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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第五章
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終焉の炎

 巧とルーイとの決着がつく数分前……

 シロは仮面の男に追いつこうとしていた。


「ちっ……もう追いついてきたのか」

「その子を返してもらうわよ」


 先回りするようにシロは足に力を込め跳躍、仮面の男の前に着地した。

 持っていた剣を仮面の男に向けた。


「くっ……」

「さあ放しなさい」

「良いのか? この呪い子を殺す事になるぞ?」


 短剣をリウスの喉元に刃先をなぞる。

 すると喉元から血が少し流れ落ちた。

 相手が本気であることを悟るが、シロは剣を下ろさない。


「もしも、その子を殺したら貴方は地獄以上の苦しみを味合わせてあげるわよ?」


 脅しは通用しない、脅しに屈すると負けになるとシロは分かっていた。

 だけど下手をすればリウスの命も危ぶまれる事を悟っていた。


「へ……確かにお前はこいつを助けようとすることができるだろう。この話し合いでいつでも攻撃できた」

「そうね、確かに武器を持つ暇もなく貴方の両腕を切り離す事はできるでしょうね」

「そうだな、だけどそれをしないのは何故か。俺は知っているぞ?」

「……どういう事かしら」

「お前、こいつを連れ去ってほしいんだろ」

「……ッ!」


 図星だったようで、シロの表情は揺らぎ視線を逸らすがすぐに向き直した。

 だが仮面の男はシロの顔の仕草を見逃さなかった。


「やっぱりな。恋敵って奴か? 相手はあの小僧」

「……それがどうしたの? そんなことよりも早くリウスに当てている短剣を捨てなさい!」


 シロの表情が先ほどよりも強くなり、仮面の男に睨みつける。

 指示通りに仮面の男はリウスから短剣を放し捨てた。

 仮面の男は圧倒的不利なはずであった。


「おー怖い怖い。けど事実なんだろ?」


 嘲笑ちょうしょうのような喋り方でシロの事を見透かす。

 仮面を被っていても相手が今どういう表情でシロと対面しているのかわかっていた。

 しかし、シロにおいて相手は間違いを言っておらず、内心戸惑う。


「なら話は早い、この場は俺を見なかった事にして見逃してほしい。俺はこいつをただ主に届けるだけ、貴様は恋敵のこいつがいなくなればあの小僧を独占できる。互い何も損はないはずだ。それにお前だってあの小僧に言い訳が立つ。あの小僧の事だ、貴様の事を許してくれるだろうさ!」


 シロは揺らいでいた。

 事実、表立つように剣を持つ手は少し震え、戸惑いを隠せていなかった。


「俺を殺しこいつを返すか、こいつを連れて行き安心を得るか、さあどうする?」


 男が急かすように、シロの心理を急かすように問い詰めた。

 シロの口から言葉を発そうとした時、轟音が鳴り響いた。

 そこは、先ほどまでシロがいた場所、現在巧、ルベスサと魔物に変身したルーイが戦っている場所だ。


「タクミ……!」

「魔物になったあいつは強いからな。あの小僧だって苦戦を強いられている所だろう、貴様がここにいればあの小僧はもしかしたら助からないかもしれない。戻れば言い訳も立つ」


 その言葉が後押しになったのか、シロは仮面の男を見逃すように無視し、巧の元へと急いで戻って行く。


「くははははは! まさか本当に行くとはな。化物でもあの小僧の事を心配するとは運が良かった」


 仮面の男はそう言い残し、リウスを連れその場を去った。

 シロが巧の元へと戻ると、闘いが終わっていたからか静かであった。


「タクミ!」


 巧はその場に暗い表情で立ちすくみ、シロは巧の元へと降り立つ。


「……シロか……」

「辺りは水浸しだし、地面は割れてる……それにこの子、確かルーイよね?」

「ああ」


 ルーイは魔物の姿から元の人間の姿に戻り死んでいた。

 死因は肩から腰に掛けての一撃。

 だが、それが巧において今まで自身を保っていた何かが壊れる音がした。


「タクミ?」

「こいつは俺が殺した。こいつは殺してと懇願した。俺はそれに答えた。もう戻る事ができないから殺した。相手の望むままに殺した。相手がやってほしい事をして殺した。望んだ事で殺した。だから殺した。さっき殺した。俺の手で殺した。俺は初めて殺人を犯した。山内巧、お前が人を殺したんだ。命を俺の手で奪ったんだ……は……ははは……あははハハハ、アハハハハハハはははハハはははハハハハ!」


