タク・トゥルの休日⑥
「ウェーキを守護し、力を与える精霊よ姿を顕したまえ。」
そういって、ドラ湖の畔に土魔法で土台を作り、ドラ湖の清水を導き入れて作った水鏡を囲うように砂漠のケイ石を抽出して半周のガラス面を持つ直径一.五メルの筒状の試着室っぽいものを作り上げた。
次からは水着への更衣室として使うことも可能だろう。中からカーテンすれば問題ないし、外にアルミみたいなものを蒸着させて、下塗りをすれば鏡にもなるからな。
まぁ、それは置いといて、と。
『わ、わらわは、乱りに(そうおいそれと)姿を顕すことをしない種族じゃ。そなたの要請と言えど、肌を晒すことは出来ぬ。ましてや、火のドラゴンの加護のある湖では尚更の事じゃ。』
準備を整え虚空へと呼びかけると、そういうご返事が……。
「『その割にはウェーキに対する加護や恋敵に対する行為など、顕著ですよねぇ?』」
『ゔ……、そ、それはその~……。』
ウェーキをつんぼ桟敷にしていても始まらないので、筒抜けにさせました。
それに気付いたのか、会話が噛み噛みになった。う~む、可愛いやつめ。
「『まぁ、確かにドラゴンの加護のままでは出ずらいでしょうけど、これならどうです?』」
そう言うなり、ロケットハナ・ビーの蜂蜜の小瓶をチラつかせた。
ただの蜂蜜ではない。
というかロケットハナ・ビーの蜂蜜であるだけでも、ただの蜂蜜とは格段の違いがあるのだが……。
そうではない、更に特殊なものであり、この小瓶は販売すら出来ないモノである。
つまりは、女王蜂しか口に出来ないモノ、………ローヤルゼリーである。
『そ、その小瓶は……、まさか、ロケットハナ・ビーのか?』
水の精霊は、あり得ないものを見るという声で驚きを表現していた。
「『そうですね、女王蜂様からの贈り物ですよ。俺に対しての……。どうします?』」
『ど、どうって? ど、どういうことだ、それは?』
「『欲しいですか? ということですよ? ダイマオウグソクムシの【ピュア】に負けない逸品ですよ。』」
俺は余裕を滲ませて、精霊とはいえ女性という性の持ち主に問い掛けてみる。
『くくくくくぅ…………、そ、それは…………ほ、欲しぃ……か、かも?』
切歯扼腕(歯ぎしりするほどに悔しい)という言葉を見事に再現していた。
この交渉術をボケーッと見ていたウェーキくんは、またもや「鬼だ…」という余計な一言を……かましてくれました。
「………ふぅん。」
「………じゃあ、あとは若い二人に任せて、おいらはあっちに行ってますね………、頑張って話しろよ、ウェーキ。送転移!」
とっておきの小瓶を仕舞い、俺は送転移で転移して離れ、近くの岩陰に隠れたまま鷹の目を使って見守っている。面白い見物だから尚更だ。
そこまで言うなら任せましょう、だったからな。
というか、お前が自分の言葉で言わなくてどうするよ、ウェーキ。ヒリュキだって、自分の言葉で言っていたんだからな。
「あっ、ちょっ………、行っちゃったよ……。俺がやらなきゃ駄目ってことなんだろうけど……、どうするベ?」
何か考え込んでいたようだが、おもむろに水鏡の水を排水し、自分のハンカチっぽい布で拭き始めた。満足の行く出来になったのか、布を仕舞い何やらガラス面に額を付けて詠唱をしているようだ。
すごく真面目な顔つきのウェーキが気になったので風を発動し、土蜘蛛糸電話を試着室型水鏡の底に地中から貼り付けた。風には陽動で攪乱して貰った。
「いまの風は、セトラか……。見ているぞってことなんだろうな……、でも今はこれが最優先だ。」
そう言って、また試着室のガラス面に額を付けると、言葉を発し始めた。
「水の精霊さんだったよね。僕と、どこかで会っていたりするのかな?」
その言葉に答えるかのように試着室に溜まった水が振動を伝える。
よくよく見てみると、その試着室型水鏡は溢れんばかりの水で一杯になっていた。
そうか、さっきの詠唱はこれか……。
自分の魔力で水を満たしたということか! やるな、ウェーキ!
あそこまで躊躇っていたモノも、このウェーキの贈り物には堪らんだろう。もちろん、あの中に召喚されている。
「僕には、君の姿が見えないから推測するしか出来ないのだけど、この中にいるんだよね。」
また、振動がある。指先から、額から伝わるそれに、ありったけの思いをウェーキから伝える。
「うん。今は、パット。彼女が好きだけど、今後も誰かを好きになることはあると思う。でも、君にはその誰かを傷つけて欲しくないんだ。何か、胸の奥でもやもやするんだよ。」
「そして、君にも出来ることなら傷ついて欲しくないんだ。」
ウェーキの瞳は水鏡カプセルの中を見つめる。見えていないはずなのに……。ほぼ、正確に水の精霊の瞳を見つめていた。
俺のスキルの鷹の目が進化していた。……鵜の目…、水中のモノを正確に視認できる、マジで!
というか、水の精霊が水の中にいるのに、見えていた。は、鼻血が……。
あの言葉遣いでも相当のモノとは思っていたが、ボンキュッボンの水竜様。
年齢?、年齢は言えません。確実に、殺されます。
しかし、どこで知り合ったんでしょうか?
姿が見えたことで、鑑定が効きました。
ほほう! これは! 名前に由来していたんですか?
ウェーキは前世の古代日本語の漢字表記で【航跡】と書く。
船舶とか飛行機とかの通った後の筋のことを指して言う。
コヨミの父はレキ・シ、母はカレン・ドゥ。どう考えても、ウェーキは先祖の誰かの名前を継いでいるみたい。その時のものなのだと……、アレ? 水竜様の名前が変です。
名前がホシィクさんっていう? ひょっとしてこの方、前世が有る方では? ウェーキって……、トモナーヤ・ウェーキ? まさかね。
「君のことを好きになれるかは分からない、でも、君と居たいんだ。今は従魔として契約してくれないか?」
あ、まだ、話している最中でしたか? でも、大丈夫だよ、君たち。腐れ縁だもの。
何かの拍子に思い出す時もあるでしょ。
まったく、お前らもお仲間だったか……orz
「契約、『契約するわ、ウェーキ。きゃあ……。』ウォッ!」
自身の姿に今更ながらの悲鳴って、もう思い出したんか?
そりゃ、超ビキニですもの……、悲鳴も出るでしょうよ。
ウェーキは赤い顔して、鼻を押さえていました。見たんですか? 真っ正面から……。
眼福ですねぇ。
「さてさて、契約の記念にこれでも食べるかね?」
目の前に差し出したのはプリン。二人とも、目を丸くしてました。
「「ああっ、セトラ!」」
「お久しぶり~、相変わらず、仲のいいことで。でも、コヨミ姉ェには説明しとけよ、ウェーキ。俺は知らん。それと、ルナ達にもな。」
お仲間、増えました。
種属を種族に




