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今回長いです
「当時はテルヌス帝国との国境線での開戦、この時私は初の戦争経験となった」
「あれ? もっと多く戦争してるイメージだったのですが、テルヌス帝国との戦争の間、他の国とは戦争はなかったのですか?」
「過去に大きく三度。その内の一つが三十年前に起きた。その時の前王はフェスとフィティア、そしてシュワルとともに収め、休戦協定を結ぶ事ができた。だが、私が即位してから宣戦布告されたのは初となる」
「休戦協定を破るって事は今回で二度目ですか」
「そうだ。前回は我が国に優秀な兵士達によって上手く抑えてくれた」
「なら普通敗戦したテルヌス帝国は、各国から非難されたんじゃ?」
「確かに非難はされた。代わりに輸入輸出規制。そして呪い子の情報提供と各国への開示。そう説明し近隣諸国はそれに納得した」
「けどそれは他国においてはですよね? 他にあるのでは?」
「ほう……勘が鋭いな。確かに衝突したのが我が国た。国を奪うと色々と不都合が生じるので、一部の領土を奪う事でこの国の国土を広げたのだよ」
まさに勝てば官軍負ければ賊軍と言った言葉に相応しいものであった。
知力ある種族が集まれば、民族として国として成り立つ。
そうして自然と争いも起こるのはどの国、どの時代でもまた道理。
そもそも二国間による戦争での勝利条件は至極単純である。
敵国に圧倒的不利益を生じさせ今後の交渉に優位に立つ。
敵国を侵略し、国として成り立たせれなくする。
敵国を滅ぼす。
この三つの違いは、国の維持を保たせ今後に対して何らかの取引材料要員。国を奪う事で自国の領地へと変え領土を増やす。今後において自国に危険を及ばせる可能性があるため国を滅亡させるかだ。
どれにおいてもメリットデメリットが生じるが、ベランジェが言った事もメリットの一つであった。
「領土を広げる事によりテルヌス帝国の国力は落ちるとふんでいたのですか」
「ああ、だがまさか再び攻め入りってくるとは思わなかった」
「呪い子の噂も流れてましたし情報の開示請求をすれば、対策はできたんじゃ?」
「特使を敵国へと送りこんだりはしたりしたが、一切情報も得られず。前国王が倒れてからは、国内政治抗争や妨害工作がより一層激しくなったのでな」
「ああ……それは大変でしたね……」
巧はテレビの政治報道を思い出していた。
日本国内でも権力者が自分の不利にならぬよう、他の政治家達を取り入れ妨害する事は多い。
ただ今回の場合は政治家と言うよりも身内、つまりは敵国にスパイ活動を行う者が多くいたためだからか四苦八苦する事も多かったのだろうと。
そんな巧はベランジュの事を察し哀れ見ていた。
「タクミ、今はそんな事よりも先に聞くことがあるんじゃない?」
「ああ」
話がそれていたのか、シロの言葉に巧は本来の聞く事を思い出す。
「えー、先ほど過去に大きく三回戦争が起きたとありましたが、その時には呪い子の存在は確認されたのでしょうか?」
「確認はしていない。一番長くこの国に関わっているフィティアが証明している」
「関わっている?」
「フィティアは前々王から、この国に仕えているのでな。情報としては確かだ」
「となると、フィティアさんってこの中では一番長寿?」
「タクミ、エルフは長命の種族なの。だから通常の人間や獣人と違って、何百年も生きていたりするのよ」
「あーなるほど」
シロの元々のエルフ姿をフィティアと重ね、思い出す。
シロでさえ年齢と見た目は比例せず、若く見えていた事に納得した。
「と言う事は、フィティアさんは長年王国の状況をわかっていたわけですか。その間に他の呪い子は現れたのでしょうか?」
「いなかったわね。呪い子と言う強力で巨大で凶悪な者は現れず、突如出現したのが、さっき話していたテルヌス帝国との戦争ね」
「相手呪い子の初登場が最近とは……。つまりは呪い子の存在がそこから広まったわけですか」
「災厄の魔女が自らそう宣言していたのもあるが、実際に対峙した者からしたら納得もいった」
「フェスさん、ちなみに当時の戦場の状況はどのような感じでした?」
