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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第五章
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リウスの決心

 王城内の馬車置場から巧達は乗り込むと城門を通り抜け出ていく。


「すまなかった」


 突如、巧に頭を下げるフェス。

 その謝罪が何に対してなのかすぐに理解する。


「陛下の作戦とはいえ、事前に知らせれなかったのはこちらとしての落ち度だ」

「いえ、気にしないで下さい。それに王国に反逆する者はいなくなったのでは?」

「ああ、これで王国に仇なす者はいなくなったと信じたい」

「それは良かったです」

「これも貴公が手を貸してくれたおかげだ」

「いえ、結果的にどうにかできたのは私ではなくリウスのおかげですよ」


 巧は横に座っているリウスに視線を向けると、リウスは目を覚まそうとしていた。

 寝起きの様な寝ぼけ眼で巧を見ると、顔を巧の腕に押し付け欠伸の代わりにキューっと鳴く。

 その仕草はまるで小動物の様で、リウスの頭を撫でた。


「起きたか?」

「タクミ……あれ? ここは――――っ!」


 リウスは巧を見上げていると眠たそうな目が徐々に見開き、意識がはっきりしていくと同時に頬が紅潮するように赤くなる。

 ゆっくりと巧の腕から離れると、恥ずかしそうに顔を地面に俯かせる。


「馬車の中だよ。リウスに聞きたいんだけど気絶する前はどこまで覚えてる?」

「う、ううん……、なんか光が目に入ったと思ったら意識が無くなって、気が付いたらここに……」


 洗脳を受けている間の記憶は消え、意識も無くす。

 そんなリウスの発言に洗脳がどの様なものなのかの認識を改めた。


「そうか、リウスが意識を失ってる間にどうなっていたのかは後で話すよ」

「う、うん」

「とりあえずもうすぐ到着しそうだ」


 窓の外には見慣れた屋敷と屋敷を取り囲む柵が過ぎ去っていく。

 そこがヘルデウスの屋敷である事がわかり、ものの数分もしない内に到着するだろう。


「到着する前に先に話しておきたい事がある」

「何でしょうか?」

「今回はシュワルは欲をかき、あの様な事態に至った。正直呪い子と言うのは巨大戦力、率直に我が国でも欲する存在である事を理解してほしい」

「ええ、わかっています。確かに呪い子は強力でした。次は戦いたくない相手ですね」

「そうだな。だがテルヌス帝国が戦争の準備に入った以上、近隣国である我が国は無視はできない。攻め入られてきたら現状勝ち目は薄いだろう」

「それはあのルルシ以外の呪い子も出て来たらって事ですか?」

「気づいていたか」

「あの時フェスさんがあそこまで取り乱すと言う事は、テルヌス帝国には別の呪い子がいたって事かなと見て取れたので」

「……どうやら目的地に着いたようだ」


 フェスの言葉に巧とリウスは窓の外に視線を向けると、馬車はヘルデウスの屋敷の正門前に着き止まっていた。


「先ほどの件はまた明日話そう。だが、これだけは考えといてほしい。リウス・トラルストの力は我が国において貴重な戦力。この国を救うに必要な人材だ」

「それはわかっています。しかし、この子まだ十五、人間の女性として生まれたのであって大量虐殺兵器に生まれたわけではありません。強要をせず、リウスの考えを尊重して下さい」

