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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第六章
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参加表明

 ベルチェスティア王国には国内最大級とも呼べる冒険者ギルドが存在していた。

 そこは本部でもあり、王国との繋がりのある建物ともいえた。

 そこに通っている冒険者は様々で訳ありで一人にいる者、数人のパーティーを組んでいる者、その中でランクがとりわけ高い者も多くいたりなど。

 そんな中、一部の冒険者達はあるパーティーに視線を向けていた。


「これはタクミ様、今回はどのようなご用件でしょうか?」

「ベランジェ陛下からこれをギルド長に渡すようにと頼まれました。それから封筒の中を調べてもらえればわかる通り、今回の戦争による冒険者の参加を促す内容だと聞いています」


 受付嬢はゴクリと唾を飲むと、巧から手紙を受け取った。


「お預かりいたしますので少々お待ち下さい」


 受付嬢は慌ただしく席を離れ、ギルド長の所へと向かう。


「何だか注目してる奴等いるな。視線が突き刺さるぜ」

「そうだなハリトラス。まあ曲がりなりにもリウスという呪い子の存在がいるパーティ、あの時の顕彰会に参加していた冒険者はいるんだろう」


 実際に何名かは顕彰会にいた冒険者が存在していた。

 全てではなく、その一部が周囲に広めている様子でもあるのだ。

 そんな中、巧達に近づいてくる人物が一人。


「タクミにシロさんも無事だったんですね。それにハリトラスに新しい人かな?」

「ウエインも無事だったんだ良かった。こいつはルベスサ、新しい仲間だよ」

「ルベスサ・ラインサルだよ。よろしく」

「ウエインホークハルト・ツエリエルト、ウエインと呼んでくれて構わない」


 ルベスサの差し出す手に対してウエインも握り返す。


「そういえば、あの赤髪の子いないな」

「あ、ああ。ちょっとな……それよりも、そっちも他の人達はどうしたんだ?」

「今日は他に用があるとかで解散してるが、俺は何となくここへ来てた所だよ。しかし、すごい事聞いたぜ? 魔物の軍勢の時に現れた呪い子を撃退したのも、この前の襲撃事件の時もお前達が活躍したとか」

「ウエイン、お前が聞いたこと知ったこと全て真実でもあるんだよ」

「確かにドルアガとの対決は目を見張るものがあったけど、それでも面白い冗談だよな。あはは」


 笑いながら巧の肩を叩くウエインに対して、否定するハリトラス。


「信じられないかもしれないが、それでもこいつらと共に行動していた俺から言わせれば、俺等と違って本物だ」


 そう言い切るハリトラスに対して周囲の冒険者達は更に巧達を睨み付けるように、険悪な雰囲気を醸し出していた。

 だが、ウエインはまだ信じられない様子で巧を見た。


「まあ現場に居合わせて見なければわからないし、信じろってのも難しいわな」


 と、巧はウエインのフォローする。


「いや、悪い。信じてないわけじゃないんだ、だけどあれを見てるとどうも信じにくくてな」

「あれと言うと、呪い子の事?」

「そうだ。俺達はあの時運よく逃げれたが、あれはまさに恐怖の産物だ。次に会うとしても倒せるかは……」


 恐怖心からか、ウエインは巧達から視線を反らし思い出したくない様子で話す。


「大丈夫、次会うときは俺達で何とかするから」

「何とかって流石にタクミやシロさん達でも」


 すると受付嬢が戻って来たのか、依頼書を手に持っていた。


「大変お待たせして申し訳ありませんでした。タクミ様、シロ様、ハリトラス様、ルベスサ様。皆様方に御受けいただく依頼はこちらです」


 巧達に渡される依頼書。

 内容はテルヌス帝国との戦争に関する内容であり、ランクは六からと報酬は一人につき金貨二十枚。

 ランク四と五の巧達において非常に破格の額であり、ランクにおいては県外。


「あのう、俺等参加条件届いてないし、報酬も異常に高すぎません?」

「いえ、これは王国からの命令でして。特に皆様方には、これまでの功績や活躍によりランクを六つへと引き上げることになりました」

「……なるほど、これなら最低限の条件は達成できるのか」

「はい、ですのでドッグタグをお預かりいたします」


 巧とハリトラスのドッグタグを受け取ると、受付嬢は奥へと入っていく。

 別の受付嬢が掲示板のほうへと向かい、走っていた。

 張り出される紙、それはギルドから冒険者に対して、テルヌス帝国との戦争の参加を促す内容。

 受付嬢は大声にて広間にいる冒険者達に参加を促すように叫び、冒険者達はその紙に注目する様子で集まってくる。


「巧達は見に行かないのか?」

「多分同じのだろうし、俺達はもう貰ってるしな」

「そうか……参加はするんだな。俺達は……」


 巧はウエインに声をかけようとするが、何を言っていいのか思い浮かばずにいた。

 気軽に参加しようなどとも言えず、先の魔物の軍勢にて呪い子との体験した恐怖は拭えないのだから。

 そんな中シロは巧の肩に手を置く。


「いいじゃない? 逃げれば。この戦争に参戦するしないにしろ、冒険者にとっては自由なんでしょ?」

「ちょっ、シロ!」

「あら、いいじゃないタクミ。臆病風に吹かれて怖気づいちゃったのは、この人だけではないのだから。逆にその恐怖を体験して戦場に出てこられても足手まといになっちゃうかもしれないから」


 一部の冒険者だけではなく、多くの冒険者が巧達に見るように睨んでいる。


「あの呪い子に対してどうせ対峙せず逃げちゃうんでしょ? なら邪魔になるだけだから参加しないでほしいわね」


 シロの発言がきっかけになったのか、数人の冒険者は巧達へと襲い掛かる。


「遅いわね」


 襲ってきた冒険者達はシロを掴もうとするものの、シロの圧倒的速さについてこれず皆倒れ伏す。


「これで分かったかしら?」

「すごい……」


 ウエインは唖然とし、巧は困ったような顔をした。

 周囲の冒険者達もシロの圧倒的強さに呆然とし動く事もなかった。


「あ、あのここで闘ってはいけません!」


 奥から戻ってきたのか、巧とハリトラスのドッグタグを持ちながら受付嬢が困り果てていた。


「申し訳ないです。とりあえず、俺達の用は済みましたのですぐ出て行きますね」


 巧は受付嬢から青いドッグタグを二つ受け取ると、振り返る。


「ウエイン、俺達は強制的な参加だ。だけどお前は任意である以上、参加しなかろうが責められる事はないんだよ。命あっての物種だしさ」


 そう言い残し、巧達は外へと出て行く。

 その後ろを見送るウエインにとっては、何も言えなかった。

 先ほどのシロの異常な動きを見たせいだからか、巧の言葉に突き刺さったからかはわからない。

 だが、心に迷いが生じていたのは事実であったからだ。

 そんなウエインはある決心をすると、足を踏み出す。

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