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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第一章
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決闘

(ここはどこだろう?)


 巧は奇妙な夢を見ていた。

 地面に足をつけて立っている感じでもなく、ふわふわした宙に浮いてる感じでもなく、そのどちらとも言えない感覚。辺りを見回しても真っ暗であったが身体を動かせる事はできた。

 その場にいてもしょうがなかったから歩いている。いや歩いている風な感じと言った方がいいかもしれない、それほど曖昧なのだから。巧は暗闇の中を歩いているが不安はない、暫く歩いていると一匹の魔物が現れた。

 その魔物はゴリラであるのだが全身が白く、巧に近づく。

 一歩下がるとゴリラが威嚇するように口を開け歯を見せ手を上げ振り下ろそうとしたので、巧は避けようと後ろに飛ぶ――――


 頭に何かがぶつかる感覚がしたと同時に、強い音が聞こえ巧は目を覚ました。


「いってえー」


 辺りを見回すとベッドからずり落ちたのだろうと、床に寝転がっていた。

 起き上がるとベッドのシーツと布団が乱れているのがわかる、相当暴れてたのだろう。

 背を伸ばし欠伸したのち、窓に手をかけ開ける。外は朝だからか明るい。日差しのおかげで部屋は明るく光石もいらないほどに。

 時計を確認してみると八時半と表示されていたので、起きる時間は少し遅いがそれでも日本にいたよりかは健康的な生活が送れていた。


「さて、今日は確か靴を受け取ったあとにギルド依頼探してみるかな」


 予定を立てると、ローブを羽織り朝食を食べるため一階に下りる。

 一階には。ばか騒ぎしてた人達はいなくなっていた。


「おはよう」

「あら、おはよう」


 ここの亭主の奥さんであるアニスに挨拶をする。


「朝食用意するわね」


 用意してくれている間に顔を洗いに行く。

 井戸の中に桶を入れ、水をすくい上げると桶の中に入った水で顔を洗う。

 魔法を洗えばすぐに済む話なのだが、MPを消費したくなかったのは理由として大きいが、他にこの井戸を使って何かをする、という体験自体が巧が日本にいたときではなかったので新鮮ではあった。

 店の中に戻ると朝食が置いてあるのでアニスにお金を渡し席に座って食べ始める。


「旦那さんは?」


 辺りを見回しててもウオルレットはどこにもいなかった。


「今朝まで酔い潰れて床に寝転がってたから、流石に他のお客の邪魔になるので外に置いてきてもらっているのよ」

「あれで全部か? 捨ててきてやったぞ。お、坊主じゃねえか! 飯ちゃんと食ってるか?」


 店の入り口の扉から入ってきたウオルレット。


「もう、坊主じゃなくちゃんと名前で呼ばなきゃだめでしょ? けど私も名前知らないわね」


 名前を教えてなかったのをすっかり忘れていた。

 ただ巧には鑑定スキルで相手の情報がわかっていたが、夫婦だけ知らない状態である。


「あ、ああ悪かったよ坊主。俺はウオルレット・ヴォルゲット。こっちは妻のアニスよろしくな!」


「よろしくウオルレットとアニスさん。俺は山内巧、巧と呼んでくれ」


「タクミか、珍しい名前してんだな。それで今日はどうするんだ?」


 今日の予定を思い出す。


「今日は靴が出来上がってるだろうし、靴屋に寄ったあとギルドで依頼受けてみようと思ってる」

「ほお、なら今日が初依頼か」

「あら、頑張ってね」


 飯を食べ外にでる。

 外に出て隣にを見ると、大量に酔いつぶれている人が積み重なっていた。まさに死屍累々である。

 靴屋に向けて歩いているとある噂を耳にする。


 森の中に入ると奇妙な生物に出会う、巨大で力が強く大木なんて軽々と持ち上げられる、白色の素早い猿、懸賞金が大量にかけられてる、ランク六つ相当の冒険者でも倒される、魔法が使える生物。


「まあ誰かが倒すだろ」


 巧は自分にはそこまで気にしなくていいと判断する。

 靴屋に到着して店長に靴ができたかを聞いてみる。


「これですね、履いてみてください」

「おお、いいじゃん。靴も申し分ないし」


 茶色を特徴としたメンズシューズに近い靴。紐もちゃんとついていて調整には可能。更に足はゆったりしていて歩きやすく、これなら山だろうが草原だろうが悪い道でもいい感じに歩けて巧は気に入る。

