53, ダンジョンで、………戦後報告③
六階へと俺たちは足を踏み入れた。
目の前は鬱蒼とした原生林で、あちこちからドスとかドカとかいう音が聞こえてくる。
「魔王、ここは何が居るんだ」
面倒くさいから、もう設計者に聞こう。四階と五階は魔法なんて使わなかったからな。
この攻略のどこが生活魔法なんなんだか。
「お前が誑しているから、そうなったんだろうが!」
誑したくて誑している訳では無いのだがな。あ、居た。木が動いていた。
あまりにも今更で、驚く気もしない。
五階と同じ原生林の中に設置されているリングで、それは、闘っていた。
動く木でもあり、大きな枝の先にトゲトゲのココナツをくっつけた、拳闘木たち。リングはそこら中にあって、巨木が闘う音は凄まじく、耳鳴りがするくらいには危険だ。
はっきり言って、危険が危ないので、避けていこうとした。
ところが、何を思ったか図体が超デカい奴らが、立ちふさがった。
あまりにも懐かしい光景で、呆れた。どうして、体育会系はこんなんなんだろう?
な、アクィオ。
だが、今はお前らの相手はしてらんない。
押し通る、と思っていたら小柄な拳闘木が、俺たちを庇う。その次の瞬間には横合いから殴られて倒された。
それでも、その小柄な木は俺たちの前に立つ。ああ、俺たちが自分よりも小さいからか。
侠気のあるヤツだな……。
しかし、こいつらの前後が分からないな。
それにしても魔王にも気が付かないのか、こいつら。
大西洋にある議会国の首長をやっていた男だぞ、こいつ。
ああ、握り拳が震えている、明らかに怒っているのだ。
拳闘大会の主催者を務め、本人も出場したことのある本格派。選手になるのは何かの怪我で断念したとかいっていたことがある。
普段はその所作なんてしないが、練習はジムで欠かしていなかったはず………、あれ?
それで、この状況ってヤバすぎだろう。しかも、仮にも今は魔王様だ、魔力にも魔法にも長けていて、しかもダンジョン設計者様。荒れるな、避難しよう。
「貴様ら、何をやっている。」
遅かった……。静かで静かすぎる怒りの炎を背にして、魔王様降臨。
巨木の拳闘木に向かって言い放つは魔王様。
背丈は四才にしては大きい方ではあるが、五メルから七メルもの巨木たちにとってはアリンコも同然。脅威を感じるなどあり得なく木の躰を揺らしてザワザワとざわめいている。
『危ー危ー』とノコギリソウは震えている。
次の刹那、魔王様の握り込んだ右拳に魔力が凝縮。本来なら届かないシャドーパンチが魔力を纏って、放たれた。ざわめいている巨木の拳闘木集団に向かって一閃。
「ペガサス魔破拳!」
コケました、「工事屋」全員がコケてました。
……………、魔王様、アンタなぁ。ああ、ひょっとしてアンタも、ルナと一緒にジャパニメ見ててハマったクチだったんですね………orz。
出てきたセリフは、アレでも撃ち放った拳に乗っかっている魔力は本物で、油断していた巨木たちはボウリングのピンのようにパッカーンと飛び散っていきました。
その放たれた絶大な魔力で拳闘木の巨木たちを圧倒すると、「調停者の居ない拳闘大会など、見るべき価値がない。」と断言して、説教をぶちかましておりました。
すでに大人しく座り込んでしまった拳闘木の巨木たちは、目の前で議論を展開している人物に興味を持っていた。この圧倒的な魔力で彼らをねじ伏せたこの子供のことを今までの何かしら満たされなかった思いを解消してくれるのではないかと、そう思っていたようだ。
魔王様は、自らがこの階層を造ったとされる魔王の子であると宣言し、幾枚もの紙というものを持ってきた。あみだくじみたいなトーナメント表とやらを何枚も書き、彼らに渡した。
「これで足りなくなったら調停者に言え、用意してやろう。」といい、彼らに感謝された。
目指すべき頂きを手に入れたのである。
調停者は、そのリングに自生するツル植物にリングの整備ともどもさせることになりました。魔王の一声で決まりましたから、ツル植物の判定は魔王の言葉みたいなことになりました。
天秤軍配という名がツル植物に魔王から与えられた。雄株と雌株で差配することに。もっとも行き過ぎた調停には、魔王の介入も匂わせてある。
魔王様の怒りは収まったのだが、彼にも誤算が一つ。あのパンチを伝授して欲しいと、小柄な拳闘木に付きまとわれ出したのである。
シャイナーにとっても、あのパンチは相当の怒りあってのことだったから。
そのパワーを再現できないで居ると、あのパンチを言い放ちながら《ザワザワの魔破拳》ととんでも無いことを言い始めた。そして、ついてくることになった。
シャイナーも目出度く【魔物誑しの弟子Lv1】をゲットしてました。南無南無。




