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狐の花嫁  作者: 黒ユリ
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狐の印

 トイレから出れば誰もいないことに気付いた。そもそも、この夏祭りには乗り気ではなかったのだが付き合いということで嫌々来ていた。それでもそれを顔に出す訳にはいかないので、いかにも楽しんでいるという“営業用の仮面”を見事につけている。誰にも悟られてはいけない。


 ヒィュゥウウ ドォォォン…………!!!


 黒に近い紺色の空を見上げれば赤い大きな火の花を描いていた。

 

 「もう花火が始まったのか」


 皆はやはり時間にかなりルーズで、待ち合わせ時間より早い人でも30分も遅れてきた。遅い人は1時間だ。皆は私にごめんねって言い、私はいいよ。気にしないで、誰にもあることだからね。と言う。毎度毎度のことだ。私は知っている、皆は反省せず謝っておけばいいよと思っていることを。中にはどの位までなら遅刻しても怒られないかな? なんて言っている子もいることには驚きだ。


 花火の音に消されつつも、一際甲高い甘い声を出している集団に気付く。そちらに目を向けると知っている女の子が3人。その人は私を夏祭りに誘った人。隣を歩く男の子は知らないからきっと私がトイレに行っている間にナンパで知り合ったのであろう。

 そこに私の居場所が無いのは明らかである。ふぅ。とため息をつき、思わず笑ってしまう。こんなことなら慣れない浴衣を着て、気を使うくらいなら家からでも花火は見れるのだから来なければ良かった。そう言いつつも、本当は分かっていた。そんなことをすれば自分の学校での立ち位置は怪しくなることを。


 しばらく呆然と歩いていると目の前には鳥居があった。沢山の鳥居で道が作られている。その鳥居は古いらしく少し黒ずんでいるけれど提灯ちょうちんが思いがけず幻想的でうっとりと眺める。提灯に貼られている和紙は赤色なのだが、中の明かりが多分青色なのだろう、漏れ出る光が紫色で思わず、ほう。と感嘆を漏らしてしまう。


 男の人が立っている。そのことに気づいてやっと鳥居をくぐり抜けたことに気付いた。

 男は明るい茶色の柔らかそうな腰まである髪を緩く左で三つ編みにして結っている。男の顔には狐のお面で覆い隠されていて顔が見えない。


 無意識の内に手を伸ばしていたらしく、狐のお面に指を触れた瞬間、お面の紐はほどけて顔が見えた。

 


 

 色白の肌に茶色の瞳。目尻は上につり上がっているが、決して意地悪そうな顔立ちではない。そして、整った鼻筋を持った鼻も頬も顔を見られたことに恥ずかしいと思っているのか、ほんのり紅い。


 可愛らしい男の人だなぁ


 ちゅっ


 目線を下に下ろすと、私の手首に男の人は軽くキスをした。


 しゅるるるる


 青い炎のような痣がまるでブレスレットのように手首に巻きついたと思ったら、あっという間に消えてなくなった。

 疲れているのかな、とおもって目を揉みほぐす。


「5年たったら迎えに行くから、待ってて」


 そう言うと嬉しそうに顔を赤らめ、笑顔で言った。


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