「人数で我が軍は平時約三十万。敵はおよそ十万ほど、人数差からしても圧倒的優勢。開戦から一週間は続いていたであろうそんなある日、敵国から戦略兵器使用の告知があったのだが戯言だと思い、我々は誰もが無視を決め込んだ。だが、その判断が間違いだと思い知らされた」
フェスは眉間に皺をよせ、苦虫を噛み潰したような顔をした。
その表情は後悔しているかのように、また悔やみきれないような思いからか、テーブルの上に乗せていた拳が力強く握られていた。
「戦略兵器、つまり呪い子が投入してから一日も経たない内に約五万もの兵士の命が散った」
「あのさタクミ、俺の聞き間違いかもしれないけど。五万ってとんでもない数字を聞いた気がするんだが……」
「それは聞き間違いではないよハリトラス」
異常な数字に耳を疑うのは無理もなかった。
戦争だからとはいえば聞こえは良い。
だが、一日足らずで五万もの兵力を大損失するほどの痛手であり、戦況をひっくり返すには十分すぎるほどのバランスブレイカーとも言えよう存在であった。
呪い子一人が出るだけで戦況を変え、一個師団、直接国に乗り込めば壊滅させるには十分すぎるほどの力を持つ。
それほどの呪い子がどれほどの力があるかを物語っていた。
「戦争とはいえ一日程度でその規模は異常ですね」
「過去類を見ない虐殺数字でもあるのでな。とはいえ、仮にそれほどの魔法を放てるとしたら相手から何かしらの極大魔法かと、当時の我々はそう思い込んでいた」
「極大魔法?」
「数十から百人単位で組み込む魔法陣のようなものだ。放てば多くても千人ほどを屠る事が可能な魔法でもある」
「なら、それを発動して倒されたんじゃ?」
「いや、それはありえない。何故なら、極大魔法を組み込むとしても時間がかかり、発動されると厄介なので即座に潰しにかかる」
「事前に準備していたとかはどうでしょう」
「それもないだろう。極大魔法は空に魔法陣の出現もさせるのでそれが合図となる。射程距離は長いが発動まで長く連発も難しい、場所がわかれば対策も容易い」
「となると、残りは別の要因があるわけですか」
「そうだ」
「しかし、五万人をも被害が出て降伏しなかったのですか? あまりにも一方的な蹂躙行為と思うのですが」
「確かに聞かされた時は愕然とした。相手がそんな戦略兵器を持っているなんてわかっていなかったのでな」
戦争で命の取り合いをしているとはいえ、日数が続くと感覚が麻痺を起こしていたのだろう。
今までの戦争で敵国が呪い子という兵器を登場させられた機会がないことを考えれば、楽観視するのも無理はないといえた。
「そんな中、投降する決断をしなかったのは、当時の軍師ウォルレ・ルイ・ハーマインはある事に気づき進言していたからだ」
「ある事とは?」
「一度立て直すために全軍後退させ部隊を集結したことだ。襲撃を受けて数時間経つが相手からの再攻撃はくることがなかった」
「本来なら追撃されてもおかしくない状況なのに、しないのはおかしな話ですね」
「更に言えば、相手は呪い子を投入してから軍全体が後退してたとの事だ」
「それはただでさえ少ない兵士を巻き込ませないためとか?」
「今思えばそうかもしれないしそうではないかもしれない。我々は、呪い子は何らかの制限があり制約があり、活動が一定時間または一定魔力消費しか動かせれない。そう結論付け、呪い子と交戦した場所へと向かった」
「その中にフェスさんもいたわけですね」
「当時の私は地位としては低いが、剣の腕を買われていたため部隊補佐として一員にいた」
「失礼ですが、剣の腕を買われたとなると、相当実力高かったと判断しますがどこかの有名な家系の生まれじゃ?」
「元々平民の出だ。貴公等のように冒険者としてやっていた。途中で倒した魔物は強大で凶悪、噂が知れ渡りいつしか王の耳に入り、爵位を頂いた。そしてなし崩し的に入団するようになったのだ」
「へえ、すごいじゃないですか。一代で爵位持ちになり地位も名誉も上がり、今や誰もが知っている剣豪じゃないですか」
「貴公と当初出会ったときには驚きはなかったようだがな」
「そ、そうでしたっけ? あ、ははは……」
焦ったのか巧は空笑いを上げた。
「それよりも、話の続きをしましょう。軍隊を引き連れて呪い子と対峙できたのですか?」
「戦略兵器だから何かしらの物や魔物かと思ったが、着いた先には一人の女がそこにいた」
「女?」