 言い訳のように、自分には責任ないように、それでも責任あるように。

 自分で自分を責め、そして許しをうように。

 この世界では普通ではあるが、巧にとっては初めての体験。

 笑う。感情なく笑う。狂ったように笑う。発狂するように笑う。快楽に溺れるように、心が壊れていくように、視線は死体ルーイへと向けられるが次第に焦点が揺れ動く。

 状況を何も知らず見る人によって巧は殺人鬼、快楽主義者、狂乱者、化物に見えるのだろう。

 だが、シロはそんな壊れゆく巧を抱きしめた。


「貴方は確かに人を殺したかもしれない。けど、この子が魔物になったのは貴方のせいじゃないのよ」


 心を精神をこれ以上壊れないよう、繋ぎ止めるように更に強く抱きしめる。


「貴方は悪くない。貴方は恐怖に耐えて、精神にも耐えて、そして絶えただけ! まだ大丈夫。貴方はまだ大丈夫だから……」


 抱きしめられながらも巧は揺らめく焦点も笑いも次第に収まる。

 笑いが収まると周囲は静かになり、遠くの悲鳴や叫び声が巧達の耳に届く。


「……でも俺はこいつを人間に戻そうと考えたが思いつかず、どうしようが殺す結果しか思いつかなかった……」

「それでも貴方は最善を尽くしたの。この子をどうやって生かせるか模索したの。結果がこれでも、貴方はこの子の事を想ってした行動。誰も責めないし私が責めさせないわ!」


 感情の渦が巧を襲い、シロに抱きしめられながら涙した。

 魔物になったとは言えそれは初めて人を殺めた罪悪感や恐怖、初めて人を殺した後悔。

 巧の涙は地面に零れ落ち、泣き声が響き渡る――――。


 暫しの時間が過ぎると、巧はシロから離れた。


「タクミ、もういいの?」

「ああ、悪かった」

「ううん、寧ろもっと抱きしめたかったわよ?」

「はは、またいつか頼みたいかもな。シロは気持ちいいしさ」

「うふふ。もう、タクミったら嬉しい事言ってくれるわね」

「この世界に来た以上、こういう事も起りえるってのを学んだよ。もうへこたれないさ」

「……そうね」


 先ほどまでと違い、巧が元気になった事によりシロは安心する。


「それからさ、悪かったな。お前にあんな事言っといて俺がこのざまだし」

「確かに、私にあれだけ殺すなって釘を刺すように言ってたものね」

「うぬぬ……」


 意地悪そうに笑みを浮かべるシロに対して、言葉が出ない巧。


「けどタクミは優しいから、だから私はそんな貴方の事が好きなのよ?」

「そっか…………シロ」

「なぁに?」

「ありがとうな」

「ふふ、どういたしまして」


 巧はそんなやり取りを終えると、周囲を見回し始めた。


「そういやリウスはどうした?」

「え、えっと……ごめんなさい。折角追い詰めたのに、貴方が心配になって……」

「……そうか。分かったありがとう」

「え、いいの? だって私がのせいで、リウスを奪われたのよ?」

「ああ、相手はリウスを欲っしてた。だけど雑に扱うと思うか?」


 シロは首を左右に振る。

 リウスは呪い子である以上、雑に扱う事は考えられなかったからだ。

 寧ろ丁重に持て成すはずだとしか考えつかずにいた。


「もし次会えるとしたら」

「テルヌス帝国との戦争」

「そうだ、だろ?」


 巧はある場所へと視線を向ける。

 姿を現したのは、フィティアとルベスサだった。


「まず貴方が私を治してくれた事には感謝する」

「なに、気にするな。戦力が減るとこの国にとって痛手だろうし、助けたまでさ」


 そんな巧の言葉にフィティアはクスリと笑う。


「それでこの国としては実際どうなんだ?」

「こちらの最大戦力であり抑止力の呪い子が奪われたのは痛手。相手の国は三人の呪い子が揃った以上、確かに戦争は避けられない」

「そうか。もし戦争になると戦況はどうなるんだ?」

「十中八九我が国が負ける。今のままだと国が消滅するかもしれない」

「ならもしもベルチェスティア王国に味方する呪い子が一人いたらどうなる?」

「タクミ!」


 ルベスサは焦った。

 巧は自身が呪い子であろう事を打ち明けようとしたからだ、それもベランジェの側近の一人にだ。


「すまないなルベスサ、お前の努力を水の泡にしちまう。けどどうしてもリウスを助けたい」

「本気なんだね?」

「ああ」


 ルベスサは大きく溜息をついた。


「分かったよ。君の言う通りにしてくれよ。なら僕も一緒について行くからね?」

「助かるよ。で、実際どうなんだ?」


 巧はフィティアへと視線を向ける。

 フィティアは考え込むように黙り、そして口を開く。


「もし本当にそんな呪い子が一人居れば、戦況は違ってくるだろう。三対一とはいえ、我が国にはフェスを最大戦力とした国家隊がいる。フェスは当時よりも強くなっているだろうし、一対一に追い込めばもしかしたら」

「そうか……なら早めに知らせてくれ。俺達も次に備えたほうがいいだろうし」

「けどその呪い子がどこにいるのか実際に確かめなければならないの。それに貴方は強力な魔法が撃てるとしてもただの魔法師。今までは偶然だったけど呪い子の相手には……貴方よりもそっちの人のほうが戦力になると思う」


