55, ダンジョンで、………戦後報告④中編
「おやつ担当とか有りなんですかねぇ……」
「馬鹿ね、おやつが無かったらダンジョン攻略なんて進む訳無いでしょうに。従魔たちを見てご覧なさいな。……というより、こいつ興味持っているわよ?」
というルナの言葉に出ていたこいつという蜂が、どうもノコギリソウの会話を気にしているようだ。
さっきからノコギリソウがおやつという言葉に対して、何かの何がいい、かにがいいという自分たちのお気に入りの話をしていた。
特に雌株らのお気に入りはホットヤーキ。
蜂という言葉から蜂蜜という言葉に行き、ルナ達からホットケーキには蜂蜜が合うんだという事を聞いたのであろう。想像しながらも、あれに蜂蜜とか邪道だとか、いやいや、これは実食は百聞に勝るとか調子のいいことを言っていた。
「分かった、おやつにしようか。だが、今はシュッキンの補助に全男子は盾を持って展開する。風盾や結界障壁を張るのもいいが今回は攻城戦、長引く戦いも覚悟しなければな。」 そう言って、シュッキンの障壁の内側にいる男子諸君に盾を出す。
それは、それぞれの名前のついたダイマオウグソクムシの甲羅だった。軽くて堅い甲羅は何の処理もされていない現在の素のままの状態でも十分に役に立つ。
ましてやあのカニすきの時に身から出てきたキチン質の柔らかく丈夫な透明の骨は内側に貼り付けて、簡単な手持ち用のグリップと相性のいい固定バンドになっていた。手持ち用のグリップは拳闘木から貰った枝である。
あの時、魔王様に打ち倒された連中がぶちまけたもので、大小様々な枝が。
薪になりそうなサイズから丸太級のものまであり、中には丁度いい感じの木刀として使えそうな堅いものや長さのものがあり、俺たちが手にとって感嘆していたら、山のように魔王様ご一行に献上された。
献上されたほとんどの枝は、今は俺の層庫の中で眠っている。それぞれのお気に入りは、また名前を書いて入れてある。俺も面倒くさかったので、名前付きとそうでないものに分けて収蔵してある。
急遽、取り出す際は一斉射出できるように、ね。
「さて、全員に行き渡ったかな? 取り回してみて不足の人は居る? 居ないね、シュッキンお疲れ。何がいい? 最初に選んでいいよ?」
周りの連中に盾の確認をして貰い、不足が無いことを確認して、シュッキンの障壁を解除させた。七階での最初のポイントは彼に決まり、おやつの中で何がいいのかを選んで貰うことにした。
「ええー、ズルいわ! シュッキン!」
おやつの選択権をシュッキンが握ったことでルナが、不服を申し立てる。
「ズルくありません。当然の権利です。」
そう、俺はシュッキンのことを擁護したが、当のシュッキンは空気を読み無難なところに落ち着けてしまった。
「老師、あなたのおやつの力をこの蜂たちに見せつけてやりましょう。ホットケーキの一択で。」
「やったー! ありがとう、シュッキン!」
狙い目のホットケーキとなり、ルナは満面の笑み。シュッキンめ、惚れた弱みか?
「ま、いーか。小麦を綺麗にきめの細かい粉にすることが出来たお陰で、こういう粉ものも美味いものが多くなってきたな……。盾は連結できるギミックがついているからうまく重ねろよ、ある程度の体重をかけないと崩れるぞ。」
一応、盾の使い方を説明する、本職の武具師では無いため不都合が出たら困るからだが。
その上で一〇セチくらいのホットケーキ二段重ねのものを配る。
この行為は国民への理解を求めるために、有識者による試食会として銘打っている。
“ご褒美”ではなく、いずれ国内に流すためのもの(流れるかどうかは不問)ではあるが、そういうことにした『タク・トゥル承認済み(彼にも試食はあるので、買収済み?)』もので、俺の元で、工事の一端を担うものとしての「工事屋」のメンバーはそういうことになっていた。
配ったホットケーキに蜂蜜(販売されているものをさらにふるいを掛けて甘みが増したもの)を掛けて、試食。さて、どんな具合だ?
「ふわふわっ、って………ふわ。はむはむはむ」「相変わらず、うめー」「甘っ!」
「蜂蜜効いてる…、うま、うま、うま……し!」
「あっ……」
興味津々だった蜂がイクヨの皿に降りて、蜂蜜を啜る。途端、勝ち誇ったのはいいのだが、蜂蜜の掛かっていないホットケーキのところを囓って、忘我の境地なのか身動き一つしない。
やがて復活したと思ったら、市販されている蜂蜜が掛かったところを囓っている。また、うちひしがれていた。ノコギリソウたちが心配そうに見ている。とは思っておく。彼らの視線は皿の方にあったはずだけど。
その蜂は、蜂蜜の掛かっていないところのホットケーキに自分が採取して造った蜂蜜を付けて食べていた………。その美味しさに驚き、ホットケーキを体の大きさに切って持ち運ぼうとし出した、そこで俺はその蜂の行動をとがめた。
『はい、そこの蜂君、何をしているのかな。興味があって、人が食事しているところに乱入するのは、まぁよしとしよう。でもその食事を横から攫っていくという事は非常に頂けない行為だね。一人一人のおやつの大きさはきちんと決まっているのさ。』
蜂は俺に見つかり、咎められたことで落ち込んでいた。
『ビービービビービー、ビービービー、ビービービー、ビビービビー』
ノコギリソウと話が通じているようだと推測して、俺に向かって直接挨拶なるものをしてきた。
と、その時俺と話をしている蜂に気が付いて、仲間たちがどんどん集まってくる。
それだけならまだしも、各個にホットケーキを狙いだした。
『おい、お前ら。何している。』『やめよ、やめんか!』
ホットケーキを巡って血で血を洗うような戦いに発展しそうだったため「送転移」、そう言って全ての皿の裏に名前を書き、俺の手元に回収した。
いきなり、手元から消えて驚いたのは蜂も人も一緒だ。
だが、人の手元には、預かり証が……。
「わぁぁ、あ……預かり証?」「あれ、ホットケーキ消えたよ?」「というか、この蜂なんとかしないとって……あれ?」
「お前ら、このまま宇宙まで飛ばすぞ!」
ちょっとプッチリ、頭の天辺まで来てました。魔王様がやっていたスパイダーネットを籠状にして、蜂どもを閉じ込めてあります。使ったのは、送転移と風による乱気流。
というか、ルナを含めた「工事屋」な。
これだって魔物なんだからそれ相応の対応をしろよ。いくら蜂って言ったって10セチの大きさだぞ、普通の蜂の訳ないだろ?
『それにお前ら、あそこに居るヤツが誰だか知っているのか? このダンジョンの設計者でもある魔王様だぞ。ここに居るのは魔王様の仲間たちだ。只で開放されるとか、まさか思ってはいないだろうな?』
そう、彼らの言葉できっちり脅しつけた時、コーネツからの緊急警報と窓転移に映る巨大な影。超高空から急降下してきたそれは、ダンジョンの俺たちが居るところからすぐのところに頭から突っ込んできた。急に蜂どもが、オロオロし始めた。
『これは、我らの敵……。女王様が……。防御に戻らねば……。魔王様、お願いがござる!』




