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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第五章
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テルヌス帝国兵士

ちょいグロあり

「なに、シュワルが!?」


 ベランジェだけではなく、その場全員が兵士の報告に驚愕した。


「して、シュワルは今どこに」

「城下町の西方方面にて逃走。現在は憲兵達により対応していますが、来るものは魔法で対抗され対応は厳しいかと」

「まさか、手薄になっている今を狙われるとは……」


 貴族達は兵士の言葉を聞きシュワル様がと口々に呟く。


「陛下、ここはタクミ達に任せるのはどうでしょうか? 現在多くの貴族達はここにおります。しかもシュワルはこの日を知っていたのにも関わらず、襲わない。襲撃者に対しては気になりますが、逃走以外にも何か目的もあると予想されます」

「なるほど、フェスの言う事も一理あるな」


 ベランジェは巧達に向かい手をかざす。


「タクミよ、其方等に新たな指令を伝える。大罪人シュワルの身柄を捕らえよ。なお生死は問わないものとする」

「でしたら、馬車を一台貸していただけないでしょうか? 走っては間に合わないと思うので」

「よかろう。今すぐに案内させよ」

「はっ!」


 伝達にきた兵士は立ち上がると扉へと向かう。


「すまんがハリトラス、ここにいてヘルデウスを守ってくれ!」

「何でだよ、俺も」

「俺もリウスも魔法が使えて遠距離が可能。それにシロはこの中で一番身体能力が高い。もしもの時、誰がヘルデウスを守んだ? 現状は外のほうが危険だが、俺達四人が行ってヘルデウスが何か起きて守れまんでしたじゃ無意味だ。それに信頼も兼ねてヘルデウスもそっちのほうがいいだろ」


