非現実的事実
プロローグ的なものを導入しました。
鬱も少しあり
少女は笑っていた。
猩々色のように赤く綺麗な髪色を揺らせ、満面の笑みを浮かべるように。
それはとても幸せそうな笑顔をし、少女は母親に抱きつく。
母親も少女に似る髪色を持つ美しい女性。
母親は困った顔をするが微笑み、少女の頭を優しく撫でた。
少女は顔を見上げ母親の優しい笑顔を見ると嬉しそうに言う。
「おかーさん大好き」
「うふふ、ありがとう」
玄関口の扉が開かれ、母と娘はそちらに向くと一人の男が立っていた。
「ただいま帰ったぞ」
「あなたおかえりなさい」
「おとーさんおかえりなさい」
「ああ、ただいま。お母さんの言う事ちゃんと聞いてたか?」
「うん!」
「偉いぞ。よーし、お父さんが頭撫でてやろう。来なさい」
「やー!」
少女は拒否して母親にくっ付く。
そんな父親は少女に拒否されてショックを受けたのか項垂れた。
母親はそんな父親を見て微笑む。
少女も父親を見て笑う。
少女はこの幸せが続くと思い込んでいた。
あの日までは――――
「おかーさん? おとーさん?」
ベッドから起きるあがると、目を擦りながら辺りを見回した。
家の中は誰もいない。
両親は外に出ているのと思い、玄関に近づくと外から悲鳴が少女の耳に届く。
その悲鳴に不安を覚えた。
ドアを開けると少女の目に映ったのは、人が血を流し枯れ木の様に倒れ動かなくなった状況。
少女の内心は恐怖し焦り、身体は震え、目頭が熱くなるのを感じた。
「おかーさん……おとーさん……」
そう呼び、不安に駆られた少女は外に出る。
周りには死体以外見当たらない。
少女は村の中を走る、両親を求めて走る。
すると見覚えのある男性が目に映る。
「おとーさん!」
父親に駆け寄るが、血を流し絶命していた。
父親の死体を揺するが当然起きず、少女は父親が死んだ事を理解すると、涙が零れ落ち泣き叫ぶ。
その声に釣られるかのように少女の近くに魔物が現れた。
「グルルルル!」
その声に少女は気づかない。
魔物は着実に少女に近づき、口を大きく開こうとした瞬間。
「私の娘に何するの!」
その声と共に魔物は突き飛ばされた。
少女は聞き覚えのある声に顔を向けると、母親が息を切らしながら立っていた。
「おかーさん!」
少女は母親に寄り添い抱き、母親も少女を抱きしめる。
「ごめんなさい……お母さんはこれ以上守ってあげられないの。生きて……愛してる、私の可愛い娘リウス」
母親の目にも涙が浮かぶが、突如口から血を吐いたと同時に少女を突き飛ばした。
リウスは何が起きたかわからない表情をする。
どうしてお母さんは私を突き飛ばしたのだろうと。
「おかぁ……さん?」
リウスは目を見開く、母親がリウスを突き飛ばした理由がわかる事に。
先程の魔物が食らったのだ。
少女リウスの母親を。
「……逃……げ……」
リウスは母親が魔物に食らわれてるのを、ただ呆然と見てるしかなかった。
そんな魔物は食らうのやめて、リウスに近づくが、リウスは動かない。
魔物は間近まで迫ってくるのをリウスは感じ取った、死と言う恐怖を。
「ゃ……ぁ……ぁ……あ……ああ……あああああああああああああああああ!」
狂ったように叫ぶ。
するとリウスの周りが明るくなり、やがて明かりは光を凝縮し高熱となり、炎を纏う。
魔物は炎に巻き込まれ抵抗もなく焼け死んだ。
炎が収まるとリウスは地面に前のめりに倒れそうになった所を一人の男が受け止めた。
「あちちちちぃ! 無茶苦茶あっちぃ! くそっ、大丈夫か!?」
心配するように駆け寄った男はリウスを抱き上げた。
男は二十代と思われる顔つきで、チェックの服にジーパンを着ていた。炎に浴びたからか袖や肩が焼け焦げているが、不思議な事に炎を浴びたのに男は火傷一つなく無傷であった。
リウスの知らない恰好で村人ではない事がすぐに分かった。なにせ服を触ると上質な生地で出来ていたのだから貴族か旅人である可能性もあった。
だがそんな事はリウスにはどうでも良かった。
リウスは薄れゆく意識の中で男の服を必死につかむ。
「お……かぁ……さん……ぉかぁ……さ……ん」
「全く、また明晰夢かと思ったら、今度は炎の熱さも感じるし、周りはリアリティある化物だらけとか。ほらまた来た」
