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神隠しによる放浪記  作者: レブラン
第四章
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決意と覚悟

「逃げるって何でだ?」

「あの子のせいでタクミはこんな苦労に巻き込まれてしまったのよ?」

「ああ、リウスか。確かに今回リウスが呪い子だってバレてしまったな」

「ええ、だからあの子を置いて、この国を出てどこか遠くに行きましょう」

「ちょっと待ってくれ、仮に俺達が逃げたらリウスやハリトラスはどうする」

「いいじゃないハリトラスに任せて。それにタクミがあの子の事を考えず、関わりを無くせばあなたの心配は無くなるのよ?」

「……シロ、お前が思ってる通り確かに今回の騒動以外にも気苦労は多いかもね」

「なら」

「だけどな、それは俺が自分の意志で行動してやってるだけなんだ」

「なぜ? どうして? だってあなたは背負わなくていいものまで背負っているのよ?」

「そうだな、無駄に背負ってるかもしれない」

「だったらそれを捨てたほうがタクミは気が楽じゃないの? あの子を見捨てることで楽になるじゃない」

「かもしれんな……だけど俺はリウスを見捨てられない」


 ベッドから立ち上がると、シロに向け真剣な眼差しで見据える。


「そもそもあいつとは約束したんだ、一緒に旅をしようって」

「そう言えば私と再度会った時もそんな事言ってたわね」

「ああ、その約束をリウスにも果たしてもらわないと」

「……だけどリウスが呪い子だと知られた以上、旅だって続けるのも困難になるでしょうね」

「そうかもな」

「場合によっては国が人が集って、リウスを呪い子を奪いに襲いにくるかもしれない」

「襲いにくるなら返り討ちにする」

「世界中の敵になるかもしれないのよ?」

「厳しいかもしれんが、それでも俺はリウスを守るさ」


 シロは腰に装着していた剣を抜くと巧に向ける。


「なら、それを私が拒みどこか遠くにあなたを連れて行くとしたら?」


 シロの目は開眼し巧を見据える。

 それは本気と言う意思表示でもあるのだろう。

 誰も助けにも来ない状況、仮に助けに来るとしても間合いの距離は目と鼻の先。

 だがシロにとってはそんな距離はあってないようなものであるのは巧もわかっていた。


「シロ、俺を止めたければ止めればいい。連れて行くなら連れて行けばいい。その剣で俺を動かなくさせれば俺は抵抗できずにいる。だけど俺は治ったら何度でも行く、例え手足が動かなくても行くぞ」


