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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第五章
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最良の一手

いつもよりも長めになっちゃっいました

 王城広間の扉が開かれると、広間の眩しさからか目を細めた。

 光に慣れ目を開くと、シャンデリアの明かり以外にも三つの光の球が空中で浮かび、揺らいでいる。

 光の球を見入っているのか、ぼんやりとした感覚が巧を襲う。


「どうしましたか?」

「あ……いや何でもないです。ただ急に眩しい明かりが目に入ったので」


 広間に足を踏み入れると更に強烈な感覚が巧を襲う。

 頭が揺れ、足元がふらつきよろめく。


「大丈夫ですか?」


 後ろに着いている兵士の言葉に我に返ると一度頭を左右に振り踏みとどまり、リウスに視線を向けた。

 巧と同じようにぼんやりとした表情を見せていたが、目は虚ろでどこか遠くを見ていた。


「あ……いや大丈夫……です。行こうリウス」

「……はい……」


 巧は広間に足を踏み入れ進んでいくと、恰好からして貴族と思わしき人物達が好奇の目で巧とリウスを観察するように見入り、耳打ちをするように噂を立てていた。

 貴族の方へと視線を向けると、恐れる様に貴族達は視線を逸らす。

 その反応はリウスが呪い子と言う事はすでに貴族達にバレていると言っても過言ではなかった。

 巧は前を向くとベランジェは勿論の事、その近くには側近の兵士達。

 つまりはフェス、ホルズ、シュワルとローブを羽織った魔術師の恰好をしたガタイの良い大柄な男が鎮座していた。

 広間にいる誰しもが巧とリウスの二人にに視線が集まる。

 視線を気にもせずに巧達は中央に着くと、日本式のお辞儀をしたのち微笑んだ。


「この度はお招きいただきありがとうございます」

「ああ、よくぞ来てくれたタクミにリウス」

「お約束でしたので、それにしてもすぐにお会いできると思ってたのですが」

「それはすまなかった。なにぶんこちらにも準備と言うものがあったので、貴公に対して長時間待たせた事に対しては謝罪をしよう」


 巧とリウスが城へと招かれてから、直接広間に呼ばれず別室での待機を命じられていた。

 そのため、数時間は部屋の中にいることになっていたのだ。


「いえ、お気になさらないで下さい。しかし、これほど注目をされるとは思いもよりませんでした」

「なに、ここにいる全員は珍し物見たさだ」


 広間にいる貴族は二十人、ベランジェ達や他兵士なども含めればざっと四十人。

 中には各分野での重鎮じゅうちんが多く、さしずめ呪い子(リウス)に対するお披露目会といった所であった。


「……そうですか。しかし私とリウスでは場違いな気がしますが」

「いや、先程私からここにいる皆の者に伝えているので、ここにいてもらって構わない」

「ですが、ここにいる皆々様は陛下と重要なお話があったのではないでしょうか? 私達のような下々はここにいてお話しする事さえ不釣り合わない気がしますが」

「そう卑屈にならなくてもよい、貴公等はここにいる誰よりも重要人物なのだから」

「……わかりました。では、ここにおります皆様も知り得たい本題に移る前に、皆様はどこまで知りえているのでしょうか」

「知りえているとはどういう事かな?」

「その言葉通りです。私ではなくこのリウスに対してここにいらっしゃる貴族の方々、それから皆様方はどこまで知りえているのかを教えてもらいたいのですよ」


 言い訳をして逃げようとしても悉く避けられ、逆に逃げらない状況に追い込まれる。

 従って広場にいる全員に呪い子の事がバレてるので、巧には直接相手の欲しい状況を与えると言う選択肢を切り出すしかなかったのだ。

 だが、タダで情報を流す代わりに対等に情報を共有すべきだと巧は主張を述べた。


「貴様先程から聞いていれば、陛下のご厚意に対して己の立場がわかっているのか!」


 そう言いだしたのは、ベランジェの側近と思われる一人の男性であった。


「アンドレア、陛下は今タクミと話をしているのだぞ」

「しかしフェス、この者は」

「何度言わせるな、陛下の顔に泥を塗るつもりか?」

