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狐の花嫁  作者: 黒ユリ
2/3

お狐さん、お狐さん

 あれから5年がたち、あの狐のお面をかぶった男の人の事もすっかり忘れていた。


 ヒィュゥウウ ドォォォン……!!


 パラパラパラ……


 どうやら花火大会は始まったようだが、まだ彼氏が来ない。待ち合わせ時間からとうに1時間は越えている。

 カバンからスマホを取り出し、彼氏の名前を探して電話をする。


 タラタラタラターン


 前を見るとちょうど私が電話をかけた少し遅れたタイミングで音が鳴った。


「わりぃ。体調崩しててさ、布団から出れねえんだ。」


 前から同じ言葉が聞こえる。隣には薄紅色の浴衣を着た女の子が手をつないでいる。その男の後ろ姿には見覚えがあった。少し猫背で右に重心が寄っていて、体を左右に揺らして気怠げに歩く姿は私の恋人のものだ。


「うん、わかった。御大事にね」


 責めることも出来ず、只、只涙が頬を伝う。これは幻だと信じたい。そう願っているのに、花火がうちあがった瞬間、前の男は隣の女の子に優しく口にキスをした。女の子は恥ずかし気にくすくすと笑った後、再びどちらともなく、引き寄せられるようにキスをした。


 「みぃつけたぁ」 


 耳元で聞こえる優しくて少し意地悪な声色。その声の主はあの時と同じように狐のお面をかぶっていた。


 「あの時の狐さん!?」


 あまりの驚きに涙も引っ込んだ。狐さんはお面を取り、悪戯に笑った。


「そうだよ。俺のこと久亜くあって呼んでよ」


 楽しげに笑って、腕を引かれたと思ったらいつの間にか久亜の腕の中にいた。いわゆるお姫様抱っこというものだ。細いと思った腕はしっかりと筋肉がついていた。


 私の何百倍もの速さで鳥居を駆け抜ける。気分はジェットコースターだ。

 潜り抜けると久亜は木の枝に私を座らせ、杯を持って私に飲ませた。そして、ことりと音を立て、お餅の入ったお皿も置いた。

 勿論美味しく頂きました。

 お腹が空いていたのも喉が渇いていたのも久亜にはお見通しということか。






 何か、体が熱い……まるで体の中が沸騰しているみたい。

 

「熱い熱い熱い熱い」


 少し前を緩めてもまだ熱い。この日本酒、アルコールが高いのかな?


 久亜が何かを取りに行く為に姿を消した。駆け足で手には氷の入った袋を持って戻ってきた。その袋を私の頭に乗せた。


「冷たくて気持ちいい……」


 うとうとと微睡んでしまい、いつの間にか夢の世界の中に私はいた。



 

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