 巧に向けた剣を振り上げると、シロの顔は巧を見下ろす。

 振り下ろすと確実に巧に当たる。

 そんな巧は抵抗を一切する様子もなく、二人は動かない。


「私がこのまま振り下ろせば巧、あなたの四肢を斬って動けなくすることもできるのよ?」

「やるんならやれよ」

「この……っ!」


 剣を振り下ろすと、剣先は床へと突き刺さる。

 同時に剣の刃に付着した血が床に飛び散った。


「ぃっつ……」


 巧は足を一、二歩後ろへよろけた。

 袖は破れ、腕には剣で斬られた跡が残り、血が噴出し鮮血が床に垂れる。


「これでも、あなたは……あなたは!」


 握られていた剣は震えた。

 悔しさ、後悔、嫉妬、妬み、様々な感情が渦巻き、シロの目から涙が零れ落ちる。


「……すまん……」


 他に言葉が思いつく事もなく、ただ一言謝るのみしか巧に言える言葉はなかった。

 シロは剣を手放すと巧に向かい、抱きしめた。


「……ごめんなさい、ごめんなさい!」

「大丈夫だよ。やりすぎだけどそれでもシロ、お前は俺の事を心配したんだろうし」


 血は止まり、腕の傷は完全に回復、斬れた袖も修復され元の状態に戻る。


「タクミ、覚悟はあるのね?」

「ああ、あいつと出会った時から決まった」


 シロが巧を抱きしめる様に、巧もシロを抱きしめ返す。

 巧の行為にシロの尻尾は振っていた。

 すると、部屋の外で走り去る足音がしたのち扉が開かれる。


「タクミいるか? さっきそこにリウスがって、うおっ!」


 ハリトラスが部屋に入ってくると、巧とシロの行為に驚き硬直。


「その、邪魔してすまんな」

「ちょっと待て戻ろうとすんな。これはハリトラスが想像してるような事とは違うぞ」

「え……そうなの?」


 巧の言葉にシロの尻尾は垂れ下がる。


「シロややこしくすんなって。それで、リウスがどうしたって?」

「ああ、さっきリウスが扉の前に居たんだが、突然逃げるようにどっか行ってな。何だか泣いてた気がするが」

「逃げ出したのはリウスだったか」

「私達の会話を聞いたのね。もしかしてタクミに負担をかけてたの気にして……」


 リウスを追いかけるために巧はシロを離そうとする。

 だが、シロは巧の手を握り止めた。


「シロ手を離せ。リウスを連れ戻さないと!」

「ねえタクミ、一つ聞いても良い?」

「どした」

「もしも、もしもね、私が困っていたらタクミは助けてくれる?」

「勿論、シロが困っていたらいつでも助けるさ。ついでにハリトラスもな」


 一片の迷いもない即答であった。

 その言葉が聞けて嬉しかったのか微笑みを浮かべ、巧の手を離す。


「タクミは本当に優しいね……リウスにもあなたの言葉を聞かせてあげてね」

「ああ、シロとハリトラスもリウスが戻ってきたら温かく迎えてくれな」


 そう言い残し、巧は部屋を飛び出して行った。

 その後ろ姿を見送るシロとハリトラス。


 巧は急いで屋敷内を探し回る。

 各部屋を廊下を屋敷内の隅々まで探す。

 だがそれでもリウスは見つからずにいた。


「タクミ様、お急ぎのようですがどうなされましたか?」


 巧に声をかけたのはルイスであった。


「ルイスさん、実は……」


 事情を説明すると納得したように頷く。


「なるほど、でしたらリウス様は外に出かけたのだと思います」

「本当ですか?」

「ええ、玄関口の扉が開いた音がしたので行ってみても誰もおらず。周囲を警戒していたのですが何事もなく、気のせいだと思っていたのですが、申し訳ありません」

「いえ、気にしないで下さい。しかし、外か……探すの大変そう」

「でしたら、捜索能力高いルフラも使いに出させましょう」

「頼みます」


 巧とルフラは屋敷の外に飛び出すと二手に別れ指示を出す。


「では、私はこちらを探しますのでタクミ様はあちらをお探し下さい」

「わかった、ルフラ頼む」


 一度は互いの仲で敵同士であったが、巧に負けた現在はヘルデウスの契約奴隷のメイド兼護衛者として働いていた。

 だが、未だにわだかまりが残っているのか、巧はルフラに対して負い目を感じていた。

 そんなルフラは動かずに巧のほうをジッと見つめる。


「どうした?」

「いえ、私は陛下の期待そえず、処罰されても仕方がなかったのに未だ生きてるのが」

「あの時言ったが処罰ってのが意味わからんのよね。まあ結果的にルフラの為にもなったわけだしいいじゃん。それともルフラはこの生活嫌なのか?」


 環境が変わり、立場も変わり、人生をも変わった。

 そんなルフラは何かを思い詰めたような視線で空を見上げた。

 そして巧へと視線を戻すと、少し微笑みを見せる。


「まだここに来て数日ですが、ここの生活は嫌いではないですよ」

「そか、嫌いではないか……なら立場はあれだけど今より楽しめるようにしないとな」

「はい」

「それじゃ、ここら辺で話も終わらせてリウスを見つけに行こう。まだそんな遠くに離れていないはずだ」


 巧は暗い夜道に向かい走り出す。

 ルフラはその後ろ姿を遠く小さくなるまでしばらく見続けていた。


「どこだ?」


 巧は走りながらも周囲を見渡す。

 城下町は夜を迎えても未だ明るいが、日中に比べれば開店している店の数も通行人も少ない。

 普段は夜中でも様々な種族が入り乱れ活気に溢れているのだが、魔物の軍勢は軍による誤情報、だが呪い子の存在も広まっていた。

 そのためかすれ違う人物は皆、不安そうな表情を見せる。

