなかった。

 巧は疑うような眼差しを向け挑発を試みる。


「……ああ、確かにそうかもな。だけど、お前達が今までしてきた事を考えればこんな交渉に意味があるのかはなはだ疑問だがな」

「過去の事にし対して考えてみればそうかもしれない。だが、これからはどうだ? お前がこちら側に付けば、この戦争だって終わるかもしれない。それにそこらのボンクラに比べ知力はあると見て取れる。帝国としてもお前の要求はできうる限り協力を惜しまないと約束しようじゃないか」


 嫌味ったらしく言った巧の挑発は受け流された。

 何かしらの動作ぐらいはあると巧は想定したが見事に外れる。

 仮面のせいで表情は見えないものの、未だに妙な落ち着きようであった。

 自分達が、さも優位性があると錯覚させるための事だろう。

 今起きている状況や戦況、また王国と帝国の全面戦争という括りに対してなら仮面の男は正しいと言える。

 だがこの場だけにおいてなら、巧達に圧倒的優位であるからこその話し合いなのだと巧は予想した。


 仮面の男から視線を逸らし、ふと周囲に目を向けると、大量の土偶が巧達の周りを取り囲んでいることに気が付く。

 土偶達は微動だにせず、時間が止まったかのように突っ立っている。

 兵士達の悲鳴はもう聞こえない。恐らく土偶にやられて全滅したか、逃げ果せたは定かではない。

 だが巧達を襲わない所を見ると、土偶は仮面の男とマグワイアが作った魔法か魔物、またはその他によって作られた物だと理解する。

 巧の選択によって命運を分けられると言っても過言ではなかった。


「時間が惜しい。返事を聞かせてもらおうか」


 急かすように仮面の男は煽る。


「まあそう急かすなよ。とりあえず結論と言うか俺個人の見解としたら、とてもじゃないがこの国は厳しいだろうな」

「そうだ。どれだけ足掻こうが、こちらにとっては優位には変わりがない」

「確かにそれは否定しないよ。実際お前達の国が保有している呪い子は三人。対照的にこの国において呪い子は俺一人のみ。現状だけ見れば、ベルチェスティア王国は確実に不利っちゃ不利」

「ああ、お前にとって損でしかない。兵士等の人数はそちらが多いが戦力差ではこちらが圧倒的優位としている」

「損か、ははっ確かに損かもな。それに俺もこの国に対して理不尽に感じたりもしたが」

「ならば裏切ればいい。我々テルヌス帝国はお前を受け入れる手筈てはずは整っている。あとはお前が協力し、ベルチェスティア王国を落とせば国はお前の物として約束しよう。それだけじゃなく権力も思いのまま。極上の女や食い物、大金だって手に入る」


 仮面の男は手を差し出し、巧を受け入れようとする。

 魅力ある提案、どう転んでも要求を呑む。そんな状況だ。仮面の男はそう思い込んでいた。

 だが、思惑に反するように巧は腕を組み悩むように考え込む。

 この状況下でまだ悩む事があるのだろうか、やはり子供。仮面の男は内心苛立ちを覚えたのか声が大きくなる。


「何を迷っている! お前にとってこの上ない譲歩だろう」

「そうだな、仮に俺がお前達の仲間に入ったとして、シロ、ハリトラス、ルベスサはどうなるんだ?」

「そいつらに関しては殺しても問題ないと聞く。なに、そいつらの代わり何ていくらでも用意してやるよ」

「……そうか、なら俺の答えはこうだ」


 巧は組んだ腕を外し、マグワイアと仮面の男の二人にてのひらを向けた。

 掌の先からどこからか水が出始め、徐々に集まり三十センチほどの球体水が浮かび上がる。

 呪い子の証たる無詠唱無宣言魔法を目の前の二人に見せつけた。

 正体がバレている以上、隠す気さえしない。

 その行為がどのような事を示すのか理解させるための証明でもあるが、“脅し”と言う意味合いも兼ねていた。

 巧の行った行為に対し、マグワイアの表情が強張りを見せ、仮面の男は舌打ちをする。


「……交渉決裂か」

「そうだねー。僕達側についたほうが断然有利なのに、せっかく仲間にしてあげようと思ったのにね」

「確かに魅力ある提案だったかもしれんな」

「なら、今からでも帝国側に付くんだ」

「仲間を裏切る何て俺自身したくねえよ。それにお前達に奪われたリウスだって連れ戻す」

「もういいや」


 マグワイアは呟くと、隣にいる仮面の男のローブを掴む。


「僕達がどうこう言おうが、あいつ言う事聞かなさそうだし。もういいよね? 他の奴も邪魔そうだし」

「ああ、殺して構わん。ただしあいつのみ手足を切り裂いてでも生かして捕らえろ」

「うん、わかった。お前達いけ!」


 マグワイアは地面に足を強く踏みつけると、一斉に土偶が巧達を襲い掛かる。


やっと執筆終わりました。

ちょいちょい長文が目立つようになっていますが、一行以内に収めれる事は出来なかったのは残念ですね。

次回から戦闘シーンかけたらいいなと考えています。


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