「ただの女ではない。一瞬この世の者とは思えないほどに美しく、我々は惹かれる様に見惚れそして背筋が凍った。女の目から離す事が一切できず、死の恐怖が襲ったと同時にこの女が敵国の戦略兵器であると悟った」
拳に力が入るのかテーブルには軋む音が部屋に鳴り響く。
「こちらに気づくと女は嬉しそうに、そしてけたたましい笑い声を上げ、その時に自ら災厄の魔女と宣言した」
「災厄の魔女……」
「そうして我々を襲い始めた。女の身体能力は凄まじく、一蹴りで我々と間合いを詰め、振り下ろした手は兵士達の身体を裂いた」
当時の事を思い出しているのか、悲しそうな表情を見せ、視線はテーブルへと向けられていた。
そんなフェスの説明で地獄絵図のような構造が容易に想像できた。
「勿論、我々もただやられているわけにもいかず、持っていた武器で反撃はした。だが女の手には突如武器が現れた。光さえも吸い込むような漆黒の色、交わる武器を悉く破壊した。更に黒い武器は様々な武器へと形状が変化し苦戦を強いられた」
「形状の変化する武器ってタクミ、確かお前も似たような事できたよな?」
「あ、ああ……。けど、それは俺以外にもいたって事じゃね?」
「いや、その様な魔法が使えた者は私が知る限りタクミ、貴公と呪い子。後にも先にもこの二名しかいない。貴公はいったい何者なのだ?」
この時、巧は水変化武器魔法を使用していた事に後悔した。
独りっきりならまだしも、未だ王国側において不確定要素がある以上、今は巧の情報は隠しておきたい状況でもあった。
だが、そんな巧はすぐに差し支えがなくなる。
「すまないがタクミ、其方の経歴を少し調べさせてもらった。不明瞭な点が多すぎて謎が深まるばかりだ」
「……ねえ、それって今関係あるのかしら? 私達はあくまで今回協力してあげてる立場であって、タクミの情報じゃなく呪い子の情報を共有するためにいるのよ? それとも別の意図があって聞いてるのかしらね」
軽口を叩くように言うシロだが、先程とは全く違う雰囲気を醸し出す。
二人のやり取りに緊迫した空気が漂い、誰しもが身構える。
片方が動けば確実にもう片方も動くのは必然。
まさに一色触発状態であったが、ベランジェが事を荒立てないよう身を引いた。
「確かにそちらの言う通り、現状優先すべきはテルヌス帝国の呪い子問題だったね」
「しかし陛下」
「よいのだフェス、それに他の者も。こちらからお願いする立場にある以上、抑えてほしい」
「こちらも申し訳ありません陛下。シロが出すぎた真似を……。しかし私からお応えできる範囲でしたら、ただの人種であり、知識不足であり、東の果ての小国出身としか」
「……わかった、今は信じよう」
巧の言葉は嘘はついているが真実はついている。
信用はしてるが信頼はしていない。
巧の中のベランジェに対してこのような認識でもあり、逆にベランジェからも巧に同じ認識を持っていた。
表面上には現さないが、まさに腹の探り合いとも言えたのだ。
「では先程の続きで、呪い子と対峙した結果としてどうなりましたか?」
「無事討伐する事はできた。我が軍は再び優勢に立つと敵国が投降し終戦を迎えたが、勝利と引き換えに死傷者数約八万と大打撃を被った」
「多いですね……。それにその呪い子が敵国での最終兵器みたいなものでしたか」
「そうだ、主にこちらの死者数はその呪い子一人にやられたものの、敵も人数差からして元々呪い子頼りだったのだろう」
「そんな呪い子をよく倒せましたね。マグワイアとの会話ではフェスさんが倒したと言ってましたが」
「……確かにあの時に倒せたのは私だ。呪い子を地面に這いつくばらせ、胴体を剣で切り裂いた。その後は敵味方両者の軍隊が押し寄せ乱戦。だが、呪い子を倒したという事が伝わり、すぐに収まった」
フェスは視線を上げると、巧ではなくその後ろの彼方へと向けられていた。
その表情はどことなく寂しそうな、悲しそうな表情で顔の傷を触る。
何かの武器で抉られたような、痛々しくも生半しい傷であった。
「けど、マグワイアが言っていた呪い子の存在。もしもフェスさんが対峙していた呪い子が本当に復活してると思いですか?」
「彼奴は間違いなくこの手で殺した。復活とは考えにくい」
「フェスさんが見た者は実は再生する魔物だったりして……。人間の皮を被ってあり得ませんよね~はははは……」
