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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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窃鈇之疑


 一台の馬車が隊列をなした軍隊の隣を通り、先頭に向かい走っていた。

 馬車の中には巧、シロ、ハリトラス、ルベスサ、フィティアとフィティアと同じエルフ達、計十人が乗っている。

 巧は高受声石をインベントリに入れるとおもむろにため息をついた。


「と言うわけだ。聞こえていたと思うが、俺達はこれからこの先の森林にて敵の捜索に入る」

「ええ、わかったわ。けど、どういった風に動くの? 闇雲に動いた所で相手をそう簡単に見つけるって事はないでしょうし」

「確かにシロのいう通り。だから、俺達四人はこのまま馬車でテルヌス帝国まで続く道沿いに沿って移動しながら探索する」

「私達はどうするの?」

「フィティア達は木の上から探索し見回り、周囲を警戒してほしい。俺の見立てだと仕事柄、気軽に運動でき、あの森程度なら問題なく動けるだろうと判断しているのだけど」


 そういうと巧はフィティアと他エルフ達に視線を向ける。

 外の兵士とは違い、誰もがローブに軽装と身のこなし軽さを重視していた。


「ええ、確かにあの程度なら私達は動けるし。もしここが森なら外に出ても、走っているこの馬車に追いつける自信はあるわね」

「ははっ、なら十分。では森林地帯に到着したら俺達は地上から、フィティア達は木の上からの観察。そして見つけ次第即座に行動に移る。何か他に提案のある者はいるか?」


 誰も巧の意見に反対する者はおらず、皆首を縦に振る。

 巧は外に視線を向けると、もう間もなく森林に到着するのが確認する。

 その時、声がすると同時にゆっくり止まる事に気づく。


「ハリトラス、どうした?」

「それがどうも目の前に兵士達が邪魔して進行できないんだよ」


 覗くように巧は外を確認すると、ハリトラスの言う通り数人の兵士が馬車の進行を立ちはだかる。

 その中には兵士とは違う格好の男もいた。

 巧はすぐにその部隊を統括している軍人貴族の一人である事に気づき、馬車から降りた。


「……どうかしましたか?」

「軍統括のこの私、ベルゲン・バレン・シュタイにフェス将軍から軍全体の停止命令、そして休養の通達があった。それなのに貴様が操っている馬車はその命令を無視し、何の連絡もなくここを通り抜けようとしたのだ! これは刑罰物であるぞ! 貴様はどこの所属の者だ!」

「私は特殊部隊の隊長である山内巧。私達はそのフェスさんから森林街道周辺を調査、また敵がいるかどうかの探索命令を受けました」

「なっ、特殊部隊と言えば王国が結成していると聞き及ぶが、この戦争にも参加させているとは……いや、そんなはずはない。そのような通達があれば気づくはずだ」

「……ああ、なるほど」


 命令違反者を取り締まる。正しい行為であるが、フェスからの伝令がベルゲンには伝わっていなかったのだ。最低限の説明しかされていなかったのだろうとそう判断した巧は納得した。