 ハリトラスは何か言いたそうにしたが口をつぐみ、ヘルデウスは無言で頷く。


「それにさ、俺達三人が行けば早く済ませるわけだ。まあ適材適所と言うわけだよ」

「……ああ、分かった。だから早く済ませてこい」

「すまないな。二人とも行くぞ!」

「ええ」

「うん!」


 巧とリウスとシロは兵士に連れられて、馬車に乗りこむと城外へ出た。

 城下町は火の手が上がり、家が所々爆破された跡が残る。

 人々は攻め込まれた恐怖からか混乱で逃げまどい、無残な状態とかしていた。


「ひどい……」

「ああ、早くシュワルを捕まえて止めさせないとな」


 馬車を全力で走らせて数分が経ち、遠くでは王城が小さくになるにつれ被害規模は縮小されていた。

 戦闘行為が行われていないのか、住民は誰も外に出ていない。


「何でこっちは被害出てないんだ? それに静かすぎる……」


 物音一つ聞こえないのだ。

 家の明かりはついているが気配と言う気配はない。


「……タクミ、リウス……気を付けて!」

「どうし……うお!?」


 突如として車輪が外れたからか馬車が横転と同時に剣戟音。

 中に乗っていた巧達も突如の事で支えきれず、外へと飛び出した。

 巧は地面に落ちる瞬間、体の体勢を整え、地面に接触する密度を軽減する。


「いってぇ……、いったいなん……」


 目の前の物体に対して言葉を失う。

 巧達が乗っていた馬車の車輪は壊れて無いが、馬の首から上がなく、御者台で操っていた兵士も同じく首から上を斬られ無くなっていたのだから。

 更にその近くには、地面には一人と一頭の頭が晒し首のように置かれていた。

 こみ上げてくる吐気を抑えつつ、巧はすぐに周囲を見回すとリウスを発見する。

 リウスも巧と同じような状況に陥り、口に手を塞ぎ言葉を失っていた。


「リウス!」

「タ……クミ」


 巧はリウスに近づこうとした瞬間、二人の間に一本の黒いロングソードが地面に突き刺さる。

 その剣が何かを知っていた。


「シロの剣だ……シロ! どこだシロ!」


 不吉な予感をし不安感を募らせ内心焦り始める。

 屋根上で剣戟が行われているのに気が付き、巧は見上げた。


「シロ!」


 シロは何者かと未だ剣を交わしていた。

 音が鳴り続ける事から察するに、多からず二人以上と判断できる。


「相手強いな。シロがおしきれていないなんて……」


 程度の良い相手ならシロは余裕で勝てていた。

 しかし実力が拮抗している相手、または人数が多すぎる相手なら、シロにとって不利にもなりえるからだ。

 今でも剣一本で相手を倒せていないのが何よりの証拠である。


「くそっ! リウス、俺達も急いで応戦にいくぞ!」

「うん!」


 巧は地面に刺さっていた剣を抜くと、ローブを羽織っていた人物が現れ、進路を邪魔する様に遮られた。

 フードから覗かせるは、髪色は灰色掛かっている白髪。

 巧はその人物がすぐに誰かが判明する。


「お前は……ルーイ!」

「数日ぶり、かしらね」


 ルーイはフードを外すと顔があらわになる。


「何でここに」

「何でと言われてもねぇ、貴方達は気づいているでしょ? 私達が牢からシュワルを助け出したってのは」

「お前達が? だけど何で関係ない一般市民を巻き込んだんだよ」

「あら? そっちのほうが楽しいじゃない。それに呪い子である、その子を誘き出す為なんだから!」


 ルーイは懐から短剣を取り出し、巧へと放り投げた。

 巧は持っていた剣で短剣を弾き飛ばすと、すぐさま迫ってくるルーイに剣を振りおろす。


「意外と速いわね。だけど……風体!」


 ルーイの全身が少し光を帯び加速。

 剣筋は避けられ、間合いは一瞬の間に詰められた。


「はや……」


 ルーイは巧を家の壁へと蹴り飛ばす。

 壁にぶつかったと同時に強い衝撃音が周囲に響き渡る。

 死んだ……。


「タクミ!」


 心配するリウスの声。

 無理もなかった。

 普通の人ならあの一撃で死んでもおかしくなかった威力。

 だが巧は体の埃を払うように平然とした表情で立っていた。


「へぇー、貴方中々やるわね。結構強く蹴り飛ばしたはずなんだけど」

「まあ過去に白いゴリラからもらった攻撃に比べれば、柔い攻撃だったさ。それよりもお前こそそんな攻撃で俺には効かねえよ」

「そうかしら? 貴方はとっても危険だから、離す(・・)必要があったのよね」

「まさか……!」

「【炎獄の(ちょう)】!」


 誰かが魔法を叫びんだと思えば、リウスと巧の間には瞬く間に炎の壁が広がる。


「なっ……!」


 炎の壁は十メートルはあろう高さ。

 円状に広がり、巧と言うよりもリウスを囲う壁。

 中も見る事ができず、それを一言で表すなら、炎の檻。

 巧は炎に近づこうとするが、熱さからか容易に突破できるものではなく、直接中に入れば確実に焼け焦げる。


「リウス、無事か!」

「うん、無事。炎も熱くないよ?」

「そうか、それは良かった。脱出できそうか?」

「やってるんだけど……炎が厚すぎて難しい……」

「わかった少し待ってな、必ず助けてやるから」

「うん!」


 服の耐性もあるがそれ以上に、炎の使いであるリウスにとっては普段から使っている炎により耐性が上がり、熱さは問題ないのだろう。

 リウスの声を聞くと安心したのか、巧は目の前のルーイに向きなおす。


「私も初めて見たんだけど、これほどとはね。あの呪い子も脱出できないようだし」

「これはお前がやったのか?」

「いいえ、これはシュワルね」


 ルーイは首を左右に振り否定する。


「シュワルが?」

「ええ、私達はあくまであれの発動を邪魔しないように手伝うまでね」

「お前達はどうしてリウスを狙うんだよ」

「あら? この国と同じように私達も戦力の補強が必要なの。それに私達の主様が直々のご指名でもあるのよねぇ」

「もしかして災厄の魔女か?」

「よく知ってるわね。あのお方の事を」

「ああ、お前達の仲間であるマグワイアに聞いたさ」


 巧は剣をルーイへと向けた。


「お前達を止める」

「そう、貴方は強いから私は止められるでしょうね。だけど私だけなら……ね」

「どういう……っ!」

「今この場で一番強い人が屋根の上にいるの。もうすぐあなたの相方は終わりを迎えるわ」


 巧は屋根の上を見ると、思わず目を見開いた。

 屋根で交戦をしていたシロはボロボロであったからだ。

 致命傷とまではいかないが、それでも肌も傷つき、皮鎧も服も斬られ隙間から傷跡が見える。