 代わりにベルチェスティア王国の衛兵と思われる兵士達が城下町を見回っていた。


「まあそりゃ怖いわな。このままこんなのが続けば経済も大打撃だろうしっと」


 よそ見をしていたからか、巧は上手く躱せず男とぶつかる。


「ってーな。何ぶつかってんだ!」

「すみません、ついよそ見してたもので」

「また子供がこんな夜中にほっつき歩いてんだ? さっきの女も俺にぶつかって謝りもせず逃げたしよー」

「すみません……って、さっきの女とは?」

「何かの装飾を付けた黒のドレスみたいなのを着た女が泣きながら走り去って行ったのが」


 巧はそれがリウスだと気付くと、男に詰め寄る。


「その女性はどこに行きましたか!」

「お前、その女と知り合いなのか?」

「ええ、教えて下さい」

「そうだな、これぐらいでなら教えてやってもいいがタダではな」


 男はニヤリと笑う。

 つまりは情報提供をする代わりに情報料を寄越せとの合図であった。

 そう理解すると、インベントリから金貨一枚を取り出す。


「これで、さあ教えてくれ!」

「これだけかあ? それじゃあ教えるのは無理だな」

「ちっ! ならこれでどうだ!」


 金貨二枚を取り出し男に見せる。

 だがそれでも渋る男に対して巧はキレた。

 男の胸倉を掴み、地面に叩きつけたのち、短剣を男の喉元に突き付ける。


「早く教えろ!」

「あ、ああ。この城下町に川が流れている、そこの橋の上でぶつかった」

「その橋はどこだ?」

「すぐそこを曲がれば近くに橋がある。本当だ」


 短剣を仕舞うと手に持っていた二枚の金貨を男に放り投げた。

 そんな行為に通行人は止まり、巧と男に終始注目をしていたが巧は気にせず走り出す。


「あの男の言った通り橋に着いたけど、リウスは……いた!」


 橋の上には赤髪に黒い戦闘ドレスを着て目立っている女性、リウスを発見する。


「あ……タクミ……」


 リウスも巧に気が付いたのか、逃げようとはせずに顔を俯かせた。


「リウス……飛び出すとかビックリしたぞ?」

「ごめんなさい……」


 しばしの沈黙。

 気まずい雰囲気が二人を襲う。


「……もしよければ、理由を聞いてもいいかな?」


 巧にとってリウスが外に飛び出した理由がわかっていた。

 だがリウスの口から話を聞く事に価値があると思い至った。


「やっぱり私の……私のせいでタクミに迷惑をかけちゃう……」

「何で迷惑なんだ? 俺は一切リウスの事を迷惑とは思わんぞ?」

「嘘よ……だってシロさんとタクミが話している所を聞いたの。私はタクミに迷惑をかけちゃう!」

「聞いてたんだな。だけど聞いてくれ、俺はリウスの事を迷惑だとは思ってない。それもちゃんとシロにも伝えた」

「嘘よ嘘よ! 私は……私がいなくなればタクミは自由に……」


 顔は未だ俯き、髪の毛で顔が見えない状態。

 声は震え、両手は服を握り、肩は振るわす。

 そして目からは涙を流しているのか、その涙は頬を伝い地面に落ちる。

 巧は今リウスがどんな状態か顔が見えなくても理解できていた。


「……リウス、俺はお前がいなくなるのは困る。それに周囲から非難や批判を浴びさせようと、それぐらいで俺はお前から離れようとしたか?」


 言葉は話さないが頭を左右に振り巧の言葉を否定。


「前にルベスサから呪い子の事を聞かされて、俺はお前を非難して遠ざけようとしたか?」


 同じように頭を左右に振り否定。


「俺はお前が嫌いにならない。例え、今回の機に世界中にリウスの事が知られ追われようが、俺はお前を決して見捨てない」

「それはタクミが……タクミは優しいから」

「シロにも言われたっけか。だけどなリウスそれ以外にもあるんだよ。俺はお前との出会ってから約束をしたけど覚えてる?」

「一緒に旅を……しよう?」

「そう、それ。俺はお前とはまだこの世界の色んな国、風景、人を見に行けてないし、一緒に行きたいと思ってる。お前と一緒に行けないとつまんないし楽しめもしないと思うんだ、だから泣くな」


 リウスは手は震えながらも巧の服を掴み、顔を上げる。

 涙を流していたからか目は腫れていた。


「そんな……理由で?」

「ああ、そんな理由だよ。今はリウス以外にもシロやハリトラスもいるが、それでもリウスお前とも行きたい。リウスは俺との約束をもう一度してくれるかな?」


 涙を浮かべ、そして零れ落ちる。


「私は……リウスはタクミとの約束とともに喜んで果たします」


 嬉しそうに微笑みを浮かべ、巧にと抱き着く。

 巧はリウスの華奢な体を抱き返すと頭を優しく撫でた。


「あのさ、リウス」

「どうしたの?」

「周りが見てるしそろそろ戻ろうか」


 やり取りを見ていた通行人はそれぞれ、恥ずかしげ、苛立ち、温かい眼差しなど様々な表情で巧達を見ていた。


「やだ……このままで……」

「ならおんぶしよう。そうしたら離れないしさ」

「……わかった」


 渋々了承したリウスは巧の背中に乗ると顔を埋めた。

 それは恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうな表情で。


「明日か……」


 空を見上げると、夜空には薄くながらも星空が広がっていた。

 明日、一つの決戦が始まる。

 そう巧は心に決心を固め、歩き出す。


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