 巧は思わず苦笑した。

 事実、通常戦闘では間違いなくシロのほうが戦力として大きいのは事実であったからだ。

 だがそれは通常での話。相手が知らない実力での勝負を発揮すれば、巧の勝率は高くなるからだ。

 だが、フィティアにとっては巧を知らずにいたから、下に見られても致し方がない部分もあった。


「ならば、俺が呪い子だって事を知れば?」

「え?」

「ほら」


 巧は手をかざすと、水の塊が現れ様々な変化を見せていく。

 地面に向かい水ビームを放つなどして、巧自身が呪い子である事を証明した。


「まさか……本当に呪い子だった何て……」

「タクミが呪い子だって事が分かれば僕が気づくはずなんだけど。何でだろう?」

「さあ? まあ俺自身、そういう体質なんだろうってのは思ってる」

「ふふ、分かった。貴方の事を陛下に知らせよう」

「ありがとう、あと一つ俺が呪い子だっていう前に伝えてほしい事があるんだけど」

「何でも言ってくれ」

「実は――――――」


 場所は変わり、謁見の間の広場。

 未だ貴族達はシュワルの事で話をしていた。

 勿論ベランジェとて例外ではなかった。


「遅いな……」

「あの者達が出て行ってからまだ時間が経っていません。相手が相手である以上油断にならないかと」

「確かにそうなんだが……」


 フィティアがベランジェの元へとやって来る。


「フィティアか、よく無事であった。してシュワルと賊は」

「シュワルと敵国のスパイと思わしき二名も死亡が確認されました。しかし……」

「早く申せ」

「呪い子であるリウス・トラルストがもう一人いた敵国へとさらわれました」

「なに!」


 ベランジェは玉座から立ち上がり大声を出す事によって、広場にいた貴族達は静まり返った。


「まずい……まずいな……」

「冷静になって下さい陛下。今、陛下が取り乱されると他の者も心配なされます」


 広間にいる貴族の顔は誰もが一様に不安げな表情を見せていた。


「すまない皆の者。先ほど報告が入った。シュワルは死亡を確認。その近くにいた敵国の侵入者数名も死亡を確認した。あの者達が我が国に平穏をもたらしたのだ!」


 貴族達はベランジェの言葉を信じ、歓喜の声が上がった。

 不安をまき散らさないように呪い子が攫われた事を伏せていたが、時間の問題であった。

 玉座に座ると苛立ちからか、貧乏ゆすりをしていた。


「陛下、あともう一つお耳に挟みたい情報がございます」

「なんだ」

「実は、呪い子がまた一人見つかりました」

「それは本当か!? してその者は今どこに」

「はい、しかし今すぐにとお話はできません」

「どうしてだ!」


 フィティアはベランジェ近くまで来ると耳元に囁きかけた。


「未だ敵国の密偵や間者が混じっている可能性があるからです」

「……なんだと?」

「はい、ですから敵国の密偵や間者もしくは内通者が未だ我が国に潜んでいます。それは兵士かもしれませんし、この場にいる貴族かもしれません」

「その情報は嘘ではなのだな?」