 息が荒く、意識が足元にまで及んでいなかったせいか、次の一撃を避けようとしたら屋根から足を踏み外し落ちてゆく。

 このままでは地面に落ちれば、死ぬかもしれない。

 そんな思いからか巧は舌打ちをすると、全力で飛び出した。


「そうはさせない」


 助けようとする巧に対して、立ち塞ぐはルーイ。


「どけぇぇぇええええええええ!」


 巧は殺気を放ち剣をも振り放つ。

 ルーイの人生において同じ相手から殺気を受けるのは初めてであり二度目の経験。

 しかしながら一度目とはケタが違った。

 それは強烈で巨大で凶悪な、常人でなら身が固まり死の危険を感じるほどに“絶対的な死”であると感じさせるのはルーイとて例外ではなかった。

 だが、ルーイも人並み以上に死地を経験をしているからか、硬直せず動かせることはできていた。

 目の前の殺気に対してルーイが取る行動は、ただ一つ――――――


「キャア!」


 懐に一本だけ残っていた短剣で受け止めるのみ。

 短剣で受け止めると、鈍い金属音が鳴るとともに吹き飛ばされた。


「シロ!」


 巧は剣を手放し、シロを地面に落ちる前に両手で受け止めた。


「タクミ、ありがとう。受け止めてくれて嬉しい!」

「シロ、怪我は大丈夫か?」

「ええ、結構傷つけられちゃったけど平気」


 実際に頬の傷もその他にある傷も治りかけていた。

 その様子に安堵する巧。


「それにごめんなさい。助けに行きたくても、とても助けにいける状況じゃなかったの」

「気にするな。それにシロがそう言わせるほどに強いってやべえな……」

「そうね。油断してたのもあったけど、二本あれば何とか相手になれると思う。それに今はフィティアがルーウって子と前にウエルスを連れ去った仮面の男を相手してるわよ」

「あの仮面野郎が居るのか……。それにフィティアもいたとか、あの王様のやりそうな事だ。とりあえうルーイを捕まえて今回の面倒事を終わらせよう」


 巧は落とした剣を拾い上げると、空から数度の水滴が降りつくのに気が付く。


「雨?」


 空を見上げても日は完全に落ち、雲一つなく星空のみが輝く。

 疑問に思った巧は顔についた水滴を拭い見てみると、血だと気づく。

 すると次の瞬間、屋根の上から一人の女性が飛び出してきた。


「まさか!」


 その姿はまるで人形のように、抵抗できずに空を漂い、重力に逆らう事も出来ず落ちてくる。

 巧はシロのよう両手でしっかりと受け止めたが、落ちてくる際にあることに気が付き、巧は自身の目を疑う。

 息はまだあり地面に降ろし、急いで確認すると――――


「……っくそ! 両手両足の健が()()()()()()……」


 両手両足はぱっくりと割れているからか血が止めどなく流れている。

 そして刃物のようなもので、一部の健を肉が綺麗に削ぎ落とされていた。

 巧は血が噴出している部分を急いで押さえるがいっこうに血が止まらず、血が溢れ出す。


「くそっ……くそくそくそくそくそくそくそくそくそ!」

「タクミ落ち着いて! 早く回復薬を」

「あ……ああ」


 インベントリから取り出したのは侵薬。

 通常の回復薬じゃ回復が無理だと判断すると、急いでフィティアに飲ませた。

 すると、傷は回復していき、先ほどまでの怪我が嘘のように治る。


「何でこんな事にした、お前ら……」


 巧とシロの前にいるのは、以前にウエルスを連れ去った仮面の男にルーウ、そしてシュワル。


「それはその者達が歯向かうからだ。歯向かわず逃げ去れば、その女は無事だった」

「だからと言って何で手足の健を斬ったんだ!」

「ただ手足を斬っただけよ。だってその人しつこいんだもん、それとも生かさず殺したほうが良かった?」

「そうだ。ワシの計画を邪魔をしたそいつも殺せば良かったんじゃ!」

「黙れこの糞野郎ども!」


 苛立ちから手にもっていた剣に力が入る。

 飛び出そうとするが、シロに腕を引っ張られ止められた。


「シロ!」

「落ち着きなさい。冷静さを失ってるようじゃやられるだけよ」

「っ!」


 巧はシロの気圧されたからか、苛立ちが次第に引いていくのを巧は感じた。


「ここは私に任せてほしいな。貴方よりも私のほうが」

「だけどそれじゃ!」

「タクミ、良い? これから起こることはタクミには関係はない。これからしてしまう事はタクミには責任はない。これから目の前で起きる惨状は私の責任でタクミは手を染めない」

「まさか……お前……」


 これからシロが目の前の三人にやろうとすることを巧は察した。


「あとね……、ごめんさいタクミ。貴方との約束してたのに、あの時の約束守れそうにないや」

「……」

「私の事を非難してもいいし、軽蔑してもいい。だけどね、今はやらせて」


 シロは悲しそうな表情をしながら巧の手に持っていた剣を取ろうとするが、巧はシロの手を振り放す。

 剣を渡してはいけないと拒否をした。


「タクミ……」

「シロ、今からお前がやろうとすることはいけない事だ」

「……うん」

「お前のやることは正解だろう。お前が今からすることは間違っていない。だけどな、そうさせてしまう俺にも責任はあるわけだ。罪を重ねるなら俺も一緒に受け止めてやる」


 巧は手に持っている剣を、シロへと渡す。


「俺はシロの事を非難しまいし軽蔑もしない。だからさ、そんな顔をするな。目の前の敵に対して全力を尽くせ!」

「ええ!」


 嬉しそうに剣を受け取った。

 二刀流になったシロは何度か両手の剣を振ると、自身を落ち着かせるように深呼吸をした。


「待ってくれてたとは意外」

「最後の挨拶は我々も水を差すほど無粋ではないからな」

「そう」

「尻尾を巻いて逃げれば見逃してやろうと思ったが、そこに倒れてる女同様に死に急ぎたいらしいな」

「そうかしら? 逆に貴方達の人生を終わらせてあげるわね。この“終演”とも呼ばれた私が」


 シロの姿が徐々に変化していく。

 頭の獣耳は二本の角へ変化し、代わりにエルフのような両耳が生え、背中には二枚の黒い翼に獣人の尻尾は細く鞭のような形へと変化する。

 それは過去に巧が襲撃者であるルフラとその一味に襲われた際に変身した、悪魔の姿であった。

 恍惚としたような表情。

 しかし、その目はライオンが目の前の獲物を狙わんばかりな、そんな目で三人を見据えた。


「ふふ。それじゃあ、行くわよ」




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