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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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警戒


 森林街道に入ってから先ほどまでいた草原とは打って変わって、馬車が走れる道幅以外辺り一面木々に覆われガラリと雰囲気が変わる。

 馬車から空を見上げると雲で覆われているせいか、日差しが差し込む事もなく暗い。

 馬車の天井には光石の入ったランタンが吊るされており、馬車の中は明るかった。

 そんな事をせずとも、巧は闇目のスキルがあるので暗くなろうとも、日が差す昼間のように見えている為か左程恐怖には感じていない。

 だが、他の者にとってはまた違う恐怖を感じる事だろうと巧は感じていた。

 それもそのはず、周囲には人の気配もないせいか道を走る車輪の音以外は全く聞こえていない。

 暗さも相まってどことなく不気味さが広がりを見せていた。

 そんな巧の考えも気にも留めていないのか、ハリトラスは陽気に語り掛けてきた。


「しかし驚いたぞ?」


 そんな事をハリトラスが言うので、巧は一瞬何の事かと思考を巡らせた。

 「ああ……」納得するよう呟く。

 先ほどのベルゲンとのやり取りに対しての事を言っているのだとすぐに理解する。


「あれには俺も驚いた。まさかシロが飛び出すなんてな」


 巧はシロに視線を向けると、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情で頬を膨らませる。


「むー、だってタクミがあんな奴等に馬鹿にされてるのが許せなかったの」

「まあ、あの対応をされるとは思わなかったよ。けど俺も認識が甘かったって言う部分は否定しないさ」


 と、笑ってみせた。

 だが内心はあの時の対応をもう少し穏便に済ますべきだと巧は反省する。


「それにしても、シロが飛び出したあとにこれ(・・)からタクミの声が本当にするんだからビックリしたよ」


 ルベスサは袖を捲り上げると、腕に装着された腕輪を見せた。

 装飾はされておらず、銀色の腕輪。

 その中央にはくぼみがあり、窪み近くには二つのかぎに石を引っ掛ける仕組みである。

 巧はこの馬車に乗る前に予めシロ、ハリトラス、ルベスサそれぞれに同じ石の入った腕輪と予備用の石と共に渡し装着するよう指示をだしていた。


「ああ、それは高受声石の代わりとなる石からの発信だからな。内部の魔力が無くならない限り、いつでも俺達の中で連絡を取り合うことができるようになる代物さ」

「へえ、なるほど。これで外に出た時は連絡し合うんだね」

「そう。多少離れていた所で声を受信送信できるのは実証済み」

「しかし、タクミが居ないのにこの腕輪から声が聞こえた瞬間、他の人達ビックリしてたよ?」


 ルベスサの話を聞いて巧の表情が少し強張る。

 馬車の中に残っているは巧、シロ、ハリトラス、ルベスサの四名のみ。

 フィティアとその仲間は森林街道に入ってから少し経過した際、周囲を探索するために馬車から飛び出していた。

 意識を巡らせれば、巧達のいる馬車からそう遠くにいない場所にフィティア達と思われる数人の気配を確認した。


「それでフィティア達は何か言ってたりした?」


 ルベスサは首を左右に振る。


「少し驚いたりしていたものの、何も言ってこなかったよ?」

「そうなのか」


 巧は安心したのか胸をなでおろした。

 何せベランジェから託された高受声石、巧が出す魔法水の件もあり仮にも無断で複製したと知れた際には問題が大きくなるのは火を見るよりも明らかであったからだ。

 だが何も言わなかったのは黙認しているのか、この戦争が終決した際に浮上させる可能性は否めなかった。

 現状、馬車の中にはフィティア達はいないため確認のすべがないので、巧は諦め意識を切り替える。


「そろそろか……馬車を止めてくれ」

「わかった」


 ハリトラスが持っている手綱たづなを引っ張ると、馬は従うようにスピードを緩まり、その場に止まった。

 馬車が止まると、唯一聞こえていた車輪の音さえ止まったせいか静寂が巧達を襲う。


