72, ダンジョンで、………戦後報告⑫ 剣の葛根湯?
『クシュッ!』
『クッシュン』
『グシュッ』
ちょっと大きめのトラ猫の三兄弟で良いのかな、いまいちオスメスの区別が付かん。
しかも腹が減っているのか、良い匂いに鼻をピクつかせているがそのたびにクシャミを連発していた。
「『お前たちのエサ場だったのか? あそこは……。親はどうした? お前たちと同じ事になっているのか?』」
俺が想転移で問い掛けると、三兄弟が辺りを見回してそして、クシャミをする。
『クシュッ!』
『クッシュン』
『グシュッ』
『ミャウッ、ミャミャ!』
キマイラの親子が乱入してきた。そういえば、ウチの連中の唯一の猫科だったっけ。
そんなに近づいてお互いに匂いを嗅いでますが、風邪うつんないですか?
『ミャゥゥウ? ウミャ!』
キナコもスキップも受け入れられたようで良かった良かった。
ところが、恐れていた事態に。
『クッション』
『クショ、クショッ』
ほら言わんこっちゃない。クシャミがうつってしまった。
『ビャウゥゥ……』
キマイラのキナコが不安げに呟く。
ってか、魔物にも集る風邪ウィルスって最強なんじゃないの?
「だ、大丈夫、キナコ?」
『ブニャン……』
「スキップもこの子たちも辛そうだよ。」
そう、パットが伝えてくる。
「しかし、どうしたものか、人間族のポーション類は魔物たちのHPやMPも回復するけど、それは病を治すというものでは無い。治療とか治癒とか別の種類の魔法になるな。誰か、そんなの持っているヤツ居たか?」
確認してみるものの誰もが首を振るだけ……、頼りにならねーな、お前ら。
「アンタだってそうでしょう?」
ルナが睨んでくる。
「はは、確かに。」
治療と治癒、そして、これに浄化を同時に使用すれば可能性はある。
ただし、風邪のウィルスにまで、作用する可能性が残っていると言うことだ。体内の免疫細胞による攻撃で、傷ついたウィルスまでも癒やしてしまうことになるということ。だって、魔力のあるところにいるウィルスなんだぞ。
そういうことを考慮すると、体内の免疫細胞を強化するのが一番の早道なのかも知れない。人間ならネギだのニラやニンニク、果ては葛の根などの野菜類で生薬は作られる。
動物や魔物ではそういったものは、中毒を引き起こしてしまうから使えない。前世で動物たちを飼っていて、良かったよ。一度調べたことがあってさ。
葛根湯などに使われるの植物の根には、麻痺毒を含むものが多い、それも動物に対して。
昔に読んだ薬草辞典にもあったものに、ミミズを煎じたものを煮詰めてハチミツを入れて飲むものがあった。薬草辞典なのにミミズとはと、思ったことがあったから憶えていたんだろうな。
「これで行くか?」
「どこ行くの?」
沈思黙考していたら、独り言に答えたルナが居ました。
「魔物でも大丈夫そうな風邪薬を思い出したから作ってみようかっていう意味で言ったんだよ。」
「な、何とかできるの?」
キナコとスキップの鼻水を拭いて回るルナに言われました。
「何とかなるなら、とっとと作れ!」
キナコ可愛さから言葉が乱暴です。とても前世でやさぐれていた頃もあるようなルナの言葉ではないですね。
「ぷぷっ。」
つい思い出し笑いをしながら、始めました。上手くいくと良いのですが。
ワーム・コインを取り出して、【乾燥】を掛けます。何回か掛けてサラサラになったところで魔力水を取り出し適量で溶かし撹拌します。【加熱】を掛けていき煮詰まったものを取り出します。後はハチミツ。これを混ぜて舐めて貰うだけです。今回使ったのは、ロケットハナ・ビーのハチミツ。
作っている最中から、従魔たちを含めた魔物たちの視線が痛いこと痛いこと、この辺りでは風邪が流行っているんですかね?
剣虎の子供とスキップはひとまず、ひとなめしたら終わりの量で、成体のキナコでさえも子供たちの倍の量で様子を見ることにしました。
魔物のお医者さんなんて初めてですから。
結果はもう、すぐに出ましたよ。
舐めていた薬があまりにも美味しかったのか、薬を載せていた皿をなめ回していた五匹は、ひとまず鼻水が止まりました。元気になるのは良いのですが、ヤンチャが始まりました。
『『『『『ミャオオォォォ!』』』』』
俺の背中に乗るもの、じゃれつくもの、甘噛みしまくるもの、多彩ですが、俺にとっては、災難です。他の連中の目もあるから、こんな事では屈してあげないんだから……!
舐めまくられた挙げ句、ぶちまけてしまいましたが………。
一瞬、白い部屋が見えました……、はぁ。
つ、作るんじゃなかった。
もう、後の祭りです。