「……っ! いやまてホルズ。その線は否定はできん……私はどうして今まで気が付かなかった。だがなら何故すぐに再生しなかった。どうして……」
「勘ですが、多分それは動けなかったのでは?」
「動けなかった?」
「ええ、斬られ追撃されればやられるでしょう。だから機会を伺い大きく消耗した体力を回復させ待っていたとか」
巧には根拠と言える自信があった。
自身の傷の修復の異常性。これが腕が引きちぎられようが、胴体が離れようが、首が飛ぼうがすぐにくっつかせ暫くすれば元に戻ると考えていた。
ならば巧達と対峙した再生能力持ちのサイクロプスが存在した以上、フェスが対峙した呪い子はそれ以上人間の形を被った人外も可能性があるのだろうと。
他にも考えられる要因がいくつか存在した。
「それに先程、乱戦があったと仰られていましたが、呪い子はいましたか?」
「戻ってみてもいなかったが……まさか……!」
「フェスさんのお考えの通り、テルヌス帝国が持ち帰ったのでしょう。再び攻め入る為に三十年と言う長い年月をかけた。途中別の呪い子も見つけ準備期間が完了し、宣戦布告をしてきたと」
巧の言葉を聞いたフェスの顔は強張り、動揺しているのか視線は揺れ動く。
呪い子を討伐したという認識だけが残り、実は生きていたと言う結果に気づく事さえできていなかったからだ。
「フェス、落ち着くのだ。過ぎた事を悔いるのではなく、今は顔を上げ前を見よ」
「はっ!」
「さて……其方の仮説として考えれば一理ある。いつテルヌス帝国は再び二人の呪い子を引き連れ攻め来られてもおかしくはない」
「そうですね」
「だからこそ今、其方等の力が必要なのだ。戦力は多くあるほうが良い」
「私達以外に協力する冒険者はいるのでしょうか?」
「魔物の大群とは違い、戦争は人との交戦でもある。魔物討伐が冒険者において強制なら、国同士の戦争は城の兵士が強制であるが冒険者においては任意だ」
「戦争にも強制参加かと思ったのですが、しっかり別けられているんですね」
「得意分野の違いでもある。他国から国と民を守るのが我々の役目。魔物から守るのが冒険者の役目なのだから」
「へえ……」
国を想い、民を想う気持ちにベランジェの思想に巧は関心した。
「タクミ、リウス、シロ、ハリトラス。もう一度問う、国を想うために働いてほしい」
ベランジェは巧達に向かい手を差し伸べる。
その顔は老若男女を惹きつけるような魅力的で魅惑のある笑顔を向けた。
「わかりました。では、呪い子の災厄の魔女による情報は得られました。そして協力はしますよ、どのみちここに着いた時点で拒否権はないでしょうし」
「理解が早くて助かる。なら部屋はこちらで用意しよう」
「いえ、それには及びません。それまでの間、私達はヘルデウス卿の屋敷へと戻らさせていただきます」
「理由を聞いてもいいかな?」
「私達は今現在ヘルデウス卿により依頼を受けています。間近になるまではその依頼を優先したいと考えております」
「……く、くくく……ははははは!」
ベランジェは一瞬呆けた顔をするが、笑いをこらえられず失笑する。
そんなベランジェの様子に巧は思わず面を食らった。
「陛下、失礼ですぞ!」
ベランジェは深呼吸をすると、気持ちを切り替えらせるように落ち着かせた。
「ふう……すまなかったな、いきなり笑ってしまって。其方の言う通り先に請け負った依頼は優先にしないといけないな」
「いえ。では私達はこれにて失礼いたします」
「直接依頼なので、明日までにギルドに依頼書を発行させておこう。それからフェスが其方等を屋敷まで馬車でお見送りいたそう」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」
フェスと巧達は立ち上がると、部屋を出て行った。
室内に残るはベランジェとフィティアにホルズとアンドレア。
「では、これから忙しくなるだろう。フィティア、ホルズ、アンドレア、予定通り動いてくれ」
「御意」
部屋を出て行く三名、残るはベランジェ一人。
「さて、あの計画を進行させなければな」
そう言い残しベランジェも部屋を出て行く。
その顔は嬉しそうに、そして何か企みを含めた笑みを浮かべていた。
1文が無駄に長くなったなと
もうちょい地の文を上手く書けれたらいいんですけどねえ・・・