54, ダンジョンで、………戦後報告④前編
魔王様はついてきた小柄な拳闘木に六階の木だからと安直な名前「ロッキー」と名付けておりました。たまに魔王と「ロッキー」でトレーニングをしています。
七階は森林というよりは雑木林みたいな感じの、昆虫系主体のようです。どうも、さっきからシュッキンの結界に弾かれている弾丸並みの速度を持つ何かが飛んできている様子。
「さっきから何が飛んできているんだ?」
俺の疑問に答えるのは、もちろん魔王様。ひょいと手を結界の外に出すと、魔力で手を覆い飛んできた何かをキャッチした。
もちろん結界は前方に斜めに展開しているから上に手を出すことは可能だ。
というか、弾かれているモノも含めて、前方からしか飛んでこない。
はっきり言えば、旋回に凄い時間が掛かる。その何かは……。
魔力で出来たスパイダーネットにひっかかっているのは、ドングリ型の蜂、流線型の体の後部に推進用の羽が……って、何じゃこりゃ。
「こいつらの蜂蜜は美白成分が多く、あまり市場には出回らないが超高品質の扱いを受ける。この蜂の体型から名付けられた名は「ロックイートハナ・ビー」。岩にしか咲かない花の蜜だけを集める習性を持っている。そして、その花は、花の枯れた時に岩が崩れることがあるために岩喰い花という異名もある。蜂の方はロックイートが訛ってロケットハナ・ビーとも呼ばれている。」
「へー、この階層は虫系かぁ。……というか、ロケットハナ・ビー?」
「ただし、その巣に近づくのは、熟練の冒険者でもドラゴンの鱗で出来た盾かそれに匹敵する盾を必要とするくらい、討伐は、難しい。俺たちの仲間にとってみれば、可能性は1%も無いだろう。」
そりゃそうだな。相手は虫系。ならば、魔王のことも覚えているかは不明だ。
さすがに虫系は、俺でも討伐の対象なんだよな。
「この蜂の蜜が出回るのは、たまたまドラゴンが食い散らかした後のカスから採れた時のみ。蜜としては何の変哲のない普通の花から集めているが、この蜂の女王は美食家で純粋な蜜だけを口にする。そのために働き蜂は花の蜜を集めた後に超加速による圧縮で、雑味を落としてしまうんだ。それを彼らは献上するのさ、おのれの身ごと。だから、この蜂はこんな形をしているんだ。」
無理とか難しいなどと言う言葉では、止まらない人たちが居る。それがおのれの美しさのためなら、尚のこと。
「で、誰も近寄らないから手も出せず、しかも、本来のキャタピラ系を駆逐してしまった。魔王としては、ここらで一発討伐して欲しいなとは思っているんだが、並の人間では届かず、かといって対魔物戦にしても、相手の戦略の方が上なのだからな。」
魔王様でも躊躇するとは、ね。
「しかし、戦略と来たか……。ってことは、ここは攻城戦になるんだな。面白い、その牙城を崩してみたくなったな。情報をくれ。……というか鑑定するか、何か分かるかも知れん。」
前世で、古代囲碁や古代将棋の研究をしていたものとして、興味が募る。
さてさて、ひとまずは鑑定をしてみることに。調べてみると面白いことが分かった。
アレ? 何で魔王様より、鑑定の項目の深さが違うんだろう。レベル? というより、興味の深さか? ま、いーや。
鑑定の結果、こいつらが蜜を集めている花自体はどこにでも咲くような普通の花なのだが、咲いている場所が違った。なぜか、岩塩を含む場所か岩塩の有る山や崖などに咲いている。
そして、そこに咲く花と普通に野原に咲いているものとは別の種類。岩塩を好む種はロックイートの名があり、大地に根ざすものはアースイートの名を持っていた。
そして、この蜂の蜜は岩塩のミネラルや希少金属を含み、その花の蜂蜜は世の女性の悩みのニキビなどの吹き出物の解消に、お通じの秘薬として良く効いた。
そして何よりその純度が他の蜂蜜よりも高いのが特徴である。美肌と美白のダブル効果を謳う貴族様御用達の素敵グッズであっても、ドラゴンの食い残し……。
じゃあ、女王蜂の健在な現在の蜜だったら、どのくらいのものが出来るのか、ワクワクしてきた。
「セトラ、やるわよ! ここであたしがやらなくて、誰がやるの!」
今までずっと黙っていた方が饒舌になりました。やるのやらないのと騒いでいますが、大丈夫なんでしょうかねぇ、ルナさん?
「おお、戦略は出来ているんですね? 今回、僕は後ろで見させて貰いますよ」
君子危うきに近寄らずだよ、南無南無。
「何をボケかましているの? アンタが中心にならなくて、誰がおやつ出すの?」
え~、ボケじゃ無いんですが……。しかもおやつ担当ですか? 俺って一体………。