56, ダンジョンで、………戦後報告④後編
『あ、あるじ様、き、緊急警報ー! 来ます、ヤツです。ド……わぁー……』
ズッドォー……ン!!!
コーネツの発した言葉はまともな言葉にならず、ほぼ近くへの大質量の急降下攻撃によって遮られてしまった。『無事か?』という言葉に、『………ぶ、無事でぇ~す。』という締まりのない言葉に呆れつつホッとする。
窓転移に映っていた巨大な影は、姿を確認するまもなくダンジョンの直上から落ちてきた。俺は事前に魔王様に聞いていた『ドラゴンが食い散らかした後』という言葉に危惧を抱いていたため、ここで休憩を取ることにした。
どんな攻撃をするのかは知らないが、大好物があってしかも魔力を持つ何者かがそこへ移動しているのだ、ドラゴンほど自分の魔力量や感知能力に自信のあるものが介入を躊躇うはずが無いと踏んだ。
シュッキンには一時的に障壁を解いて貰った。新たに障壁を強固に張って貰うために。
「どんなダンジョンだろうと、俺の親友が構築したものだ。横槍は遠慮して頂く。たとえ、どんなにコケまくるものであったとしても! ……あ。」
あ、口に出しちゃった………。しまった……、魔王様が睨んでおられる。
「セトラ……、この非常時によくもそんな感想を……。」
orzの姿勢で魔王様が凹んでいました。とはいえ、よく凹むなどと言う漢字があるものよ。
それはともかく、ドラゴンが突っ込んできた振動は本来このダンジョンごと崩れてもおかしくないほどの衝撃で、一階層だけの問題では収まらず全階層崩れそうなものであった。が、俺が事前の情報で張ってあった装転移の颯転移展開で表面の砂漠の砂部分が盛大に吹き上げただけでダンジョンの七階の天井に脚と首を突っ込んだ状態で止まった………。大質量と降下速度、食い意地が、俺の障壁に突っ込ませた、ということか。
「俺の装転移も術式の変更の時かな……。」微妙に俺も凹んでいた。
「セトラ、あなたねぇ。ドラゴンの超重力爆撃を受けて、この程度にすんでいるという方がおかしいのよ……、ドラゴンも脚と首が結界に挟まって身動きが取れなくなっているのがいい証拠でしょう。」
ルナの本当に呆れたと言わんばかりの言葉に、何となく救われた気がした。
七階の上層部分が砂漠だったのは、直下にダンジョンの階段が続くのではなく、末広がりのアリの巣形状を採用した魔王様の功績。
ガルバドスン魔法学院の結界都市を潜り抜け、タクラム砂漠の下にその七階は出来ていた。だからこその砂煙であったのだとも言える。地球でいうところの成層圏まで高々と舞い上がっていた。そして、雪崩を打って地表面へと落ちてこようとするそれを俺は、目隠しにしようと考えた。
「風よ、疾く集いて柱となり、舞い上がりし砂を保持せよ。」
ドラゴンが突っ込んだ砂漠の舞い上がった膨大な砂を利用して、風に目隠しを頼んで、窓転移で現場の状況を確認する。
漂う好物の蜂蜜の匂いに、鼻の穴を広げてはいるもののその自慢の舌もあと少しで届くというところでなぜか止まっていた。長さがほんの一寸足りなかった。
そして、その焦れったさにドラゴンにも焦りが来る。
この大地に突っ込む前の自分の考えでは今頃、女王蜂ごと平らげて、気勢を上げていたはずなのだ。
それがどういう訳か脚は何かに埋まり身動きが取れず、口を突っ込んだもののこれまたがっちりと身動き出来ず、それを悟った蜂どもに襲撃を許す始末。
『あたたたたたたたたた……やめんか!』
地球の花火にもその名を残していたロケット花火を彷彿とさせるロケットハナ・ビーの、ドラゴンの勇名に物怖じしないそのバルカン砲並みの連射はドラゴンをイラッとさせる。
つい、口から炎がチラッと上がる。それがしばらくして止まるのは、ブレスしてしまうと何も残らないからだ。もちろん、蜂蜜も……。
「シュッキン、風の柱内部でドーム型の障壁を発動してくれ。ヒリュキ、パット、リウ、リメはドラゴンの痛みを感じる部分を探してくれ、残りは生活魔法でチクチクいくぞ!『よし、今だ! ロケットハナ・ビーの蜂の六刺指弾発動!』、スモーク発動。ルナ、適当に狙いを外せよ? まずは全員で時間差フラッシュ! 発動タイミングは俺に合わせろよ! 対ドラゴン戦開始!」
まずはシュッキンの障壁を風の柱の内部に構築、高度を取られないための必要な措置をしておく。次いで、俺の装転移の颯転移を解除、ある程度の足止めは出来たからよしとする。シュッキンの障壁だけでは、ドラゴンのパワーに対抗しきれるか不安なので彼の障壁のちょっと上に装転移の発動キーを設置。いつでも、発動できるようにしておく。
拘束が解かれたのに気付いて高度を上げようとするドラゴンだったが、頭打ちになるのに気付いて、高度を下げる。そして、今度は周りの風の柱に干渉しようとして気付く。
風の精霊がおのれの指示に従わないことに。魔法で風による姿勢制御をしていたドラゴンは、これまで、この世界の風は自分の支配下においてあった。なのに、今は違うという事に納得がいかないようで、「おのれ、風よ、われに従え!」と繰り返している。
チャンスだ。この機を逃す手はない。
「フラッシュ!」
スモークの向こう側に六〇人分のフラッシュが炸裂。スモークが透けて見えるくらいの光量だった。