He feels happy from the morning.
「ん…、ユリウス、様?」
隣から、少しかすれたアリアの声がして、私は動きを止めました。起こさないよう注意していたつもりだったのに、起こしてしまったようですね。
「起こしてしまいましたか? すみません。」
「んー…、いえ、だいじょぶ……です。」
起きたとは言え、アリアの意識はまだはっきりしていないらしく、普段より話し方がゆっくりで、少し舌足らずです。
「……もう、行くの?」
「…っ、」
「ユリウス様…?」
「い、いえ。そうですね…、今日は忙しいので、いつもより早く出ねばなりません。」
まだ眠そうなとろんとした目で言われ、思わず言葉に詰まってしまいました。……突然敬語じゃなくなるだなんて、反則です。
「じゃあ、わたしも起きて、お手伝いを……」
「いいですよ、まだ眠いでしょう? 気にしないで寝ていて下さい。」
起き上がろうとしたアリアを手で制し、再びベッドに寝かせようとしますが、なかなかアリアも引きません。
「でも……」
「大丈夫です。着替えは昨日貴女が用意してくれましたし。」
「…………。」
ああ、不満気な顔も可愛い……ではなくて。
「気持ちは、きちんと受け取っておきますね。ありがとうございます、アリア。」
「ん…、はい。」
ふわり、微笑んだアリアは本当に綺麗だと思います。
「いって、らっしゃいませ、ユリウス様。」
そう言い終わると、アリアはそのまま眠ってしまいました。本当に眠かったようですね。それなのに、わざわざ私にあわせて起きようとして……。
「……っ、まったく、この子は……」
本当に、どれだけ私を惚れさせれば気が済むのです。
アリアの額にキスをした後、その愛らしい寝顔を見つめていたら思ったより時間が過ぎてしまい、慌てて家を出ることになったのは内緒です。
* * *
「若奥様、おはようございます。」
「おはよう、メリッサ。ユリウス様、何時頃家を出られたのかしら? 朝、お見送りができなくて申し訳ないことをしてしまったわ。」
早く家を出るとは聞いていたけれど、わたしも起きてお見送りする予定だったのに。いつも通りの時間に起きてしまって、ユリウス様はもう家を出てしまった後だった。
「今朝はとてもお早い出勤でしたよ。それに、若旦那様はやけにご機嫌でしたが……なにかあったのではなかったのですか?」
「あら、そうなの? なにもなかったと思うけれど…?」
ユリウス様とお話しする夢を見た気がするのだけれど、もしかしてあれって夢じゃなくて現実だったのかしら。……帰って来られたら、聞いてみよう。ユリウス様のお出迎えをきちんとしようと決意しながら、わたしは朝ご飯を食べ始めた。
寝起きのアリアはとても愛らしかったですよ、と色気満載の声で囁かれることになるのは、この時のわたしの知るところではなかった。
「っくしゅっ」
「ユリウスくしゃみなんかしてどうしたの? 風邪? 大丈夫?」
「いえ、風邪ではありませんが……」
「あっ、分かった! ユリウス噂されているんじゃない? モテるねぇこのこのー。」
「妻以外に興味はありませんのでそのようなことを言われても嬉しくありません。それより王子、無駄口をたたいていないで手を動かして下さい。」
「そ、そんなに睨まなくてもいいでしょう!」