「くっ……申し訳ありません陛下、出過ぎた真似を致しました」


 頭を下げるが、その表情は屈辱からか悔しさを表す。


「すまなかったなタクミ。お詫びとは言わないが貴公の申し出受け入れよう」

「ありがとうございます」


 巧は安堵した表情を見せる。

 申し出が受け入れられなければ情報戦として巧が圧倒的不利なのだから。


「して、貴公が知り得たい情報とはなんだ?」

「呪い子に関してのこの国の知り得た情報全てです」


 巧の放つ言葉に広間にいる誰しもがどよめく。

 ベランジェにおいても同様に驚き、そして不敵な笑みが零れる。


「ほう、だがそれに見合った情報を貴公には提供できるのかな?」

「ええ、見合うというよりも必要とされる情報を持っていると言ったほうが正解ですね」

「やはり、その少女が……」

「陛下以外にも皆様がお気づきになられている通り、私の隣に立っているリウスは呪い子です」


 リウスの肩を掴み巧のほうへと寄せる。

 だが、リウスは羞恥心がないのか顔の表情変化は一切ない。

 この時、巧は思考を巡らせ一つの可能性が閃くと、一歩前に出る。


「それでもまだ疑問に思い疑う人はいらっしゃると思われます。ですのでこの子が呪い子であると言う証明を致しましょう」

「証明?」

「フェスさん、呪い子と対峙した際に感じた一般的な魔法使いとの違いを上げてもらっていいですか?」

「膨大な魔力量による威力差、そして魔法名無宣言での遅延発動に伴う有無差の二点だ」

「私もそう伺っており、今からこの子にしてもらいます」


 巧はリウスに耳打ちをすると、リウスは無言で頷き杖魔祖を高く掲げた。

 その行為にフェス達はベランジェの前に立ち塞がり警戒する。


「ご心配なさらないで下さい。陛下にも他皆様方にもお怪我を負わせる気も狙う気は毛頭ございません。ただ私が狙うのは別にあります」

「別?」


 杖の先に魔力が貯まってきているのか赤く光りだし一つの丸い炎の塊が浮かぶ。

 貴族達はどよめき始めるが巧は気にする様子もなく人差し指を上げた。


「皆様上をご覧下さい」


 広間にいた全ての者が視線を天井に釣られるように向けられる。

 共に貴族は全員顔は呆け目が虚ろになるのを巧は見逃さなかった。


「撃て」


 杖の先から飛び出している炎の塊は三つへと分裂し、全て光の球へとに向かい撃ち放つ。

 炎と光はぶつかると、閃光のような強烈な光が広間を覆うと共に巨大な魔法陣が現れヒビが入る。

 魔法陣が崩れ去る瞬間ガラスが割れる様な音が広間を駆け巡る。

 そしてそれとは別に轟音が鳴り響いたと同時に熱風が巧達を襲った。

 広間にいた巧や貴族以外の全員は目をやられたのか手で覆い隠していた。

 巧は目を瞑っていたからから、他よりも視力が回復し目を見開き周囲を見回す。

 未だベランジェ達は視力は回復しておらず、目を開ける事ができていない。


「時間がない」


 リウスは貴族と同じで意識をどこかに飛ばされているのか、目は虚ろであった。

 口を開けさせると、魔法で創った小さな水の塊を飲ませた。

 すると虚ろだった目には光が戻り、ぼんやりした表情で視線が巧に向けられるとどこか安心したように巧に向かい倒れ気絶した。

 リウスを地面に寝かしつけると顔を上げ、ベランジェ達へと向けられる。


「さて、あとの問題は……っ!」


 突如、巧の体は誰かに頭と背中を抑えられ、地面に突っ伏された。

 巧は視線を抑え込んでいる方向へと向けると、全身黒装束の人物が巧を睨み警戒するように見下ろしていた。

 顔の両横に長い尖がりが布を引っ張り、更に全身細身かつ柔らかさがあり胸板が厚い事からエルフの女性と判断する。


「っと、対応が早いな……、ここにシロがいなくて良かったよ」


 シロがいれば巧に起きていた事に対してどういった行動を起こすか容易に想像できていたからだ。

 巧は視線をリウスに向けるが、リウスも巧と同じように黒装束の人物に押さえつけられていた。

 視力が回復してきたからか、広間にいる全員は抑えていた手を放し目を開き始める。


「貴様、よくもこんな危険な事を!」

「落ち着けアンドレア」

「落ち着けません。なにせこの者は陛下だけではなくここにいる貴族全員にも危害を加えようとしたのですよ!」

「……確かにこれは許しがたい行為である……。だが先にどうしてこのような事をしたのか答えてもらおうか」