 更にこれも魔法が付与されているため、足のサイズが自然と調整される。


(本当魔法万能すぎる)


「いえいえ、タクミさんが見せていただいたこの靴のおかげで作れる事ができました。ありがとうございます。けど本当によろしいので? この靴を買い取らせても……」

「ああ、今はもうぶかぶかすぎて流石に履いても歩きにくいし、今後も参考に作ってもらえるなら持ってるより手放して職人に任せたほうがいいと思ったからさ」


 巧の言葉に感動したのか店長は「頑張らさせていただきます!」と巧の手を持った。


(金もゲットしたし処分完了っと)


 靴屋を出てギルドに向かう。ギルドの中に入ると昨日より少しばかり人が多い。


(何かあったんだろうか?)


 周りを聞き耳を立てていると、大通りで噂されていた白い魔物の事を話していた。


(すごいんだなその白い魔物)


 そんな事を考えていたら、ギルドの休憩席から男が巧の方に指を指して大声で叫ぶ。


「兄貴あいつだ! 昨日俺がやられたの!」


 叫んでいる方向を振り向くと見た事もない男がいた。

 その隣には兄貴と言われた屈強そうな男が座っている。男は立ち上がり巧に近づき、目の前に立ちはだかった男は首に青色のドッグタグを付けていた。

 巧は男に対して鑑定をしてみることに。


 名前:ドーファ・アベルト

 年齢:28歳

 性別:男

 レベル:25

 状態:なし


 レベルを見る限り、ゴブリン亭のウオルレットとアニスよりかは弱かった。

 ドーファが近づくと周りは小声で『新人潰し』のアベルト兄弟がまたやってるよ、などと話している。


(新人潰し……またベタなお約束に巻き込まれたのか)


「おい小僧、うちの弟が昨日お前にやられたと言うのは本当か?」

「さあ? 覚えてもないけど……」


 弟と思われる男は兄貴と呼ばれる人物に耳打ちをする。その時に聞こえたのが裏路地で急にやられたと、この弟は昨日服屋に行く途中で絡んできたチンピラであるのがわかった。復讐するために自分でやらず兄貴に叩きのめしてもらおうという寸法だった。


「悪いが大事な弟なんだ、あれだけ大惨事な事をさせられたんだ。子供だろうが責任とってもらうぞ」

「いや無理だって、てか今思い出したけど勝手に絡んできたのそっちの弟のほうじゃん」


 弟は慌てたように兄貴に言い訳をし始めた。


「こ、こいつ嘘ついてる。あいつのほうから絡んできたんだぞ! あのせいで俺は大怪我を負ったんだ!」

「悪いがそう言う事だから慰謝料として金貨三十枚払ってもらおうか」


(どうしよう、めんどくせえ)


 この手のクレーマーは何言った所で何も聞かず、仮に言う事聞いたら最後。調子に乗りどんどん要求が高くなる。巧が仕事をしていた時でさえ客がわけわからない事で無駄に威張り怒鳴る始末。謝って済めば問題ないが、この手の輩の事だから謝っても無駄だと巧は理解していた。


「それなら訓練所で決闘してみたらどうですか? それで決めましょう」


 振り向けばギルド受付嬢のメルエが立っていた。


「え、でも」

「でもじゃありません」

「けどこいつらが勝手に絡んできたんだぞ」

「この場をどうにかするのはこの方法しかありません」

「だけど……」


 無言の圧力がきつく巧は音を上げた。

 感じ取ったのかメルエはアベルト兄弟のほうへと顔を向く。


「ひっ! わ、わかったそれで決着をつけよう」


 ドーファは思わず声をだした。そのあとしまったという顔をする。


「これで決まりですね」


(なんだかな~)


 ――――場所はギルド裏の訓練所。


 巧はいつも通り魔法使用するために武器はなし。

 ドーファは武器に両手斧を持っていた。


「これより決闘を行います。ルールは一対一の制限時間無し。武器・魔法使用可。相手が降参宣言や気絶などは負けと認め、死亡した時は死亡させてしまった側にギルドから厳しい罰則が課せられます。以上ですがお互い準備はいいですか?」

