タク・トゥルの休日 終の②
「ううぅぅ、恥ずかしい。何で、変化(つまりは変身)できないの? 契約前だったら好きな格好が出来ていたのにぃ!」
顔を真っ赤にして自身の体をかき抱くホシィクに俺は代案を告げてみる。
「ごめんね、俺の魔力量が足りなくて君の自由に出来ないなんて……」
ウェーキが謝る。だが、それは逆だろ? 俺たちは従魔とはウィンウィンだぞ。
与えるものもあるけど、逆に与えられるものもあると言うことだ。
「あのさ、マントかなんか、着とけばいいんじゃないの?」
不思議に思って聞いてみた。
ああ、頷いている人たちが多い。
「わたしがそんな方法に気が付かないとでも……? 向こうでは私はてっぺんだから気にしなくて良いというか着ている者たちの方が少ないというか、これが正装なのよ。水の精霊たちはほとんどが…………うっ…。」
そこで失言に気付いたらしく、顔を赤くして蹲る。
一言多かったというか、そこに居た前世の関係者一同が頭の中に描いた映像はさぞかし………。どうも色付きで再現されたようなのは確かな所で、男女の区別無く一同顔を赤らめていました。
ところが。
「あんたたち、いい加減にしなさい。ホシィクが可哀想でしょう!」
そう言って、ホシィクに抱きつくのはサーリィ・ヒイラィ。
だが、彼女も負けず劣らずのメリハリのあるボディバランスで、それはそれこそハッキリ言って逆効果では?
もっともサーリィは十二、三歳で、ホシィクは…………百は…ぐはっ。
「余計なこと考えていたでしょ!」
言われた通りの余計な考え事していたら、ホシィクに右のコークスクリューを腹に入れられました。
只今、悶絶しております…………………ピクピク。
倒れ込んだものの、変なことが気になってすぐに立ち上がってしまい、驚かれました。
「あれ? 何でみんな居るんだ?」
そう、学院に工事の修行に行かせた連中がみんな戻ってきていました。
「レイに頼んだ。だって、手取り足取り送転移を練習させていたでしょう?」
手取り足取りってそんなに懇切丁寧にはしていないぞ、つか、んなことしたら間違いなく、バットも折るほどのローキックを炸裂させるぞ、アイツは……。
「セ~ト~ラ~。人のことなんだと思っているの。」
足元で声がしたので、見てみるとレイが汗だくになってぶっ倒れていました。
「何でそんな所で寝ているんだ、レイ?」
「学院からの帰りに送転移で送れって言われて、セトラみたいに気軽に跳びたかったんだけど、ひとまず自分が跳べないと意味が無かったから。ジュウンとイクヨを道連れにして、跳ぶだけ跳んできたらこの国に着いた途端にぶっ倒れてしまってそのままここに寝ていたわ。」
「ジュウンとイクヨも哀れな……、道連れかよ……。あれ、あとの連中は?」
不幸な道連れがいたことは分かったが、それだけでは「工事屋」のみんながここにいる理由が分からない。
「イクヨがユージュに話したらシノブ様が跳んできてくれたの。あとの人たちを運んで戴いたわ。」
ということだったので、どうやらユージュは【風信】を使えるようになったようだな。【風信】は、風を使った通信技術である。三日はしか(大人が掛かると非常にナニが危ない病気)ではない。
学院長よりも先にマスターしたか、やるな。
「しかし、シノブさん何しに来たんだ?」
「セーラからの贈り物よ。受け取りな、馬鹿息子。たまには帰って来いってさ。雨降らせて終わりじゃなくて、ゆっくりご飯食べたいって言っていたから、今日は連れてきた。」
伝言なんだか違うのか、よく分からん論法だ。
「贈り物? 何か有ったっけ?」
「「「「「「「「「ハッピーバースデー!!」」」」」」」」」
周りから、いきなりそう合唱されて戸惑った。
「はっぴーばーすでー……?……ああっ忘れてた!」
最近、自分自身が忙しく行動していたものだから、自分自身の誕生日のことなんか考えたこともなかった。ということは、ヒリュキもユージュも一緒にこの日を迎えたっていう事になる。
そうか、五歳か…………。ステータスを見ても解るように、俺はどちらかと言えば魔法特化ではあるのだが、転移を覚えた時から培ってきた身体強化やダッシュが良いだけ積み上がっているので、素振りから始めることにしようと前々から考えていた。
「セトラ、お祝いするから、ダイマオウグソクムシの腹側出して、この前のエビ団子とその吸い物、カウエルの良いとこ出して、しゃぶしゃぶみたいなのにしよう!」
おい………、歓待される側が食料の拠出ってどうなんだよ?
シノブさんが主体になって、ご馳走が並べられていく。さすが前世の主婦。メニューはさすがに豊富だな。
「料理は作っているから、時間の空いてる人は先にひとっ風呂浴びてきちゃいなさい!」
「いやっほぅ!」「話分かるぅ、シノブさん。」「ありがとうございます。」
そのことばに、?マークを付けた人が一人、水竜のホシィクという人です。
「ひとっ風呂? サーリィ、ここここここ、ここって風呂があるの?」
「有るよ。人間界では常識になりつつあるね。だから、セトラの「工事」待ちのところが多いんだよ。」
「水竜様は人間界の常識に、非常に関心が有るとみた。ではご案内しようか、ウェーキ? ゴーレムハウスまでね。」
「りょーかい、セトラ。あ、ホシィク、こっちだよ。」
パレットリア新国の城の裏庭に鉱山に繋がる道があるのだが、そこに俺は、ゴーレムハウスを取り出した。
「ド、ドラ〇〇もんか? セトラ……」
呆れるホシィクを尻目に、中に入っていく「工事屋」の面々。
新鮮味に欠けるな、マジで。ほらサーリィ、ホシィク連れてけ……。
「俺も入ってこようっと。」
男風呂と女風呂はかなりの距離が開いているにも関わらず、こんな声が………。
「な、何じゃこりゃー!」
ホシィクの絶叫が響き渡った。
最悪、ゴーレムハウスのお買い上げが確定したかと、青ざめた。