「理由を言う前にこの状態ではしんどいので起きてもいいですか?」

「陛下、この者達は危険であり、耳を貸さず今すぐ地下牢へと連れて行くべきです!」

「確かにこの者は呪い子、その娘を操り危害を加えようとしたのは明らか。ワシもアンドレアの意見には賛成でもある」


 貴族に手をかける、特に王族にさえ手をかけ危険を及ぼそうとした者。

 つまりは死罪と同等であり、アンドレアやシュワルの主張は至極当然であった。


「アンドレア、シュワル。この者が何も理由なくあの様な行為を行わせたはずはなかろう」

「フェスよ、何故貴様はこの者に肩を貸す」

「戦士としての感だ」

「アンドレア、シュワル。お前達の言う事も最もだが、かと言ってフェスの言う事も一理ある」


 ベランジェは手を横に払い除ける仕草をすると、従うように女エルフは巧の両手を拘束具で固定しつつ離れた。

 ゆっくりと立ち上がると、巧はリウスを視認。

 床に寝そべり未だ気絶しているか動くことはない。

 リウスに近づこうと動けば黒装束に確実に殺される、そう本能が理解しているのか動けずにいた。

 従ってリウスから視線を逸らし、ベランジェへと視線を向け切り替える。


「すまないな、先程の事もあり自由にはさせる事はできない」

「いえ、確かに説明もなしに魔法を放たせるのは危険でしたね。事前に説明をするべきでした」


 現状、巧が無罪放免になる確率は五分五分。

 選ぶ言葉を失敗すればリウスと共に地下牢行き確定であった。


「まず、私があの様な行為に至った事は、陛下にお伝えした証明をするためです」

「証明とは呪い子のと言うわけか?」

「はい。しかしながら、本来の力を発揮するにはそちらの用意した物が邪魔になるので排除したまでです」

「こちらが用意した物?」

「この広間全体が思考能力を低下させ催眠効果のある洗脳を施していたのでしょう」

「なんだと……それは本当なのか!?」


 巧の言葉にフェス達は誰しも目を丸くする。

 そんなベランジュも椅子の肘掛に手を強く握り、顔は驚きと共に動揺を隠せきれていない。

 今にも飛び出し巧に詰め寄ろうと腰を上げるが、踏みとどまり座りなおす。


「はい、広間に足を踏み入れリウスの変化により確信を得ました」

「あの短時間でよく気付くとは、大したものだ。だがそれだけではないのだろ?」

「そうですね。最初は光の球を疑いましたがすぐに偽物と気づき、流石にどこにあるかわからなかったのですが、ガラスが割れた音がしたのであれ本命でしょう。多分洗脳魔法の構築物体かと」

「確かにあの時に何かしらの割れた音がしたが……」


 目は鋭くなり、視線の先には洗脳魔法が構築され施されていたであろう場所を見ていた。

 壁や天井には穴が空き、その周囲は焼け焦げ黒くなり、煙が上がっていた。

 威力も相当ながら人に当たれば確実に灰になる、それほど危険だと容易に想像する事ができる。


「ちなみに、あの炎の威力はその娘からしたらどれぐらいの出力なのだ?」

「そればかりは本人に聞いてみないとわかりませんが、とりあえず本気ではないとだけ」

「あれでまだ本気じゃないとなると相当脅威でもあるな。想像したくないものだ……だがよくやった貴公等のおかげで釣れたようだ」

「え?」


 広間の扉が勢いよく開かれた音がすると巧は後ろを振り返る。

 魔術師と思われる複数の人物が拘束具をつけられ、兵士に連れられ歩かされていた。


「陛下の読み通り現れ、捕らえる事ができました。自白させ証言も取れました」

「よく見つけてくれた。さてシュワル、貴様は詰んだ」


 フェス達はシュワルを逃がさんとせず武器を構え、取り囲った。

 シュワルは焦りからか、悔しそうな表情を見せる。


「ワシは、ワシは間違っておらん! この国の事を想ってやったまでだ!」

「貴様はこの国を本当に想ってなどおらん。ただ単に自分の保身のためにこの国を売り渡し、国を裏切り捨てようとしたお前にはな!」

「フェスよ、お前はどうだ? 王には不満を持ちワシに同意していたではないか」

「ああ、確かに私も陛下には不満はあり苦労はしている。もっとしっかりしてほしいとさえ思っている」

「なら」

「だがそれでも陛下は前国王が逝去せいきょされ、現国王になられた際に前国王の意志を引き継ぎこころざし、頑張られておられる。私は陛下の右腕であり支え、この国を守る者、愚行に走る覚えはない!」