「でしたら、一度フェスさんに私達の事を聞き直して下さい。伝え忘れの可能性があるので、すぐにお分かりになると思うのですが……」

「しかし、こんな子供が指揮を執るなぞ」

「今は時間が惜しいので私達は急ぎます」

「……怪しい……貴様、嘘をついているな?」

「兵士達には馬車の進行を妨げないよう命令をって……え?」

「ここは王国軍の先頭付近。ここを潰してしまえば、後方にも影響を受け遅れを誘い、陛下に任されたこの私の立場を危うくさせる算段のつもりだな」


 男の言う事に巧は一瞬理解が追い付かずにいた。

 巧自身、外見が子供だからと言う理由で信用されにくいのは理解していた。

 しかし、保身のためか男が安易にこのような馬鹿げた事を言い出すとは思いもよらなかったからだ。


「貴方が何を仰っている意味がわかりません。私達はそんな事はしないし、仮にそうだったとしたらこんな堂々と横切らない。それに、私がこの国の味方である証拠はあります」

「そう思わせるのが狙いだ。お前達こやつを捕まえろ!」


 兵士達は困惑するもののベルゲンの指示の元、巧を取り押さえようと囲む。

 巧は一歩後ろに下がるが逃げれないと判断すると体勢を低くし反撃するよう構え手をあげた。


「くそっ、話の聞かない奴め……ってシロ?」


 巧の瞳に移ったのはシロが馬車から飛び出す姿。

 顔は鬼のような形相、手にはロングソードのような両刃の黒刀を携え殺気を放っていた。

 誰に対し殺そうとしている相手を巧は容易に想像ができた。

 巧はまずいと言った表情になり、腕をまくり上げると、腕輪が装着されていた。

 腕輪の真ん中に石がはめ込まれ、その石を指で押すと同時に叫ぶ。


「シロ待て! そいつを殺すな!」


 シロの剣はベルゲンに向け剣を振り下ろすが、巧の声が届いたのか剣の刃がベルゲンの首元近くで止まった。

 巧が止めなければベルゲンの首と体は確実に斬り離されていたであろう。

 溜息をつき安心すると、巧は兵士達を押しのけるように進む。


「危ない所だった」


 そんな言葉にシロは不服の表情を浮かべ、剣をベルゲンの喉元から離す。


「何で止めるのタクミ。こいつ貴方の事を馬鹿にしたのよ? 絶対に許さない」

「たくシロ、直情的に行動するよりもう少し考えて行動してくれ。仮に今この場で殺してしまうと返って収集つかなくなっちまう、ただでさえこんな状況なのに」


 巧は周囲を見渡すと、誰しもが緊迫した雰囲気で剣を巧とシロへと向けていた。

 ベルゲンに対しては剣が離れたのか、尻餅をつき顔面は蒼白であった。

 ガタガタと震わせながら巧とシロに対して指を刺す。


「だ、誰かこいつ等を捕らえろ! 危険人物だ。これは命令だ! 早く誰か」

「見苦しいわねベルゲン卿。人の話を聞かず、利己を得ようとする。そして相手がどれほどなのかを見極めれていない判断」

「誰だ!」


 その声がする方向に巧は視線を向けると、フィティアがいた。


「私はこの特殊部隊の一員であるフィティア・ファーマ。初めましてと言うべきかな」

「フィ、フィティア・ファーマ!? 陛下直属の部下であり陛下から厚く信頼を置いていると噂されている。だけど本当にいるとは」

「確かに私は普段表立つことはないので貴方に会う機会はないだろう。だけど今回は私も作戦に参加し、タクミ達に同行するよう陛下から任務を受けたからでもある」

「なっ……。し、しかし私は」

「仮にも、一個師団の指揮を任されてる身。現場指揮としての判断は良しとは言え、その後の行動で安易に仕掛けずとも他に対策を取ることもできたはず。状況能力は甘いと私は思うが?」

「ぐ……」


 反論した所で自身の失態を演じる事になるからか、ベルゲンは反論できないのか悔しそうに俯く。

 事実、巧の言葉に判断するしないにしろ別の対策方法は容易に考えられた。


「タクミが言った事は事実。フェスの命を受け、この先にある森林を調べるために私達はここに来た。剣を下ろし、道を開けなさい!」


 フィティアの言葉に気圧された兵士達は困惑の表情を浮かべながらも道を開けた。


「さあ行きましょう」


 巧は頷くと馬車に乗り込むとふと後ろを一瞥した。

 ベルゲンは立ち上がり恨めしそうな顔で巧達の事を見ていたが、巧は気にせず再び前を向く。

 巧が乗り込んだのが確認されると、馬車は動き出すと森林街道に入って行く。

 馬車が離れて暫しの沈黙が訪れた。


「おい」


 沈黙を破るように声を出したのはベルゲンであった。

 未だ怒りがあるのか、ドスの利いた声が上がる。


「今すぐ休息を中止して、我々はあの森へと進む」

「し、しかしそれだと命令違反になるのでは……」

「いいからさっさとしろ! 他の兵士達も叩き起こせ!」

「か、畏まりました」


 兵士達は隊列を組むよう慌ただしく動く。


「あの小僧と女め……よくも、よくも馬鹿にしてくれたな。私が優秀でどれだけ陛下に貢献しているか目にもの見せてやる。はーははははははは!」


 ベルゲンは高らかに笑いを上げた。

もう少しいい感じに執筆できないかと思いつつも、今回はちょっと無理やりな感じになりました。

まあとりあえずはこのベルゲンがどうなるかは次回のお楽しみに

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