「はい、これを知らせたのはその呪い子本人なのですから。協力する代わりに情報規制が必要だと言う事なので」

「なるほど……しかし粛清は終わったと思ったが未だ残っているとはな」


 自身の未熟さに思わず失笑が漏れ、ベランジェは思わず口角が上がる。

 貴族達は各々にベランジェの笑いを勘違いしたのか、手を振り微笑み返す。

 とても無様な光景であった。


「陛下、それからもう一つ。呪い子に関しては後で直接お会いすると申しておりまして、呪い子に関しては今この場にいる貴族達のみ知らせてはどうかとの助言が」

「どうしてだ?」

「大多数の貴族はここにいますので、まずは少しずつ調べるほうがいいかとの事です」

「なるほど、賢明な判断だ」


 ベランジェは立ち上がると、赤いローブを押っ広げた。


「皆の者、ここで我が国に誇る貴族の皆に大事な話ができた。これは極秘である以上貴族の者以外は子の広間を出てもらいたい」

「そ、それは我々を護衛のする者もですか?」

「左様。勿論この広間にいる兵士全てをも含まれる。不安ではあろうが一大事な事だ」


 貴族達は一国の王である頼みなのか不安げな表情をするものの、貴族以外の者全てを広間の外へと追い出した。

 謁見の間の広間にいるのはベランジェ含む側近の者、貴族やその子供達、そしてヘルデウス。


「まずは私を信じて行動してくれた皆の者に礼を言おう。そして、新たな朗報を皆に伝えようと思う。この国に新たな呪い子が発見された!」


 ベランジェの突如の事に貴族は皆、声が静まり返る。

 数名の貴族は違う反応をするのにフィティアは見逃さなかった。


「そ、それは本当ですか? 陛下」

「ああ、嘘偽りない」


 貴族達は先程以上に歓喜の声を上げ、拍手喝采を浴びる。


「今や敵国の間者などの存在も否定しきれない故に其方等を信じている」


 ファーニマルは一歩前に出て、胸に手を当てる。


「私どもはこの国、そして陛下に忠誠心をしてる身。その様な裏切り行為など一切しようがございません!」


 周囲の貴族も同感と言わんばかりに声が上がる。


「すまなかった。確かに其方等は我が国、私に忠誠心があるのは疑いようがない。其方等を信じておるからこそ、今こうして話しておるのだ」

「陛下が我々を信頼するに値することは光栄の極みでございます!」


 満足げに頷くベランジェ。


「陛下、数名この場に裏切者が混じっておりました」


 フィティアはベランジェへと報告をした。

 だがベランジェの表情は崩さない。


「裏切者め、今に見ていろ」


 貴族達に聞こえないよう小さく小さく。

 内心の怒りの炎がベランジェを燃え広がらせる。

 顔はにこやかだが、その目はどこかにいる裏切りと言う大罪を貴族達を捕らえるように――――。


いやー包容力のあるイケメンになった感じになりました、シロが。

メインヒロインがリウスになるつもりだったんですけどねえ・・・攫われましたからねえ・・・

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