「大丈夫」

「いつでもいいぞ」

「では始めてください!」


 距離をとりやすくするために巧は後ろに下がるが、ドーファは逆に距離を詰めようと前にでる。


「【水ビーム】」


 突き出した巧の手から水のビームが出てくる。水の大きさはアベルト弟に与えた水よりも少し大きいドッチボールぐらいの水を放つ。

 放った水はドーファの腹に当たり吹き飛ぶが、手にはしっかり両手斧を持っている事に巧は称賛を送る。


(仮にも青色のドッグタグを持ってるだけはあるか)


「いきなりあんなのかますとは思いもよらなかった。だが次はそうはいかないぜ【衝撃光波しょうげきこうは】!」


 ドーファは両手斧を掲げ振り下ろし地面にぶつけた。その地面から光の衝撃波が巧に向かってくる。

 衝撃波が巧の所に到着する前に横に避けた。

 それを見越していたか、ドーファは巧に近づこうと走る。

 巧は手を突き出し水ビームを放つと、ドーファではなく地面へと向かって当たる。


 「はは、失敗しやがった! ……なに!」


 地面は土であった為か、あたった水ビームで土が飛び跳ねてドーファの顔にかかる。土が目にも入ったからか手で払おうとしたとき、穴が空けた所に足が入り込んでこける。こけた際にも両手斧は持っていたが、巧の水魔法よって斧は飛ばされドーファの前で巧は手を突き出す。


「ふぅ……どうする?」

「ま、参った。降参だ」


 武器を飛ばされたからか、起きる気力がなかったドーファ。巧はメルエのほうを向くとメルエは泥まみれになっていた。


「あ……」


 メルエの状態に冷や汗をかく。

 泥を落としたメルエは二人を説教をする。

 巧の隣にはドーファが何故かいた。


「まあ今回はこの辺にしときましょう。今回の決闘はタクミさんの勝ちでいいですね?」

「ああ」


 頷くドーファ


「おい、こっちへ来て謝れ」


 呼ばれたのはアベルト弟。


「どうもすいませんでした!」


 涙目になるアベルト弟。


「いいよ、俺も少しやりすぎた感はあったわけだし。てかもうあんな事すんなよ?」

「はい、心に誓って!」

「お前も新人潰し何てみっともない真似すんなよ」

「ああ、流石に今回新人を潰そうとしたら逆に潰されちまったのは痛かった。だけどこれは俺達の通過儀礼みたいなもんだ。それに弟をあんな風にさせられたのは兄貴としても流石にな」

「まあ気持ちはわからんでもないが、流石に金貨三十枚はありえねえわ」

「悪かったな、治療にそこそこ金かかったからな。その分取り返して更に儲けを出したかったってわけだよ。普段は流石にあんなのしねえよ」


 笑うドーファ。


「まあそんなわけで俺達は行くよ」


 訓練所から出ていくアベルト兄弟。


「シファから聞かされていた、武器変身の水魔法を使うのかと思っていましたが、水ビームでしたっけ? あれを使ってドーファさんを倒すなんて。流石昨日ハリトラスさんを倒しただけありますね」

「たまたまだよ。ここの訓練所が土だったから思いついただけ、また別の場所ならどうなっていたかわかんないよ? それに武器変身は維持するのにMP消費が結構するから。だから、あの水ビームのほうが楽なんだよ」

「そうなんですか、そういえば今日は依頼を受けにギルドに来たのですか?」

「そう、何かいいのあるかなって」

「でしたらゴブリン退治の依頼何てどうでしょう」


 巧はこの世界に来たゴブリンを思い出す。


「へえそれいいね」

「今も常時依頼入ってきてますので中に戻ったら依頼用の板から羊皮紙を剥がして受付前に持ってきてくださいね」

「わかった」

「ではお待ちしております」


 後ろに振り返ってギルド内に入るメルエそんなメルエの尻を凝視していた巧。メルエが居なくなると巧は後を振り返ると、訓練所がひどい穴を空けていた。衝撃波や水ビームに対する穴だらけなのだ。


「これってこのままでいいのかな? まあいいんだろう」


 そう言って気にすることなくギルド内に戻るのであった。

今後この兄弟をどうだすか迷い中です。

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