「さて、ここからこの道沿いを辿って馬車をつれ歩いて探索を開始する」

「歩きで? このまま馬車で行くのは駄目なの?」


 そう疑問に思うルベスサに対し無理もなかった。

 何せ森林街道はまだ続いている。テルヌス帝国まで続くとはいかないが、出口と思わしき場所はまだ見えていないのだから。


「確かに馬車のほうが出口まで向かうだけなら早く着くと思う。だけどルベスサ、俺達の目的は何か忘れたか?」

「ああ、そうか」


 巧とフェスとの高受声石でのやり取りを思い出したのか納得するような顔をした。


「もし、敵が道沿いに現れたら撃退。道沿い以外の場所に魔物が現れたら警戒。ただし、害がなさそうなら無視だ」

「襲ってきたらどうする」

「襲ってきた時点で倒す。少しでも脅威を排除するに越したことはないからな」


 理解したようにシロ、ハリトラス、ルベスサは首を縦に振った。

 巧は馬車から降りると辺りを見渡す。

 周囲には樹木が重なり、更に暗さが広がりを見せていた。

 雲がなく快晴なら今見ている景色がどれほど良かっただろうかと巧は考えたが、顔を左右に振り考えるのを止めた。

 全員が馬車から降りるのを確認すると、巧が先頭に立ち進んだ。


 歩き始めて数時間と言う所だろうか。

 山道もあって斜面が少しあり歩きにくく、日本と違ってアスファルトとまではいかないものの道が舗装はされていない。

 巧は空を見上げるが一向に晴れる兆しがなく、いつ雨が降ってもおかしくない状態。

 左右を見ると、シロとハリトラスは冒険者だけあってか疲れを感じさせていない動きだが、ルベスサに関しては少し息を上がらせていた。

 元々一般人からのテルヌス帝国での実験戦士にさせられた身、年齢も兼ねて体力はそこまでと言ったようなのだろう。


「少し休憩しようか」

「い、いや大丈夫。僕の事なら気にせず歩いて」


 ルベスサは気づいていたのか、気を遣わないように巧に促す。

 だが、巧は首を左右に振って拒んだ。


「いや、少し気になった事もあって一度ここで休もうと思う」

「気になった事?」

「ルベスサはおかしいと思わないか?」

「ええ、タクミのいう通り確かに異常だわね」

「ああ、こればかりは俺も気づいたぜ」


 冒険者の勘だからか、シロだけではなくハリトラスさえも異常事態に気づく。

 だが、そんな二人を見ても未だルベスサは疲労のせいか、判断しにくい様子であった。


「二人は気づいてるようだけど、俺たちが侵入して数時間は経つが、魔物が()()()()()()()()()()。それにさっきからフィティア達がどこにいるのか」


 巧の言葉にルベスサは思わずはっとする。

 フィティア達が倒している可能性もあるが、魔物と同じようににフィティア達の気配がなくなったのだ。

 近くにいれば人物であろうが、魔物であろうが感じ取る事が巧やシロには自信があった。

 小さい森林でなら魔物は出会わない事もよくあるのだが、このような広い場所では魔物との遭遇率は格段に上がる。

 だが、完全にいないというのは語弊ごへいである。

 魔物に対してはいないが、フィティア達以外で何者かが付け狙う気配は巧には察知していた。

 そんな巧は落ち着かせるようにルベスサの肩を叩く。


「敵……?」

「多分敵側の細工か何かだと思うが、警戒して損はないと思う。念のためフェスさんに連絡を……と?」

「ん? なんだ?」

「馬の足音のようね」


 突如、後方から地鳴りが鳴り響き、次第に大きく広がってくる。

 後方以外にも左右からも巧達に近づく気配を察知する。

 巧達はそれぞれ武器を手に持ち警戒するよう反撃の態勢を整えた。

 そんな巧達の前に現れたのは意外な人物であった。


「おやおやー? 目の前にいるのは私どもより優秀かつ信頼を置いて先に入られた方々じゃないかね」


 巧達と森林街道に入る前に揉めたベルゲンであった。

やっと今回も数ヶ月おいて今回の話を完成しました。

本来なら昨日投稿するつもりでしたが、執筆があまり進まず。

まあゴールデンウィーク中にあと1話投稿できたらなと(できたらいいなあ・・・

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