それぞれの会議 ④ 「ギブミー、おやつ」は明朗会計で!
「セトラ、エドッコォ領の生産物であっても、あなたはパレットリア新国の王として認定された以上は明朗会計に移行するべきよ? それは、もちろん仲間内であってもこれ以上の施しは癖になってしまうわ。」
俺が気にしていたことにズパッと斬り込んでくるところは相変わらずだけど………。
どうして、それが第二夫人に甘んじることになったもんなんだか?
「う、うううるさいわね! 良いのよ、あたしとセーラは親友なんだから!」
真っ赤になって焦りまくらんでも………。
でも、親友だったんですか? セーラ母さま?
そう問い掛けると、セーラ母さまは困った笑顔で、
「そう……、みたい……よ?」
「セーラ、ズルいわ!」
あれ? なんか涙目で抱きついちゃいましたよ………。いいなぁ。
そんなことのあったあとのある時って、ダンジョン攻略をひと休みしている今ですが、俺は、夕食後に「工事屋」のメンバーを集めて問題を提起するために事前にルナにだけ、ざっくりした相談を持ちかけていた。
「実は、パレットリア新国で深刻な問題が立ち上がっているらしく、タク・トゥルが解決のために俺に文書を寄越していたのだが、今の今までダンジョンの中に居たために、読むことが出来ていなかった。その深刻な問題とは、ズバリ「おやつ」のことに関してなんだ。」
それを言った瞬間に何かを察したのか、ルナの顔色が変わる。
「「自国の国民でもないのにパレットリア新国の王様より「おやつ」を賜ることは国益に反することではないのか?」との投書が多数タク・トゥルの元に寄せられているそうだ。タクラム・チューの宮殿に設置されている箱についての追及は無いため、そちらは問題無さそうだがな。」
やっぱり、自覚していたのかな。ずいぶんと沈んでいるルナがいる。
「とはいえ、いつまでも俺の善意という訳にも行くまい。確かに俺の国は人材は少ないがそれなりの人物が集まってきた。それらを差し置いていつまでもという訳にはいかない。まぁ、俺も懐かしかったのは確かだが、学院の卒業後のことも考えなければならない。俺主催の宴会は今回で最後にするつもりだ。このことに関して、ルナはどう考える? というか、お前たちの料理って何かないのか? 食べてばかりじゃないか?」
「うっ、そ、それは……、その通りなんだけど……。でも……、セトラみたいに全属性を持つ人って少ないのよ、何人かが集まったら出来る者が増えるのだけど……。」
さすがにこの系統の話に、即答出来る者はいないか……。
「工事屋」を纏める総括としての責任者はルナ。彼女が、決めたことに対しての反発は、そうそうない。まぁ、あったとしても今回の件については、ノコギリソウたちと同等の扱いに今後なっていくことになるだろう。
すなわち、貢献度。
何に対してかは問わない。
どんなものにしろ、すっぱりとした解決策など、そうそう見つかる訳もないのだが……。
少しずつでも変えていかないと、進んでいかないからな。
「「床暖房」の受注は、あなたの国の体裁が確実に運営されていけば、それはいずれ移譲されるべき事柄よ。今は、それとの交換として物々交換されているけど、今後それが駄目になるのは分かっているのでしょう?」
第二夫人のシノブ母さんが、俺が気にしていた部分の中核をぶち抜いてきた。
その通りなのが、辛いところではある。
今、パレットリア新国では、タク・トゥルの指示のもと、砂を封じるための手段の一つとして、巨大な壁を建設中だ。
ディノに指示をして、その壁の土台として、火もぐ・ロードに使用されているミスリル回線、金の接続端子を持つブロック状の石を砂に沈まないようにするために、下側の面に一列目と三列目、二列目と四列目に大きさの違う櫛形の形状で造ってある。そこから、直下に杭を伸ばすという作業はディノにしても微妙なものである。
その土台に砂漠の砂より抽出したケイ石や雲母などによるガラスの製作物を施した壁を載せていく工事だ。近くにある湖もその水量減らしている中、中心部に立つ旧時代の城の周りだけは緑が目立っていた。
そのために建国したパレットリア新国の城は、旧時代の城を中心に据え、周りに建物と井戸などの水施設を充実させていた。
井戸が涸れることのないように石で細工した壁を造り、たまに俺が雨を降らせている。
しかし、その旧時代の城の中は、俺たちが地球に住んでいた時代の先端を遙かに飛び越えたもので、どうにも使いづらいのである。スクーリンというモニターはあるが、TVではないため面白くない。まぁ、遠隔地の様子などは窺えるから、これからの漫遊に役立つかも知れない。
だが何と言っても、ようやくこの国の様子が分かりだしてきた現在においての情報収集手段の一つとなることか?
ただし、俺以外が入れないということが……問題か。どうやったら認証って出来るんだろうか? 直系? ってDNAのこと? う~む……。
ガルバドスン魔法学院様の慰労会兼施設の視察というものを同時に行いながら、最後の晩餐? の支度をしていた。
小麦粉と水、卵を寸胴鍋に入れて混ぜつつ、牛乳を軽く掻き混ぜ少々泡の立った物を加える。風で撹拌することによって、いい感じのたれが出来る。
イカイガの召喚魔法陣で呼び出す空間座標を微妙にずらしてもらい、タコを召喚して貰った。間違ってダルマオクトパスを呼び出したのはご愛敬かね? とは、本人は思わなかったらしい。
『わだすを呼んだのはお前らがぁ?』
ダイマジョオウイカとダルマオクトパスの戦いはその大きさもさることながら迫力がありすぎて、何回か声を掛けたが止まらないため、俺の堪忍袋が切れ氷漬けにしてしまった。
「いい加減にしろ! 人の迷惑になるって考えろッ!」
まぁ、とにかく、タコは手に入った。
だが、ダルマオクトパスの従魔も手に入れてしまった…………orz
こういうでっかい系の魔物って召喚陣を常備しているのか?
