60, ダンジョンで、………戦後報告⑥ 追伸
九階のセーフティエリアの障壁の前の雪狼やら森林狼やら夢幻狼やら子狼やらが、きちんと並んでお座りしてましたので、「取ってこーい」を追加で三回ほど…………。
「あぉぉぉぉぉ~ん」
「ガルル」「ガルルルル」「がうがッ」
ひとしきり喜び駆け回ったあと、雪狼の一族と森林狼の家族はそれぞれのあるじのところに行って、モフモフゴロゴロなでなでされワフゥ~ンの状態。しかも、子狼の形態にまでなっている姿に夢幻狼のボス家族はびっくりしてました。
竜の肉を小分けにして出したものにパクついている最中に、その状態を見て口に咥えていた肉を何度も取り落とす始末。
『我らがあるじ様に敵うものなど無しっ!』と断言しつつも、わふ~~ん状態。
「モフモフ最高ー!」とか、「あぁっ癒やされるぅー」とか、人間側もわふ~~ん状態。
『な、なんと言うこと、誇り高き我らが狼族が………、でも、い~なぁ……。』と、呟いている。
『まぁ、確かに今のお前の群れでは甘えられる相手は居ないのかも知れないな。その子らの父親でさえボスになれていないのだから、な。そして、お前たちの姿を見つけられる者も少ないし、な。』
独り言のような呟きに反応があるなんて思っていなかったのだろう、夢幻狼のボス、子狼たちの母親は咀嚼していた肉をまたしても取り落とした。
子狼たちの目の前に落ちたそれは、取り合いになりそれぞれの腹を満たした。
『だが、居るぞ。お前の姿を見詰めることの出来る者が、な。俺の親友ではあるが、あいつは暖かいぞ……。どうする? お前次第だ、全ては。』
夢幻狼とは、その死に際して、見届けることの出来ないモノの代表格として語られる魔物だ。遠くから弓矢で仕留めたとしても、その場所に行ってもその姿は無いという伝説の魔物だ。
それを覆せる者はあまりにも少ない。
それを知るから、俺は夢幻狼に言う。ヒリュキの系図なら、と。
俺がそう思っても夢幻狼のボスが簡単になびくとは思えん。彼らは親子であっても互いに見えない中で暮らしている、その当たり前のこと………なのだけど、ね。
「セトラ、繋げてくれ」
ヒリュキが声を掛けてきた。まるで会話を聞いていたかのように。
「夢幻狼とか?」
見えてはいないが気配がする方に顔を向ける。
「ああ、伝えたいことがあるから」
「わかった。想転移」
ヒリュキと俺、そして、夢幻狼を直で繋げる。
『夢幻狼でいいか? 俺とともに歩かないか? いま一緒に歩くつもりの人は君の音が聞こえる。君の姿は俺がいつでも見てやれる。怪我をしても病でもどんなときも。だから、俺と一緒に歩いて欲しいんだ、名を贈りたい。拘束したい訳では無いから嫌なら、拒否してくれていい。メリンダ……』
『………。いい響きの名前、ありがとう。これからよろしくね、あ、あるじ、さ、様?』
『無理に呼ばなくてもいいんだよ。ヒリュキって言ってくれてもかまわない』
その照れ照れぶりに、笑みが浮かぶが、夢幻狼、もといメリンダは引かない。
『いい、決めたから。これからよろしく、あるじ様』
『ああ、よろしく、な。』
そんなこんな中、障壁の中には牛ガエルさんたちが丸く巣を作って治療されているものも居たのですが、さすがに全頭無事という訳に行かなくて残念ながら何頭かの個体が層庫行きになりました。貴重な財産に変わりました。
彼らもカエルということで卵生ですから、今後は養殖体制に入ります。
儀式やら、治療やらモフモフやらで、少しお腹が空いてきましたので、昼ご飯にします。
「じゃあ、ご飯にしようか? ヒリュキ、食材取ってきて……、見えているんだろう? あそこにいる百足鶏(ヤツ)頼むわ。」
「わかった、よし行こう、メリンダ!」
「がう!」




