それぞれの会議 ① 第二回従魔会議
書きたいものが多い時もあるようで、それぞれの会議は①から⑤まで、平行して書いていて、もう一つの話の方も何とか始動しています。こんな時も有るんですねぇ。
順次、投稿していきます。
『我ら従魔も各種属最強が揃いつつあるようで、あるじ様たちも鼻高々であろう。今日はそのあるじ様たちも宴会を開いている。我らにもお裾分けを戴いている。熱く語り合おうではないか!』
『おおおぉぉぉぉぉぉぉ………ん!』
カクシの森の雪狼、ダンジョン三階のキマイラ、五階の森林狼、十階の夢幻狼、十五階の剣虎、二十階の獅子狼、二十五階の意鑑獅子などが吠えまくる。
『『『『『『『嬉ー喜ー』』』』』』』
『『『『『『『義ー義ー』』』』』』』
そう言いながら、跳ね回るダンジョン二階に発生したノコギリ草や五階と繋がっていた四階の世界樹の若芽、六階の拳闘木などの草木類。
初期からいる火モグラたち。あるじ様がパレットリア新国に一度戻った時に襲いかかってきた砂漠ワームのゲン、ダンジョン二階のダイマオウイカ改めダイマジョオウイカのイカイガ。そのパレットリアで養殖され始めたダイマオウグソクムシ代表で一匹、タマちゃん二世が来ていた。冒険者に見られたら、どれもこれもが討伐の対象になるほどの連中。
『我らのあるじ様は最高だ。』
『おおおおぉぉぉぉぉ!!』
我らが、あるじ様を慕うのには理由がある。
涎が垂れまくるおやつはもちろんだが、我らの事情を知って障害を取り除いてくださる。
そう、かつて、我らは、討伐の対象ですらあったのだ。
あるじ様の許可を得ないで入国し、狩りを始めようとした冒険者のパーティーが居た。 彼らは冒険者としては情報に疎く、この地域を治めていたはずのタクラム・チューの許可証が有効だと考えていたようで、門番の制止を振り切り、遠くの地から空を駆けていたキマイラを追い掛けて、パレットリアの上空から舞い降りたキマイラ目掛けて、布陣を組んだ。
彼らの魔法及び行動を阻んだそれは、シュッキン・ポゥの結界ではあったのだが対象の行動の危険度を示す【色付き】の結界であった。色は赤。
スキップを連れていたキナコがキマイラとしての危機感で発動した色だった。
優秀な結界魔法士のシュッキン・ポゥは従魔の首輪に自国領のみで反応する結界召喚の魔道具をあるじ様に相談されて仕込んでくれていたのである。これで助けられた従魔は両手では足りない。
「誰の許可を得て、この国へ侵入した?」
キマイラの隣に出現した幼い子供の言葉に色めき立つ、冒険者たち。
「しゅ、俊足? いや縮地か……? こんな子供が……」
「やかましい、ここはタクラム・チューの管理場所だろう? 誰の許可なんているものか!」「そうよそうよ」「我らは魔獣を討つ許可を得ている。邪魔はしないで貰おう」
冒険者たちの口々に言う言葉に、あるじ様が背後に控えているシュッキン・ポゥを振り返り、問い質す。
「シュッキンよ、この場所はどこの管理下だったっけ?」
「はい、老師。この場所はタクラム・チューの管理下を二年前に離れ、パレットリア新国の管理地となっています。」
冒険者たちは、あ然とした顔でそう述べたシュッキンの顔を凝視していた。
彼ら冒険者たちにその許可を与えたのは紛れもなく、今目の前で説明していたシュッキンだったからだ。
「………。な、なんで、アンタが……。前に許可をくれたのはアンタだっただろう……。」
「な、なんで、こんな子供にそんなに礼を尽くす……、まさか、こんな子供が? いやひょっとしてこ、こちらの方……が……」
少々年配の魔法士は何かに気付く。
そう【老師】という言葉に。その話し方にも。