新たに現れる複数の魔物。
余程、場慣れしてない限り一対複数は冒険者であっても厳しいもの。
だが、武器も持たない男はそれでも余裕綽々たる態度である。
男が魔物に向かい手をかざすと、魔物は次々と意図も容易くプレスのように押し潰され全滅した。
「本当夢だから好き放題だな。まあけど夢だろうが少女放置するとか流石に後味悪すぎるし、一旦ここから離れるぞ」
その場から離れるように、村人がいる方向へと駆け出す。
リウスは男に抱きかかえながらも母親を見た。
母親はリウスが男に抱えられ、遠く離れて行くのが分かったのか、微笑んでいた。
運ばれて行くうちにリウスは気絶するように眠った。
暫くすると、ベッドの上でリウスは目を覚ます。
起き上がり辺りを見回すと、老若男女がリウスを心配するよう見下ろしていた。
リウスは何が起きたのか理解できていない。
一人の女性が抱きしめる。
「目を覚まして良かったわ。リウスちゃん、あなたも助かったのよ!」
リウスは辺りを見回した。
そこが村長の家で、自分は寝ていたんだと。
しかし、どこか生々しい夢であるが現実味はなかった。
「おかーさんとおとーさんは?」
「リウスちゃん聞いて。あなたのお母さんとお父さんは……だけど二人があなたを守って逃がしてくれたの」
そこでリウスは自分が魔物から逃げ果せた事に気づく。
だが、どうやって逃げ果せたのか思い出せない。
リウスは不安な気持ちになり、女性から離れると急いで外に飛び出そうとする。
「だめよ! まだ、外には魔物がいるかもしれないのよ?」
「大丈夫だ。あの人が倒してくれてる……あの人って誰だっけか?」
「もう何言ってるの! あの人が魔物を退治してくれた……はずよね? あの人……誰かしら?」
誰もがリウスと同様に誰かに助けてもらっていたのに忘れているのだ。
それでもリウスは不安な気持ちでいっぱいであった。
見かねた男達はリウスの手を引き警戒する様子で外に出る。
「おかーさん! おとーさん!」
辺りを必死で見渡す、両親を探し求めるように。
そして、ある光景を目撃した。
それが何かを理解すると、男の手を無理やり離して近づく。
父親と思わしき人間の焼け焦げた臭い、そして母親の体が魔物に食いちぎられ絶命。
しかしその母親の顔はどこか安心したように微笑んでいた。
「ぁ……ぁぁ……ぁぁぁぁあああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」
両手を頭にかかえ叫ぶ。
喉が潰れようが気にせず叫ぶ。
両親の死がリウスの心に傷を与えたのだから。
周囲の人達はどう声をかければいいのか迷っていると、突如叫ぶのを止め笑顔になる。
リウスの行動にした人達は不思議に思う。
「リウスちゃん?」
そしてリウスは口にする。
「おかーさんとおとーさんどこー?」
村人は背筋が凍る、ぞっとしたと表現すべきか。
幼い一人の少女、リウスの中で両親の死はなかった事にしたのだ。
この世は残酷であり非情であり冷酷である。
リウスの両親も巻き込まれたのだから……。
目覚まし時計の音が部屋を鳴り響かせると、男は布団から目を覚ます。
目覚ましを止め、呆けながらも辺りを見回した。
「……くっそ生々しい夢だったな。なんだったんだろうな、あれ……」
外は明るくなっており、スズメの声が男の耳に届く。
夢の内容を気にする事を止め、欠伸をすると目覚ましの時間を確認した。
「時間は朝の七時か。今日は良い感じに起きれたな」
布団から起き上がると、眼鏡をかけ電気を付けパソコンを起動させようとする。
男は自分の服装が寝間着ではない事に気づいた。
「寝間着に着替えず寝ちまったわって……えっ!?」
自分の服を触ると驚いた。
チェックの服で袖や肩の一部が焼け焦げていたのだ。
夢の中で焼け焦げた部分と一致する。
「何でだ? まさか、あれって現実だった……とか?」
想像するだけで身震いする。
なにせ夢ではなく、別世界に降り立ったのだから。
だが、男は頭を振った。
あれは夢だと錯覚だと、これは料理した時に焼け焦げてしまったんだと思い込む。
「いや、本当にあり得ないだろう」
現実世界とは違う世界、そんな世界は空想でありおとぎ話なだけだと、そう思いつつ、焼け焦げた服を脱ぎ棄てた。