手打ちの品としてタコ一揃いを貰ったから、いいと言えばいいのだけどなんか……。
さて、鉄板焼きで使っていた鉄板と灯油の残りを再利用して、鉄板には一〇〇個もの穴を刳り抜き、タコ焼き器を製造しました。
ショウガはジンジャービールになっていた物から厳選して千切りにし、甘塩っぱく味付けしていた物を利用して、アクセントになるようにしておいた。
小麦粉のたれを鉄板に注ぎ込み、熱で薄皮が出来たところにショウガとたこを小さく切ったものを投入、くるりとブドウの木の爪楊枝でひっくり返していく。出来上がったものから、層庫に入れていく。ひっくり返すのに風を使い、両手を使える形にして、たれを入れていくという事を数十回繰り返した。
そして、これに必要なソースは二つ。マヨネーズと特濃ソース。残念ながら、鰹節は手に入っていない。諦めてくれ……、おまいら。
さて、合間に作ったホットヤーキも補充してあるし、学院長を待たせても何だから、行ってくるとしようか。
「た、たこ焼き? あいつどっからこんなものを……!」
「うっわっ! ソース美味ぇ」
食事は続き、デザートまで出るに至って宴もたけなわ。
そして、俺が降臨。 ある意味重大なことを決めるための会議が勃発した。
さてさて、例の問題提起の場所はエドッコォ領の共同浴場の前、ゴーレムハウスごと転移した宿泊場所の中であった。隣には、施設の視察のための学院長たちの慰労会兼の会議が始まっているはずである。
「さて、ルナに話していた件での会議に入るか?」
夕食後に、おもむろにそう告げた俺の目の前でルナが、あからさまに顔色を変えた。
やっぱり、まだ全然、何も話してはいなさそうだな。
まったく、こいつは………。
対して、ヒリュキとシャイナーがルナの代わりとして、代表として出てくる。
「例の件について、か?」
俺が頷く。
「そうか……」
二人は、その言葉を聞くと、ルナに向かって問い質す。
「ルナ、「工事屋」の代表として話を聞けよ。」
「……、分かったわ。」
「ルナ、お前。今はどうしたいと思っている? レシャードを探しに行くのかという事を。」
工事のことについての話だと思っていたルナにシャイナーが、全然別のことに話を持っていった。前世では夫婦だった二人だが、その間に子は生まれなかった。だが、今生ではパットがいる。
「探しに行きたいとは思うけど、どこにいるのかも知れないのに無闇に動けないよ……。」
ルナの端正な顔がゆがむ。
「そうか………。」
そう言ったきり、しばらく考え込むシャイナーは、やがて、意を決してルナに話しかける。あのダンジョンの出来た訳を話すようだ。俺とヒリュキには一度、ポツリと話してくれたことがある。
「ルナたちの結界破壊魔法で出来てしまったとされるダンジョンだが、それを一因として時空が歪んだことがあったようだ。歪んだその場所はどちらからも行けるダンジョンの底。そこに俺の親父はダンジョンの核を世界の安定のために置いたという事だ。ただ………、出てくる魔物の割にダンジョン自体は強くないのだ。それを学院長が知っていたとは思えないが。親父は最悪、ダンジョンによる崩落でその場所を埋めてしまってもいいかなとは言っていたからな。」
「シャイナー、それがどう繋がるの?」
ルナには想像できないようだ。
「そこは、セトラの城で確認できたが、スクーリンに映っていた映像がある。いや、残っていた映像かな?」
「?」
「あの城は、前世の俺たちの世界の遙かな未来にあった技術の塊だ」
「つ、つまり……」
「あのダンジョンの底にも同じ物かもしれない物が眠っているという事になる。」
「それも、時々作動し掛けているくらいには不安定なヤツだね。」
シャイナーが結論づけ、ヒリュキが細部を補完する。
「さすがの先代魔王もお手上げだったんだろうな……、もしくは繋がった先からの何かがあったのかも知れないしな」
「繋がった先?」
ルナはまだ、気付かない。
「「「俺たちの地球だ」」」
「ただし、既にあちらには新しい居住者が居る。そして俺たちの時代から遙かな時間が過ぎ去ってしまっている。どのみち、今、向こうに行けても俺たちとは別の文化が発生している。可能性……、レシャードが着いた世界はそこではないかも知れないが、痕跡くらいは分かるかも知れん。」
可能性……、だけど。そう、呟いてルナは顔を上げる。
「そう、可能性の話だ。そして、向こうに文化があるなら、そこには、戦いもある。そのための準備だけは欠かせない。今までの俺たちの歴史がそう言っている。」
「そうね、でも、進みましょう。このダンジョンの攻略に必要で、もし戦うのなら、魔力の向上も必要ね。相手が誰であれ、魔法の差でなんて負けてあげないわ。」
「セトラ、私は父さまがいるからだけじゃなく、あなたの国に行きたいわ。」
「パットもー」賛成する娘に笑顔で応えながら。
「そうすると、ヒリュキも……か?」
「あ、そう来たか……。まぁ、そうなるな。」
ヒリュキが頭を抱えたが。
「そういうことで、よろしく頼むわ」
これから出来ていく国の主力メンバーが決定した瞬間だった。