「シュワル様、どうしてですか! 貴方はこの国を支え、助言し助ける立派な人だと思って憧れておりました。それが何故?」

「……アンドレアよ、人間は強欲な生き物。ワシだって例外ではない、魅力的な提案があればそちらに着くし裏切る事もいとわない。今回はそれだけじゃ」

「戯言もそこまでにしてもらおうか、この反逆者を捕らえよ」


 シュワルは口を気づかれないように動かし詠唱を唱えている仕草を行う。

 するとシュワルの周りには炎の塊が現れ始めた。


「その娘ほどではないが、ワシでもこの近距離でならお主らよりも速く反応し、即座に焼け死なす事はできる!」

「くそ!」

「さあ、死にたくなければどけ! ワシはその小娘を連れて行かねばならん」


 襲いに行けば確実に燃やされる、そんな動けない状況にシュワルは勝ち誇ったように笑う。


「ヒャッヒャッヒャ! が……ヴァヴァヴァ……」

「な、なんだこの水は!」


 高笑いをしていたシュワルに突如水の塊が現れシュワルの顔を文字通り包んだ。

 水を払おうと必死に掴み払おうもうとするが、水は一向に減らず、肺の中の酸素も少なくなってきているからかもがき苦しむ。

 シュワルが次第に大人しくなると同時に炎の塊は小さくなる。

 完全に鎮火すると同時に水が解除すると、シュワルは疲れ果てた様に床に倒れ伏す。


「これは……巧がしたのか?」

「そうです。あまりにも危険だと判断したので勝手ながら行動させていただきました。まだ息はあるはずなので殺してはおりません」

「そうか、助かった。さあシュワルを連れて行け!」

「はっ!」


 兵士にシュワルを拘束させ連行する。

 シュワルの表情は未だ顔が青く、諦めた表情を見せていた。


「あれを連れて行って大丈夫なんですか?」

「ああ、問題はない。あの拘束具は特殊で、体内魔力と体外魔力を反発させるための道具であるので魔法を発動する事はできん」

「へえなるほど。なら私の拘束具も特殊なのだったのでは?」

「いや、タクミに拘束していたのは通常の拘束具だ」


 実際に巧にしていたのは重く、変哲もない手首を固定し動かせなくする囚人用の手錠。

 シュワルにしていた拘束具は宝石などが埋め込まれ価値としても高そうな手錠であった。


「しかし、それにしても回りくどかったのではありませんか?」

「確実に証拠を捕まえるため、今回が一番最良だったのでな、貴公等を利用させてもらったのだ。これを聞いて軽蔑したか?」

「いえ、私でも警戒するならあれぐらいは大胆にしたでしょうし。陛下は立派な考えだと思います」

「ほう……、だが我々は貴公等に危害を加えようとした。その事実がある以上、こちらに非がある」

「お気になさらないで下さい」

「いや、貴公において私の信頼を損なわしてしまったのだから。代わりに好きな望みを言うがよい」

「でしたら、改めて正式な場で対談をするのはどうでしょうか」


 ベランジェにおいて今回の件で過失が大きく警戒されても致し方がなかった。

 だが巧は逃げ出すのでもなく、関わり合いを持たせるのでもなく、あくまで対談として対等に話をすると提案をしたのだ。

 ある意味チャンスでもあり、目の前に餌がチラつかせている状態である以上取り逃すのは大きい。

 従ってベランジェは一つしか選択肢を出すしかなかった。


「その提案に是非賛成しよう。勿論、次回は今回の事がないよう約束しよう」


 手を差し出すベランジェに対して巧はその手を掴み握手する。


「畏まりました。その時は改めて来訪させていただきます」

「では、フェスに貴公が泊まっている場所まで送らせよう。まだ狙っている者がいる可能性もあり得るだろうしな」

「そうですね。でしたら陛下のご厚意に甘えさせていただきます」

「そうか、ではまた明日。楽しみにしている、フェス頼んだぞ」

「畏まりました」


 未だ気絶し、床に倒れていたリウスを巧は担ぎ上げるとフェスと共に広間を出て行った。

正直貴族いるかなって思いながら執筆してました。


セリフを変更しました。

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