タク・トゥルの休日①
我が王エト・セトラ・エドッコォ・パレットリア様が、ルナ、パットを含むご学友とガルバドスン魔法学院のダンジョン攻略より一時的に帰還したときのことだった。
愛娘のエテルナと孫のパトリシアを引き連れてパレットリア城の執務室に現れた我が王は、その隣にいるヒリュキ・スクーワトルア様に連れられていた。
そして、何やら突かれてから話された。
「タク・トゥルよ、明日一日、こちらの方々のおもてなしをするよう命ずる。」
「………、はあ………。こちらの方々って私の娘と孫では?」
「彼女たちの養い子となったキマイラたちの放った魔法の暴走で、一時的に幼い頃に戻ってしまっているようなのだ。キマイラたちには、すでにきつくお灸を据えたが、術が解けるにはもう一日必要らしい。二人の幼い頃を知っている人物なんて、タク・トゥルの他にはいないからな。俺は今日と明日の二日間、溜まっている工事用の石の加工に入る。こっちのヒリュキはここでタク・トゥルの代わりにこの城の総括に入る。必要な案件の仕分けを行って貰う。必要な情報や政策に関しては、レビン王子の後見を得ている。」
「なんですと?」
「済まないが明日の予定と工事の残留分の図面を今日中に纏めてくれ。なんとかこなしてみるから……、頼む!」
娘たちに起きたことは、今は追及出来ないが、これは良い社会勉強になるのではないだろうか? ともかく、今は時間が惜しい。明日の予定表を組んでしまおう。
「さて、私はどちらの予定表が楽しみなのだろうか?」
当主と、次期宰相の社会勉強の予定表と、娘と孫との国内でのおもてなしと……。
そう独りごちて、にやけるタク・トゥルに側近たちは怖気を振るっていた。
「な、ヒリュキ、あとで怒られないかな?」
「どっちに……。」
「……、両方。」
「………、あり得る。ま、俺も同罪だな。」
「仕方ないか……。ワイン一杯で酔った上に階段から落ちて記憶を無くしたとか言える訳がないよなぁ。」
「パットは自分の魔法が跳ね返ってくるとは思ってなかったんだし……。バカは死ななきゃ治らないって言うけど、ルナの酒癖って治ってなかったんだね。」
「くくく、本当にルナらしいな。慌てるのは周りの人間って言うのも変わってないよ、まったく………。」
前日のパレットリア新国に一時帰還しての焼き肉パーティで、普段飲まないワインを口にして階段からコケた人物がいた。ルナである。そこに心配したキマイラのキナコが飛び込んだ。ルナを受け止めたものの、そのまま一緒に階段に突っ込んだ。
パットはパットで、生活魔法を誰かに教えて貰っていた。ヒリュキと組んで動きたかったのだとは思うのだが「水」を呼び出す魔法が、「水球」を出す魔法に何故か変化し、狙った訳でもなくキナコに命中しそうになった。咄嗟に蹴飛ばしたキナコを褒めるべきか、蹴る方向を考えろと言うべきかは分からない。
キナコに蹴飛ばされた「水球」は、パットを庇ったスキップに命中し蹌踉けたスキップがパットを巻き込んだ形になった。
二人と二匹は外傷は見当たらないものの、カウエルの時に【治療】を覚え、練習していた連中に一応掛けさせたが、安心が出来なかった理由がある。
頭を強かに打ったのか、それとも別の要因か、それは分からなかったが一八才のルナも四才のパットも同じ三才に記憶が退行していた。
【治療】を掛けたあとルナが起き上がっていった言葉がみんなを戦慄させた。
「あたし、ルナ。あなたは?」
パットに向かって、そう言った。
「私、パトリシア、パットと言います。」
「そう、パット? なんか聞いたことの有る名前ねぇ……、いいわ、お友達になりましょう!」
「うん、なりましょうルナお姉さん。」
ルナはケタケタ笑って、言った。
「あたし、三歳よ。あなたは?」
「私も三歳。同い年だね。」
「うん! よろしくね!」
意気投合している二人を見詰める俺たちに言葉はいらなかった。
怒れるタク・トゥルが見えたからだ。そして、作戦が練られた。
言い訳は追加して、二人はタク・トゥルに任せること。
俺とヒリュキはタク・トゥルの元に行き、国内及び工事に従事すること。魔王様は自国に戻り、宝物庫で捜し物をすること。イカイガとダルマンが補佐に入る。
学院での工事にレイ、ユージュ、イクヨ、ジョナンとジュウンがメイン指導員で入ること。他は、自分たちの魔法で補佐すること。
以上のことをその場でヒリュキが指示し、魔王様の転移で各自がその場所に移動していった。
「そういえば魔王って転移出来たんだな……。毎回、俺にしがみついていたから、分からなかったよ。」
「単に魔力量と、慣れ、移動出来る場所の問題だと思うよ。知らない所には行けないでしょ。でもセトラの送転移は……、見える範囲だっけ? 最悪、それでも移動できるでしょ?」
「確かに!」




