58, ダンジョンで、………戦後報告⑥ 序
夕べは、ピザ食いまくり、焼きまくりで非常に楽しかったです。
ですが、その中で魔物の来襲がありました。
従魔たちは生肉もあったのですが、『取ってこい』がしたかったらしく雪狼のジョンを筆頭に小型の竜頭をタクラム砂漠方面に、魔法でかっ飛ばしては『取ってこい』をやっておりました。
何回目かの時に、足元で何かが揺れたかと思うと、砂漠ワームの一匹が飛び出してきて、竜頭を飲み込もうとしました。それをやらせる雪狼のジョンではありませんでした。
「がうがっ!」と吠えたかと思うと、追従するように仲間たちも「がうがっ」と、輪唱していました。
一声吠えると氷は徐々に大きくなり、砂漠ワームが咥えることも出来なくなりました。
そして、ジョンがその砂漠ワームを取り押さえ一件落着と思いきや、パレットリア新国の土台作りに従事したいと申告が有って従魔契約に至った訳で………また、増えた。
契約料としてのご祝儀で、竜頭を放り投げるとジョンなどの狼たちと取り合いになるため、その砂漠ワームが砂に潜ったところでその穴に転移させました。
パレットリア新国としても土の中の防御が増えるのはいいことで、ゲンと名付けました。
ワームとしての種の中でも、砂漠ワームは鱗のような皮膚を持っており、簡単には乾涸らびず、雨の中でも活動できる強さがある。
国内の地下には主に火モグラが、国外の地下には砂漠ワームがパトロールする体制が整った訳だ。
さて、九階のセーフティエリアから続きを始めるか。
九階は九メルもの体格のいい(良すぎる?)牛と何故か赤灯の付いた二.五メル角ほどの小っちゃな牛車のセット。
昨日の内に見ていたから、対策は練ってあります。通用するかどうかは別物ですが、ね。
「昨日、セトラがグフグフ言っていたのはこいつを見ていたからか?」
身もふたもない言い方だなヒリュキよ。まぁ、その通りなんだけど。
「まぁね、今日はステーキかすき焼きだと思っていたんだけど、これは予想外にデカいなぁ。」と、感心しまくっていたら、ヒリュキがげんなりしていた。
「ステーキって、食うのかこんなの……。」
「何人前、取れるかなぁ………」
「いや、ちょっと待て……。………おかしい。なんでこの階には、あいつだけしかいないんだ?」
ダンジョン設計者の魔王様が疑問を呈してきました。
「何があった………。ん? 赤灯が回っている? あいつ救急中か?」
と、動きを止めて虚空を見詰めております。
「一〇階のヤツの侵略か………?」
「セトラ、昨日こいつを見た時、赤灯は回っていたか?」
何やら、切羽詰まった感じの魔王様に押された形で返事をする。
「……い、いや回っていなかったぞ。」
その時、何かに導かれるように無意識に左手を前に伸ばした。
前世では良くあることではあったのだが、こちらに来てからでは久し振りな気がする。
何を感じた訳でもないのだが、だが、明らかに自動で反応してしまっている自分の左手を見て、不思議に思った。
その俺の行為を見ていて血相を変えた者がいる。ヒリュキ・スクーワトルア。
そこに何かが居る………と、直感した。
「真実の瞳よ、今、起こりし有様を明確にせよ。」
それはヒリュキが初めて、自分から「真実の瞳」を主体的に使った時だった。
「………?……!」
「真実の瞳」は全ての真実を見抜く目を持つ。その膨大な情報を明確に見極めるだけの頭脳を併せ持つ者に発動する。
その瞳に映りし世界は、牛一頭だけではなく、何頭もが倒れ伏し、今まさに一番大きな牛に躍りかかろうとする姿だった。そこから来るわずかな感覚だけで、彼の友、つまり俺は、そこに有る魔法の存在を打ち消していたらしい。それすらも無ければヒリュキの「真実の瞳」でさえも欺かれていたということだ。
それくらいにその存在を消せる魔物たち、一〇階のボス夢幻狼がここからの俺たちの相手だった。




