69, ダンジョンで、………戦後報告⑪ オン・ザ・ロック
「おぅっ、おわぁぁぁぁぁ……………」
ルナに放り出された俺は真っ直ぐに雲海に落っこちると思っていたのだが、透明な何かがあってゴロゴロと転がっている現在。
予想が付かなかったので素直に目を回してしまっていた。
大丈夫か、俺?
「? おぅわぁ!」
そして、速度が乗ったまま端っこが反っていたせいで、空中に飛び出した俺は目を回していて自由の利かない体を何とかしてコントロールしようとしていた。
「お、おい、セトラー、大丈夫かー! ルナっ、どーすんだよ、あれ!」
ヒリュキがルナに詰め寄っていたが、そんなに心配することはないさ。
アイツが受け止めてくれるさ。たぶん……。
『ピピピ、ピューイピュイ』
とは言うものの、羽ばたきを強めてこちらに突進してくる巨大な鳥に、ハッキリ言ってビビるわ。
おい! 何でクチバシ開いてんだ!
アイツ、自分の大きさ考えてねーな……。
あの頃のつもりでクチバシで引っかけようとか、思ってんじゃ無いだろうな?
アイツは、前の時に飼っていたセキセイインコ、こっちの世界には居るわけも無い。
しかも、ロック鳥と言えば、山頂の絶壁に巣を作るものだから、普通は茶系統の羽を持っているはずのもの。翼を羽ばたかせる時にその下の羽毛が黄緑色だったから、「ピー助」という前世で飼っていた鳥に連想が繋がった。
よく、俺の肩に乗ってはクチバシで耳を甘噛みするヤツでって………、まさか?
あ、あり得る。
ルナに突き落とされて、転がって、空中に放り出されて、それでも失念しておりました。
自分が魔法使えるんだっていうこと、思い出したのは巨大なクチバシが俺をパクリとする寸前でした。
「あ゛………」
この言葉を発したのは、ルナ達か自分かはハッキリしませんが………。
「セトラー」
ヒリュキの声が聞こえた時は、周りが相当暗かったです。
パクリ。
そう、音が聞こえるような動作に……。
「あ……………。」
思っても見なかった状況にセーフティエリアの障壁の中の連中は唖然とした。
「ル…ナ、どうする……」
「どうするって、どうしよう?」
『ピュイ? ピュイピュイ? ピュィィ? ピー……』
俺を咥えたと思っていたらしく、姿の見えないことにオロオロしていた。
本当に危機一髪でした。
生物の体内から転移とか試したことがないので、というより試して死なせることになると今度は自分が耐えられないので。
クチバシが閉じきる前に飛び出せてよかったよ、本当にマジで。
「『どこ見てんの? ピー助。しかし、でっかくなってびっくりしたぞ。前は手乗りサイズだったものな……』」
俺は、ピー助の首の上に鎮座しておりました。フカフカで、触っていて気持ちいいです……てへっ。
『ピュ、ピピッ、ピューイ?』
「『ここだよ』」
そう言って首の根っこのところをポンポンと叩く。
『ピュ、ピュッ……』
そう言った途端にぐらりと体が傾いだと思ったら、雲海に突っ込んだ。
首の付け根のツボをどうやら叩いたらしく、気を失ってしまった。
「お…、おお……おわぁっ……………」
さっきは自由落下で今度は墜落ですかぁ?
つか、この下どうなっているんでしょう?
「アイツ、何やってんの?」
というのが、転がっていって落っこちた俺の行く末を見ていた者たちの共通する思いだったそうです。あとでヒリュキが話してくれました。
「あぁっ、セトラ……。雲に突っ込んじゃったよ。…大丈夫かな?」
そう呟いたウェーキの隣で、その言葉に燃え上がった人が一人居たそうな。
「………ウェーキ、人ごとだと思っているようだね。ルナさん、責任取れるんでしょうね。」
静かな物言いながら、理詰めできっちり、言質を取るようなそれは、苛烈でした。
そう、ウェーキが水竜のホシィクさんとともに震え上がっていました。
「コ、コヨミどの、今、この下のドラゴン族に捜索をさせている。わたすの妹が中心になっている。」
ドラ子が、たどたどしい人間語でそう話したと言うことだった。
「コヨミ姉ェも探して貰いなよ、雨の精霊っているんでしょう? ユージュさん。」
ウェーキの提案にユージュが頷く。
「そうだね、コヨミさんも先生と同じくらいに雨には好かれているから、教えてくれると思うよ。僕は、風に頼んでみる。ルナさん、キナコと一緒に飛んできなよ。行きたいんでしょう?」
「うん、そうだね、ユージュくん。キナコいいかな……。」
『みゃう!』
大捜索隊が結成されていました………。ど、どうしましょう?
出るに出られないというのは、こういうことなのか……。
今、出て行ったら殺されそうな気がする。
ピー助の予想外の大きさに転移の場所がずれてしまい、これまた慌てた結果、ピー助の絶壁の巣の方まで飛ばされました。
ゴーレムハウスの更に上方に存在しています。
「素直に出た方が良いんじゃないの? 後になればなるほど、ややこやしくなるよ?」
いつの間にか魔王様が背後に居ました。
「うわっ、いつの間に!」
「魔王様に頼まれなくても、そりゃ探すわよ。セーラを泣かしたくないからね。」
「か、母さんまで居る!」
「うわ、ご挨拶ねぇ。でも、………安心させるのは、早いほうが良いわよ。特にコヨミは何するか分からないもの。」
「やっぱり、そう思いますか………。」
「そりゃね。リウスちゃんもリメラちゃんも翼を生やしそうな勢いで魔法を覚えてきているから、コヨミも頑張っているんでしょう。というわけで、召し捕ったりぃ!」
結局、従魔が増えて、小型化した「ピー助」を抱いたまま、シノブ母さんに首根っこ掴まれて、みんなの元に帰還しました。
雲のあいだから、首を伸ばしてくるドラゴンの一族とドラ子の妹には、ワームコインを分け与え、他の連中には、参加費として、好みのおやつを渡しました。
人間ともどもです、ハイ。
コヨミ姉ェに抱きつかれて焦ったのは内緒です。
十四階はロック鳥のエリアでした。雲海の隅っこに降りる階段が隠されていました。
降りた先は十五階、今度は地面があるといいなぁ………。




