ある魔人の悩み
あたしがあたしとして自分というものを意識したときには、既に魔人として、存在していた。一から二、三、四、五という階梯を踏むのではなく、ゼロから瞬時に百%へと転換して存在した。それが魔人としての在り方。
そして、魔人として動いた。そういうものだから。
ある時、魔王様からの指示で、一つの国の滅亡へのプランを実行していた。
魔王様直属の第一の使徒三人衆の一人として、ともに事を成す者たちも居るというのに、何故かその国の城に攻撃が出来ない。なぜなんだ?
自分自身に問い掛けてみるが、答えにならない…………。
だが、その国の城の中にどうしても気になる存在が。
その存在ごと潰すプランがどうしてもキャンセルされるに当たって、その存在がそこに居なければ良いのだという事に気付いた。
外遊させてしまおう。ここではない……、どこかへと。
魔王様の指示を上手く使い、その存在と、そのお目付役とをその場所から引き離した。
あたしの手の及ぶ範囲である場所に………。
そして、あたしのものにするのだ。
あたしは自分が決めてしまっていたそのことに気が付かないまま、その国は滅んだ。その者は遠く離れた場所から見ていたのだと、あとから聞かされひどく後悔したものだった。
でも、あたしは魔人。………………そういうものだから。
だけど、このあたしの中に流れるこの気持ちは絶対で、嘘がつけない。
その者は国が滅び、あたしたちの後から入ってきた侵略者に怒りを向けているが、本来、その怒りは、あたしが受けなければならないもの。
そう……………、分かっていたのだけれど。
でも……………。
「あなたが好き!」
シノブ・カラスマとして、カラス魔人のアッイガイとして、「・・・」として。最後のは、何なのか自分でもよく分からないけど。まぁ、いつか分かる時も来るでしょ。
その時には、彼はお嫁さんを貰っていたけど、そんなの関係ないもの。
私は……ううん、あたしはいつだって、あなたが大好きな女の子なんだもの。
あたしは彼のお嫁さんに、シノブ・カラスマ・エドッコォになれた。
もやに閉ざされていた自分の中の何かが、晴れ渡った時が来たのは、最近のこと。
それは、突然の言葉がきっかけだった。
「分かったよ。魔王様の話とやらを聞いてみようか? やっぱり、そういうところは母さんだよな、あんたも」
小っちゃい彼の息子が感慨深げに話す言葉に、微妙な顔をしていたのだが……。
「……え?」
小っちゃい息子の言った言葉の内容に、気付けば辺りを見回していた。
「………まさか。……君はセトラ………か?」
「いまさらですが……、はい。……ぐぇっ………」
あたしの小ちっちゃ物好きの体質を甘く見ていたな? 前の時の息子に結構な力で抱きついてしまった。目を白黒させている。
「懐かしぃぃぃぃぃ、小ちっちゃ可愛い!」
それはそれは、ひとしきり玩具にしました。
「アレ? あんたがセトラで…………………、ぐあぁぁぁっ………………」
思い出したあとに自分でも何を言っているのか分からない独り言を言って、血を吐いて頭を抱えたまま、沈没した。
顔が朱いのが、自分でも分かる。覗き込んできた愚か者は今、宙空へと消えて貰った!
「親父に迫ったらしいですからねぇ…………、第二夫人様、ぐぇっ…………」
朱い顔のままの、前の世界の息子のクビを静かに絞めた。
分かっているから、もう…………余計なこと言わないで!
でも………、また会えたのね。あたしは、貴方たちに会いたかったのよ。
たとえ、世界が変わっても、姿が変わっていても。
そうね。認めるわよ。あたし、貴方たちを愛してる。
でも、素直になんか認めないから……。あたしにとって天国みたいなところだけど、ね。




