気象魔法士、ただいま参上 !~コヨミ姉
人はいつも探している。それは生きるためなのか、死を見つめるためか、終わりのないその戦いがいつから始まったのか、それは誰も知らない。
この世界に暮らす私たちが気付いたときにはすでに始まっていたもの。
そんな戦いを終わらせるには何が必要なのだろう。
……中略……
人は、いつも探しているのだ。……その答えを。
「ふうん、魔法書が読めるというのは、やっぱりあんたは魔法使いなんだね」
感心しているのは、普通人の友だちのマナミ。マナミ・フレグランス。
「でも、魔法が全て発動しないんだから、魔法使いって言うのも変だよ」
突っ込んでくるのは、魔法使いの友だちのユメミ。 ソノ・ユメミ・ヨーダンス。
「ハハハ、ほんと…変だよね」
そして、わたしはコヨミ。 ワガ・コヨミ・ワダンス。
魔法使いの家に生まれながら、魔法が全く発動しない魔法使い。
初等科に進むとき、普通人の学校か魔法使いの学校か迷って、結局は普通人の学校を選んだけど、半月しないうちに苦情がごっそり学校に来ちゃったらしく、夏休みに入ると同時に魔法使いの学校に編入することになっちゃった。
それは、わたしの魔法貯蔵量の影響によるものらしい。
普通人の学校では、その魔法として発動しないはずの波動がなぜか発動してしまい、それに酔う者が続出したということ。……って、なんで?
魔法使いの学校に編入しても、その講義の意味は理解できるのだが、実践が伴わないため、初等科の段階から自然に落ちこぼれていく。
最近、中等科に進級できたのだけど、普通だったらそこまで行けなかった。
わたしは、ずっと魔法が全く発動しない魔法使いだったから、このまま埋もれていくんだって思っていた。
でも、今こうして中等科に進級できたのは、わたしが魔法を得たから。
その魔法は、初等科の講義を受けにユメミや級友たちと仲良く歩いていたときのことだった。突如として、わたしの視界が右上から左下へと流れた黄色い何かで覆われた。透明だけど見透かせない……、大きな大きな旗のようなそんな黄色い布みたいな何か。
一瞬だけ、わたしの視界を覆って、地面に落ちたはずだった。
その何かで覆われた世界には、わたしだけしか存在していなかった。
ユメミや級友たちも存在していなかった。黄色い視界とわたしだけ。
黄色い視界が無くなってキョロキョロとするわたしに、ユメミが不思議そうに言った。
「コヨミどうしたの。何か、落としたの?」
「落ちてきたでしょ。黄色い布か何かが……」
キョトンとしたユメミは、わたしの額に手を当てた。
「熱は無いみたいだね」
彼女によれば、話ながら歩いていて、急にキョロキョロし出したというのだ。
級友たちも頷いている。
「変なの」
わたしは不思議な気持ちのまま、みんなと歩き出した。
その時は何とも思っていなかった。
魔法を得ていたなんてことも知らなかった。
だって、わたしには、魔法は近くにあって、遠くにあったものだったから。
初めてのそれは、いきなりだった。
「コヨミ、レキシとカレンドゥは出かけてくるから。弟たちの世話と留守番を頼むよ」
そう言って、エト・ランジェ・エドッコォ様と出掛けてしまった。
ご子息で弟と同い年のエト・セトラ・エドッコォとわたしが留守番。だけど、わたしは、弟のイタズラにほとほと頭に来てしまった。
魔法使いの家族の中でも魔法が全く発動しない魔法使いだったわたしにとって、天敵と化していた。二つ年下の弟。水の魔法が得意で、いつも、ビチャビチャにされる。
今回もそうだった。小さな水鉄砲で、初等科の制服が胸を始めとして濡らされていく。
「も~、えっちっちなんだから」
わたしよりも小さい体を活かして、足下に潜り込んでくる。狙いは分かっているのだけど、わたしの魔法は未発達で、出来るとしたら蹴り技しかない。
「きゃん、冷た~い」
凄腕のスナイパーのような一撃が…下腹部を直撃。
殺す。
ふと、湧いた感情が、初めての魔法を成立させた。スカートの中に雷鳴が轟いた。
「わぁー!」
ウェーキが転がり出てくる。転がり出てきた後を追いかけるように、稲光がチロチロとスカートの中から舌を出す。ウェーキを威嚇している。
そこまで、ずーっと、本を読んでいたセトラが拍手をしていた。
「コヨミ姉、やったね。初魔法、おめでとう」
「?」
訳が分からなかった、何でセトラは喜んでいるのだろう? ウェーキの悪戯を止めもしなかったのに。
「ウェーキ、やったな。作戦通りだったぞ」
「セトラ、ありがとう。姉ちゃん、やれるじゃん!」
その二人の会話で気がついた。あんたたち、知っててやったんだね。
やられたよ。チクショウー!
風邪でダウンしてました。ひとまずはコヨミ姉弟の話をどうぞ。