「そうです。こちらの方は、幼少のみぎりではありますが、この国パレットリア新国の初代の王になります。わたくし、タク・トゥルが全力を挙げて支えうる器の大きな方です。」
その名も名高いタク・トゥル。その彼が支えているという少年。
そして、門番が彼らの後ろを塞ぐ形で、刺股を構える。長さの割に軽快な行動、そういう金属を使用しているらしい。
「エト・セトラ・エドッコォ・パレットリアだ。お前たち、本当に冒険者か? どこの国のギルドに所属している? それと、このキマイラに付いている首輪は、冒険者ギルドで発行して貰った従魔用だ。知らんとは言わせんぞ?」
話を聞けば聞くほどヤバイ事態に嵌まっていくのが分かるようで、その冒険者パーティーは顔色が悪化していくのが見て取れた。
「どこのギルドだ?」
「王の問いです、お答え頂きましょう。」
「別に答えんでもいいぞ。老師、このまま捨て置いても宜しいかと。」
「シュッキンよ、無益な殺生はいかん。これは開いているのか?」
「閉まっています。保って、一日ですかね。」
そんな怖ろしい会話が冒険者たちの目の前で繰り広げられていれば、生きた心地すら無かっただろうと、魔物たちは考える。
それは魔物たちにとって何度も掛けられる調教の際に行われる会話そのものだったのだから。
「な、何が保って一日と言われるのですか?」
不穏当な言葉の羅列に年配の魔法士が、問い掛ける。
「君たちの生存に必要な空気だよ。保って一日分だって。」
「そ、そんな馬鹿な…「そりゃ、門番の制止を振り切って国内に侵入し、絶対者である王の言葉には答えない。国の従魔を害しようとする君たちに酌量の余地は本来、無いんだよ。」…………。」
聞いているだけで息が詰まりそうになるのを我慢して、年配の魔法士は、問いに答える。
「ダクス様、事ここに至っては隠しておくことは出来ません。我らは、魔法士である私シャリオ・ニーサ、娘のリーチェ・ニーサ、トン・ダクス・リダゼィ様とそのお友達のトン・ディモナ・カー様の冒険者パーティーになります。」
「黙れ!」
いきなり、剣を抜こうとした馬鹿に、あるじ様は告げた。
「小僧! それ以上動けば、殺す。」
それと、隠していた威圧を解き放つ。我らでさえ、縮み上がるほどのもの。ただの馬鹿な人間が耐えられる訳も無く、白目を剥いて気絶した。
「くぅ……。」「くぐぅ。」「………。」
父と娘は何とか膝をつきながらも耐えていた。
訓練されていた兵士やタク・トゥルに向かっては放っていなかったようで、気絶まで行ったものはいなかった。
「ああ、すまない。」
結局、これにビビった冒険者が洗いざらい話してしまい、トン・ダクス・リダゼィとその友達のトン・ディモナ・カーの所属していたギルドが明らかになり、正式な抗議と、各方面からの苦情によりギルドからの除籍処分となり、貴族としての身分も剥奪されその国を追放された。
行く当ても無くなった彼らは今、………。
パレットリアで、我らの世話係として、頑張っている。
「美味い飯と温かい風呂、寝床があるって、幸せだなぁ」「魔獣も見放題だしな」「ああ、触り放題だしな。」「一匹の魔獣を手に入れても、こんな環境なんて有り得なかったからな。貴族としての務めだとか、得意でもない学業とか多かったし。こんな幸せなことってないよ。」
「「言いたかないけど、ここは天国だ!」」
『あるじ様に聞いたことがある。何故、彼らに……と。』
『鑑定してみたら、分かったんだよ。彼らは『モフモフ天国に行きたい』って。そんな彼らは身内になったらお前たちの世話、絶対に大事に接してくれるって思ったんだ。』
『あるじ様の言った通りだった。人って見かけによらないものだな。』