「わかった。その事は陛下に伝えておこう」

「お願いします」

「では明日、また馬車が迎えに行く」


 頷くと馬車から降り外にでた巧とリウスは視界から消えるまで馬車を見送った。

 その間も道路を歩き渡っている人々の表情は未だ不安を抱え持つ。


「タクミ」

「ん?」

「私が協力すればこの人達、皆は元気になるかな?」

「まあ理由が明らかだけど、協力した所で元気になるかはわからないよ」

「……そっか……ねえタクミ」

「ん?」

「タクミは私が」

「タクミー!」


 リウスの言葉を塞ぐように、聞き覚えのある声が会話を途切れさせた。

 巧は声の方向へと顔を向けると、屋敷から出てきた人物は二人に向け近づき巧へと抱き着いた。


「ちょっ、シロいきなり抱き着くなよ」

「いいじゃない、だって屋敷で待ってた時とても心配したのよ?」

「まあ心配してくれてありがとう。それでリウス、何か言おうとしてたようだけど何だった?」

「ううん何でもない。それよりも戻ろう」

「そうだな」


 屋敷の中に戻った巧達は書斎にて、ヘルデウス達に王城広間で起きた出来事を話した。

 話を聞いたヘルデウス達は一様に驚きの表情を見せる。


「王国随一の頭脳とうたわれていたシュワル様がまさか裏切りを……」

「ヘルデウスが驚くのも無理はないけど、一応不穏分子だったわけだしね。だけどシュワル自身が誰と繋がっていたかなんて白状するかは不明かな」

「人間なんて欲が出て来たらそんな物なのね」

「しょうがないさシロ。長年組織に所属するって事は少なからず汚い部分何て見る事と同義。そして規模は違うがメリットデメリットを天秤に乗せる何てよくある事だよ」


 社会人を経験していた時に会社での派閥に巻き込まれる何て事も多々あった。

 その度うんざりする事もあったのか、シュワルに対して共感を持てた部分もあったのだ。


「タクミお前、そんな風に考えてたのか?」

「考えってか経験則、かな…………。だけどシュワルのした事は許されないのは確かだけどね」

「経験ねえ、俺にはわからねえや」

「まあ、ハリトラスがそう思う事も無理はないわな。だけど他人からしたら理解されようと思わない人もいるって事さ」

「そういうもんかね」


 ハリトラスは腕を組み渋い顔をしてうーんと唸らせた。


「そういやルフラ、お前が所属した部隊でお前の強さはどのぐらいなんだ?」

「私が所属していた部隊で私は上位に入ると自負してますがどうしてですか?」

「ちょっと聞きたい事があってな。ちなみにその組織の隊長は誰?」

「私の姉にあたるフィティア・ファーマは実質部隊の長です」

「と言うとエルフ? その部隊は皆エルフなのか?」

「いえそんな事はありませんが、エルフは多いですね。ちなみにエルフと言う種族は他の種族と比べ隠密に長けているので隠密に向いています」

「道理であの時気配がなかったわけか」

「あの時とは?」

「リウスが洗脳魔法の構築物を破壊した後に俺とリウスが捕らえられてな。その時に捕まったのがルフラが言う部隊だったってわけ」

「陛下の前ですから、もしもの時のために隠密部隊が隠れていたんでしょう」

「なるほど、妥当な判断ちゃ妥当か」

「陛下にお会いするんだから、警戒されても仕方がないね。そう言えばルイス、タクミに話しておきたい事があるのだろ?」

「はい、人の伝手で探した所、見つかり伝言はお伝えいたしました」

「そうですか、何か返事などはありましたか?」

「一言だけ『わかった、それなら何も言わない。君の好きなようにしてみたらいい』と」

「そか、あいつには申し訳ないことしたな。ルイスさんありがとうございました」

「タクミ、これからどうするんだ?」

「そうだな……」


 チラリとリウスに視線を向けると、リウスは何かを悩むように視線を下に向けていた。

 巧は二、三度頭を掻き、そして何かを払拭するように手を叩く。


「とりあえずは明日、王国から馬車が迎えにくるし、それまで休憩しようか」


 その夜、巧の寝室の扉をノックする音が鳴り響く。


「どうぞ」


 扉が開かれると、そこには一人の人物が突っ立っていた。

 中に入ると不安そうな表情を見せていた。


「どうするか決まった?」


 コクリと頷くとリウスは一度深呼吸をし、そして自身を落ち着かせるように息を吐く。

 暫くすると何かを決意する表情を見せた。


「私ね、あの後私なりに考えたの。今呪い子の恐怖に皆が怯えている事、だけど私がこの国に力を貸せば皆が明るくなって頑張ってくれるって……考えて考えて思いついたのがこれなの。だから、私のこの力で協力したい! タクミとの約束を後回しになっちゃうけど……それでも!」

「……そうか、わかった。なら俺もリウスを後押しするよう手伝うよ」

「ごめんなさい、けど私はって、あれ? 反対……しないの?」

「反対してほしいのか?」

「だって、タクミは私の事すっごく心配してくれたし……」

「そうだな、リウスが呪い子だって事がバレて利用する奴らが現れた事に対してかなり焦ったし、心配したよ。だってそこにはリウスの意思表示がないんだからね」


 巧はリウスに近づくと、頭を撫でた。

 巧の手を両手でつかむとリウスの頬を赤らめ、先ほどとは違い嬉しそうな表情を見せる。


「リウスは内気で大人しい。だけどそんなリウスが悩んで自分の意思で決めて自分の道を進めたんだ。十二分に立派な事だと思うぞ? それに俺との約束を果たす何て後ででもできるさ」

「うん、きっと……いえ、必ず」

「そんなリウスの意見を否定せずにいたいと俺は思うが、二人はどうする?」


 リウスは後ろを振り返ると、部屋の外から覗いていたのはシロとハリトラスであった。

 一人は頬をかき、もう一人は鋭い眼光で見ていた。


「バレたか。まあ俺も手伝うって言った以上最後まで付き合うぜ」

「私も止めない。と言うよりもタクミが思ってそうしたいなら私はただ一緒に着いて行くだけよ」

「と言うわけだそうだ。まあ明日の交渉は任せてほしいがいいかな?」

「うん!」


 信頼、信用からきているものなのか、それはまさに屈託の無い笑顔であった。


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